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遅発性パラフレニー [遅発性パラフレニー]

遅発性パラフレニー
朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第361回『「正確な医療情報を知りたい」に共鳴して―元日に寄せて』(2014年1月1日公開)
 皆様、新年明けましておめでとうございます。
 本日は、私がずっと実践してきました医療情報の普及に対する取り組みについてご紹介したいと思います。

 2013年1月29日に東京都内で「認知症国家戦略に関する国際政策シンポジウム」(主催:東京都医学総合研究所)が開催されました。
 シンポジウムにおいては、認知症の人が、その人らしく生きていけるよう地域で支えていくためには何が必要なのか、6カ国(イギリス、フランス、オーストラリア、デンマーク、オランダ、日本)の政策担当者や非営利団体の幹部、経済学者らが参加して活発な議論が交わされました。
 そのシンポジウムにおいては、「本人だけでなく、介護者のケアも必要だ」との意見も相次ぎ、オーストラリアの保健高齢化省の担当者は、「認知症の人が自宅で生活を続けるには、本人だけでなく介護者である家族に対し、カウンセリングや休養などのケアが欠かせない」と話しました。

 フランスにおける「患者と介護者のQOLを高めるための施策」についてご紹介しましょう(濵田拓男:リポート─海外でも広がる地域で支える認知症施策. COMMUNITY CARE Vol.15 56-59 2013)。
1. 「デイケア」「一時入所施設」を設置し介護者にレスパイトケアを提供する
2. 「研修」で介護者にスキルや情報の提供を行う
3. 総合病院内のリハビリ部門に設置された「認知行動ユニット」が危機的な状況にある人に介入し自宅へ帰る支援を行う
4. 介護施設内に、行動障害のある人のための専用ユニット「UHR」を設置し、BPSD(認知症の行動・心理症状)に対応する
5. 医師・看護師・ケアワーカーが認知症に対処するために、ケア専門職向けのスキル・研修を開発しトレーニングを受ける
6. 「電話相談窓口」を設置する

 私自身もカウンセリングとまではいきませんが、私が認知症診療に携わるようになってからずっと続けてきた一つの取り組みがあります。それは毎月1回、患者さんおよび介護者の方に、「もの忘れニュース」という一枚の文書を渡していることです。第1回のもの忘れニュースは、1998年の1月に配布したものであり、それから16年に渡ってこの取り組みを継続しており、2014年1月号にて通巻193号となっております。継続は力なり!と信じて、粘り強く続けております。
 アピタルの「ひょっとして認知症?」も Part1の最終回が第530回『100歳の美しい脳(その11)─たくさん本を読んで、手紙も書いて』でしたので、Part2が第470回を迎えますと延べ1000回となります。今年の4月下旬辺りでしょうかね。

 認知症に関する知識が何もない暗闇の中では、「情報」という一筋の光はひときわ大きな力を発揮します。私自身、患者さん・ご家族の「正確な医療情報を知りたい」という気持ちはごくごく普通に共感できますので、医療情報公開というライフワークに精力的に取り組んできました。
 医療情報普及のためには、インターネットは極めて大きな力を発揮します。私が自身のHPを開設したのは1996年6月23日のことです。1996年8月23日付朝日新聞・家庭面においては、「インターネットで気軽に痴ほう症診断」というタイトルで私のHPが写真入りで紹介されております。私の取り組みが全国紙朝刊で紹介されましたのはこの時が初めてです
 インターネットを活用して医療について分かりやすく情報提供していくことは非常に大切なことだと私は考えております。そして、診療現場において大切なことは、医師が話しやすい雰囲気を醸し出すことです。
 私が皆さんにお勧めすることは、診察室で「メモを取る」ことです。メモを自宅で読み返して疑問点が出てきたら、インターネットを活用して調べます。そして次回診察の折に医師に質問して、自分自身の理解が間違っていないかどうかを確認し、病気に関する理解を深めていくのです。

 2010年9月28日より「ひょっとして認知症?」の連載を続けてきましたが今秋辺りでひとまず卒業かなとは思っております。卒業の日まで、皆さん今しばらくおつき合いのほどよろしくお願いいたします。

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謹賀新年
 明けましておめでとうございます。

 昨晩はPM10時過ぎに床に就き、今朝はほぼいつも通りの時間に目覚めました。
 朝刊を開いて、「朝日賞のみなさん」という記事に目がとまりました。
 レビー小体型認知症(小阪病)を世界で初めて見つけた小阪憲司先生も受賞されましたね。
 発見当時の様子が詳しく報道されておりました。

 「発見のきっかけは新米医師だった1960年代、名古屋市内の病院で認知症の女性を診たときだった。パーキンソン症状が目立ったが、文献に当てはまる説明はない。『アルツハイマー型とは違うのではないか』と疑問を抱いた。  女性は9年後、別の病気で亡くなった。脳を顕微鏡で見ると、大脳皮質に変わった塊があった。調べると、大脳皮質にはできないとされていたレビー小体だった。76年に定説を覆す論文を出した。
 …(中略)…
 今も診察を続けながら、『第2の認知症』の理解を広げるため、全国を回る。【野中良祐】」(2014年1月1日付朝日新聞)

【感想】
 「違うのではないか?」という感性が発見のきっかけとなったようですね。
 ところで、「第2の認知症」という表現に疑問を抱いた読者の方も多かったのではないでしょうか。
 シリーズ第3回「認知症に関する理解を深めましょう─認知症の3大原因」において述べましたように認知症を引き起こす原因疾患の頻度としては、「認知症は、多様な原因で引き起こされます。認知症の3大原因とされているのがアルツハイマー病(Alzheimer's disease;AD)と血管性認知症(Vascular dementia;VaD)とレビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies;DLB)です。アルツハイマー病は認知症全体の5~6割をしめ、認知症の最も代表的な疾患です。
 65歳以上の認知症の原因疾患は、福岡県久山町での疫学調査(828名、1985~2002年)によれば、アルツハイマー型認知症(AD)が66%、血管性認知症(VaD)が17%、レビー小体型認知症(DLB)が11%でした(葛原茂樹:認知症の診かた. medicina Vol.48 1385-1388 2011)。」という数字でしたね。
 ADとDLBは変性型認知症です。変性型認知症の中では、レビー小体型認知症(DLB)は2番目に多い疾患となりますので「第2の認知症」という表現をしたのであろうと思います。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第362回『それって本当に認知症?─遅発性パラフレニー』(2014年1月2日公開)
 続いて、『誤診症例から学ぶ─認知症とその他の疾患の鑑別』の各論─第2章の冒頭に紹介されている「遅発性パラフレニー(paraphrenia)」についてお話しましょう。
 高齢者にみられる、人格と感情反応がよく保たれ、高度に体系化された妄想をRothは遅発性パラフレニー(Roth M:The natural history of mental disorder in old age. J Men Sci Vol.101 281-301 1955)と名づけました。幻聴は伴うことも伴わないこともあります。遅発性パラフレニーにおいては、女性、未婚、高齢、独居または社会的孤立、難聴、統合失調質または妄想的な人格傾向が特徴とされております(監修/松下正明 編著/粟田主一 著/浅野弘毅:日常診療で出会う高齢者精神障害のみかた 中外医学社, 東京, 2011, pp147-151)。
 なお、遅発性パラフレニーと紛らわしいものとして「パラノイア」(メモ7参照)がありますので、パラノイアについて触れている論文をご紹介しておきましょう。
 熊本大学医学部附属病院神経精神科の橋本衛講師らは、レビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies;DLB)において認められる妄想に関して詳細な検討をしており、「妄想はDLBの63%もの患者に認められた。これはADの23%と比較して際立って高い有症率であった。…(中略)…配偶者、恋人が浮気をしていると確信する嫉妬妄想はオセロ症候群とも呼ばれ、認知症のみならず、パラノイア、アルコール依存症など、様々な疾患で出現することが知られている。嫉妬妄想はしばしば薬物治療が奏功せず、妄想から暴力に及ぶことも多く臨床場面では対応に苦慮する妄想である。比較的稀な妄想と考えられてきたが、本研究ではおよそ9%ものDLB患者に嫉妬妄想が認められた。さらに対象を同居の配偶者がいる患者に限定し嫉妬妄想の頻度をDLBとADの間で比較したところ、DLBの14.0%に嫉妬妄想を認めたのに対して、ADでは2.5%に認めるのみでDLBに有意に多い妄想であった。」(橋本 衛、池田 学:レビー小体型認知症のBPSDの特徴と治療. Dementia Japan Vol.26 82-88 2012)と報告しております。
 なおDLBにおいては、幻視の人物を浮気相手と思って嫉妬するため嫉妬妄想の頻度が高いのではないかと推測されています(長濱康弘:幻覚・妄想・誤認. CLINICIAN Vol.59 no.608 374-381 2012)。

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妄想性障害
 妄想を主徴とするが、社会的な人格水準の低下が目立たない慢性の機能性精神障害のことを「妄想性障害」という。しかし、高齢者は脳の加齢性変化を伴っていることが多く、器質性疾患を除外することはむずかしい。妄想の内容は身の回りから発するテーマが多く、もの盗られ妄想や嫉妬妄想、被害妄想などがみられる。ただし、これらは高齢者の器質性認知症疾患でよくみられるため、妄想の内容から認知症と本症を鑑別することはできない。妄想のみがみられ、かつ認知症がないことが本症の診断根拠となるが、高齢者の場合は認知症があっても軽度であり、進行性でないかあるいは進行が極めて緩徐である場合に本症を疑う。治療は統合失調症に準ずる。
 そのほか、高齢者に発症し、やはり妄想を主徴とする病態に「遅発性パラフレニー(late paraphrenia)」がある。圧倒的に女性に多く、単身、独居など社会的に孤立している人に多いとされる。妄想の内容は、被害妄想、色情妄想(○○さんは不倫をしている、△△さんは自分に惚れている等)などありふれたものが多く、難聴を伴うことが多い。しかし、高齢者は脳の加齢性変化を伴っていることが多く、器質性疾患を除外することはむずかしい。
【田平 武:かかりつけ医のための認知症診療テキスト─実践と基礎 診断と治療社, 東京, 2014, pp136-137】

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 「認知症と妄想性障害の鑑別」という非常に興味深い質疑応答内容が日本医事新報において掲載されておりますので以下にご紹介したいと思います(宇野正威:認知症と妄想性障害の鑑別. 2014年11月8日号日本医事新報No.4724・質疑応答 52 2014)。

質問:
 認知症の外来診療において認知機能は比較的良いのに妄想が強い症例に稀に出合いますが、認知症と妄想性障害の鑑別方法について、吉岡リハビリテーションクリニック・宇野正威先生に。【質問者―田平 武(順天堂大学大学院認知症診断・予防・治療学講座客員教授)】

回答:
 認知症は、進行するに伴い、自分を取り巻く状況を正しく理解し、何が求められているかを判断するという基本的な認知機能が衰えます。理解力が低下すると、状況を一方的に思い込み、周囲に対し被害的になりやすくなります。そのため、「認知症の行動と心理症状」の中で妄想の出現頻度は高いのですが、その内容は妄想性障害の妄想とは違いがあります。
(1)認知機能低下のない妄想性障害
 妄想内容は多彩ですが、次の2例は比較的よくみられる症例です。
 症例1:一人暮らし。ドアの外から、「お金がなくなり、そのうち自殺するよ」という、自分を家から追い出そうとする男と女の声が聞こえる、という被害妄想。
 このような症例は、未婚で、一人暮らしの、非社交的な女性に多く、しばしば難聴を伴うという特徴があり、遅発性パラフレニアと呼ばれることもあります。
 症例2:「自分の身体からばい菌が出て、バスの乗客にうつるらしい。周りの人が咳払いして、ばい菌を出そうとしているのでわかる」という、心気・関係妄想。
 これらの妄想の特徴は、対象が身近な人ではなく、社会の不特定の人たちであることです。社会から迫害されるという内容であり、続合失調症の妄想に近い特徴を持っています。
(2)認知症の妄想
 認知機能が比較的良い認知症であっても、妄想内容は体系的でなく、身近な人を対象にすることの多いことが特徴的です。認知症の基礎疾患により多少差はあります。
①アルツハイマー病の“盗られ妄想”
 顕著な近時記憶障害により、自分の持ち物をしまい忘れることが非常に多いことが背景にあります。その物がみつからないと、直ちに「盗られた」と直感し、周囲の特定の人(主に介護者)を責めます。
 対象物が日常的な物であっても、詰(なじ)り方の激しいことが特徴的です。一人暮らしの場合は、「誰かが入って来て、盗って行った」と、警察に繰り返し訴えることがありますが、その単調な内容から、鑑別診断は難しくはありません。
②レビー小体型認知症の幻覚妄想状態
 盗られ妄想は、アルツハイマー病の場合とほぼ同じです。問題になるのは、幻視・幻聴と、時に軽度の意識の変容(注意と明晰性の低下)を伴いながら、統合失調症様の幻覚妄想状態を呈した症例です。
 症例3:「夜中に某宗教団体の人がいろいろな楽器を持ってきて音楽を鳴らすので眠れない」「嫌がらせをされている」「監視されている」という、幻聴と被害妄想。
 症例4:「孫が何か悪いことをしたらしく、警察に追われている」という、被害妄想か作話か判然としない体験。
 幻聴・妄想の内容は、被害的であっても断片的で、体系をつくらず、しばしば空想的です。内容が変わりやすく、妄想なのか作話なのか判然としないことも多くあります。鑑別の難しいときもありますが、基本的には自分と家族への関心にとどまり、対象が広く外の世界へ広がり、体系的な内容に発展することはありません。【回答者―宇野正威(吉岡リハビリテーションクリニック院長)】


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第363回『それって本当に認知症?─パラノイア』(2014年1月3日公開)
メモ7:パラノイア
 パラノイアは、自らを特殊な人間であると信じたり、隣人に攻撃を受けている、などといった異常な妄想に囚われるものの、強い妄想を抱いているという点以外では人格や職業能力面において常人と変わらないのが特徴です(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%81%8F%E5%9F%B7%E7%97%85)。
 高齢患者に妄想性障害が起こった場合、パラフレニーと呼ばれることがあります(http://merckmanual.jp/mmpej/sec15/ch202/ch202c.html?qt=%E5%A6%84%E6%83%B3 %E6%80%A7 %E9%9A%9C%E5%AE%B3 %E5%A6%84%E6%83%B3 %E6%80%A7 %E9%9A%9C%E5%AE%B3 &alt=sh)。
 妄想性障害とパラノイアを厳密に区別して解説することは、議論中の事項でもあり難しい課題ですので、議論の争点について記述している論文を紹介するに留めたいと思います。
 「古典的なパラノイア(paranoia)と、精神疾患カテゴリーとして今日定着している妄想性障害(delusional disorder)について、概念上の連続性と不連続性を文献的に検討した。19世紀からドイツ語圏を中心に発展し、Kraepelinによって練り上げられたパラノイア概念は、早発性痴呆・統合失調症の辺縁病態とみなす見解が優勢になるに従い、疾病学的な存在意義が薄れた。他方、DSM-Ⅲ-Rにおいて、妄想性障害が統合失調症やその他の精神病性障害から切り離された単一のカテゴリーとして位置付けられて以降、その臨床的特徴や疾患単位としての独立性が議論を呼んでいる。DSM-IVが定義する妄想性障害は、人格の保持や特定の妄想主題などに関して古典的なパラノイア概念を受け継いでいる。その一方で、パラノイアでは妄想が人生経験と絡み合いながら徐々に揺るぎない体系を構築していくとしたKraepelinの動的な本質把握が、現代の操作的診断で理解される妄想性障害には欠落している」(中谷陽二:パラノイアから妄想性障害へ―連続と不連続―. 臨床精神医学 Vol.42 5-11 2013)。
 遅発性パラフレニーやパラノイアは、頻度的には認知症に比べるとはるかに少ない疾患です。しかし、認知症患者さんが妄想を抱くことは少なくありませんので、鑑別が必要となります。ご家族も認知症による妄想じゃないかと心配し認知症外来を受診することがしばしばありますので、私も数名程度ですがこうした症状の患者さんを診療した経験があります。
 妄想性障害における妄想は、統合失調症のような「非現実的で不自然な妄想」ではなく、現実的に起こりうる内容です。
 妄想性障害にはいくつかのタイプがあることが知られています(http://merckmanuals.jp/home/%E5%BF%83%E3%81%AE%E5%81%A5%E5%BA%B7%E5%95%8F%E9%A1%8C/%E7%B5%B1%E5%90%88%E5%A4%B1%E8%AA%BF%E7%97%87%E3%81%A8%E5%A6%84%E6%83%B3%E6%80%A7%E9%9A%9C%E5%AE%B3/%E5%A6%84%E6%83%B3%E6%80%A7%E9%9A%9C%E5%AE%B3.html)。
 病型としては、被害妄想型(自分の料理にだけ毒を盛られている・電話は盗聴されスパイされている・嫌がらせをされているといった妄想)が最も多いタイプです。妄想の対象は具体的でしばしば身近な特定の人です。
 他には、誇大妄想型(自分は極めて優れた才能をもっているという妄想)、色情妄想型(社会的地位が高い人が自分と恋愛関係にあるといった妄想)、嫉妬妄想型(恋人に裏切られる・配偶者が浮気をしているという妄想)、身体妄想型(寄生虫感染などの病気を持っている・体臭があるといった妄想)およびこれらの混在した混合妄想型というタイプがあります。
 余談にはなりますが、前述の「妄想性障害の亜型」は、メルクマニュアル医学百科家庭版の中に収録されている情報です。
 ネット上には玉石混交の医療情報が溢れています。情報が氾濫しており信頼できるサイトかどうかを判断することは素人では困難であるのが現状です。
 莫大な医療情報収集から入ってしまうと、「医療情報の海に溺れる」ことにもなりかねません。そんな時に私のお勧めは、先ずは「メルクマニュアル」(http://www.msd.co.jp/merckmanual/Pages/home.aspx)の活用です。メルクマニュアルは、世界の医師のバイブルとして治療に役立てられている本です。しかも幸いにして、無料で閲覧することができます。ただ利用に際しては、「注意事項」(http://merckmanual.jp/mmhe2j/about/front/note.html)はご一読下さいね。
 メルクマニュアル家庭版は、医師向けの「メルクマニュアル」をベースに、分かりやすく書き下ろした家庭向けの医学書です。メルクマニュアル医学百科家庭版のトップページ(http://www.merckmanuals.jp/home/index.html)において、「検索」のところへ調べたい疾患名などを入力すると、種々の情報を入手することができますのでご活用下さい。
 私自身も認知症についての啓発活動には積極的に取り組んでおります。このブログ『ひょっとして認知症?』もその中心的な活動の一つではありますが、実は私が認知症診療に携わるようになってからずっと続けている一つの取り組みがあります。それは毎月1回、患者さんおよび介護者の方に、「もの忘れニュース」という一枚の文書を渡していることです。第1回のもの忘れニュースは、1998年の1月に配布開始したものであり、それから16年に渡って継続しており、2013年10月号にて通巻190号となっております。
 なお、2013年8月1日にアルツハイマー病に関する諸情報を入手するうえで非常に期待されるウェブサイトが開設されました。それが、『アルツハイマー病情報サイト』(http://adinfo.tri-kobe.org/)です。このサイトにおいては、米国国立加齢研究所アルツハイマー病啓発・情報センター(Alzheimer's Disease Education and Referral Center:ADEAR)が配信するアルツハイマー病に関する最新かつ包括的な情報の日本語版が公開されております。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第364回『それって本当に認知症?─遅発性パラフレニーの事例』(2014年1月4日公開)
 それでは、『誤診症例から学ぶ─認知症とその他の疾患の鑑別』の各論─第2章の冒頭に紹介されている「遅発性パラフレニー」の疑いで入院となった事例を1例だけご紹介しましょう。個人情報保護目的により、差し障りのない範囲で改変を加えてご紹介させて頂きます。
「【症例】
 80歳代前半・女性
 病前性格は非社交的で大人しいほう。精神疾患の既往なし。
 難聴のため補聴器を使用し、白内障がある。夫の死亡後は、子どもの家に同居して問題なく暮らしていた。
【病歴】
 X-1年、『お金がなくなった』『殺される』など被害的なことをいうようになり、自ら希望してアパートに入居し、ひとり暮らしを始めた。当時、日常生活は自立しており、子どもたちには認知症があるようにはみえなかった。
 独居を始めた直後から幻視と幻聴が始まった。最初に起こった幻視は『山のような所に花火のようなきれいな光がみえる』という要素的なものだった。その後、『アパートの四畳間に中学生のような男の子が3人いた。話しかけても返事はなかったが、“仏壇のお水をとってちょうだい”と頼むと、黙ってスーッと音を立てずに置いてくれた』『別のときには部屋に帰ると、女の人が大勢で片付けものをしていた。話しかけても返事はなかった。このようなことは気味が悪いと思ったが、警察を呼ぼうなどとは思わなかった』と表現していた。
 幻視が始まった頃に幻聴も出現しており、最初のうちは『笛の音』や『人の話し声』が聞こえるというものであったが、そのうちに空き家であるはずの隣に人がいて『私の悪口を言う』と被害的な内容となった。次第に幻聴は激しさを増し、『またトイレにいった』など、いちいち行動を指摘されるようになった。
 その後、幻聴の内容に巻き込まれるようになり、激しい興奮、不穏、自殺企図、家族への暴力があり、X年に入院となった。
【入院時診断】
 遅発性パラフレニー
【検査所見】
 HDS-R:24点
 MMSE:28点
【入院後の経過・最終診断】
 入院後、数か月を経ると幻聴は被害的なものから『退院していいと言われた』『面会に来ているのがわかる』『娘の後ろ姿を見た』といった願望充足的なものとなり、次第に消退していった。半年後には精神症状は全く認められなくなったが、不活発で生気がなく、HDS-R20点、MMSE22点と低下していた。
 画像所見などからAD(アルツハイマー病)の初期と診断が変更された。」(編集/朝田 隆 著/池田研二、入谷修司:誤診症例から学ぶ─認知症とその他の疾患の鑑別 医学書院, 東京, 2013, pp49-50)

 『誤診症例から学ぶ─認知症とその他の疾患の鑑別』の各論─第2章の冒頭部分においては、入院時診断は老年期精神病(遅発性パラフレニー)であったものの死亡後の剖検などよりアルツハイマー病(AD)と診断が変更された事例が3例紹介されております。そして、女性においてはADの13%が幻覚妄想で初発していることから診断面において注意するよう指摘されております。
 さらに、脳器質性疾患における幻覚の特徴に関しても言及されております(編集/朝田 隆 著/池田研二、入谷修司:誤診症例から学ぶ─認知症とその他の疾患の鑑別 医学書院, 東京, 2013, pp52-53)。
 「①幻聴よりも幻視であることが多い、②その際の幻視は、閃光や光のようなものがみえるといった要素性幻視であることが多い、③幻聴がある場合でも統合失調症にみられるような会話形式や命令されるような内容のある声といった幻聴はまれであり、ざわめきとかガラガラという音が聞こえるというような要素性幻聴が多い、④天井のシミが人の顔にみえたり、壁や柱に虫やゴミのような黒いものがみえたりといった錯覚から幻覚の境界に位置する体験も器質性幻覚の特徴の1つである。」


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第365回『それって本当に認知症?─鑑別には初発年齢がカギ』(2014年1月5日公開)
 筑波大学医学医療系臨床医学域精神医学の朝田隆教授は、こうした精神疾患と認知症を鑑別するポイントとして、初発年齢が一つの大きな鍵を握ると指摘しております。朝田隆教授の指摘を最後にご紹介して本稿を閉じたいと思います(一部改変)。
 「初老期以降に初発する精神疾患は少ない。遅発性パラフレニーのような例外的な疾患を除くと、機能性の精神疾患が初老期以降に初発することは比較的稀である。そのようなケースに遭遇したら、『本当に単なる機能性精神疾患でよいのだろうか?』と自省する必要がある。これに関して、最近岡山大学精神科から発表された興味深いデータがある(長尾茂人、横田 修、池田知香子 ほか:中年期から老年期に精神障害を初発した52剖検例における神経変性基盤. 第31回日本認知症学会学術集会プログラム・抄録集, p108, 2012)。中年期から老年期に統合失調症様状態を中心とする精神障害を初発した52剖検例の検討である。結果として、半数近くが非ADの認知症であるレビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies;DLB)、嗜銀顆粒性認知症、CBD、PSPなどの変性疾患であったと報告されている。つまり遅発性の精神疾患なら器質的背景を疑う必要がある。」(朝田 隆編集:誤診症例から学ぶ─認知症とその他の疾患の鑑別 医学書院, 東京, 2013, p19)
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