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臨床医からみたジェネリック医薬品─認知症治療 [ジェネリック医薬品]

臨床医からみたジェネリック医薬品.jpg臨床医からみたジェネリック医薬品─認知症治療
               榊原白鳳病院 診療情報部長  笠間 睦

はじめに
 筆者は医療情報を患者に分かりやすく伝えるということをライフワークの一つとして取り組んできた。全国初の病院外来カルテ開示を始動した際には、医学用語の理解度調査も併せて実施した1)。
 診療報酬明細書請求を電子化している医療機関では、2010年4月1日以降医療費の明細書発行が義務化されている。義務化に先立ち筆者は、明細書発行が有意義な試みとなるためには、発行された明細書の内容を患者が読み解けるようにする必要があると考えた。そこで、明細書の内容が分かるような説明書作成に取り組み、2010年2月19日より、全国に先立ち外来診療における「明細書」の解説パンフレットを外来会計窓口に設置した2)。この試みの様子は、2010年3月10日付中日新聞・「つなごう医療」において紹介されている3)。
 筆者の専門領域である認知症診療においては、介護者ケアといった視点に立って多くの取り組みを実施してきた。
 日本では、アルツハイマー型認知症が5~10年ほどの経過で死に至る疾患であることがきちんと認識されていない。終末期には、自発語なし、表情なし、四肢の随意運動なし、尿便失禁の状態となり失外套症候群に近い状態となる。こうなると嚥下が困難になり、随意的に食べるのではなく、口の中にとろみをつけた食物塊が入ると反射的に嚥下が起こって飲み込む状態となり、いずれはそれも困難になるので、経管栄養(胃瘻を含む)や中心静脈栄養を行わなければ死に至る。スウェーデンでは、このような失外套症候群に近い段階になったら、姿勢、食物の形態など経口摂取のために最大限の努力をするが、飲み込めなくなったら末梢からの点滴による補液のみで看取ることが多い4)。
 榊原白鳳病院は、一般病床と療養病床を有するケアミックスの病院である。一般病床での治療を終えて状態が落ち着くと療養病床に転棟する。終末期に陥った際の延命治療に関する意向を一般病床入院時と療養病床転棟時で比較してみると、約半数において意向の変化が確認された。経管栄養を実施中にも関わらず、「経管栄養を希望しない」と回答したケースが複数あった5)。必要な状態の間際になってから胃瘻を造設するかどうかで悩むのが日本の医療現場の現状である。そういった状況を打開するためには、アルツハイマー型認知症の自然経過についてきちんと丁寧に説明し、家族で話し合う機会を事前に持てるようにする必要があるのではないだろうか6)。
 2010年9月28日からは朝日新聞社の医療ブログ「ひょっとして認知症?」7)を通して、認知症に関する諸情報をわかりやすく提供することに情熱を注いできた。
 さて、2011年3月にガランタミン(商品名:レミニールR)が発売されるまでは日本で唯一の アルツハイマー型認知症治療薬であったドネペジル塩酸塩(商品名:アリセプトR)の後発医薬品(ジェネリック医薬品)が2011年11月末に発売となった。
 先発医薬品と後発医薬品の薬価差について示し、自己負担が軽減されることを説明すると、次にほぼ例外なく質問されるのが「効果の違い」に関する質問である。
 この質問に対して、筆者は何と回答すべきなのであろうか? 医療情報を患者に分かりやすく伝えるということをライフワークとして取り組んできた筆者にとっては非常に悩んだ問題であった。
 政府広報オンラインのサイトには、「現在、製造販売されているジェネリック医薬品は、国の厳格な審査を受け、先発医薬品と効き目や安全性が同等であると承認されたものです。また、医薬品は、薬事法によりさまざまな規制が定められています。ジェネリック医薬品も、先発医薬品と同じ薬事法の品質基準に基づいて製造されていますので、先発医薬品と同じように安心して使うことができます」と明記されている8)。
 この情報を、医師がそのまま患者に伝えたら、おそらくほとんどの患者がジェネリック医薬品(GE)への変更を希望するであろうと思われる。実際に、医療費の高い米国では、後発医薬品へのシフトが明確に進んでいる。
 一方、医師がGEの品質に関して、かつての安かろう悪かろうの「ゾロ品」イメージを根強く持っていることも報告されている。「後発医薬品への変更不可」欄に署名した医師の理由を調査した報告によると、診療所に勤務する医師の51.6%、病院に勤務する医師の37.0%が「後発医薬品の品質が不安だから」と回答している9)。
 今回は、筆者が榊原白鳳病院・物忘れ外来において実施したドネペジル塩酸塩のGEに関する説明と、その説明によってどの程度の患者がGEへの変更を希望したのかを紹介し認知症治療におけるGEの課題を考えてみたい。

生物学的同等性試験
 筆者が患者にドネペジル塩酸塩のGEに関する情報提供をする際にまず取り組んだ課題は、筆者自身がGEに関する理解を深めることであった。
 医薬品の原薬特性、製剤特性が、おのおの規格基準内に入っていれば、医薬品の品質としては同等であり、また、原薬特性の同等性に関しては、主薬の含量には幅(十分に臨床上の効果・安全性を同等に確保できる幅)を設定しており、その幅の中での量の多少を議論しても臨床的にはまったく意味がないことが指摘されている10)。
 GEと先発品が同じ血中濃度推移を示すかどうかを確かめる生物学的同等性試験は、1971年より動物で行われていた。しかしながら1980年以降は、ヒト試験に変更されている。また同じ時期、それまで義務づけられていなかった長期・過酷条件下の保存を行う安定性試験もGEに義務づけられた。さらに1997年からは、溶出試験といって試験液中での製剤からの薬物の溶け出す速度や量が同じかどうかを確かめる試験もGEの承認申請で義務づけられており9)、最大血中濃度(Cmax)と血中濃度曲線下面積(AUC)の平均値が先発医薬品の80%~125%の範囲にあることを判定基準とする方法(90%信頼区間法)が採用されている。
 さて、生物学的同等性試験とは、GEが先発医薬品と同等の臨床効果を示すことを担保するために、両者間でヒトに投与した場合の血中濃度推移を比較する試験である。同等性の判定基準に関しては、国立医薬品食品衛生研究所薬品部の四方田薬品部第一室長が以下にように解説している。
 GEの製造販売承認に当たって、必要とされる資料は、製剤の品質規格、安定性試験(加速試験)、生物学的同等性に関する資料であり、新薬の申請時に較べて、毒性試験や、臨床試験成績の資料などは必要とされない。これは、有効成分が同じであれば、基本的な薬理作用や、有効性、毒性には差がないということを前提としているためである。他方、GEでは、有効成分の量は同じであっても、製剤化に必要な医薬品添加剤の種類や量などを定める処方設計や製剤の製造方法などはそれぞれの後発品で異なるため、医薬品製剤の作用が同等であることを評価するためのデータを要求するという考えに基づいている。
 生物学的同等性試験の試験結果を解析するために、最大血中濃度(Cmax)と血中濃度曲線下面積(AUC)を比較する。この両者に統計的な差が認められなければ効果も同じで、GEは先発品と同等であると判断される。同等性の判定は、GEと先発品のそれぞれについて、AUCとCmaxを対数値としてから平均値を計算し、その差の90%信頼区間(個々の測定値のばらつきを考慮したときに、差の値が90%の確率で含まれると推定される範囲)が、log(0.80)~log(1.25)の範囲にあるとき同等とすることによる11)。
 ところで、上記の文面を正しく理解できる医師はいったいどの程度いるのであろうか。多くの医師に質問してみると、その差の90%信頼区間(個々の測定値のばらつきを考慮したときに、差の値が90%の確率で含まれると推定される範囲)が、log(0.80)~log(1.25)の範囲にあるとき同等とするという記載部分が特に難解だと打ち明ける医師が多かった。
 このような状況を知ってか知らずか緒方は、GEの選択においては、医薬品としての品質の評価、医療スタッフ・患者が求めている製剤特性の把握が重要であり、これらの視点に基づく判断は主に薬剤師の職能の1つであり、医師に求めることは酷であると指摘している10)。
 以上述べてきたように、端的に言えば、GEは先発医薬品と生物学的に同等と評価されているのである。
 一方で、GEと先発医薬品の違いについて言及した報告もある。
 アボットライブラリーのLIBRA(調剤薬局薬剤師向け情報誌)には、以下のような記載がある。
 米国では「後発品と先発品は必ずしも同等ではない」との認識に基づき、米国食品医薬品局(FDA)は「承認医薬品と治療同等性評価(通称:オレンジブック)」で後発品のランク付けを行っている。後発品における溶出試験は明らかな非同等性を排除するものであって、同等であることを証明するものではない。米国でも先発品と後発品の生物学的同等性の差として、基準では約±20%であるが実際は平均約3.5%といわれている。しかし、日本では実際のところ、どの程度の差があるか不明である。±20%の許容域は随分大きいですよ12)。
 さらに筆者は、これらの知識を元に、日本医事新報の質疑応答コーナーを活用し、GEに関する疑問点の解消を試みた。
 基礎的な部分においては、先発医薬品よりも後発医薬品の方が最大血中濃度が高まる場合がありうるのか?という疑問点について確認した。
 筆者の質問に対して国立医薬品食品衛生研究所薬品部の四方田薬品部第一室長は、22人の先発製剤と後発製剤の最大血中濃度(Cmax)の比較例を呈示し、後発製剤のほうが先発製剤よりも血中濃度が大きくなる場合もあることを示した13)。
 またlogを用いた表記ではなく、何%程度同じなのかを分かりやすい百分率などの指標で公開しようといった試みがなされているのかどうかについても確認した。しかし、残念なことに、現在どの医薬品においてもそのような試みはなされていないことがわかった14)。

患者に対する情報提供とその結果
 筆者は、2011年12月24日より2012年1月21日までの期間において、アルツハイマー型認知症で通院中のドネペジル塩酸塩(アリセプトR)服用患者に対して、アリセプトRのジェネリック医薬品が発売されたことを伝え、切り替えを希望するかどうかを確認した。
 なお実際の切り替えに関しては、認知症の治療に限っては微妙な効果の差を許容できない患者および家族の心情に配慮し、患者・家族の自主的な判断に委ねた。
 ドネペジル塩酸塩(アリセプトR)服用中の17名に対して、先発医薬品と後発医薬品のどちらを希望するかを尋ねたところ、2名が「先発医薬品を希望」と即答し、同じく2名が「後発医薬品を希望」と即答した。また、2名が「先生にお任せします」と回答し、残り11名は即答を控えて、「効果は同じなのですか?」と筆者に質問した。
 「お任せします」と回答された2名と即答を避けた11名に対しては、「同等の臨床効果を有することは、生物学的同等性試験において確認済みです。ただ何%同じなのかと聞かれると、私にも明確な数字は回答できません」と説明を追加した。
 その結果、「先生にお任せします」と回答された2名の方は、先発医薬品の継続を希望した。即答を控えた11名中10名が先発医薬品の継続を希望し、1名が後発医薬品への変更を希望した。筆者が効果の微妙な違いについて明確に返事できないことに対して不安を感じたのか、後発医薬品への変更を躊躇される方がほとんどであった。
 最終的には、17名中14名(82%)がドネペジル塩酸塩に関しては、先発医薬品による治療の継続を希望したという結果となった。ただしこの結果は、僻地に立地する病院の物忘れ外来に時間をかけて通院する熱心な患者・家族が今回の調査の対象として多いというやや特殊な条件下での調査であり、また、医師主導ではなく患者および家族の自主的な判断を最優先して決めた結果としての数字であるという調査の背景を念頭に置いて82%という数字を評価する必要があると思われる。

おわりに
 今回報告したように、医師がジェネリック医薬品(GE)の品質に多少なりとも不安を抱いている場合、GEへの切り替えは思うように進まない。
 草津病院の栗原薬局課長は、統合失調症でもうつ病でも、医師が効くと確証して薬剤を処方すると効くが、不安を抱いて薬剤を処方すると驚くくらい効かないという談話を紹介し、精神科薬物療法は、その薬剤が本来もつ薬理効果とプラセボ効果を合算したものとして成り立っていると指摘している15)。
 アリセプトRの添付文書には、最終全般臨床症状評価において5mg群はプラセボ群と比較して有意に優れており、「改善」以上の割合は5mg群17%、プラセボ群13%、「軽度悪化」以下の割合は5mg群17%、プラセボ群43%であったことが記載されている16)。
 奈良市においてかかりつけ医300人を対象として実施されたアンケート調査では、認知症の治療上の問題点として、実に52.8%のかかりつけ医が「薬の効果がはっきりしない」と回答している17)。この結果を真摯に受けとめれば、かかりつけ医に対して認知症診療に積極的な関与を求めるのは酷であるのかも知れない。かかりつけ医が認知症治療薬の効果を実感できるようにアドバイスしていくことも、認知症専門医に課せられた責務であると考えている。
 筆者は、GEの生物学的同等性試験の結果が医師にとって分かりやすい形で情報提供されることが不可欠であると考えている。それによりGEに対する医師の信頼と理解が深まり、GEへの切り替えが促進されるのではないかと考えている。


文献
1)笠間 睦:外来カルテ開示に対する反響. 日本医事新報 1997;No3912:73-77.
2)外来診療における「明細書」の解説パンフレット(http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/pamphlet.pdf
3)中日新聞「つなごう医療」2010年3月10日(http://iryou.chunichi.co.jp/article/detail/20100310142018071
4)山口晴保, 箕岡真子:欧米のアルツハイマー病患者への対応. 日本医事新報 2006;No4281:94-95.
5)笠間 睦:事前指示書と終末期医療─療養病床転棟時における終末期意向の変化調査. 日本医事新報 2011;No4530:107-110.
6)笠間 睦:認知症介護者に対する終末期の意向調査. 日本医事新報 2011;No4566:26-29.
7)apital「ひょっとして認知症?」(http://apital.asahi.com/article/kasama/index.html
8)政府公報オンライン「ジェネリック医薬品の効果や安全性は?」(http://www.gov-online.go.jp/featured/201106_01/contents/koka.html
9)武藤正樹:医師が抱える不安材料とその解決に向けての方策. 薬局 2011;62:54-57.
10)緒方宏泰:薬剤師の「GEの使用促進へ向けたゲートキーパーの役割」に関する考察. 薬局 2011;62:23-26.
11)四方田千佳子:なぜヒトの臨床試験は必要ないの? 薬局 2011;62:62.
12)LIBRA43号特別号(http://www.abbott.co.jp/medical/library/LIBRA/LIBRA43.pdf
13)四方田千佳子:ジェネリック医薬品の生物学的同等性試験の結果解釈. 日本医事新報 2012;No4594:76-77.
14)中村 祐:ドネペジルと後発医薬品の臨床効果. 日本医事新報 2012;No4595:58-59.
15)栗原正亮:調剤薬変更がコンプライアンスへ及ぼす影響を考慮する─精神科領域を例に. 薬局 2011;62:100-103.
16)アリセプトR添付文書(http://www.eisai.jp/medical/products/di/PI/PDF/ART-D_T_PI.pdf
17)本間 昭:認知症の人のために専門医ができること. 老年精医誌 2013;24(Suppl 1):133-138.

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