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老化抑制物質、人で臨床研究─慶大 [サーチュイン]

老化抑制物質、人で臨床研究─慶大

 慶応大は11日、高齢化によって増えるさまざまな病気の予防に役立てようと、老化に伴う症状を抑える効果がマウスでみられた物質を人間に投与する臨床研究を始めたと発表した。
 健康な人を対象に、まず安全性を確認するのが狙い。伊藤裕教授(内分泌代謝学)は「安全性が確認できれば将来、具体的な効果を調べたい」と話している。
 投与するのは「ニコチンアミド・モノヌクレオチド(NMN)」。人間や動物の体内にもともとあり、長寿遺伝子として知られる「サーチュイン」の働きを強める化合物の材料となる。マウスに投与した実験では、さまざまな臓器で化合物の量が増え、血糖値の上昇が抑えられるなど、老化により臓器の働きが衰えるのを抑える効果が期待できるという。
 【2016年7月12日付日本経済新聞・社会】

私の感想
 「サーチュイン」のことを報じたNHKの番組は衝撃的な内容でした。
 “老化”なんて、人間というか全ての生き物の宿命なんだから受け入れるしかないと誰しも思っていたのに、そうじゃない場合もあるんだよ・・ということを報じていたからです。
 そして、時を経て、“臨床研究”が開始されるとのニュース。
 別に期待しているわけじゃないけど、関心が高い領域のニュースであることは間違いない。追跡していきたいニュースの一つですね。

 アピタルの前身であるアスパラクラブ時代に「サーチュイン」のことは紹介しております。以下に書き出してみます。


朝日新聞アスパラクラブ「ひょっとして認知症-PartⅠ」第109回『不老長寿は夢じゃない(1)』(2011年6月13日公開)
 皆さん昨晩9時はどのTV番組を観るかすごく悩まれたのではないでしょうか。
 元脳神経外科医の私としては「JIN」、子どもたちが観たいのは「マルモ」、元々の私のお気に入りは「行列」。しかし、昨晩だけはそんな迷いを捨てて、NHKスペシャルに見入ってしまいました。TV番組欄で「認知症」という文字を見かけると、ほとんど観てしまいますね。
 2011年6月12日放送のNHKスペシャル「寿命は延ばせる!」(http://www.nhk.or.jp/special/onair/110612.html)においては、話題の長寿遺伝子「サーチュイン遺伝子」に関して報道され、認知症予防との関連についても言及されました。

 「このサーチュイン遺伝子、万人が持っていますが、普段は眠っていて働きません。しかし、働かせる簡単な方法も分かってきました。」とホームページにて紹介されていましたので、放送を観る前に事前に予習してみました。
 「サーチュイン遺伝子のスイッチをオンにするには、2つの方法がある。」と2010年11月20日放送の「世界一受けたい授業」の「授業復習」(http://www.ntv.co.jp/sekaju/onair/101120/03.html)に記載してありました。
 「1つは、カロリーを減らすこと、2つ目は定期的に運動することです。日本人の男性が一日にとる食事のカロリーの平均は、2100kcal、女性は平均1700kcalです。これを約800kcalに抑えると、効果が出るだろうと言われています。これを続けなければならないわけではなくて、1週間に1回、10日に1回、1カ月に1回でも効果があるという研究者もいます。」
 この情報がどこまで正しいのか? どこまで解明が進んだのかを勉強すべく、楽しみに夜の21時を待ちました。

 ただ、NHKスペシャルを観る前の私は、1735年にイギリスの風刺作家ジョナサン・スウィフトが著した『ガリヴァー旅行記』において紹介されている寓話の一節を思い出し、長寿遺伝子が同定されても・・と懐疑的な見方をしていました。
 その寓話は、東京女子医科大学東医療センターの大塚邦明教授が書かれた著書(100歳を可能にする時間医学 NTT出版, 東京, 2010)の「はじめに」において紹介されています。

 「ガリヴァーは、イギリスに戻る途中、ラグナグ王国に立ち寄りました。そこに少数の不死の人間(ストラルドブラグ人)がいることを聞き、是非会ってみたいと願いました。ガリヴァーは、『自分がストラルドブラグ人のように不死であったなら、いかにも輝かしい人生を送ることができるであろう』と、心をときめかしました。しかし、ガリヴァーがそこに見たものは、思いもかけないのストラルドブラグ人の実態でした。『不老』ではないため、老齢につきまとう悲惨な姿ばかりが目についた。人間としての尊厳を保つことができず、老いさらばえたままの悲惨な生涯を送っていた。200歳を超えた一人の老人は、死ぬことができないという前途を悲観し、不機嫌で愚痴っぽく、頑固で気むずかしく、歯も欠け頭髪も抜け、忘れっぽく、味わうこともできず、ただ飲み食いをしているというばかりであった。そして、国中の人々から、疎まれ軽蔑されていた。」


長寿の悲喜こもごも
投稿者:あぽろ 投稿日時:11/06/13 15:32
 私の親類には100歳を越した老人が数人います。
元気で100歳ならいいですがベッドで寝たままの百歳です。子ども達は次々親より先に亡くなったようです。
 親より先に亡くなるのは親不孝と言いますが、仕方ありません。孫やひ孫の世話になっているようです。
 お婆ちゃんは孫やひ孫のお嫁さんに時々体を拭いてもらっています。
 もう一人のお婆ちゃんは特老に入所して居られます。
 誰も尋ねて行きません。子どもも次々身体を壊して、外孫はなじみが無いので田舎へ帰っても来ません。
 親類周りでは「年金が入ることが唯一の貢献」などとやっかみを言われて居たりします。
 そんな方ばかりでもなく100歳を過ぎても家族の中で草みしりをしたり、花の世話をして過ごしてらっしゃる方も居ます。
 長生きも人それぞれです。


Re:長寿の悲喜こもごも
投稿者:笠間 睦 投稿日時:11/06/13 16:04
あぽろさんへ
 コメント拝見しました。
 私も、昨晩のNHKスペシャルを観るまでは、「ストラルドブラグ人のような悲惨な超高齢社会」をイメージしておりましたので、あぽろさんの抱く感覚と同じように感じていました。
 しかし、昨日の放送は、長寿だけではなく老化の防止にも貢献するという話でありました。
 昨年から今年にかけて、健康な百寿者を多く拝見してきました。代表的な方は、シリーズ第45回『日野原先生の講演を聴いてきた』でご紹介しましたね。

P.S:
 今日の続きの原稿をまだ書いておりません。
 今ようやく病棟業務が終了しましたので、今から明日の原稿を書きます。


朝日新聞アスパラクラブ「ひょっとして認知症-PartⅠ」第110回『不老長寿は夢じゃない(2)』(2011年6月14日公開)
 春日武彦先生のアピタルブログ『精神科医の頭の中』の2011年5月28日の『神童』のコメント欄において、私は以下の発言をしました。
 「私は、脳科学に関するTV番組を観るのが好きです。2011年5月25日放送の『ホンマでっか!?TV』において、人間性脳科学研究所所長である澤口俊之先生が『長寿と知能』に関して以下のような発言しました。
 『長生きに関する遺伝子の多くは知能に関係しており、特に一般知能が関係している。IQの遺伝性は80%なので、子どものIQが高い場合、自分の両親(子どもの祖父母)は長寿の遺伝子を持つ可能性が高い。』
 一般知能が高い人というのは、勉強ができるできないではなく、勘が利くとか反応が良い人のことを意味するのだそうです。
 澤口俊之先生は、著書(『幼児教育と脳』 文春新書, 東京, 2004, P44)においては以下のように述べています。
 『知能指数IQの60%くらいは遺伝に依存する。…(中略)…IQが遺伝することからも明らかなように、多重知性のそれぞれに関しても40~60%は遺伝する。たとえば言語性知性や空間的知性は60%くらい遺伝に依存している。作家の子どもが作家になるのは決して環境のせいだけではないのだ。』
P.S:
 寿命に関連が深い遺伝子の代表は、『時計遺伝子』です。」

 そう! 2011年6月12日放送のNHKスペシャル「寿命は延ばせる!」を観るまでは、私の頭の中にある「長寿遺伝子」と言えば、「サーチュイン遺伝子」ではなく「時計遺伝子」でした。
 本題に入る前に、先ずは時計遺伝子に関して興味深いお話をご紹介します。

 諏訪東京理科大共通教育センターの篠原菊紀教授は、自身のブログ「『はげひげ』の脳的メモ」(http://higeoyaji.at.webry.info/)において、2011年4月25日に次のような数字を紹介しています(http://higeoyaji.at.webry.info/201104/article_9.html)。
 「一般的知能(IQg)が55%(成人では70%)、言語的推論能力が50%、空間的推論能力が40%程度遺伝しますが、学業成績は38%ぐらいですから頑張りは重要です。ちょっと驚くのは記憶力。遺伝率はわずか30%ですから、記憶力というのが学業成績以上に後天的な工夫や努力で変わるわけです。
 国語、数学、社会、理科などの成績の遺伝率はおおむね40%、30%が共有環境、30%が非共有環境です。遺伝率は、一緒に暮らす一卵性双生児と二卵性双生児の比較から出します。一緒に暮らす一卵性双生児のたとえば成績の相関が70%なら、100%-70%=30%は非共有環境の影響と考えます。友達とか、気づきとか、自分だけ通ったクラブとか。
 一卵性双生児と二卵性双生児は遺伝的には半分一緒ですから、遺伝率=(一卵性双生児の相関-二卵性双生児の相関)×2、共有環境(多くは家庭環境)の影響は、一卵性双生児の相関-遺伝率、になります。」

 最後の部分がちょっと分かりにくいですね。具体的な数字を交えて分かりやすく解説します。
 例えば、学業成績の相関係数を調査したところ、一卵性双生児が0.632、二卵性双生児が0.403であったとしましょう(http://www.eps4.comlink.ne.jp/~aasaka/twin3.htm)。
 一卵性双生児では、遺伝子(gene;G)と共有(家庭)環境(environment;E)が同じです。一方、二卵性双生児では、遺伝子が半分同じ(G×1/2)であり共有(家庭)環境(E)は同じです。
 そこで、一卵性双生児の相関係数(G+E)から二卵性双生児の相関係数(G×1/2+E)を引きますと、(G+E)-(G×1/2+E)=G×1/2となります。これにより、遺伝子の影響部分の半分が求められます。したがって、この値を2倍すれば遺伝子の影響部分を求めることができるわけです。
 0.632-0.403=0.229
 遺伝率=0.229×2=0.458  この0.458(45.8%)が相関係数の中で、遺伝子が占める部分ということになります。


朝日新聞アスパラクラブ「ひょっとして認知症-PartⅠ」第111回『不老長寿は夢じゃない(3)』(2011年6月15日公開)
 近年、「時計遺伝子」が寿命と深く関連している遺伝子であることが分かってきました。
 生体リズムを発信する時計遺伝子は、「親時計」と「子時計」に存在します。親時計(主時計)は、脳の視交叉上核という部位にあり、ここには時計細胞がぎっしり詰まっています。そして一個一個の時計細胞には六種類の時計遺伝子があります。Period(Per)、Clock(Clk)、Cryptochrome(Cry)などです。
 時計遺伝子は視交叉上核だけではなく、身体の細胞の一つ一つにもあることが分かってきており子時計(末梢時計)と呼ばれています。親時計と子時計が互いに連絡を取り合いながらサーカディアンリズム(概日リズム)を醸し出しています。
 生体リズムの乱れは、メタボリックシンドロームと関連が深いことも分かってきております。2005年5月にサイエンスという超一流雑誌において、「Clockという時計遺伝子に異常のあるマウスが、成長とともにメタボリック症候群になる」(http://www.pref.kagawa.jp/kenkyoui/syogaigakusyu/characteristic/katei/site/seikatusyuukandukuri-foramu/images/ootsuka.pdf)ことが発表されています。
 東京女子医科大学東医療センターの大塚邦明教授は、著書の第6章(100歳を可能にする時間医学 NTT出版, 東京, 2010, pp70-82)で時計遺伝子がもつ様々な働きを紹介しております。
 「記憶も、時計遺伝子と関わりがあるらしい。2004年、首都大学東京の坂井貴臣らは、ショウジョウバエを使った記憶の実験を報告した。ある嫌な匂いを嗅がせ、その匂いをどれくらい長く覚えているかという実験を行った。通常、ハエに何かを記憶させるには、7時間以上の記憶訓練を行うことが必要である。ところが、Per時計遺伝子を過剰に発現させたハエでは、時計遺伝子の発現が多いほど、記憶のための訓練時間が短くなった。ハエの長期記憶にPer時計遺伝子が必要であると結論している。」
 また、大塚邦明教授は、「生体リズムに異常のあるハムスターに、中枢時計の移植をしたところ生体リズムが回復し、その結果、ハムスターの寿命を長くすることができた」という報告(同書, p94)を紹介しています。
 また高知県土佐市における高齢者の調査では、「砂時計型の体内時計の検査(10秒を予測してもらう)において、10秒が正しく予測できる高齢者ほど、3年後の認知機能の改善が期待できた」(同書, p131)と述べて、「生体リズムを回復させることが、もの忘れの予防には有効である」(同書, p112-113)と指摘しています。

 さて、いよいよ2011年6月12日放送のNHKスペシャル「寿命は延ばせる!」において紹介された長寿遺伝子「サーチュイン遺伝子」に関してご紹介していきましょう。
 サーチュイン遺伝子は、実は誰でも持っている遺伝子です。しかし、普段は眠っていて作動しておりません。
 ウィスコンシン大学のリッキー・コールマン博士は、80匹近いアカゲザルを20年以上飼育して老化の発現を観察するというとっても気の長い実験を行っています。
 アカゲザルの平均寿命は26歳程度だそうです。
 映像では、24歳の2匹のアカゲザルが紹介されました。24歳というとヒトに置き換えると75歳程度に該当するそうです。
 サーチュイン遺伝子がOFFとなっているアカゲザルは、禿げて見るからに年老いています。目の輝きも失われています。
 一方、サーチュイン遺伝子がONとなっているアカゲザルは、毛はふさふさで眼光鋭く、怖くて近寄りたくない雰囲気を漂わせています。
 MRI検査を実施してみると、サーチュイン遺伝子がONとなっているアカゲザルにおいては、脳萎縮が乏しいことが証明されました。脳の老化も抑えたようです。
 現在、実験を初めて22年目に入っているそうです。サーチュイン遺伝子がOFFとなっているアカゲザルは、半数が老化によって死亡しているそうです。しかし、サーチュイン遺伝子がONとなっているアカゲザルは、8割が生存しているそうです。


何でも食べる元気
投稿者:あぽろ 投稿日時:11/06/15 12:33
 私は地方に住んでいますので地域にも高齢の方が多く居ます。
 素人の私がそう思うだけかもしれませんが、長寿の方はお友達が多いように感じます。後は夫婦で女性が残った方です。
 それと、何でも好き嫌いなく幅広く食べて、それでも間食は少ない人、手作りで食べ物を作る人。魚の酢の物や漬物、煮物などを近所におすそ分けする。痛いところを抱えながらも畑仕事など体を動かしている人。孫の世話をしている方、家族関係がうまく行ってらっしゃる方のほうが丈夫に感じます。
 反対に一人好きでご近所とふれあいの無い方や肥満症の方や本音であまりお話できない方、自炊せず加工食品が好きな方はやはり何処と無くお体を壊してらっしゃるような気がします。
 あくまで私の私感です。


Re:お友達 肥満症
投稿者:笠間 睦 投稿日時:11/06/15 15:24
あぽろさんへ
 いつもコメントありがとうございます。
 シリーズ第58回『高齢シスターの脳は明せきだった』において触れましたように、「生きがい尺度の高得点者は、低得点者よりもアルツハイマー病を発症せずにすむ可能性がおよそ2.4倍高かった」(Arch Gen Psychiatry 67 304-310 2010)という米国住民データの解析結果が報告されております。
 高齢者の生きがいを高めるために介入を加えることは、認知症予防にもつながります。ですから友人とのコミュニケーションが生きがいの一つであれば、友人の存在が脳機能に好影響を及ぼしていることは十分に想定されます。
 ナンスタディの詳細が記載された、『100歳の美しい脳』(デヴィッド・スノウドン著,藤井留美訳,DHC,2004)に関しては、非常に興味深い記述が並びますので、いずれまた詳しくご紹介する予定です。

 肥満症に関しては、明日の原稿で、サーチュイン遺伝子を作動させるための「食事」に関して言及しておりますのでお読み下さい。
 個人的には、「肥満症の百寿者」のサーチュイン遺伝子がどうなっているのか関心を持っています。

 いずれにしても、サーチュイン遺伝子が作動しているのかどうかを採血で簡単に判断できる時代になったことは、たいへん有意義なことだと思います。


朝日新聞アスパラクラブ「ひょっとして認知症-PartⅠ」第112回『不老長寿は夢じゃない(4)』(2011年6月16日公開)
 さて、サーチュイン遺伝子を作動させるため、どんなことが行われたのでしょうか。
 実は、以前から実践されてきた「あること」なんです。
 「腹八分目」は、古くから長寿の秘訣と言われてきましたね。
 シリーズ第39回『飽食を見直して認知症予防』(https://aspara.asahi.com/blog/hyottoshite/entry/T6APdVqB6b)で紹介しましたように、日野原重明先生はまさにこれを実践してこられたのですね。
 まさにここに大きな鍵が秘められていたのです。普通の猿よりも30%少ない餌を20年以上食べ続けてきたアカゲザルは、サーチュイン遺伝子がONとなり、老化の発現が遅れ、寿命も延びたのです。

 サーチュイン遺伝子は、2000年に米国で発見されました。全身の細胞の第10染色体上に存在します。
 サーチュイン遺伝子から作られるのがサーチュイン酵素です。そのサーチュイン酵素はどんな働きをするのでしょうか。
 ミトコンドリアの増加、免疫細胞をおとなしくさせる、インスリンの受け渡しをスムーズにする、炎症物質の抑制、テロメアの保護などの役割があるそうです。

 年をとるとミトコンドリア(細胞の中でエネルギーを作り出す機能を果たしている)の働きが弱くなり、活性酸素という有害物質を産生するようになります。
 活性酸素が皮膚の細胞を損傷すると、女性が嫌う「シミ・シワ」の原因となります。
 活性酸素が脳の神経細胞を損傷すると、物忘れや認知症の誘因となります。
 サーチュイン遺伝子がONとなると、ミトコンドリアの中で活性酸素を消す物質が盛んに作られ、ミトコンドリアから活性酸素が漏れ出ることがなくなります

 免疫細胞は、本来は、病原菌から身体を守るという大切な役割を担っています。しかし、年をとると免疫細胞が敵と味方を見分ける能力が低下し、自分自身の身体を攻撃し始めます。それが最も顕著に見られる部位が血管です。免疫細胞が血管壁に入り込んで壁が厚くなり動脈硬化を引き起こします。
 サーチュイン遺伝子がONとなると、免疫細胞がおとなしくなり自身への攻撃が弱まります。また、免疫細胞を血管の壁に引き付ける物質を抑制し、動脈硬化も改善していきます。


そう思います
投稿者:あぽろ 投稿日時:11/06/16 12:40
 この間、私の近親者にも100歳を超える長寿の方が数人居ると書きました。一緒に食事をしたことがあります。食べ物が私達の世代と違います。硬いものに平気です。歯が丈夫です。
 海草・魚(食べた後の骨を鉄器であぶってカリカリにして食べたり、お湯を注いで出汁を飲んだり)肉も食べます。よく焼いた肉を少しだけ食べます。天ぷらだって好きです。酢の物が好きです。
 しかし皆、少量ずつです。私からすれば「これでよくお腹が持つなぁ?」と思ったりしていました。
 それと、皆に共通していたことは病院へすぐ行く事です。高齢者の中には我慢して病院へ行きたがらない人も多いですが、自覚症状が何かしらあったらすぐ、かかりつけの病院へ自ら足を運んでいました。自己管理が出来ていたのだと思います。周囲の人が「こんな事くらいで・・」と思いがちなことでも本人は検査してもらう事をためらいませんでしたね。


Re:そう思います
投稿者:笠間 睦 投稿日時:11/06/16 14:06
あぽろさんへ
 本日もコメントありがとうございます。
 食事のことって「分かっていてもついつい・・」という世界ですよね。
 私は「カロリー制限」の重要性を説きながらも、相変わらずの「大食漢」を続けております。今朝も「腹八分!」と妻にうるさく言われたにも関わらず、好物のカレーでしたのでついつい「腹十二分」食べてしまいました。
 凡人の私としては、「何とか楽してサーチュイン遺伝子を作動できないか」って考えてしまいますね。

 食生活が守れない分だけ、少しでも身体を動かそうと思います。


運動の効果は?
投稿者:笠間 睦 投稿日時:11/06/16 14:42
 本シリーズ第1回にて、「サーチュイン遺伝子のスイッチをオンにするには、2つの方法がある。1つは、カロリーを減らすこと、2つ目は定期的に運動することです。」と記載しました。
 しかしながら、2011年6月12日放送のNHKスペシャル「寿命は延ばせる!」においては、「運動とサーチュイン遺伝子」の関係に関しては報道されませんでしたので、このことが引っ掛かっておりました。

 毎週木曜日は、「医学書店」か「三重大学医学部図書館」に出掛けることが楽しみの一つです。
 1件だけ、「運動とサーチュイン」に関する論文を見つけましたのでご紹介します。
 長寿遺伝子として知られるサーチュイン(Sirtuins)には、7種類のサブタイプ(Sirt1-7)が存在します。
 新潟医療福祉大学大学院健康栄養学分野の川中健太郎准教授は、「動物実験において運動トレーニングが筋のSirt3タンパク質発現量を増加させる」と報告しています(運動と骨格筋:糖代謝の視点から. アンチ・エイジング医学 Vol.7 25-31 2011)。
 東北工業大学ライフデザイン学部安全安心生活デザイン学科の諏訪雅貴講師は、「ラットに持久的トレーニングを行うと、Sirt1タンパク質発現量が増加する」ことを報告しています(運動と長寿遺伝子:サーチュイン. アンチ・エイジング医学 Vol.7 32-35 2011)。


朝日新聞アスパラクラブ「ひょっとして認知症-PartⅠ」第113回『不老長寿は夢じゃない(5)』(2011年6月17日公開)
 サーチュイン遺伝子がONとなってサーチュイン酵素が産生されると、インスリンの受け渡しがスムーズとなり糖尿病にも良さそうですね。
 糖尿病患者さんでは、アルツハイマー病の発症率が、約4.6倍も高くなることが知られています(http://medical-today.seesaa.net/article/53739289.html)。私はこのデータを知ってから、糖尿病はアルツハイマー病発症における最大の危険因子ではないかとずっと思ってきました。しかし、サーチュイン遺伝子の働きを知り、アルツハイマー病発症と糖尿病発症に共通する原因としてサーチュイン遺伝子が関わっていると認識を改める必要があるのではないかと思っています。

 それでは実際に、カロリー制限をするとどの程度糖尿病は改善するのでしょうか?
 私の受け持ち入院患者さんは、脳卒中後遺症患者さん、神経難病の患者さんなどが主ですが、その中で糖尿病を有している患者さんは結構多いです。
 2011年6月13日現在、私が担当している病棟患者さん約48名のうち、糖尿病治療中の患者さんが16名おられました。概ね3分の1ですね。
 16名の内訳は以下です。
 食事療法・運動療法のみ :2名
 食事療法・運動療法および内服治療 :8名
 食事療法・運動療法およびインスリン治療 :5名
 食事療法・運動療法および内服治療およびインスリン :1名

 入院後、食事療法・運動療法がきちんと実施されることで、内服治療およびインスリンが減量できた患者さんは5例ありました(http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/20110613DM.pdf)。16名5名ですから、30%強の患者さんで糖尿病が改善したことになります。
 もちろん入院前にもきちんと食事療法は実施されていたと思うのですが、なかなか食事量を厳密に継続するのは困難な課題です。
 入院後の厳密な食事療法により、サーチュイン遺伝子がONとなって糖尿病が改善したのでしょうか?

 既に米国では、アメリカ・カロリー制限協会の会員が全国に5,000人おり、会員は30%のカロリー制限に取り組んでいるそうです。

 金沢医科大学糖尿病・内分泌内科学の古家大祐教授らは、サーチュイン遺伝子に関わる研究を行っており、その試みも番組内で紹介されました。
 30歳代・40歳代・50歳代・60歳代の各世代の男性4名が、平素の摂取カロリーより25%制限した食事療法に取り組みました。
 3週間後の中間検査で、50歳代と60歳代の方ではサーチュイン遺伝子の作動が確認されました。食事療法を継続したところ、7週間目には30歳代と40歳代の方においてもサーチュイン遺伝子が作動をしていることが確認されました。わずか7週間のカロリー制限でサーチュイン遺伝子は作動し始めたのです。
 またホームページにおいても研究成果が紹介されております(http://www.kanazawa-med.ac.jp/~endocrin/news/1.html)。
 25%とは厳しいですね。「腹八分目」りももう少し頑張る必要があるわけですね。


運動と糖尿病
投稿者:笠間 睦 投稿日時:11/06/17 11:19
 昨日のコメント欄でご紹介したSirt1&Sirt3に関する続報です。
 新潟医療福祉大学大学院健康栄養学分野の川中健太郎准教授は、「Sirt1&Sirt3は、ミトコンドリアにおける脂肪酸利用関連酵素や活性酸素除去酵素の遺伝子発現を高める働きが知られている。すなわち、これらは骨格筋の脂肪酸利用促進と脂質代謝産物蓄積抑制、さらには活性酸素生成抑制を介してインスリン抵抗性を防止する働きがある。」と述べています(運動と骨格筋:糖代謝の視点から. アンチ・エイジング医学 Vol.7 25-31 2011)。

P.S
 脳内インスリン抵抗性(正常な血糖値を保つのに必要なインスリン量が増加した状態)は、アミロイドβの脳内沈着を促進すると考えられています。
 インスリン抵抗性改善薬であるPioglitazone(商品名:アクトス)を1日15~30mg、2型糖尿病(遺伝的に糖尿病になりやすい体質の人が、糖尿病になりやすいような生活習慣を過ごすことによって発症するもので、日本では糖尿病全体の9割が2型糖尿病です)を有する軽度アルツハイマー病患者さんに6か月間服薬してもらったところ、認知機能が若干改善し脳血流量が増加したという結果も報告されており私も注目しておりました。
 しかしながらPioglitazoneに関しては、2011年6月15日に米国医薬品食品局(FDA)より、「1年以上使用した場合に膀胱癌のリスク上昇が懸念される」との声明が発表されましたので、長期にわたり服薬する場合には留意が必要なようです。


厳格なカロリー制限食により治ることもある糖尿病
投稿者:笠間 睦 投稿日時:11/06/24 05:56
 2型糖尿病は進行性で不可逆的な疾患、すなわちいったん発症したら一生治らないと信じられてきました。しかし、そうした通説に疑義を挟む結果がごく最近発表されました。
 2型糖尿病の疾患経過は必ずしも不可逆的ではなく、部分的には可逆的なのだろうという仮説が考えられていました。英国のニューキャッスル大学のグループがこの仮説を検証するために,厳格な(ある意味、極端な)カロリー制限食により膵β細胞機能や肝インスリン感受性が回復するかどうかを検証しました(Diabetologia 6月9日オンライン版:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=Reversal%20of%20type%202%20diabetes%3A%20normalisation%20of%20beta%20cell%20function%20in%20association%20with%20decreased%20pancreas%20and%20liver%20triacylglycerol)。
 北里研究所病院糖尿病センター長の山田悟医師は、2011年6月23日付MT ProのDOCTOR'S EYEの「最新論文で考える日常診療」のコーナー(http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtpronews/doctoreye/dr110605.html)にてこのデータを紹介し、「発症後間もない患者においては、インスリン分泌不全とインスリン抵抗性が、いずれも食事療法のみで回復しうる」可能性を示唆しました。


朝日新聞アスパラクラブ「ひょっとして認知症-PartⅠ」第114回『不老長寿は夢じゃない(6)』(2011年6月18日公開)
 ここでさらに大きな課題が出てきます。
 カロリー制限をやめると、サーチュイン遺伝子が働きを止めてしまうことです。ですから一生涯カロリー制限を続けなければならないことになります。飽食の時代にあってこれは大変なことです。

 番組の最後には、メアリーウッド大学の新しい試みが紹介されました。カロリー制限をしなくともサーチュイン遺伝子の活動を維持できないか研究が始まっています。
 そして、レスベラトロールという薬がその有力な候補として紹介されました。レスベラトロールは、赤ブドウの皮などに微量に含まれる物質です。
 レスベラトロールを1カ月間服用した患者さんでは、XO Memoryという指標(私はこの指標がどんなものかよく知りません)において「正答率」が5ポイント上昇した(25人での解析結果)ことが報告されました。なんと認知機能が改善したのです。わずか1カ月で認知機能が改善したというデータは私には信じがたいことです。しかし、事実であれば認知症予防にとって新しい展開が開けることになりますね。

 金沢大学大学院医学系研究科脳老化・神経病態学(神経内科)の山田正仁教授は、「赤ワインに含まれるポリフェノールが、アルツハイマー病の原因とされるたんぱく質(アミロイドβ)を分解する」ことを実験で確認し報告しております(2003年9月29日付朝日新聞)。
 赤ワインに含まれているポリフェノール成分であるレスベラトロールには、サーチュインの活性化にも関与することが分かってきたのです。
 そして既に米国では、レスベラトロールのサプリメント(薬剤費は、1カ月分が2,000~3,000円)が発売されており大きな注目を集めているそうです。成分が保証されれば、日本でも大きな話題となりそうですね。

 番組内では、「もともと食が細い人(特に高齢者)では、摂取カロリーの制限は行わないで下さい」と注意喚起もなされました。ご留意下さいね。

 長寿遺伝子の最も有力な候補であるサーチュイン遺伝子に関してご紹介しました。
 長寿遺伝子の解明が進んできて、おとぎ話の世界で語られていた夢物語が、現実のものとして迫ってきたように感じられますね。

始皇帝が夢見た世界
投稿者:笠間 睦 投稿日時:11/06/18 10:55
 秦の始皇帝が切望した秘薬(不老不死)ではありませんが、不老長寿薬に関しては手の届くところまで来たような印象を持ちました。
 今回放送されたNHKスペシャル「寿命は延ばせる!」において強く印象に残ったシーンが2つあります。
 一つ目は、24歳で同い年のアカゲザルの老け具合があまりにも違った点です。強烈な印象を持って脳裏に焼き付きました。
 二つ目は、米国の女性が、レスベラトロールを愛犬にも飲ませていたシーンです。何だかとってもほのぼのしたものを感じました。

 レスベラトロールが実用化されるまでは、腹八分を実践して下さいね。


サーチュイン遺伝子
投稿者:ちょびっこ 投稿日時:11/06/20 02:34
 この研究が進んで医療の中心になっていくといいですね。

長寿社会における課題
投稿者:笠間 睦 投稿日時:11/06/20 06:32
ちょびっこさんへ
 コメント拝見しました。
 医療の中でかなり大きなウェイトを占める可能性は秘めていると思います。

 以前私が朝日新聞・三重版の医療連載「みんなで考える医療」の執筆担当をしていた際に、最終回(2000.9.6)で紹介したテーマは、「不老不死の夢」でした。
 その際に私は、「三大死因である悪性新生物、心疾患、脳血管疾患が克服されると寿命は、男性で9.38年、女性で8.81年延長する(日本医事新報)」という予測を紹介しました。
 悪性新生物、心疾患、脳血管疾患が克服されたうえで、長寿遺伝子の研究が進めば、平均寿命百歳の時代は本当に訪れるかも知れませんね。
 そうなってくるとますます「健康寿命」への取り組みが重要となりますね。認知症への対策もその中心になってくると思われます。長寿に伴い、食糧難への対策も重要になってきますから、環境問題にも更なる取り組みが求められるようになりますね。


「レスベラトロール」のその後 ─ その1
投稿者:笠間 睦 投稿日時:12/02/16 17:59
 今日はお休みでしたので、いつものように午前中は三重大学医学部図書館でのひとときを過ごしました。
 そこで目にしたちょっと意外な内容の重大論文!

 「ひょっとして認知症?」のシリーズ第109~114回で取り上げたテーマは、「不老長寿は夢じゃない(その1~6)」でした。シリーズ第114回においては、「赤ワインに含まれているポリフェノール成分であるレスベラトロールには、サーチュインの活性化にも関与することが分かってきたのです。」と報告しました。
 意外な論文を読んで、改めて「レスベラトロール」で検索してみると、ものすごい数のヒット数! 注目の高さが伺い知れます!
 しかし、ウィキペディアの「レスベラトロール」には、「現在、削除の方針に従って、この項目の一部の版または全体を削除することが審議されています。」との記載が!!


「レスベラトロール」のその後 ─ その2
投稿者:笠間 睦 投稿日時:12/02/16 18:00

重大論文:『長寿遺伝子の活性化とレズベラトロール』
 執筆者(回答者)は、東京大学大学院医学系研究科加齢医学講座(http://www.h.u-tokyo.ac.jp/geriatrics/)の大田秀隆医師と飯島勝医師です。
 著作権の問題がありますので抜粋にとどめます(大田秀隆,飯島勝:長寿遺伝子の活性化とレズベラトロール. 2012年2月11日付日本医事新報No.4581 質疑応答 55-56 2012)。

質問:
 長寿遺伝子を活性化すると言われるレズベラトロールについて概要を。有効性,1日服用量,副作用などのデータがあれば,併せて。

回答:
 「近年、レズベラトロールによるサーチュイン遺伝子の直接的活性化作用は否定されてきている。サーチュイン遺伝子の活性化測定方法に問題があり、検査によるアーチファクトにすぎないという報告が出てきている。…(中略)…副作用については、2.0gレズベラトロールを1日2回投与で8人中6人に一過性の下痢、また1人に皮疹や頭痛を認めたという報告がある。これらの結果はすべて小規模な臨床研究、もしくは大半が動物実験の結果である。未知の副作用など、サプリメントとして市販されているレズベラトロールを、安易に効果を期待して服用するのは危険であろうと思われる。」

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