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オーダーメイドの認知症ケア―NIRSの活用 [光トポグラフィー(near-infrared s]

朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第800回『感情に配慮したケアを─光で脳血流を測定』(2015年3月22日公開)
 日本のうつ病診療においては、診断面で大きな進歩が出始めております。
 それはNHKスペシャル「ここまで来た! うつ病治療」(http://www.nhk.or.jp/special/detail/2012/0212/)のウェブサイトにも記載されております光トポグラフィー(near-infrared spectroscopy;NIRS)という検査方法です。
 頭皮上から近赤外光を当てて、背外側前頭前野(dorsolateral prefrontal cortex;DLPFC)やその周辺の血液量の変化を測定し、うつ病かどうかを調べるのです。
 NIRSを用いることにより、「うつ病」と症状が似ている「双極性障害(そううつ病)」や「統合失調症」とを客観的に見分けられるようになってきており、誤診を防ぎ適切な治療につなげられると期待されています。うつ病と診断された患者の中に双極性障害の患者が41.4%も含まれていたという報告も紹介されました(Zimmermann P, Brückl T, Nocon A et al:Heterogeneity of DSM-IV major depressive disorder as a consequence of subthreshold bipolarity. Arch Gen Psychiatry Vol.66 1341-1352 2009)。この論文の抄録はウェブサイトにおいても閲覧可能です(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19996039)。番組においては、双極性障害の患者さんが抗うつ薬を服薬すると、気分の波が押し上げられ、危険な衝動に駆られることがあるという危険性も指摘されました。
 NIRSは、近赤外線の散乱光を用いて脳表面の血管の酸化・還元ヘモグロビン濃度を非侵襲的に計測することができ、空間分解能は2~3cmと低いものの、時間分解能は100msと他の脳血流評価法に比べて高く、神経活動による局所的な脳血流の変化を反映しているとされています(森田喜一郎、井上雅之、藤木 僚 他:認知症の早期発見と治療─精神生理学的検討. 臨牀と研究 Vol.89 1579-1583 2012)。
 NIRS検査は、精神科において2009年4月に「光トポグラフィー検査を用いたうつ症状の鑑別診断補助」として先進医療に承認され、2012年12月時点で全国19施設において実施されています(野田隆政:光トポグラフィによるうつ病診断. 医学のあゆみ Vol.244 425-431 2013)。
 NHKスペシャルにおいては、以下のような事例紹介もされました。
 吉岡明子さん(仮名)はある医療機関を受診した際に、「軽い認知症の疑いがある」と告げられ、さらに「治療法はないよ。認知症だから。」と説明を受け絶望的な気持ちになりました。しかしその後、NIRS検査を受けて「うつ病」という診断が下されます。正確な診断名がついたことで、吉岡さんはようやく自分自身の病気と正面から向き合えるようになっていきます。
 国立長寿医療研究センター内科総合診療部長の遠藤英俊先生は、近赤外光脳計測装置(http://www.an.shimadzu.co.jp/bio/nirs/nirs2.htm)を用いると頭皮から20mm程度の深さの大脳皮質の活動状態がリアルタイムにカラーマッピング表示されることを利用して、認知症患者が昔話をしたときの脳の活動状態を調べました。その結果、昔話をしているときは大脳皮質の活動状態が顕著に亢進したそうです。このような研究を通して遠藤英俊先生らは、オーダーメイドの認知症ケアの確立を目指しているそうです。

メモ5:うつ病におけるNIRSの臨床応用(http://www.h.u-tokyo.ac.jp/vcms_lf/kokoro2.jpg
 「うつ病では、①言語流暢性課題開始直後からoxy-Hb賦活反応が速やかであるが、②賦活反応量は小さく、③賦活反応の重心値は言語流暢性課題の前半にある。
 双極性障害では、①言語流暢性課題開始後oxy-Hb賦活反応は緩やかで、②oxy-Hb賦活反応量はうつ病より大きく、③賦活反応の重心値は言語流暢性課題の後半にある。
 統合失調症では、①言語流暢性課題中の賦活反応量は少なく、②言語流暢性課題終了後に非効率的な賦活反応(再上昇)を示す。
 これまで研究としてしか行えなかった精神疾患についてのNIRS検査が、先進医療という形で、診療として行えるようになった。厚生労働省によると、先進医療の実施施設は2013年3月1日時点では21施設、2010年7月から2011年6月の1年間に実施された件数は703件であった。」(朴 盛弘、石田寿人、兼子幸一:Depressionの光トポグラフィー. 神経内科 Vol.79 42-49 2013)
 なお、2009年度に「光トポグラフィー検査を用いたうつ症状の鑑別診断補助」として先進医療に承認されました近赤外線スペクトロスコピー(near-infrared spectroscopy;NIRS)は、2014年度から「抑うつ症状の鑑別診断補助」のための光トポグラフィー検査として保険適用になっております。「精神疾患の補助診断のための光トポグラフィー検査」では、測定のためのプローブを頭に装着し、指定した頭文字で始まる単語を1分間でなるべく多く言うことを求める課題(言語流暢性課題)を用いて前側頭部を測定することで、うつ病、双極性障害、統合失調症それぞれの前頭葉機能の特徴を捉えることができます。検査に要する時間や手間は脳波検査より少なく、説明や準備の時間を含めて20分程度で実施することができる(福田正人:光トポグラフィー検査を用いた精神疾患診断. 日本医師会雑誌 第143巻 1020-1021 2014)そうです。

 2012年2月12日に放送されましたNHKスペシャル「ここまで来た! うつ病治療」(http://www.nhk.or.jp/special/detail/2012/0212/)の番組冒頭で流れた「うつ病は心の病気ではない。れっきとした脳の病気だ!」というナレーションと類似した意味のフレーズが認知症に関する論文でも記載されております。それは、熊本大学医学部附属病院神経精神科の橋本衛先生が述べている「これまでは『妄想』や『異常行動』として漠然と解釈されてきた症状が、認知神経科学の範疇で説明できる可能性が示された。」という言葉です。
 橋本衛講師は、レビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies;DLB)におけるカプグラ症候群(メモ6参照)について、脳科学的観点から以下のように言及しております(橋本 衛:認知症における精神症状と認知機能障害の関連. 老年精神医学雑誌 Vol.22 1269-1276 2011)。
 「EllisとYoungの提唱した『相貌失認の鏡像』仮説を裏づける症例として、HirsteinとRamachandran(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1688258/)が症例を報告しており、カプグラ症候群が生じる機序について、側頭葉下面から扁桃体への情動的な視覚入力の離断を指摘した。すなわち、側頭葉が保たれているため両親の顔の認知できるが、その視覚的な情報が情動の中枢である扁桃体および辺縁系に伝わらないため、目の前にいる両親に対するなじみの感情が湧いてこず、『別人だ』という判断に至ると説明した。…(中略)…DLBでは、扁桃体の機能不全だけではなく、視覚認知障害やそれに伴う錯覚もあわさって情動喚起の異常を引き起こし、その結果、熟知相貌に対するなじみの感情が失われ、カプグラ症候群が引き起こされると説明される。」(一部改変)
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