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薬剤で誘発される認知症 [せん妄]

朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第54回『その他の認知症 薬剤で誘発される認知症(その1)』(2013年2月15日公開)
 薬剤誘発性認知症という用語を聞いて、驚かれるかも知れませんね。実は、投薬された薬によって、認知障害が引き起こされることは結構多くあります。ベンゾジアゼピン系の抗不安薬・睡眠薬、パーキンソン病の治療に用いられる抗コリン薬、抗ヒスタミン薬(=かぜ薬など)、抗潰瘍薬の一部(シメチジンなど)、ステロイド、抗うつ薬などは、薬剤誘発性の認知障害(薬剤性せん妄)の原因となり得ますので、これらの薬剤の投薬後には注意して経過を観察する必要があります。
 薬剤誘発性認知症の有病率に関して、金沢大学大学院医学系研究科脳老化・神経病態学(神経内科)の山田正仁教授らは次のように報告しております。
 「薬剤性の認知症の有病率はあまり報告がない。Larsonら(Larson EB et al:Adverse drug reactions associated with global cognitive impairment in elderly persons. Ann Intern Med Vol.107 169-173 1987)は、60歳以上の認知症と診断された外来患者308名のうち35名で薬剤性の認知症を認め、薬剤の中止で全員の認知機能の改善を確認したと報告した。しかし、薬剤が認知機能低下の単一の原因であったのはそのうちの29%で、それ以外はアルツハイマー病など他の原因の合併がみられた。」(篠原もえ子、山田正仁:薬剤による認知機能障害. BRAIN and NERVE Vol.64 1405-1410 2012)
 ベンゾジアゼピン系薬剤の服用が認知機能障害を引き起こす原因は以下のように説明されております。
 「ベンゾジアゼピン系薬剤は、辺縁系および大脳皮質のベンゾジアゼピン受容体と関連し、GABA受容体機能(メモ2参照)を亢進させて、これらの部位の神経過剰活動を抑制し、抗不安作用、催眠作用を発揮する。このGABA-ベンゾジアゼピン受容体は海馬を中心に分布しているが、ベンゾジアゼピン系薬により海馬の記憶機能が抑制されるために記憶障害が生じると考えられている。また、ベンゾジアゼピン系薬は抗コリン作用を有すると同時に、脂溶性薬剤であるため、高齢者では蓄積されやすく、作用が延長しやすい。ベンゾジアゼピン系薬の長期服用による認知機能障害として、空間視力障害、IQの低下、協同運動障害、言語性記憶および注意力の障害が報告されている。」(篠原もえ子、山田正仁:薬剤による認知機能障害. BRAIN and NERVE Vol.64 1405-1410 2012)

メモ2:GABA
 γ-アミノ酪酸(Gamma Amino Butyric Acid)を略して、GABA(ギャバ)と呼んでいます。GABAは主に脳や脊髄で「抑制性の神経伝達物質」として働いており、興奮を鎮めたり、リラックスをもたらしたりする役割を果たしています。

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 「GABAはアミノ酸の一種で、『γ-アミノ酪酸』の略称です。脳や脊髄に多く存在し、神経伝達物質として働いています。
 GABAはグルタミン酸から合成されますが、その作用は正反対です。グルタミン酸が神経細胞を興奮させるのに対し、GABAは神経の興奮を抑えます。両者がバランスよく働くことによって、精神が安定するのです。
 ストレスを感じたり、興奮すると、アドレナリンが盛んに分泌されますが、GABAはその分泌を抑え、心身をリラックスさせます。イライラや不安を軽減し、筋肉の緊張をゆるめ、睡眠の質をよくします。
 このような、精神安定、ストレス緩和作用が認められ、最近はGABA含有の食品が多く出回るようになりました。血圧を下げる働きもあるため、高血圧に有効として、トクホ(特定保健用食品)の認定も受けています。
 このほか、内臓の働きを活発にして基礎代謝を高める、コレステロールと中性脂肪を抑制するなどの作用もあり、肥満や糖尿病を防ぐ効果もあると期待されています。
 GABAは睡眠中、特に深い眠りに入ったときに生成されるので、不眠症の人はGABAが不足ぎみになります。そのため、ますます緊張がとれず眠れないという悪循環に陥りがちです。不眠ぎみの人は積極的にGABAをとるように心がけましょう。
 かつては、食品からGABAを摂取しても効果はないと考えられていましたが、最近の研究によって、口からとったGABAは血液脳関門を通過して、直接脳に作用することがわかりました。
 GABAは、発芽玄米、みそ、しょうゆ、キムチ、漬物、茶葉、ワインなどに多く含まれています。タンパク質の代謝を促進するビタミンB6とともにとると効果的です。」(安田和人:認知症 治った! 助かった! この方法 主婦の友インフォス情報社, 東京, 2013, pp156-157)

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 認知症とせん妄は異なる疾患ですが、症状が似ているため、病院では混同されることが多いようです。しかし原因が異なるので、区別が必要です。認知症高齢者が睡眠薬などを内服した場合、夜間にせん妄が合併することもあり、認知症によるBPSDとの鑑別が困難となることも多くみられます。認知症では主に記憶が障害され,せん妄では主に注意力が障害されます。
【編集/鈴木みずえ 著/鈴木みずえ:パーソン・センタードな視点から進める急性期病院で治療を受ける認知症高齢者のケア─入院時から退院後の地域連携まで 日本看護協会出版社, 東京, 2013, pp12-26】

 せん妄には、過活動型と低活動型があります。一般に、せん妄として臨床現場において問題視されるのは過活動型です。過活動型せん妄は軽い意識障害で、Japan Coma Scaleで1桁の場合をいいます。周囲の刺激に対して過度に敏感になるほか、前兆としては、そわそわしていつになく落ち着かない様子として見受けられます。看護師が「何となく変」と直感を働かせ、早期に発見されることもよくあります。ただし、意識レベルが少し深い水準に移行したJCSレベルで2桁の低活動型のせん妄は、「落ち着いた」と誤解され、見逃される危険性があります。
 せん妄の病態生理については、「過活動型せん妄では、脳幹網様体賦活系の機能低下による意識障害に加えて、大脳辺縁系などの機能亢進が起こっていると推測されている。低活動型せん妄では、脳幹網様体賦活系の機能低下による意識障害に加えて、より広範な大脳機能の低下が想定される」(和田 健:せん妄の臨床─リアルワールド・プラクティス 新興医学出版社, 東京, 2012, p32)といわれています。つまり、2種類のせん妄をJCSのレベルで考えると、過活動型せん妄はJCSレベル1~3で、低活動型せん妄はJCSレベル3~20と考えることができます。
 死亡率も、過活動型に比べて低活動型のほうが高く、予後も悪いとする報告も多いようです(加藤雅志:低活動型せん妄. 臨床精神医学 Vol.42 337-341 2013)。
【編集/鈴木みずえ 著/赤井信太郎:パーソン・センタードな視点から進める急性期病院で治療を受ける認知症高齢者のケア─入院時から退院後の地域連携まで 日本看護協会出版社, 東京, 2013, pp35-43】

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日本語版ニーチャム混乱/錯乱状態スケール(The Japanese version of the NEECHAM Confusion Scale;J-NCS)[図3]
 「混乱・錯乱状態の初期症状や低活動型のせん妄を把握するためのスケールであり、わが国で最も使用されている。観察とバイタルサイン測定時の10分程度で評価することができる。認知・情報処理3項目(注意力、指示反応性、見当識)、行動3項目(外観、動作、話し方)、生理学的コントロール4項目(生理学的測定値、生命機能の安定性、酸素飽和度の安定性、排尿機能のコントロール)から評価する。得点は最高30点から最低0点で、点数が低いほど重度であることを示す。」(編集/鈴木みずえ:パーソン・センタードな視点から進める急性期病院で治療を受ける認知症高齢者のケア─入院時から退院後の地域連携まで 日本看護協会出版社, 東京, 2013, pp71-82)

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 長浜赤十字病院の赤井信太郎看護師(認知症看護認定看護師)がゾルピデムによってせん妄が悪化したと考えられるケースについて詳しく報告しておりますので一部改変して以下にご紹介しましょう(編集/鈴木みずえ 著/赤井信太郎:パーソン・センタードな視点から進める急性期病院で治療を受ける認知症高齢者のケア─入院時から退院後の地域連携まで 日本看護協会出版社, 東京, 2013, pp101-112)。

 Cさんは80歳代の女性で、長男夫婦と同居しています。畑へ行った後に気分が悪くなった様子で、自宅でぐったりとしているところを仕事から帰ってきた家族に発見され、救急搬送で入院となりました。入院時に低ナトリウム血症(115mEq/L)と診断され、塩化カリウム(KCL)入りの持続点滴が開始されました。
 Cさんは、入院後に持続点滴を受けて徐々に意識レベルは改善しました。しかし、そわそわと落ち着かない様子で、壁に向かって言語不明瞭な独り言を話し、周囲の人の声に対して「え?」と過剰に反応していました。また、手に挿入されている点滴を見ると、首をかしげて触り、抜いてしまうなどの行動が見られるようになりました。
 さらに、夜間不眠で混乱し、家族の名前を大声で呼び始めたため、超短時間作用型睡眠導入剤のゾルピデム酒石酸塩錠(マイスリー[レジスタードトレードマーク])5mgを服用してもらいました。しかし、Cさんを落ち着かせる効果はなく、不穏となり、リスペリドン内服液0.5mgを追加で投与しました。
 翌日、日中の覚醒状況が悪くなり、昼夜逆転となって対応が困難となったため、認知症看護認定看護師に介入の依頼がありました。Cさんは、入院前より口内炎があり食事量も減っていたようで、入院後も食事はほとんど摂れず、介入依頼時、口腔内は乾燥し、舌全体に舌苔ができていました。また、点滴を何回も抜こうとするため、手には介護用抑制手袋が装着されていました。両手を何度も挙上し、何とか手袋を取ろうと興奮していました。
 家族はCさんの状況を見て、「前から少しずつぼけてきたと思ったのですが、こんなにぼけてしまうと、家では……。帰ってきてもらっても、とても……」と話されました。

メモ:睡眠薬服用によるせん妄の出現
 特にCさんの場合、普段は服用したことのない睡眠薬がせん妄を悪化させたと考えられます。ゾルピデム酒石酸塩は、GABAレセプター(受容体)に影響を及ぼすことでGABA系の抑制機構を増強する作用があります。つまり、ゾルピデム酒石酸塩の作用の1つには、興奮を抑え、穏やかに休む作用があるのです。
 しかし、警告として、服用後にもうろう状態、睡眠随伴症状(夢遊症状など)が現れることがあるとも記載されています。さらに高齢者の薬物動態では、図に示すように、血中濃度は健常人に比べて2.1倍、最高血中濃度到達時間は1.8倍延長、薬物血中濃度時間曲線下面積は5.1倍、半減期は2.2倍となり、肝機能障害の患者とほぼ同様という報告があります。Cさんのような高齢者は薬剤の効果発現が遅くなり、薬物血中濃度が上昇しやすいと記載されています。

 高齢者がせん妄状態になると、注意機能の低下を来します。Cさんが周囲の人の声に過剰に反応した状況は、覚醒度が下がったことで注意機能の持続性と集中性が低下し、転導性が亢進したためといえます。つまり、自分にとって意味のある情報を選択し、後は無視する機能が障害されるため、周囲に響く他者の声や雑踏の中で混乱や興奮を起こしやすい状態にあったということです。さらに、リスペリドン内服液の追加服用によって日中の覚醒度が下がり、夜間に不穏となる昼夜逆転の状況になったのではないかと考えられました。
 上記のせん妄発症の理由が、Cさんの状態が、一見、認知症症状が悪化したかのようにみえる原因と考えられました。このことは、第1章「せん妄と認知症」の項に掲載した図2-9(p39参照)に当てはめて考えることができます。
このような状況が長く続いてしまうと、過鎮静によるふらつきからの転倒や、身体状況の悪化の原因にもつながるため、避けなければなりません。

【結果1】
 Cさんは入院前より口内炎があり、食事摂取量が減っている状況でした。睡眠薬や向精神薬の服用によって過鎮静となり、さらに口腔内の乾燥は悪化していました。口腔内環境の改善をはかり、まず合併症予防を行いました(口腔ケア開始後3日で口腔内の乾燥はなくなり、舌苔と口臭もなくなりました。また、口腔ケア実施後のCさんの覚醒度は改善し、食事が少しずつ摂れるようになりました。
 脳地図における感覚野では、口腔や舌が占める割合は手指の次に大きくなっています。口腔ケアを行うことは、不顕性肺炎の予防や改善、意識レベルの改善、摂食嚥下における口腔内感覚の改善や唾液分泌の促進など、さまざまな効果が期待できます。Cさんの口腔内環境の改善は、脳の覚醒にも影響していくため、向精神薬の減量にもつながる重要なケアであると考えます。

【結果2】
 Cさんは、不眠の改善のために睡眠薬と向精神薬を服用していましたが、かえって昼夜逆転と過鎮静を招いてしまいました。そのため、薬剤以外の方法で日内リズムを整える工夫を行いました。徐々に日中の覚醒状況はよくなり、会話も成立するようになりましたが、夜間の不眠は続いたため、日中のベッドからの離床のほかに、せん妄対策ラウンドに相談をかけました。
 当院のせん妄対策ラウンドは、2011年より行っています。精神科医、薬剤師、認知症看護認定看護師、作業療法士が毎週金曜日の午後1時間を使って、病棟スタッフより依頼のあった患者をラウンドし、対策をいっしょに考え、アドバイスを行います。
 主治医が、ラウンド担当の精神科医がアドバイスしたラメルテオン錠と抑肝散に処方を変更した結果、Cさんは夜間もよく休めるようになりました。J-NCSは28点で、せん妄状態は改善しました。せん妄改善後に改訂長谷川式認知症スクリーニングテスト(HDS-R)を行ったところ、19点(日にち:-2点、場所:-1点、引き算:-1点、逆唱:-1点、遅延再生:-3点、5つの品:-2点、流暢性:-1点)でした。

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せん妄の(正しい)薬物療法:下記pdfファイルのp39-44
 http://www.okayama-kanwa.jp/study/pdf/pdf42.pdf
 コンパクトによくまとまっていますね。

<内服可能で興奮を伴う場合>ベッド柵を乗り越え徘徊・易怒的で暴力行為出現
◎ リスペリドン(リスパダール)(錠剤・液剤0.5mg~3mg)
・パーキンソニズムは比較的少なく、抗幻覚妄想効果>鎮静効果。
・液剤は嚥下困難な患者でもOK。また、拒否傾向強い患者には水に混入して勧められるという利点もあり、また即効性も期待できる(立ち上がりが早い)。
・腎機能障害患者には使用に注意。

◎ クエチアピン(セロクエル)(25mg~150mg)
・パーキンソニズムが非常に少なく、適度な鎮静効果あり。また用量に幅があるため使いやすい。ただし糖尿病には禁忌。

○ ハロペリドール(セレネース)(0.5mg~3mg)
・パーキンソニズムは比較的出やすく、抗幻覚妄想効果>鎮静効果。
・エビデンス充分あるが、現在の臨床場面ではfirst choice(第一選択薬)ではない。

△ レボメプロマジン(ヒルナミン)/クロルプロマジン(コントミン)(5mg~75mg)
・血圧低下・過鎮静に注意が必要だが、確実にsedation(鎮静)はかかる。

チアプリド(グラマリール) (25mg~50mg)
 ・唯一せん妄に対し保険適応のある薬剤。現在の臨床場面ではあまり使われない
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