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認知症とうつ病の鑑別 運転免許証に係る認知症の診断の届出ガイドライン [認知症]

「メンタルクリニックにおける医師と患者」 「認知症外来における医師対患者」

 実は、認知症と非常に鑑別が難しい疾患として「うつ病」が挙げられております。
 アルツハイマー病でしたら進行性疾患ですので、経過をみていけば確実に両者の鑑別はつきます。しかし、若年認知症で血管性認知症(主として脳梗塞が原因となる)の場合には、認知症なのかうつ病なのか鑑別診断において苦慮するケースがしばしばあります。
 メンタルクリニックの治療成績の向上には、医師と患者との人間関係の構築が重要な鍵を握ると私は考えております。しかし、認知症外来におきましてはその医師&患者関係において時に患者さんを“突き放す”ような説明をしなければならない場面が出てきます。運転免許証返納に関わる問題の時ですね。
 認知症の代表的な疾患であるアルツハイマー病の患者さんは、初期を過ぎてきますと病識がなくなってきます。自分では大丈夫と思っている方が医師から、「認知症と判断されますので運転は不可となります」といった説明を受けますと、自覚がないご本人にとっては“なんで俺が! なんで私が!”という気持ちになって医師から突き放されたような気持ちになってしまうのです。
 今週もそのようなケースの方が週の後半に来院される予定です。本人に病識がなく車の運転を続けているそうです。
 車の運転中止に関しては「わが国における運転免許証に係る認知症等の診断の届出ガイドライン」に沿って検討すれば良いわけです。しかし、問題はそこに留まりません。本人が運転できなくなっても、これまでのように生活が継続できるよう支援体制を構築することがご家族&社会には求められるのです。その構築が不可であるのならば、「免許を失うのを恐れ、かかりつけ医に認知症と診断しないよう懇願するようなケースもある(【参考になる資料─6】)参照」という問題が生じてしまい、場合によっては医療機関に受診することを拒むような事例も出てくるのです。

【参考になる資料─1】
2013.2.12公開「ひょっとして認知症?」
《51》その他の認知症 仮性認知症
 認知症に似た状態を示すものの、可逆性であるものが仮性認知症です。仮性認知症の多くは、うつ病が原因です。うつ病において抑うつ気分が目立たずに思考制止が前面に現れると、患者さんは頭の働きが悪くなったと感じ物忘れを訴えます。仮性認知症では、アルツハイマー病と違い、物忘れを強く訴え悩むことが多いです。

 アルツハイマー病の初期には脳萎縮が確認されないことも多く、アルツハイマー病によるアパシー(自発性の低下・無関心)なのかうつ病なのか、脳の断層撮影(CT・MRI)だけでは判断しかねることがあります。
 うつ病性仮性認知症においては、見当識が保たれ、抗うつ薬に反応するなどの所見から、アルツハイマー病と鑑別されます。
 また、脳血流検査の1つであるSPECT(スペクト)検査により、両者を鑑別できる場合もあります。
 アルツハイマー病では、帯状回後部や楔前部などといった脳の後方領域が最初に血流低下を起こしてきます(重症化に伴って前頭葉にも血流低下が拡がります)。一方うつ病の場合にも、病相期においては、前頭葉などで血流低下が認められることがあります。アルツハイマー病とうつ病では、血流が低下する領域が異なりますので、診断に際して参考所見となります。
 なお、うつ病においては、症状が改善してくると、脳血流の低下部位が目立たなくなってくることも知られています。

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 NIRS検査は、精神科において2009年4月に「光トポグラフィー検査を用いたうつ症状の鑑別診断補助」として先進医療に承認され、2012年12月時点で全国19施設において実施されています(野田隆政:光トポグラフィによるうつ病診断. 医学のあゆみ Vol.244 425-431 2013)。

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 「うつ」と「アパシー」と「認知症」の違いが分かりやすくまとめられている文献がありますのでご紹介しましょう(小黒浩明、山口修平:うつ・アパシーと認知障害の診分け方. Modern Physician Vol.33 73-77 2013)。
 文献の表1を抜粋して以下にご紹介します。
 http://akasama.blog.so-net.ne.jp/2016-01-24

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 「うつ病の診断では、抑うつ気分や意欲・気力の低下に加え、物事に対する興味・関心を失い何をやっても楽しめないという症状、自責感・罪責感の存在が重要である。また、このようなうつ症状は、朝方ないしは午前中の状態が最も悪く、午後になると少しは軽くなるという状態の変動(日内変動)が存在することも少なくない。
 ところで、非専門医は、無気力(アパシー)、自発性・発動性の低下をうつ病の指標として重視する傾向にある。たとえば、低活動型せん妄をうつ病と見誤ることが多い。参考までに、低活動型せん妄の症状をあげれば、①注意力低下、②清明度の低下、③発語の減少ないしは遅滞、④傾眠、⑤動作緩慢、⑥凝視、⑦アパシーなどである。うつ病の診断では、外見上の動きの少なさよりも内的な心情(停滞と苦悩)への着目が大切である。
 さらにうつ病には、前述した精神症状に加えて、多彩な身体症状、自律神経症状を伴う。身体症状のなかでは、不眠・食欲不振(時に過眠、過食)、易疲労性、全身倦怠感、頭重感などがその頻度から重要である。うつ病における身体症状は、非特異的な症状ではあるが、診断的な意義は高く、身体的な愁訴が続くが、それに見合う客観的な所見が伴わない場合、うつ病を疑うべきとされる理由である。」(白川 治:うつ状態. 日本医師会雑誌・生涯教育シリーズ85 神経・精神疾患診療マニュアル Vol.142・特別号(2) S117-119 2013)

 「低活動型せん妄ではうつ病との鑑別が問題となるが、うつ病では基本的に記憶・見当識障害はみられないことに注目する。脳波検査にて、せん妄では基礎律動徐波化があるのに対し、うつ病では脳波は正常である。」(安野史彦:せん妄. 日本医師会雑誌・生涯教育シリーズ85 神経・精神疾患診療マニュアル Vol.142・特別号(2) S122-123 2013)

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 脳萎縮を認めることはうつ病を除外診断する根拠とはなりませんのでその点には留意が必要です。以下にそのことについて言及している論文をご紹介します。
 「非老年期の大うつ病性障害の患者では、健常者と比較して大脳基底核、視床、海馬、前頭葉、眼窩前頭葉、直回で有意な体積の減少がみられたというメタ解析の結果が報告されている(Kempton MJ, Salvador Z, Munafo MR et al:Structural neuroimaging studies in major depressive disorder; Meta-analysis and comparison with bipolar disorder. Arch Gen Psychiatry Vol.68 675-690 2011)。とくに海馬の萎縮については、うつ病では視床下部─下垂体─副腎系(HPA axis)の機能異常により、コルチゾールが慢性的に過剰分泌され、その神経毒性の結果、体積が減少するものと推測されている。
 老年期のうつ病においても、前部帯状回・前頭前皮質・線条体・海馬など、前頭葉・辺緑系・皮質下の部位での体積減少が報告されている。(一部改変)」(高野晴成、三村 將、須原哲也:老年期うつ病の画像診断. 老年精神医学雑誌 Vol.24 1171-1178 2013)

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 「また、自発性の低下や意欲の減退などから、うつ病と混同されやすいのが、いわゆるアパシーである。両者の鑑別を困難にしているのは、共通してみられる症状として、活動性の低下、活気のなさ、精神運動の緩慢さ、易疲労感、興味の喪失などがあり、まさしくうつ病の精神運動制止にみられる症状と重なるためである。しかしながら、うつ病では、抑うつ・不快感、絶望感、自責感、希死念慮などといった感情面の症状が認められるのに対して、アパシーでは、周囲への無関心・無頓着を示し、活動性の低下を苦しまない様子が特徴的である。即ち、高齢者のうつ病とアパシーの鑑別としては、自発性の低下と感情の平板化の有無、そして本人の精神的苦痛の有無が挙げられる。アパシーは認知症など脳器質性疾患に伴う神経精神症状の1つであり、器質性か非器質性かを考える上でもアパシーとうつ病との鑑別は重要である。

経過・予後
 最近は、うつ病と認知症との関連が注目されている。両者の関係を考える際に、まず鍵になるのは仮性認知症の概念である。以前から、認知機能障害が前景に立ち抑うつ症状が目立たない高齢者のうつ病は「仮性認知症(pseudo dementia)」と呼ばれ注目されてきた。従来、仮性認知症は抑うつ症状の改善後は認知機能も元通りに回復すると考えられてきたが、近年の縦断研究により、その一部は認知機能の低下が再発したり、あるいはそのまま認知症に移行したりするということが報告されるようになった。仮性認知症を呈した症例の追跡調査によれば、1年で3%、2年で12%、3年で57%、8年で89%と、経過が長くなるに従って認知症へ移行する割合が高くなることが報告されている(新井平伊、馬場 元:うつ病か? 認知症か? 臨床精神薬理 Vol.12 2240-2243 2009)。最近では、軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment:MCI)や認知症を引き起こす神経病理的状態が抑うつ症状をも引き起こし、高齢者のうつ病-MCI-認知症は臨床的には連続体であるとする意見もみられる。
 一方で、これまでもとくにアルツハイマー型認知症(AD)では繰り返し検討されてきた課題ではあるが、初期のADに抑うつが高頻度に共存することが知られており、うつ病がADの独立したリスクファクターなのか、あるいは前駆状態なのかを検討することは困難であった。しかし、最近のメタ解析によると、うつ病と診断されてからAD発症までの期間は、AD発症のリスクと正の相関があり、うつ病はADの前兆ではなく、うつ病の既往が後のADの発症に影響することが明らかになった(Ownby RL, Crocco E, Acevedo A et al:Depression and risk for Alzheimer disease; Systematic review, meta-analysis, and metaregression analysis. Arch Gen Psychiatry Vol.63 530-538 2006)。25年以上前のうつ病の既往でも、AD発症のリスクが1.71倍になるとする報告もある。」(西 良知、藤瀬 昇、池田 学:高齢者のうつ病. 臨牀と研究 Vol.91 639-642 2014)

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 2014年5月30日に開催されました第3回Mie AD Symposiumに、朝田隆教授(筑波大学臨床医学系精神医学)、羽生春夫教授(東京医科大学病院老年病科)が講師として来られました。
 その際に私は、朝田隆教授に以下の質問を致しました。
 「25年以上前のうつ病の既往でも、AD発症のリスクが1.71倍(Green RC, Cupples LA, Kurz A et al:Depression as a risk factor for Alzheimer disease. The MIRAGE study. Arch Neurol Vol.60 753-759 2003)になるとする報告もある」(西 良知、藤瀬 昇、池田 学:高齢者のうつ病. 臨牀と研究 Vol.91 639-642 2014)ことが指摘されております。
 しかしながら、この「1.71倍」という数字と新井教授の報告(仮性認知症を呈した症例の追跡調査によれば、1年で3%、2年で12%、3年で57%、8年で89%と、経過が長くなるに従って認知症へ移行する割合が高くなることが報告されている=新井平伊、馬場 元:うつ病か? 認知症か? 臨床精神薬理 Vol.12 2240-2243 2009)にはあまりにも大きな乖離があります。
 ということは、「うつ病」と「仮性認知症」の神経基盤には相当大きな違いがあるはずです。その点に関して朝田教授はどのような見解をお持ちでしょうか?

朝田隆教授回答:
 先生の指摘のように、脆弱な神経基盤がありますと認知症に移行しやすいのではないかと思われます。
 具体的には、既に報告されておりますように、「前部帯状回・前頭前皮質・線条体・海馬など(高野晴成、三村 將、須原哲也:老年期うつ病の画像診断. 老年精神医学雑誌 Vol.24 1171-1178 2013)」の脆弱性が認知症発症に関与しているのかも知れませんね。

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 2014年5月30日に開催されました第3回Mie AD Symposiumに、朝田隆教授(筑波大学臨床医学系精神医学)が講師として来津されました。

 朝田隆教授はご講演の中で、「アルツハイマー病患者さんの精神症状で多く認められるのは実は、アパシーではありません。 不安 > アパシー > 抑うつ の順です。」と指摘されました。

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 認知症臨床における第一人者のひとりである八千代病院(愛知県安城市)神経内科部長の川畑信也医師は、もの忘れ外来における問診票から見た「物忘れ(記憶障害)」、「自発性の低下・意欲の減退」、「易怒性、妄想、幻覚」それぞれの出現頻度を、健常者とアルツハイマー型認知症(AD)で比較しており、「家で何もしない , じ~っとしていることが多くなった」という症状は、健常者(n=168)では23.8%であったが、アルツハイマー型認知症患者(n=718)においては59.6%であり有意差があったと報告しております。
 なお、「これらの症状の一部は、健常者とアルツハイマー型認知症で出現頻度に有意差がみられており、アルツハイマー型認知症でより認められやすいものであることが分かりますが絶対的な鑑別の切り札にはなりません。」と指摘されております。

【参考になる資料─2】
◎平成26年6月1日改正道路交通法施行
 http://www.pref.nagano.lg.jp/police/menkyo/etc/kaisei140601.html

一定の病気等に関する質問制度、虚偽記載の場合の罰則を新設
 公安委員会は運転免許を取得しようとする方や免許を更新される方などに対して、病気の症状に関する必要な質問ができるようになります。

一定の病気等に係る質問について
 回答は、申請時に交付する「質問票」で、以下の質問にあてはまるかどうかを「はい」か「いいえ」を選択していただきます。

医師による任意の届出制度の新設
 一定の病気等に該当する免許保有者を診断した医師は、任意で診断結果を公安委員会に届け出ることができるようになります。

免許の効力暫定停止制度の新設
 交通事故を起こし、又は医師の判断で一定の病気等に該当すると疑われる方について、免許の効力を3ヵ月を超えない範囲で停止することができるようになります。一定の病気等に該当しないことが明らかになった場合は処分が解除されます。

一定の病気を理由に免許を取り消された後、3年以内に再取得する際の試験の一部免除制度の新設
 一定の病気に該当することを理由に免許を取り消された場合、免許を取り消された日から3年以内に病状が回復し、免許を再取得することができる状態になった場合には、技能試験及び学科試験が免除されます。

◎認知症の運転、公安委員会届出の指針を発表─関連5学会が方針を示す
 日本神経学会は2014年6月24日、「わが国における運転免許証に係る認知症等の診断の届出ガイドライン」とそのQ&A集を発表した。6月14日に公布された改正道路交通法で、運転免許を持つ認知症患者について、医師が公安委員会に任意で届け出られる制度が新設されたことを受け、対応を示したもの。日本神経治療学会、日本認知症学会、日本老年医学会、日本老年精神医学会と合同で作成した。
 指針では、認知症と診断した患者が自動車運転をしていると分かった場合、まず患者や家族、介護者に自動車運転の中止と免許証の返納を説明し、診療録に記載する。公安委員会への届け出をする際には、事前に患者や家族の同意を得て、写しを渡す。また、家族や介護者から患者の運転を止めさせる相談を受けたら、本人の同意を得るのが難しい場合でも、医師が状況を総合的に勘案し、届け出るかどうかを判断すると定めている。
 Q&A集では、「届け出前の本人や家族の同意は必須か」という質問に対し、「必須ではないが、できるだけ同意を得る」と回答。患者の多くは病識がなく同意を得るのが難しいが、家族や介護者の同意はなるべく得るようにと説明している。

※運転免許証に係る認知症の診断の届出ガイドライン
 http://dementia.umin.jp/GL_2014.pdf
※運転免許証に係る認知症の診断の届出ガイドライン Q&A, 2014.6.1
 http://dementia.umin.jp/GL_QA_140601.pdf

【参考になる資料─3】
2013.8.31公開「ひょっとして認知症?」
《244》注目される自動車運転の問題─悩ましい一人暮らしの運転する患者
 さ~て、ここで悩ましい問題となってくるのは、一人暮らしの認知症患者さんの自動車運転に関わる問題です。例えば、介護に携わるスタッフから以下のような相談を受けたことがあります。
 「80歳代後半の認知症患者さん(要介護認定を受けている)が自損事故を起こし、車は大破し廃車となった。ちょくちょく自損事故を繰り返していたのでこの機会に運転をやめてもらおうと運転免許の自主返納を勧めた。しかし、本人には自主返納をする気はなく、また、自損事故であり『基準行為』に該当するわけでもなく、結局、すぐに新しく車を購入してしまった。家族はおらず、成年後見制度も申請していない。本人に車の運転を断念させるにはどうすればよいでしょうか?」
 おそらく、こうした認知症ドライバーの自損事故は表に数字となって出てこないだけで、実際には随分と多いのだろうと私は思っております。しかもご家族がいない方の場合には、自動車運転の危険性について早い段階で気づくことが困難ですので、自損事故を何度も繰り返して初めて周囲が心配する状況になりますね。
 こういったケースにおいては、医療機関において認知症と診断され治療を受けているのであれば、担当医師からきちんと運転不可であることをご本人に説明してもらうことが肝要となります。
 あるいは、本人の同意が得られれば(「後見」においては同意は不要)、成年後見制度の申し立てをすることも可能です。詳しくはウェブサイト(http://www.seinen-kouken.cc/pages/faq.htm)の質問18をご参照下さいね。

【参考になる資料─4】
2013.9.1公開「ひょっとして認知症?」
《245》注目される自動車運転の問題─「運転は生きがい」の高齢者に与えるべきもの
 「認知症高齢者の自動車運転を考える家族介護者のための支援マニュアル(荒井由美子医師監修)」(http://www.ncgg.go.jp/department/dgp/index-dgp-j.htmよりダウンロード可能)において紹介されているBさんの事例紹介では、医師からの運転中止勧告に対して、「運転は生きがい。運転できないなら死んだ方がいい」と頑なに運転中止を拒否するシーンがあります。
 荒井由美子医師は、「自動車の運転は、単なる移動手段ではなく、『生きがい』であると回答した割合が、高齢者層において、有意に高いことが示された」と述べています(水野洋子、荒井由美子:認知症高齢者の自動車運転を考える家族介護者のための「介護者支援マニュアル」の概要及び社会支援の現況. Geriatric Medicine Vol.50 159-163 2012)。
 どうしても自動車の運転がやめられない認知症の人では、いったん施設に入所することによりうまく解決した事例もあるようです(本間 昭、六角僚子:認知症介護─介護困難症状別ベストケア50 小学館, 東京, 2007, pp60-61)。
 「運転は生きがい」と感じている高齢者の方に対しては、自動車の代わりとなるような移動手段を検討することが重要な課題となりますね。
 国立障害者リハビリテーション研究所福祉機器開発部(http://www.rehab.go.jp/ri/kaihatsu/papero_html/index.html)の井上剛伸氏は、ハンドル形電動三輪車の安定性の問題(転倒事故)に言及し、おそらく、これからの高齢者の自動車に替わる移動手段の第一候補は「パーソナルモビリティー」になるのではないかと述べています(井上剛伸:自動車に替わる移動手段の現状と展望. Geriatric Medicine Vol.50 171-174 2012)。そして、「パーソナルモビリティー」は、自動車の替わりに乗るもので、特に障害のあるなしにかかわらず利用される乗り物であり、その実例としてはトヨタ自動車株式会社が開発を進めているi-REAL(http://www.toyota.co.jp/jpn/tech/personal_mobility/i-real.html)があると述べています。i-REALはホイールベースが変化し、狭い場所での移動と屋外などでの高速移動に対応可能であり実用化が期待されている状況です。

【参考になる資料─5】
2013.9.2公開「ひょっとして認知症?」
《246》注目される自動車運転の問題─買い物弱者対策も重要です
 「運転能力を向上させるようなトレーニング方法は今のところ存在しない」(飯島 節:認知症患者に自動車運転リハビリテーションは有効でしょうか? Geriatric Medicine Vol.50 183-185 2012)のが現状ですので、やはり、自動車運転中止後に移動・外出を支援する体制作りが最も重要な課題となります。
 その支援する体制作りの根底をなす考え方は、「支え合う」ということではないでしょうか。「支え合い」を実践している自治体の取り組みをご紹介し、本稿を閉じたいと思います。
 経済産業省によれば、「買い物弱者(買い物難民)」は約600万人程度と推計されております。
 「買い物弱者(買い物難民)応援マニュアル(第2版)」(http://www.meti.go.jp/press/2011/05/20110530002/20110530002.pdf)には、買い物弱者問題を解決する4つの新事例が紹介されております。
① 身近な場所に「店を作ろう」
 やまとフレンドリーショップ(山梨県甲府市)
② 家まで「商品を届けよう」
1)まごころ宅急便(岩手県:西和賀町社会福祉協議会)
 社会福祉協議会、地元スーパー、宅配業者の協力により生まれたサービス。
 利用者からの電話注文を社会福祉協議会が受注、地元スーパーに発注し、ヤマト運輸が配達・代引きを行う。
2)宅配スーパー事業(エブリデイ・ドット・コム)
 九州の過疎地で21年に渡り宅配スーパーを直営。プッシュフォンを使って低コストでの注文受付を可能にしている。
③ 家から「出かけやすくしよう」
 デマンドバス(北杜市:東京大学):行政と大学の支援により誕生したバスサービス。バスが乗客の希望する時間・場所に合わせて運行。柔軟なルート設定が可能。

 奈良県の葛城市においては、タブレット端末を利用してネットスーパーに注文する買い物支援の試みも始められていることが報道されましたね(http://apital.asahi.com/article/news/2013062600006.html)。
 私の住む三重県でも幾つかの取り組みが始まっております。
 その代表は、いがまち地区の「お買物無料送迎バス」(http://www.pref.mie.lg.jp/TOPICS/2011120198.htm)です。マックスバリュの経費および三重県の地域支え合い体制づくり事業の補助金もあって実現しているようです。
 「財源」の問題は、極めて大きな課題であると思います。しかし、少子高齢化により今後も買い物弱者(買い物難民)は増加の一途を辿ると思われます。迅速に買い物支援対策に取り組まなければ、認知症高齢者による自動車運転の問題解決は望めないと思われます。

【参考になる資料─6】
 「約8149万人の運転免許保有者のうち、65歳以上は12年末で約1421万人。前年から102万人増えた。ただ、検査で判断力や記憶力が低いと評価されても、『取得した免許は権利であり、すぐに免許の取り消しや停止にはならない』(警察庁幹部)。
 75歳以上で判断力が低いと評価された人は、更新前の1年間か更新後に一時停止などの違反があると医師の診察を受ける必要があり、認知症と診断されれば免許取り消しや停止となる。
 だが診断を経て取り消しや停止となったのは12年で106人。家族らからの相談も含め認知症を理由に取り消しなどになった人は計501人だった。
 各地の警察では今、運転に不安を感じる高齢者らに免許証の自主返納を促すことに力を入れる。返納後に受け取ることができる『運転経歴証明書』が身分証明書として幅広く使えるようになり、全国の自主返納件数は12年、11万7613件と前年の1.6倍に増えた。
 だが、特に地方では、買い物や病院通いなど、車は生活に欠かせない面がある。当事者には深刻な問題だ。免許を失うのを恐れ、かかりつけ医に認知症と診断しないよう懇願するようなケースもあるという。
 『バス運賃を無料にする』(愛知県知立市)など、自主返納者の自立した暮らしを支援する自治体は増えているが、公共バスが自宅に迎えに来てくれるわけではない。サービスはまだ限定的だ。」(読売新聞「認知症」取材班:認知症 明日へのヒント─800万人時代を共に生きる 中央公論新社, 東京, 2014, pp70-71)
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