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終末期胃瘻「飢え死には残酷」と葛藤も [胃ろう]

終末期胃瘻「飢え死には残酷」と葛藤も
キャプチャ.JPG
 m3で今、話題のスレッドです。
 https://jdoctors.m3.com/group/97/thread/827/message/4582


実名臨床道場/胃ろう(2014/07/09 ~ 2014/07/22)
 https://jdoctors.m3.com/group/82

テーマ1:胃ろうは“延命”と拒否するご家族に対してどう説明するか?
 https://jdoctors.m3.com/group/82/thread/411/message/1977

テーマ2:アルツハイマー型認知症患者への“告知問題”も含めた胃ろう造設
 https://jdoctors.m3.com/group/82/thread/412/message/1978

テーマ3:延命措置としての胃ろうと栄養管理目的の胃ろう
 https://jdoctors.m3.com/group/82/thread/413/message/1979


胃瘻抜去術 [胃ろう]

朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第429回『胃瘻について―平成26年度診療報酬改定』(2014年3月10日公開)
 平成26年3月5日に開催されました「平成26年度診療報酬改定説明会」資料(http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000039381.pdf)が厚生労働省のウェブサイトにおいて公開されております。

 いきなり話が脇道に逸れますが、先週の木曜日(3月6日)に私が担当しておりました患者さんの病状が悪化しました。特別な思いを抱く患者さんでしたので、急遽私は病院に駆けつけました。駆けつけた私の姿を見て当直事務をしておりました若手のNさんが「笠間先生、平成26年度診療報酬改定の胃瘻に関わる部分読まれましたか?」と声を掛けてきました。もう既に知っていることだろうなぁ…と思いつつ資料に目を通しました。しかし、資料には非常に大きな改定内容が記載されておりました。
 冒頭にて紹介しました資料のp133-135に胃瘻に関わる改定内容が記載されております。4月からいったい何が変更されるのでしょうか。

 資料の内容について私見を述べる前に、まずは胃瘻を巡る諸問題について復習しましょう。
 まずは酒井健司先生が本年3月3日に書かれました「診療報酬改定の思惑」をお読み下さい。Facebookコメント欄において私見を述べておりますが、私が一番強く主張したいのは、「胃ろうはすべて悪であると思うな」(http://akasama.blog.so-net.ne.jp/2016-01-26-4)という視点です。
 次にシリーズ第278回「難しい早期診断と告知─胃ろうに関わる本末転倒」を読み返してみましょう。
 以下に重要な部分を抜粋(一部改変)して再掲いたします。
 「高山義浩先生は、『直観の濫用としての“胃ろう不要論”』において、『私は胃ろう推進論者ではありませんが、胃ろうを選択した方々が後ろめたさを感じることがないよう配慮したいと思っています。寝たきりでも、発語不能でも、それで尊厳がないと誰が言えるでしょうか? コミュニケーションできることは“生命の要件”ではありません。胃ろうを受けながら穏やかに眠り続けている…。そんな温室植物のように静謐な命があってもよいと私は思うのです。』と述べておられます。
 シリーズ第131回『終末期への対応─「胃ろうはすべて悪である」と思うな』において、『胃ろうは嫌だけど、経鼻経管栄養なら構わない』という全くもって不可思議な意向を述べる家族が多くなってきているという現状をご紹介しました。
 長尾和宏先生も2013年8月3日発行の日本医事新報において同様の指摘をされております。
 『この1年間で、老衰や認知症終末期の方への胃ろう造設は明らかに減っている。しかし、経鼻栄養や中心静脈栄養(IVH)は、むしろ増加し、人工的水分栄養補給(AHN)の総数としては決して減っていない。先日、テレビの某人気報道番組を観ていて腰を抜かした。高齢者への胃ろう造設に大反対されている先生の施設の様子が映されていたが、その施設にはたしかに胃ろうの方はいなくても、鼻から管を入れている患者が何人かおられたのだ。
 “これでは本末転倒だ!”と思った。経鼻チューブの苦痛があるからこそ、またIVHは非生理的で管理が大変だからこそ、便利な胃ろうに変わり普及したわけだ。しかしこの2~3年のマスコミ報道が正しく伝わらず、人工栄養法が逆行、退行しているのだ。』(長尾和宏:シリーズ「平穏死」③─水分、人工栄養補給を巡る混乱への対応. 日本医事新報No.4658 28-29 2013)」

 日本静脈経腸栄養学会もこの問題(=本来、PEGの適応である症例に対してPEGが実施できなくなっている)を「由々しき問題」として捉えており、ガイドラインには以下のように記述されております。
【PART-Ⅰ・Q6:経腸栄養のアクセスはどのように選択するの?─PEGをめぐる議論と評価】
 「現在、経皮内視鏡的胃瘻造設術(Percutaneous Endoscopic Gastrostomy;PEG)の適応に関する議論が行われている。栄養状態が維持・改善できても、ADLやQOLの改善効果が期待できない超高齢者、遷延性意識障害、末期の認知症に対するPEGは、単なる延命治療でしかないという考え方がある。この考え方に基づいてPEGは施行すべきでない、という意見が強くなっていることは否定できないが、このような症例に対するPEGの適応については社会的な議論が必要である。このPEGに対する否定的な考え方のために『本来、PEGの適応である症例に対してPEGが実施できなくなっている』状況の方が重大である。PEGを用いた経腸栄養の適応である症例に対し、経鼻胃カテーテルを用いた経腸栄養が実施されることが多くなっている、あるいはポートを用いたTPN施行症例が増加している、という、栄養管理法の選択上、間違った状況が出現していることは由々しき問題である。
 考え方の基本は、栄養管理そのものの適応について正しい判断を下すことで、栄養療法実施経路としてPEGが適応であるのなら積極的にPEGを実施するべきである。
 超高齢者や遷延性意識障害、あるいは高度の認知症であっても、栄養療法の適応であると判断された場合には、PEGが最適な栄養投与経路であることが多い。現在、栄養療法の適応とPEGの適応とが混同して議論されているが、これらは分けて考えるべきであり、したがって、これらの症例においても、栄養療法という観点から適応と判断されたら、積極的にPEGを実施することを推奨する。
 また、PEGを造設したからといって、経口摂取を諦めるのではなく、嚥下機能評価や嚥下訓練を実施し、経口摂取への移行、あるいは併用を試みるべきであることを強調したい。」(日本静脈経腸栄養学会編集:静脈経腸栄養ガイドライン─第3版 照林社, 東京, 2013, p18)

 患者さんや家族の方とお話をしていて、「胃瘻=延命」と思い込んでおられる方が多いことには本当に驚かされます。そしてその結果として、「経鼻経管栄養」が増えてしまっていることがごく最近の悪しき傾向なのです。
 経鼻経管栄養を継続するためには「身体拘束」が必要となるケースも多く、「身体拘束ゼロ」(http://www.wam.go.jp/wamappl/bb05kaig.nsf/0/1a06bd1862325ece49256a08001e5e43?OpenDocument)とは相反する結果となってしまいます。
 「胃瘻造設術、胃瘻造設時嚥下機能評価加算」(資料p133)を読みますと、「胃瘻造設の必要性、管理方法、閉鎖の条件等を患者・家族に説明」することを求めております。
 しかし、患者さんや家族への説明はそれだけで十分なのでしょうか? 胃瘻に関してだけ説明し、他の選択肢のデメリットが医師より説明されないため、安易に「経鼻経管栄養」、「完全静脈栄養(高カロリー輸液)」が選択されてしまうという問題について私は何度も警鐘を鳴らしてきました(http://akasama.blog.so-net.ne.jp/2016-01-26-3)。
 以下に記載しますのは、私からの提案です。
 患者さんおよび家族に説明する際には、次の「1」「2」についてもきちんと説明することを義務づけていただきたいと思います。
「1」 経鼻経管栄養の問題点:
 患者さんにとっては不快感を伴いますので管を自己抜去するリスクが高く、自己抜去を防止するためには身体拘束が必要となります。
「2」 完全静脈栄養(Total Parenteral Nutrition;TPN)の問題点:
 敗血症のリスクが高いため、長期間に及ぶ栄養管理手段としては不向きです。

 少々専門的な記述にはなりますが、「2」の静脈栄養に関して補足しておきます。
 「経腸栄養が禁忌で、静脈栄養の絶対適応とされるのは、汎発性腹膜炎、腸閉塞、難治性嘔吐、麻痺性イレウス、難治性下痢、活動性の消化管出血などに限定される。」(日本静脈経腸栄養学会編集:静脈経腸栄養ガイドライン─第3版 照林社, 東京, 2013, p15)
 「4週間以上の長期にわたる経腸栄養を施行する場合はPEGの適応であり、PEGを選択することを推奨する。」(同上, p17)

 患者さんが「自己決定」に基づいて自らの治療方針を決めるためには、以上述べてきましたようなメリット及びデメリットがきちんと医師より説明されることが不可欠の条件となります。
 ごく最近私は、アルツハイマー病やレビー小体型認知症で通院中の患者さんを対象として、終末期になったときに自身が受けたい医療についてアンケート調査を実施しております。その最新結果については、私が管理するウェブサイトにおいて公開しておりますのでご参照下さい。3月5日までに14名の意向調査を終えております。
 今後は、今回実施しました意向調査の結果を治療方針に反映させ、本人が望む医療が実現できるよう取り組んでいきたいと考えております。

【追伸】
 胃瘻に関わる平成26年度の診療報酬改定において、私が驚いた項目がもう1つあります。それは「胃瘻抜去術」(2,000点)という新設の技術料です。冒頭にてご紹介しました資料のp134に記載されております。
 「抜去術」と漢字で書きますと難しそうな技術に思えるかも知れませんが、管の種類によっては引き抜くだけのとても簡単な操作であり1分も要しません。
 このような技術に対してなぜ2,000点(2万円)もの高い点数が評価されるようになったのかは私には理解しかねます。
 おそらく、狙いは「経済誘導」なんでしょうね。。。

胃瘻抜去術2,000点
 平成26年3月5日に開催されました「平成26年度診療報酬改定説明会」資料(http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000039381.pdf)が厚生労働省のウェブサイトに公開されおり、そのpdfファイルのp134に記載されております。

 最初にこの「胃瘻抜去術」という文字を見たときには、私は信じられない気持ちでした。
 そうまでして、本気で「PEG抑制」に取り組みだしたということですね。

P.S.
 この「胃瘻抜去術―2,000点」の新設で私がもっとも懸念することは、誤嚥の心配が残っている状況であるにも関わらず、「本人のQOLのために、一度経口摂取に挑戦してみましょう」と医師から誘導的な説明を受けて、じっくりと(慎重に)試行錯誤せずに胃瘻を抜いてしまうという状況です。
 そして、やはり食べられませんでしたので、もう一度胃瘻を造設しますという“事の顛末”です。
 胃瘻抜去術(2,000点)プラス胃瘻造設術(6,070点)という二度おいしい丸儲けを医療機関ができ、しかも患者さんは内視鏡を飲まないといけないという身体侵襲を受ける悪夢が容易に想像されてしまうわけです!

 こんな診療報酬おかしいと思いませんか?! 今からでも遅くないので、こんな胃瘻抜去術(2,000点)の新設(創設)なんて撤回すべきです!!
 あるいは短期間に胃瘻を再造設した場合には、胃瘻抜去術(2,000点)の算定は取り消すという付記事項が必要なのでは…と私は思います。

バルーン型胃瘻カテーテルを用いた経皮的胃瘻造設術後について正しいのはどれか。 [胃ろう]

PEG解答.JPG◆第109回医師国試問題◆
バルーン型胃瘻カテーテルを用いた経皮的胃瘻造設術後について正しいのはどれか。
出典「医学評論社」
 http://www.m3.com/quiz/doctor/pc/answer.html?ids=61650


A1年に1回カテーテルを交換する
Bカテーテルを強く引いて腹壁に固定する
C濃度30%の酢酸液をカテーテルに毎回注入する
Dバルーンには生理食塩液を注入する
E留置中の不快感が経鼻胃管よりも少ない

「胃瘻などの経管栄養を行っても約1年で死に至ることが多い」は本当か? [胃ろう]

アルツハイマー型認知症の“末期”とは
 東京ふれあい医療生協梶原診療所在宅サポートセンター長の平原佐斗司医師は、アルツハイマー型認知症「末期の診断」に関して以下のように述べております。
 「嚥下反射は重度に入ると少しずつ低下しはじめますが、最終的には嚥下反射が消失します。この嚥下反射の消失を客観的方法で確認することで、末期の診断がなされます。末期と診断され、まったく経口摂取ができなくなってから、何もしなければ1~2週間、末梢輸液や皮下輸液だけを行うと2~3か月、胃瘻などの経管栄養を行っても約1年で死に至ることが多いと考えられています。」(平原佐斗司編著:認知症ステージアプローチ入門─早期診断、BPSDの対応から緩和ケアまで 中央法規, 東京, 2013, pp15-16)



「胃瘻などの経管栄養を行っても約1年で死に至ることが多い」は本当か?

FAST7:非常に高度の認知機能低下(高度のアルツハイマー病)
 7a:最大限約6語に限定された言語
 7b:理解し得る語彙はただ1つの単語となる
 7c:歩行能力の喪失
 7d:着座能力の喪失
 7e:笑う能力の喪失
 7f:昏迷および昏睡

 通常の経過であれば、FAST7c(歩行能力が失われる)の後で7dに至り、やがて「嚥下」が困難な状態となっていきます。
 一般的には、FASTステージ7f がアルツハイマー病(AD)末期の定義とされています(Reisberg B, Ferris SH, Anand R et al:Functional staging of dementia of the Alzheimer's type. Ann N Y Acad Sci Vol.435 481-483 1984)。

 榊原白鳳病院の私が担当する病棟で、終末期の状態に入って経鼻経管栄養を導入してから既に5年以上経過しているアルツハイマー病患者さんについて簡単にご紹介しましょう。

 2002年、患者さんは69歳の時に、とある有名病院にてアルツハイマー病と診断されました。
 一人暮らしが徐々に困難となり、2004年津市に在住する娘さんと同居するようになりました。その時から私が診療を担当しております。
 やがて、在宅介護が徐々に困難となり、施設に入所されました。熱心な介護施設でしたので、嚥下障害を起こしてからも懸命に経口摂取を続けてくれました。しかしそれもやがて限界を迎えます。
 FASTのステージ7e(笑う能力の喪失)の状況に陥ってしばらく経過したころ肺炎を併発され、2010年4月に榊原白鳳病院に入院となりました(当時77歳)。
 そして、ご家族と充分に話し合いを重ねた結果、経鼻経管栄養を導入することになりました。
 その頃の体重は36.0kg(BMI:18.1)、血清アルブミン値は2.8g/dlでした。
 ここで栄養指標についてちょっと復習しておきましょうね。栄養指標に関しては、「ひょっとして認知症? Part1─高齢者のその近未来を考える(第489~496回)」において詳しくお話しましたね(http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/hyottoshite489-496.pdf)。そのなかで、近未来の低栄養を予測するMini Nutritional Assessment-Short Form(MNA-SF)という指標についてもご紹介しました。MNA-SFにおいては、BMIが19未満は最も低いレベルの評価となります(高齢者の栄養スクリーニングツール─MNAガイドブック 医歯薬出版発行, 雨海照祥監修 編集/葛谷雅文、吉田貞夫、宮澤 靖, 東京, 2011, p23)。血清アルブミン値3g/dl以下も予後不良因子の一つです(同書, p28)。
 38×30mmの褥瘡(床ずれ)も生じました。しかし、経鼻経管栄養(1200kcal/日)を継続したところ、2010年12月に褥瘡は治癒しました。その時点での栄養状態は、体重42.1kg(BMI:21.2)、血清アルブミン値は3.4g/dlまで回復しておりました。
 FASTステージ7f(昏迷および昏睡)の状態がずっと続いておりますが、娘さんは以前と変わらずしばしば病棟に来られており、お母様の様子を看て行かれます。


P.S.
 2016.2.1よりプロバイダーの変更に伴い、「http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/hyottoshite489-496.pdf」の閲覧は不可になると思います。
 以下に、「ひょっとして認知症? Part1─高齢者のその近未来を考える(第489~496回)」を再掲してご紹介致します。


第489回 高齢者のその近未来を考える(その1) 低栄養を早く見つけろ!
 シリーズ第179回『超高齢化社会に突入』(https://aspara.asahi.com/blog/hyottoshite/entry/azToI4jAQs)のコメント欄にて、第5回日本静脈経腸栄養学会東海支部学術集会のランチョンセミナーにおいて、武庫川女子大学生活環境学部食物栄養学科の雨海照祥教授が『急性期疾患・高齢者の近未来予想ツールとしてのMNA-SF』というタイトルでご講演をされ、そしてその講演において私が、「近未来の低栄養を予測するMNA-SFという指標は、認知症においてまとまったデータがありますか?」と質問したことをご紹介しました。
 雨海照祥教授の回答は、またいずれこのブログでご紹介させて頂きますと述べておりますので、その際の回答も含めましてMNA-SFに関してご紹介したいと思います。
 Mini Nutritional Assessment-Short Form(MNA short-form)という指標では、低栄養の重症度が点数別に階層化されています。第3世代のMNA-SF版においては、最高は14点で、12~14点は「栄養状態良好」、7~11点が「At risk」、6点以下は「低栄養」と評価されます(高齢者の栄養スクリーニングツール─MNAガイドブック 医歯薬出版発行, 雨海照祥監修 編集/葛谷雅文、吉田貞夫、宮澤靖, 東京, 2011, p49)。
 MNA-SFはネット上でも閲覧可能ですが(http://www.mna-elderly.com/forms/mini/mna_mini_japanese.pdf)、こちらは7点以下が「低栄養状態」とされております。
 「At risk」とは聞き慣れない言葉ですね。At risk 群とは、いまは低栄養ではないが、何らかの栄養介入が行われないと、1000日の間に50%の確率で低栄養になる群のことを指すそうです(高齢者の栄養スクリーニングツール─MNAガイドブック 医歯薬出版発行, 雨海照祥監修 編集/葛谷雅文、吉田貞夫、宮澤靖, 東京, 2011, pp47-60)。
 すなわち、At risk 群の抽出によって、低栄養の発生頻度が高い高齢者を抽出できます。そしてMNA-SFの評価を例えば1~2週間ごとに繰り返すことによって、低栄養(症候群)を早期に発見することができますので、高齢者の近未来予想ツールとして有用ではないかと考えられているのです。
 北中城若松病院の吉田貞夫医師は、「MNAは高齢者のために開発された栄養アセスメントツールとして、認知症やうつ状態の有無についての質問項目が設けられている。これは、他の栄養アセスメントツールには含まれていない独特なもので、MNAの大きな特長の一つとされている。」と述べています。そして、「Kaganskyらによれば、低栄養と判定された高齢者の3年後の死亡率は、およそ80%とかなり高率である」というデータを紹介しています(高齢者の栄養スクリーニングツール─MNAガイドブック 医歯薬出版発行, 雨海照祥監修 編集/葛谷雅文、吉田貞夫、宮澤靖, 東京, 2011, p78-87、pp103-107)。
 また、うつ状態と低栄養との関係について吉田貞夫医師は、「うつ状態は、高齢者の食欲低下、意欲低下、活動性の減退の原因となり、低栄養の一因となる。60歳以上の高齢者の約15%はうつ状態にあり、約5%はうつ病と診断されるともいわれており、その罹患率はきわめて高い。持続する身体的な痛みや、『困ったときに相談できる人がいない』『病気で寝ているときに世話をしてくれる人がいない』といった社会的支援に対する不安が、うつ病発症のリスクを上昇させているとする研究者もいる。」ことを指摘しています(高齢者の栄養スクリーニングツール─MNAガイドブック 医歯薬出版発行, 雨海照祥監修 編集/葛谷雅文、吉田貞夫、宮澤靖, 東京, 2011, pp83-84)。


笠間先生、コメントありがとうございました。
投稿者:きらきら星 投稿日時:12/08/07 09:01

 駐輪場を忘れる件は大丈夫とのことで、安心しました。
 注意力散漫には自信があります!(笑)

 本日のブログは、低栄養。うつ病も怖いです。
 社会的不安のない世の中にしてほしいですね。


引用、ありがとうございます。(^0^)
投稿者:泡盛マイスター 投稿日時:12/09/08 16:52
 笠間先生、引用いただき、誠にありがとうございます。
 今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

追伸:私事ですが、下記に転勤いたしました。
 沖縄リハビリテーションセンター病院 吉田 貞夫


Re:引用、ありがとうございます。(^0^)
投稿者:笠間 睦 投稿日時:12/09/08 17:28
吉田貞夫先生
 現所属先の記載をせずに申し訳ございません。

 先程、沖縄リハビリテーションセンター病院のHP(http://www.tapic-reha.or.jp/)にアクセスし診療科案内にて先生のお名前を確認致しました。
 失礼致しました。

 今後も有益な研究発表をお続け下さい。
 コメントありがとうございました。

P.S
 昨日、今日と立て続けに、別のご家族から、「延命は望みませんので、経管栄養を中止して下さい」、「今度点滴が漏れたらもう施行してもらわなくても構いません」という意向が看護師を通じて私の耳に入ってきました。
 日本老年医学会の発表した「立場」改定の影響が徐々に現場に出てきているような印象を受けております。
 低栄養を早期に発見して治療に結びつけようとする日本経腸栄養学会の立場からすると、上記のようなご家族からの意見はなかなか受け容れがたいものですよね。





第490回 高齢者のその近未来を考える(その2) 低栄養をみつける指標
 MNAは18項目の評価からなる指標ですが、MNA-SFは6項目です。この点に関して阪和第一泉北病院の美濃良夫副院長は、MNA-SFのスコアとMNAのスコアには有意な相関が認められることを紹介し、「MNA-SFは、MNAのスクリーニングとしてだけではなく、慢性期病院における高齢者に対してMNAの代用のアセスメントツールとしても有用と考えられる。またMNAやMNA-SFは血液検査値を評価項目に含んでいないため、入院時においても聞き取りと簡単な測定だけで行うことができるうえ、即座に評価結果を得ることができる。」とその有用性を高く評価しています(高齢者の栄養スクリーニングツール─MNAガイドブック 医歯薬出版発行, 雨海照祥監修 編集/葛谷雅文、吉田貞夫、宮澤靖, 東京, 2011, pp113-119)。
 MNA-SFの6項目とは、「過去3カ月間の経口摂取量の減少」「過去3カ月間の体重減少」「移動性」「過去3カ月間の精神的ストレス・急性疾患」「神経・精神的問題」「BMI」です。
 名古屋大学大学院医学系研究科健康社会医学専攻発育・加齢医学講座(地域在宅医療学・老年科学分野)の葛谷雅文教授は、「体重測定が不可能であるとBMIの値が出ず、MNAは完成できない。その点MNAのshort formであるMNA-SFはBMIが測定できないときにふくらはぎの周囲長(calf circumference;CC)を代用することができる」と述べMNA-SFの有用性を指摘しています(高齢者の栄養スクリーニングツール─MNAガイドブック 医歯薬出版発行, 雨海照祥監修 編集/葛谷雅文、吉田貞夫、宮澤靖, 東京, 2011, pp120-122)。
 ふくらはぎの周囲長(CC)に関しては、31cm以上あれば良好ですが31cm未満であれば点数評価されません。なお、MNA-SFにおけるCCは専用のメジャーテープで計測することとなっており、他の巻尺で代用することはできません。





第491回 高齢者のその近未来を考える(その3) 認知症患者さんの近未来予想
 私は、雨海照祥教授の講演を聴いて、認知症患者さんの近未来予想ツールとしても活用できるのか?という点に強い関心を抱いたのです。
 それで、「近未来の低栄養を予測するMNA-SFという指標を用いて、認知症患者さんだけを対象として近未来を評価した調査研究がありますか?」と質問したのです。
 雨海照祥教授は、「認知症患者さんだけを対象とした大規模な報告を私は読んだ記憶がありません」と回答されました。
 私が第5回日本静脈経腸栄養学会東海支部学術集会(2011.9.3、名古屋)において症例提示したアルツハイマー病患者さん(70歳代後半、発症9年目)も、MNA-SFで評価すると最低点の0点でした。その患者さんは、FAST stage7e(最初に身につける「微笑む能力」を喪失した状態)で「失外套症候群」(シリーズ第52回メモ参照)の状態でしたが、経管栄養を導入し栄養状態を改善すると、半年間で体重は約6kg増加し褥瘡も治癒しました。
 やはり認知症患者さんの近未来予想は困難であるのが現状なのかも知れませんね。
 雨海照祥教授は、「認知症患者さんだけを対象とした大規模な検討は大きな課題ですね。」と私見を述べられておりました。

 At risk 群を早期に発見し栄養介入を行うことは素晴らしい試みだと思います。ただ、ふと立ち止まって考えたくもなります。
 シリーズ第180回『認知症の最大のリスクは?』(https://aspara.asahi.com/blog/hyottoshite/entry/vinsKjHwNf)において、「認知症の有病率」に関してご紹介しましたね。認知症の有病率は、人口の急速な高齢化に伴い年々増加の一途を辿っています。
 シリーズ第302回(https://aspara.asahi.com/blog/hyottoshite/entry/I8zar41F6P)において、アルツハイマー病の増加予測について紹介しましたね。もう少し違った視点からこの増加予測を見てみましょう。
 「Alzheimer's Disease Internationalの研究グループは、1980~2004年に出版された世界の認知症疫学調査をレビューしてメタ解析を行い全世界の認知症人口推計値を算出した。その結果を要約すると、2001年における全世界の60歳以上人口6億1,620万人のうち2,430万人が認知症に罹患しており、その60%は発展途上国に在住している。さらに、認知症人口は20年ごとに倍増し、2040年には全世界で8,100万人となる。発展途上国在住者の割合は2040年時点で71%にも増加するとされる。」(朝田 隆:認知症はどのくらい増えているのか─認知症の疫学. 内科 Vol.109 753-756 2012)
 認知症問題は、高齢化が進む日本だけの問題ではなく、全世界的な問題として捉える必要があるわけです。





第492回 高齢者のその近未来を考える(その4) 食べられなくなる前に考えよう
 従来の日本の医療現場においては、いよいよ食べられなくなった時になって初めて、「さあ今後どうしていくのか?」という葛藤が始まることが多かったと思います。そして、胃瘻からの栄養補給が普及する以前の日本においては、「もう十分に介護してきましたので、あとは末梢からの点滴で経過をみて下さい」という意向を表明されるご家族が多かったと思います。
 認知症の終末期にどういった治療を選択するのかを問うた医師の意向調査でも、「末梢点滴継続、自然の経過へ」という回答が51%と半数以上を占めておりました(シリーズ第166回参照)。
 私が実施した認知症介護者の意向調査(調査期間:2011年7月25日~8月30日)の結果を思い出してください。
 食べられなくなったらどういった処置を望みますか?(選択回答):
1)すべて差し控えて、自然な最期を希望する
2)末梢からの点滴による補液を受けて看取りたい
3)経鼻経管栄養を希望する(経鼻経管栄養とは、鼻から柔らかな細いチューブを胃まで通して、そこから栄養材を注入する方法です。チューブの挿入はベッドサイドで可能で、特別な手術などは必要ありません)
4)胃瘻造設も検討したい(胃瘻造設とは、内視鏡手術などにより胃に小さな注入孔をつくる処置で、そこから栄養材を注入します)

 アンケート調査の結果は、シリーズ第172回『介護者にアンケート実施!』(https://aspara.asahi.com/blog/hyottoshite/entry/xjDPlngqih)のコメント欄においてご紹介しましたね。
1)すべて差し控えて、自然な最期を希望する   :5名
2)末梢からの点滴による補液を受けて看取りたい :11名
3)経鼻経管栄養を希望する           :4名
4)胃瘻造設も検討したい            :8名

 すなわち、28名の介護者のうち11名が「末梢点滴」を選択しているのです。
 しかし、実際に食べられなくなってからの場合と、「近未来予想」としての対応では異なることが想定されます。
 すなわち、「近い将来、栄養状態の悪化が予測されます。今の段階で栄養介入すれば、栄養状態の回復が期待されます。どうされますか?」と説明を受ければ、「食べられなくなるまで待って、末梢からの点滴を希望します」とはなかなか返事しにくいのではないでしょうか。
 雨海照祥教授との対談において、名古屋大学大学院医学系研究科健康社会医学専攻発育・加齢医学講座(地域在宅医療学・老年科学分野)の葛谷雅文教授は、低栄養状態をMNA-SFにより評価できても、介入による治療効果が期待できるのかという課題が残ると指摘しています(対談・高齢者における栄養ケアの重要性. 臨床栄養 Vol.119 738-749 2011)。葛谷雅文教授のコメントを一部改変して以下にご紹介します。
 「スクリーニングで抽出できても、フォローアップに使えないようでは困るわけです。スクリーニングの結果、低栄養と判定された場合、介入することによってMNA-SFのスコアがどれだけ改善するか、十分な感度があるかどうかということも、今後きちんと検証していく必要があると思います。」


いよいよサッカー女子決勝
投稿者:笠間 睦 投稿日時:12/08/09 11:52
 いよいよ明日の早朝(3:45開始)なでしこが決勝戦に臨みます。私が今大会で最も楽しみにしていた試合の一つです。
 W杯の時も米国チームは群を抜いて強かったのですが、今大会はラピノー選手が先発メンバーに加わりさらに攻撃の厚みが増しており、ワンバック&モーガン&ラピノーを擁する攻撃布陣は強力です。奇跡を期待して早起きしたいと思います。
 レスリングの小原日登美選手の活躍には泣いてしまいました。前評判では、吉田沙保里選手&伊調馨選手の陰に隠れて目立ちませんでしたが、TV放送を観ていてこれまで背負ってきた悲運を初めて知りました。今朝の朝日新聞も社会面で「うつ病倒し 日は登る」という見出しで大きく報道していますね。
 あと残り4日間のロンドン五輪を楽しみたいと思います。


小原選手、「金」おめでとう!!
投稿者:きらきら星 投稿日時:12/08/10 13:47
 家族が支えてくれたから、本人も頑張り、今日がありましたね。
 浜口選手も残念だったけど、よく頑張りました。
 吉田選手の「金」も、まぶしい。
 なでしこは、1点返して、堂々と「銀」金のように良い、ですよね。
 あの返した1点は、未来につながると思います。素敵な戦い方でした。アメリカは本当に強い。なでしこも、なでしこの強さがある。
 接戦だから、負けることもあるし、勝つこともありますよね。
 バレーボール、男子サッカー、ともに、相手は韓国。
 ガンバレ~!!


Re:小原選手、「金」おめでとう!!
投稿者:笠間 睦 投稿日時:12/08/10 15:15
きらきら星さんへ
 今朝は3時に起きて観戦しました。
 フィジカルの差が出てしまいましたね。
 なでしこもW杯の時のようなパス回しができなかったですし・・。
 でも澤選手も悔いがないようですし、よく頑張ったと思います。

 バレーは韓国女子は強いですよね。
 サッカーはチャンス有りと思っています。





第493回 高齢者のその近未来を考える(その5) 健康で長生きする秘密について
 雨海照祥教授は、健康寿命に関しても言及しております(対談・高齢者における栄養ケアの重要性. 臨床栄養 Vol.119 738-749 2011)。一部改変して以下にご紹介します。
 「2010年のWHOの発表によれば、日本人の女性の平均寿命は86歳に達している一方、ケアや介護をまったく必要とせずに自立した生活を送ることのできる年齢、すなわち『健康寿命』は76歳ということです。したがってこの2つの数字を単純に計算すれば、高齢者の人生の最後の10年間はなんらかの介護・支援を必要としていることになります。介護を必要とする人生最後の数年の生活に栄養の問題が関わっており、MNA-SFによって同定された低栄養あるいはAt riskの高齢者に対し、適切な栄養介入を施行することにより高齢者の健康寿命を半年でも1年でも延ばすことができれば、多くの高齢者がまた幸せになる。」

 2012年6月19日付朝日新聞も生活面記事において「健康寿命」に関して報道しています。記事によると、「一生のうち、生活に支障なく過ごせる期間の平均を示す『健康寿命』は、2010年で男性は70.42歳、女性で73.62歳。平均寿命(男性:79.64歳、女性:86.39歳)との差から求めた『不健康な期間』は、男性が9.22年、女性は12.77年で、9年前のデータと比べると、平均寿命は約1年半延びたのに対し、健康寿命の延びは約1年にとどまった」(一部改変)と報告されています。
 2012年7月15日発行の朝日新聞GLOBEにおいては、アンチエイジング(抗老長寿)が特集されており、久しぶりに「サーチュイン」という文字を目にしました。サーチュインに関しては、シリーズ『不老長寿は夢じゃない』(第109~114回)にて詳しくご紹介しましたね。
 2012年7月15日発行の朝日新聞GLOBEの紙面から、私の印象に残った記載を以下にご紹介しましょう。
 ボストン近郊に住む百寿者のジュゼッペ・ピーロさん(102歳)は、「健康で長生きする秘密は、『幸せでいることと、長生きの両親に恵まれることさ』と笑う。それから『毎日7、8時間寝て規則正しく起きること』。昔はジョギングが趣味で、一日で40キロも走ったこともあった。『だって、酒もたばこもやらないし、女も追いかけ回さない。それくらいしかやることがないだろう』」と話しています。
 百寿者研究の第一人者で100人計画(百寿者の中でも105歳以上の100人の全遺伝情報を調べる壮大な計画)への助言もしている米ボストン大学准教授のトーマス・パルスによると、「105歳の壁を越える人は、2万人に1人。114歳を超えた男性と女性2人の全遺伝情報(ゲノム)解析から、長寿の人には、アルツハイマー病や糖尿病など加齢に伴っておきる病気から身を守る遺伝子が存在することを推定した。病気の発病を出来るだけ人生の後のほうに遅らせるよう機能している」(一部改変)そうです。


健康で長生き
投稿者:豊ココ 投稿日時:12/08/19 19:23
 必須アミノ酸をキチンと取ること。
 お腹がすいてから食事をする事。サーチュイン遺伝子がオンに成る。
 物作りする事、編み物(連続モチーフ編み)と、野菜作りをしてます(幸福感を感じられるようになる)。
 体をよく動かすこと。日本人の優秀なミトコンドリアが働き60兆の細胞が正常に働きます。


Re:健康で長生き
投稿者:笠間 睦 投稿日時:12/08/20 06:02
豊ココさんへ
 物作りに限らず、「目標」「生きがい」を持って楽しく生きていくということは素晴らしいことですよね。
 これらの延長線上に、認知症予防効果も少しは期待できますし・・。





第494回 高齢者のその近未来を考える(その6) 「死ぬならがんがいい」と中村仁一さん
 ジュゼッペ・ピーロさん(102歳)の「健康で長生きする秘密は、幸せでいること」という談話を読んで思い浮かんだ本がありました。その本とは、2012年1月末発行にも関わらず2012年6月には発行部数50万部に到達したとして話題になっている『大往生したけりゃ医療とかかわるな』という本です。この本の著者は、社会福祉法人老人ホーム同和園附属診療所(京都市伏見区)の中村仁一所長です。
 中村仁一医師は著書の中で次のように語っています(一部改変)。
 「『今や、日本人の2人に1人が癌に罹り、3人に1人が癌で亡くなる』とよくいわれます。しかし、あの表現は正しいにしても、脅し文句です。がんは老化ですから、高齢化が進めば進むほど、がんで死ぬ人間が増えるのはあたりまえです。超高齢社会では、全員ががんで死んでも、不思議ではありません。
 と、名もない、どこの馬の骨かわからない、片足を棺桶に突っ込んだような田舎の老人ホームの医者が、いくら声高に叫んでも、ほとんど相手にはしてくれません。
 しかし、世間の新聞やテレビに対する信用は、絶大です。
 そこで、近頃は、悪乗りして講演先では、新聞の切り抜き(2011年4月5日の京都新聞朝刊の『認知度低い 免疫のがん退治』)を利用するようにしています。
 その内容は、『健康人の身体の中でも、毎日約5000個の細胞ががん化している。しかし、それを免疫細胞が退治してくれているから助かっている。日本能率協会総合研究所が、インターネットで、男女各1000人に調査したところ、免疫のこういう重要な役割を知らない人が7割もいた』とのことです。
 がんは身体の中に発生した、命令に服さず勝手に増殖する異分子です。したがって、これを敵と認識して攻撃してやっつけるのは、自然のしくみです。ところが、このしくみは、年齢とともに衰えます。したがって、年寄りにがんが増えるのは当然のことなのです」(中村仁一:大往生したけりゃ医療とかかわるな─「自然死」のすすめ 幻冬舎, 東京, 2012, pp103-104)
 「がんでさえも、何の手出しもしなければ全く痛まず、穏やかに死んでいきます。以前から『死ぬのはがんに限る』と思っていましたが、年寄りのがんの自然死、60~70例を経験した今は、確信に変わりました。
 繁殖を終えた年寄りには、『がん死』が一番のお勧めです。ただし、『手遅れの幸せ』を満喫するためには、『がん検診』や『人間ドック』などは受けてはいけません。」(同書p6)
 「なぜ、死ぬのはがんがよいかについては、2つの理由があります。
 1つは、周囲に死にゆく姿を見せるのが、生まれた人間の最後の務めと考えているからです。しかも、じわじわ弱りますから、がんは最適なのです。現在、圧倒的に多い、その過程の見えない病院死は、非常にもったいない死です。死にゆく姿を見せたくないというポックリ死希望者に至っては、ケチの極みといってもよいと思います。
 2つ目は、『救急車は呼ばない、乗らない、入院しない』をモットーにしていますので、比較的最後まで意識清明で意思表示可能ながんは、願ってもないものだからです。
 がん死は、死刑囚である私たちに、近未来の確実な執行日を約束してくれます。そのため、きちんと身辺整理ができ、お世話になった人たちにちゃんとお礼やお別れがいえる、得がたい死に方だと思います。
 しかし日本人には、がん死はあまり歓迎されません。がんイコール強烈に痛むと連想されるからです。
 けれども、すべてのがんが強烈に痛むわけではありません。さんざん癌を痛めつけても、痛むのは7割程度といわれています。つまり、裏を返せば、3人に1人は痛まないわけです。」(同書pp96-97)
 「救急車で病院へ運ばれたりすると、死ぬのを引き延ばされて、その間『地獄の責苦』を味わうこととなるでしょう。また、駆けつけた往診医が妙な手出しをすると、せっかく穏やかに死ねるチャンスを逸することになります。
 慌てず、見守りましょう。看取り期に入れば、通常とは異なる状態がいろいろ見られます。往診医や訪問看護師を呼びましょう。医者は何かしようとするかもしれませんから、呼ぶのは息を引き取ってからにしましょう。一見苦しそうに見えても、本人は苦痛を感じない状況になっていますから心配はいりません。」(中村仁一:大往生したけりゃ医療とかかわるな─「自然死」のすすめ 幻冬舎, 東京, 2012, p93)
 このように、著書『大往生したけりゃ医療とかかわるな』にはちょっと過激な文面が並びますがまったく的外れな考え方でもないかなと思われましたのでご紹介しました。


自宅死と施設死
投稿者:笠間 睦 投稿日時:12/08/11 10:50
 金城学院学院長・大学学長(&淀川キリスト教病院名誉ホスピス長)である柏木哲夫先生が書かれた著書に、「自宅死」と「施設死」の割合の変遷が記載されておりますのでご紹介しましょう(柏木哲夫:「死にざま」こそ人生 朝日新書, 東京, 2011, pp86-87)。
 「2005年に日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団が行った調査では、余命が限られているならば自宅で最期を迎えたいと答えた人が、調査対象者の80.1%を占めた。しかし、『自宅で過ごしたいが、実現は難しいと思う』と回答した人が61.5%おり、多くの人は、実際には自宅では過ごせないと考えていることが分かった。
 昔、人々は自宅で死を迎えていた。1953年の統計によると自宅死は88%、病院を含む施設死は12%であった。その後、施設死(おもに病院死)が次第に増え、1977年には施設死が自宅死を上回り、2003年には自宅死12%、施設死88%となり、50年の間に自宅死と施設死の割合が逆転した。
 1981年以来、がんはずっと日本人の死因の第1位であり、年間34万人が、がんで死亡する。そのうち、自宅で亡くなる人は約5パーセントのみである。人々が自宅で最期を迎えることができるようにするには、どうすればいいのかを真剣に考える必要がある。」(一部改変)


死後の世界
投稿者:笠間 睦 投稿日時:12/08/11 10:50
 柏木哲夫先生が書かれた著書に、もう一つ大変興味深いデータが紹介されています。「死後の世界」を信じる人の割合に関する数字です(柏木哲夫:「死にざま」こそ人生 朝日新書, 東京, 2011, pp114-115)。
 「日本人は、どんな『あの世観』を持っているのだろうか。それは時代の流れとともに変化するのだろうか。20年前に約5000人の一般の人々を対象にあの世観を調査したことがある。『死後の世界はあると思いますか』という問いに対して『はい』と答えた人が32.4%、『いいえ』が23.9%、『分からない』が43.7%であった。2000年の電通総研の調査によると、それぞれ31.6%、30.5%、37.9%となる。
 この数字をどう解釈するかは難しい。死後の世界の存在を信じている人が30%もいるのかと思う人もあれば、30%しかいないのかと思う人もあるであろう。ただはっきりしているのは、『分からない』と答えた人の比率が高いということである。これは世界一なのである。ちなみにアメリカ人の場合、『はい』は77%、『分からない』は7%である。」(一部改変)

 因みに私は、少数派の「いいえ」です。
 でも、お墓参りに行き拝みます。そして、「感謝」の気持ちを伝えてきます。

 お勧めの著書です! 著作権の関係でこれ以上は書きませんが、ある患者さんが柏木哲夫医師に言った「先生、お世話になっています。おかげさまで順調に弱っております」(柏木哲夫:「死にざま」こそ人生 朝日新書, 東京, 2011, p135)など読みどころ満載の本だと思います。


<繁殖を終えた年寄り
投稿者:梨木 投稿日時:12/08/11 13:58
 ベストセラーの本の内容ご紹介、有難うございました。
 石飛先生のご本は読みましたし、地元とあって講演会にも行きましたが、中村先生の本はまだ読んでいませんでした。ホント過激ですね。 
 すぐ頭に浮かんだのは「この年寄りって何歳から?」と言う疑問。おおむね賛成しつつも、いつものことながら救命と延命のどちらの状況なの?に悩みます。

 「死後の世界はあるか」についての調査データでは、20年経って『分からない』が減り『いいえ』が増えた数字(%)がほぼ同じ事に、どんな社会状況が影響したのか強い関心を持ちました。
 回答者は違った方達だったでしょうが、20年前と同じ方達だったら(実際には不可能)その変化にも興味を覚えます。


Re:<繁殖を終えた年寄り
投稿者:笠間 睦 投稿日時:12/08/11 16:38
梨木さんへ

> ホント過激ですね。
 「繁殖を終えた年寄り」という表現が何か気に障りますよね。私も同感です。

 長尾和宏先生は過日ブログにおいて、「先日、朝日新聞関係者が主催された中村仁一先生のご講演を拝聴しました。…(中略)…もの凄いことをサラッと言われる。」と評していましたね。

 私は著書の全体を読んで、「もう少し『言い方』ってもんがあるんじゃないの」と感じる箇所が沢山ありましたが、これも中村流なんだろうな・・と思っています。

P.S
 「100歳の美しい脳」は9月12日頃に公開開始予定です。


日本人の宗教観
投稿者:ミーたん 投稿日時:12/08/12 02:19
 東日本大震災を経験して、死を身近に現実的な問題として捉える土壌が日本にも拡がって来ているように感じます。真面目に生死を語ったり人生を語ったりする事が恥ずかしいような、見て見ぬふりをしているような国民性が少し変わってきたと感じています。生物的な死をもって生命が終わると考えるか、生命が物質的な存在とは別に永遠に続くと考えるかは、非常に重大な事だと思います。たくさんの死を看取ってこられた笠間先生が「いいえ」というのは意外ですが、死後の世界というのがいわゆる天国(極楽)とか地獄とかいうなら確かに科学的にそんな世界は証明できないから無いというのなら理解できます。私は物質的生死を超えた循環の中に生命エネルギーが存在していると捉える方がより納得しやすいように思います。何故自分はここにこうして存在しているのかという哲学的な問いかけに対しても、宇宙全体に満ちている生命エネルギーが今、人としての生を受けて顕在化し、その役割を果たしていると考えると、自然に利他の精神や、他者への感謝の思いが溢れて来るものだと思います。
 形骸化した銭儲け宗教やおすがり信仰的なものでなく、もっと本質的な生命哲学をもとにした宗教観が求められる時代になってきたのではないでしょうか。一人の生命が地球より重いとの生命尊重の思想が根底にあれば、「繁殖を終えた年寄り」などという言葉は出て来ないでしょう。特に人の命を預かる医師にはより深い宗教的な生命尊厳の思想をもって、生も死も共に連続し循環する生命の厳粛な現象の一つとして捉えて欲しいと思います。


Re:日本人の宗教観
投稿者:笠間 睦 投稿日時:12/08/12 07:36
ミーたんさんへ
 私のお返事の代わりに、気になって保存してあった記事内容をご紹介したいと思います。
 執筆者は、ケネス・田中さんです。

欧米人を魅了する仏教の秘密・上(2011.12.3付中日新聞・文化)
 「現在、米国の仏教徒は約三百万人を数え、全米人口の約1%に当たる。」
 「彼らが仏教に魅了される原因はどこにあるのか。…(中略)…私は、最大の理由は仏教の本質にあるとみる。彼らは、仏教を『信じる宗教(religion of faith)』ではなく、『目覚める宗教(religion of awakening)』と、とらえているのだ。
 キリスト教から仏教へ改宗した人たちに尋ねると、キリスト教の復活を『信じる』ことより、煩悩による誤った見方を是正して自らが『目覚める』ことを究極の目的にする仏教の教えの方が魅力的だと答える人が実に多い。」

欧米人を魅了する仏教の秘密・下(2011.12.10付中日新聞・文化)
 「理性化だが、教育水準が高まるに連れ、現代人は科学的で理性的な思考能力を持つようになった。欧米では仏教は一神教とは異なり、科学と矛盾しないとのイメージが強い。特に米国では心理学と仏教の融合が進み、心理療法に仏教の瞑想が取り入れられ、医学治療にまで及んでいる。欧米仏教は理性的思考に訴えるために、より多くの人々が仏教に関わり始めている。
 日本ではどうか。『政教分離』のゆき過ぎた解釈の影響などで、仏教者と科学者の協力はまれだ。」


欧米人を魅了する仏教の秘密
投稿者:ミーたん 投稿日時:12/08/14 02:44
 興味深い記事をご紹介いただきありがとうございます。
 確かに仏教思想は現代科学と矛盾しないと言うより、現代科学が仏教哲学に追いついてきたとも言えるのかもしれません。本質的にはキリスト教もイスラム教も生老病死から免れない人間存在への問いかけから始まったのだと思いますが、神という絶対的存在にその問いを委ねてしまった事が、人間自身の生命の中にその答えがあると考えた仏教との大きな違いなのかもしれません。仏教の中にもそれと同じく他力本願に陥ったものもありはしますが…
 現代科学の宇宙論やミクロの世界を突き詰めていくと、仏教哲学の一念三千とか色心不二・依正不二の正しさが証明されているのかもしれないと思います。宇宙の始まりのビッグバンの直後に生れたファーストスターが宇宙望遠鏡によって観られる時代が近づき、過去の時間の全ては今の一瞬と共にある事が実際に証明されるわけで、生命が存在し得る惑星が無数にある事、未知の暗黒物質が宇宙に満ちていて、その質量が高い部分で新しい星が誕生している事も判って来ました。
 自分が今この瞬間に人としてこの地球のこの場所で生きている事が奇跡のように感じられると同時に共にある全ての命が限りなく尊いものに感じられます。限りない可能性を持つ「今」の瞬間に未来を選び取っている因果倶時の思想が生死を超えて捉えられると、いかに死ぬかはいかに生きるかと同じ意味を持つように思えます。





第495回 高齢者のその近未来を考える(その7) また、がん検診が延びそうだ
 私も、ある一定の年齢までは(子どもの養育期間が終わり親を看取り終えるまで?)がん検診を受けていこうと考えていますがその年齢を過ぎたら自然の摂理に委ねて生きていこうと思っています。
 シリーズ第357回(https://aspara.asahi.com/blog/hyottoshite/entry/YePfP04Q0O)のコメント欄において、「50歳男性における今後20年間の大腸癌罹患率」というデータをご紹介し、シリーズ第361回(https://aspara.asahi.com/blog/hyottoshite/entry/EnvbhGmtUl)のコメント欄「検診を怠っている理由」(2012.3.27 10:58)において私見を述べましたところ、シリーズ第359回(https://aspara.asahi.com/blog/hyottoshite/entry/Ub7mIsZdNn)のコメント欄「グッとタイミング!です」(2012.3.27 14:51)において「まるタン」さんから、「余計なお世話ですがぜひ検診を受けてください。お母様の為にも、ぜひ。これから老親の介護をする身になればこそ一番に大切にしなければならないのは自分自身の『健康』です。すみません、お願いします。」とお叱りを受けました。
 「今年こそがん検診を・・」と思っておりましたが忙しさを理由にまた1年先延ばしになりそうな気配です。

 社会福祉法人老人ホーム同和園附属診療所(京都市伏見区)の中村仁一医師は、天寿がんについても言及しております(中村仁一:大往生したけりゃ医療とかかわるな─「自然死」のすすめ 幻冬舎, 東京, 2012, p111-112)。
 「天寿がんは、(財)癌研究会癌研究所名誉所長の北川知行さんが、1994年頃より提唱されている概念です。
 具体的には『さしたる苦痛もなく、あたかも天寿を全うしたように、人を死に導く超高齢者のがん』ということになっています。ここでいう超高齢者とは、一応、男性が85歳以上、女性が90歳以上とされています。
 天寿がんの概念を導入する目的は、以下の2つです。
 1つ目は、『天寿がん』の存在を明らかにすることで、人々が不必要にがんを恐れず、がんに合理的に対処できる道を広くすること。
 2つ目は、高齢者、超高齢者のがんでの自然死を明らかにすることで、個別化医療を深化させること。」(一部改変)
 「天寿がん」についてはアピタルの平子義紀編集長もブログ(https://aspara.asahi.com/blog/hbp/entry/FKkAOmcOf2)において紹介したことがありますので皆さんの関心も高いのではないでしょうか。


半分健康でも良しとしよう!!
投稿者:まるタン 投稿日時:12/08/12 15:27
 笠間先生 体調はいかがですか?相変わらずご多忙な毎日のようですね!
 オリンピックのせい?で寝不足状態・・・ですが私は毎日ブログのチェックは欠かせません(これだけは、何としても!!)
 偉そうに書きこみましたが本当はヘナヘナ~~です。
 コメントは避けますが選手は本当にがんばりましたね~~~!

 先生を叱ったのではなく、心配したのです。50代男性は特に。うるさい姉と、聞き流さないでちょっとは気にとめてください。
 先生にはそういえばお姉さまがいらした? 余計なお節介でした。と、言い訳しながらも私もがんばっています・・から。


検診について
投稿者:桜色 投稿日時:12/08/12 15:35
 前回のブログの中村先生の本は、病院のスタッフと読み「そのとおりだ」と言っていたところです。昔、70歳代の骨折で入院したひとがついでだから体を調べたらがんがわかって、治療して亡くなった患者がいました。「もし、入院しなかったら、知らずに天寿をまっとうしていたかもしれない。」今回のブログを読んで、そのことを思い出しました。だからと言って、検診を否定するわけでは、ありませんが。知らないほうが幸せなのではと思うことがあります。「天寿がん」だけでなく他の病気も高齢になればいろいろあると思います。


Re:半分健康でも良しとしよう!!
投稿者:笠間 睦 投稿日時:12/08/12 16:58
まるタンさんへ
> 私は毎日ブログのチェックは欠かせません(これだけは、何としても!!)
> うるさい姉と、聞き流さないでちょっとは気にとめてください。
> 先生にはそういえばお姉さまがいらした?

 はい。姉が関東に住んでおります。
 姉は、認知症の症状が出現し始めた姑の介護をしております。

 欠かさずお読み頂きありがとうございます。
 可愛い姉の話は聞き流せませんね。


Re:検診について
投稿者:笠間 睦 投稿日時:12/08/12 16:59
桜色さんへ
> 前回のブログの中村先生の本は、病院のスタッフと読み「そのとおりだ」と言っていたところです。
> 検診を否定するわけでは、ありませんが。知らないほうが幸せなのではと思うことがあります。

 病棟内で読み合わせをされたのですか。
 勉強熱心な病棟のようですね。羨ましい!

 そうなんですよね・・。「検診否定論調」が目立ちますので、医療関係者からはすんなりとは受け入れてもらえないでしょうね。特に医師からは!





第496回 高齢者のその近未来を考える(その8) エンドオブライフ・ケアの問題点
 国立病院機構菊池病院の室伏君士名誉院長は、「80歳をすぎた高齢者(とくに認知症の人)は、長く生きたほど安らかな死を迎えることが多く、老化は死の恐れが消褪していく過程のようでもある。“諦観”(世俗に対する欲望がなくなって、それを超えて自然や運命に任せて生きる態度をとること)に似た状態が認められる人もいる。」(認知症の人のエンドオブライフ・ケアの問題点について. 認知症ケア事例ジャーナル Vol.4 30-38 2011)と述べています。
 運命に任せて自然に生きるのか、近未来を予想して栄養介入をしていくのか難しい判断を迫られることも多いのが現状ではないでしょうか。

 認知症患者さんにおいては、拒食・拒薬など日常茶飯事です。また、自分自身ではどこも悪くないと思っていますので、診療を受けることに対して強い抵抗を示すことも多いです。拒否的な態度を示す患者さんに対して、無理に食べさせようとしようものなら、怒り出してしまうことにもなりかねません。
 「延食」という試みによって、何とか食べてもらおうと取り組んでいる病院もあります。その試みについて、一部改変して以下にご紹介します(2012年5月26日付日本医事新報 No.4596 15)。
 「認知症の進行した患者でも、きちんと最期まで食べられる環境を提供しよう─。そんな認知症患者のQOLを重視した取り組みが、認知症患者などをベッドに拘束する「抑制」の廃止運動で知られる上川病院(八王子市)で長らく実践されている。
 この『延食』と名付けられた取り組みは、患者が食事中に疲れてしまい、途中で食べられなくなっても、スタッフが食事を冷蔵庫に一旦保存。患者の疲れ具合を勘案しながら、食べられそうな時を見計らって、食事を温め直して再度提供することがポイントだ。
 同病院の吉岡充理事長は言う。『延食は患者さんが起きている間に、1日3食を食べてもらおうという考え方です。時には1時間以上かけて、言語聴覚士・看護師・ケアワーカーなどのスタッフが対応に当たっています』」

 種々の取り組みをしても食べることができず、ご家族も「ただ生きていて欲しい」と望まれる場合には、経管栄養の導入ということになります。しかし、経鼻経管栄養は、元気な認知症患者さんにおいては自己抜去してしまい継続困難ですので、胃瘻造設が残る道となります。
 しかしながら、せっかく胃瘻を造設しても、本人が強く引っ張れば胃瘻の管は簡単に抜けてしまいますので、場合によっては、本人が引き抜かないように身体拘束(手足の抑制、拘束衣など)が必要となることもあります。
 近未来予想が可能となっても、栄養介入のために身体拘束を生み出す結果となってしまっては本末転倒です。認知症における栄養介入の難しさは、一筋縄ではいかない難題であるという現状をご理解くださいね。


 

「胃ろうはすべて悪である」と思うな [胃ろう]

「胃ろうはすべて悪である」と思うな.jpg 私が連載しておりました朝日新聞社の医療ブログ「アピタル」で紹介されました記事です。
 2013年5月5日の記事です。

胃ろう再考─過剰な拒否反応に困惑も [胃ろう]

胃ろう再考-過剰な拒否反応に困惑も.jpg 胃ろう問題の真髄に、読売新聞・医療ルネサンス(2014年1月15日付医療ルネサンス=第5735号)が切り込みました。


記事本文

 「胃ろうが適するのに本人や家族が拒み、鼻から管を入れたり、点滴をしたりして、長期に栄養補給するケースが増えた。本末転倒ですよ」
 三重県津市にある榊原白鳳病院の医師、笠間睦さん(55)は、そう訴える。
 70歳代の女性は、膠原病で食道が硬くなり、のみこめなくなった。胸の中心静脈(鎖骨の下)に点滴をつけたまま転院してきた。
 笠間さんは胃ろうを勧めた。中心静脈栄養を続けるとチューブから感染しやすい。免疫細胞の多い腸の働きも悪くなるからだ。腸から栄養を吸収する胃ろうなら、感染は起きにくい。
 だが、女性は「胃に穴を開けてまで生きたくない」と拒否。感染した細菌が全身の血液に回る敗血症を起こし、昨年7月に死亡した。
 脳梗塞で入院中の前田さん(93)は昨年5月に肺炎を起こし、口から食べられなくなった。家族が胃ろうをためらい、鼻から胃へ管を通したが、不快感が強く、自分で抜かないよう両手にミトンをはめられた。隣の患者が胃ろうをつけながら訓練を受け、食べているのを見て「自分も」と胃ろうを造った。のどを通る管がなくなり、のみこみのリハビリが受けやすくなったことで、おかゆが食べられるようになった
 認知症専門医でもある笠間さんは「本当に死期が迫った終末期や、アルツハイマー病の進行で反応がない場合は慎重に考えるべきだが、胃ろうすべてを否定的に見るのは、患者にとって不利益だ」と指摘する。
 胃ろうの造設は近年、急減している。近畿大教授の汐見幹夫さんは、胃ろう造設(PEG)を行う関西の主な医療機関にアンケートした。回答した43施設の2012年の造設件数は736件で、前年より11%減った。胃ろうが適切と考えられるのに本人や家族の意向で実施しなかった例も、31施設が「ある」と答えた。
 市場調査会社アールアンドディ(名古屋市)の全国集計でも、毎年数%増加してきた胃ろう造設用キットの出荷総数は12年、前年より14%減少した。
 背景として大きいのは日本老年医学会の動き。12年1月に出した終末期医療に関する立場表明の中で「治療の差し控えや撤退も選択肢」とした。「それと前後して胃ろうが延命治療の代表格のように取り上げられ、終末期以外の胃ろうにまでマイナスの印象をもたらした」と笠間さんはみる。
 <過剰な拒否反応>に困惑する声は、各地の医療機関から出ている。
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