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人工呼吸器 理解し意思持つ必要 [人生の最終段階における医療・ケア]

2020年12月25日付朝日新聞「声」
人工呼吸器 理解し意思持つ必要(医師 笠間 睦  三重県 62)
 「誰に人工呼吸器 重い判断」(18日本紙)を読みました。新型コロナウイルスの感染が拡大すれば、人工呼吸器などの医療資源が不足する事態も起こり得ます。その際、治療の差し控えや中止の判断はどう行われるべきか。11月に日本集中治療医学会などが出した提言は、患者の意思に基づいて医療を進めることを基本としています。
 患者の意思に関してはここ数年、「人生の最終段階」で望む治療やケアを事前に話し合っておくことが推奨されてきました。高齢者などで新型コロナによる肺炎が急激に悪化して意思表示が困難となった場合、本人が過去の話し合いで示した意思が重視される可能性があります。
 ただ、人生の最終段階とはがん末期や老衰などを想定しており、コロナ肺炎を想定したものではなかったはずです。
 人工呼吸器は延命処置として装着する場合もありますが、コロナ肺炎での装着は、回復を目指す医療行為です。人生の最終段階での人工呼吸器を望まないと意思表示している人も、コロナ肺炎時の装着の意義について理解を深め、折に触れて再考することが肝要だと思います。
20201225AsahiKoe.jpg


関連サイト
1 「新型コロナウイルス感染症流行に際しての医療資源配分の観点からの治療の差し控え・中止についての提言」
 https://www.jsicm.org/pdf/covid-19_iryohaibun_27_27_509.pdf
 https://www.jsicm.org/news.html
2 人工呼吸器を誰に コロナ感染爆発時の治療判断で提言
 https://www.asahi.com/articles/ASND73TCLND3ULBJ010.html
3 人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン
 https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000197665.html
4 胃瘻造設数に関する調査
 https://mediva.co.jp/info/2019/03/post-3492.html
5 認知症患者の「最期の医療」、意思の確認に悩む現場(2016年5月23日付朝日新聞・フォーラム)
 https://www.asahi.com/articles/ASJ5M25WLJ5MUPQJ001.html
6 65歳以上で人工呼吸器を使用した新型コロナウイルス患者の生存率はわずか3%
 https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-04-23/Q97Z2PDWX2PU01
7 新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) 流行期において
 高齢者が最善の医療およびケアを受けるための日本老年医学会からの提言
  ─ACP実施のタイミングを考える─ 【2020年8月4日提言】
 提言2.JPG
 P9:「COVID-19のように急激に症状が悪化する場合、本人のみならず家族にとっても容易に方針を決定できない可能性もある。その際には、本人の ACP の情報を重視する必要がある。」
 https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/coronavirus/pdf/covid_teigen.pdf 
8 京都市の「事前指示書」は何が問題なのか
 病状と介護支援の説明もない事前指示書はありえない。
 「事前指示書を行政が用意することで、家族や社会に依存して生きている弱者は心理的圧力を受け、本当は書きたくないのに事前指示書に治療中止を希望する旨を書かされることになる」
 https://news.yahoo.co.jp/byline/satoshikodama/20170430-00070336/
9 人生の最期の医療を自分で選択するための4つのリンク(シニアガイド)
 「病院への入院や、老人ホームへの入所の際に『延命処置に関する意思確認書』や『終末期医療の事前指示書』という名前の書類への記入を求められることが増えてきました。
 …(中略)…
 このような書類が存在し、記入を求められるいうこと自体が、まだ、あまり知られていないのではないかと思います。」
 https://seniorguide.jp/article/1001604.html
 事前指示書.JPG
10 人生会議 ACP─東京都医師会
 「重い病気となり回復が期待できない場合に、命を長らえる処置が行われることがあります。食事ができなくなった場合に人工的な栄養補給として胃に管を通して栄養を入れる胃ろう、点滴で栄養を入れる静脈栄養法、また呼吸ができなくなった場合に人工呼吸器をつけるか、などいわゆる延命の処置があります。」
 「人生会議 ACP:事前指示書と異なる点は、事前指示書は自分の思いをあらかじめ提示しておくことが主なポイントですが、人生会議 ACPはご家族や医療やケアの担当者と話し合って確認するという行為が大事な点です。」
 https://www.tokyo.med.or.jp/citizen/acp
11 新型肺炎でイタリア医療崩壊「60代以上に人工呼吸器使わず」【Yahoo! Japan ニュース 3/11(水) 6:33配信】
 https://akasama.blog.ss-blog.jp/2020-03-11


「声」投稿に至った経緯
  『新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) 流行期において
 高齢者が最善の医療およびケアを受けるための日本老年医学会からの提言
  ─ACP実施のタイミングを考える─』
 https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/coronavirus/pdf/covid_teigen.pdf
 上記資料の9ページ目に以下の文面があります(提言2)。
 「COVID-19のように急激に症状が悪化する場合、本人のみならず家族にとっても容易に方針を決定できない可能性もある。その際には、本人の ACP の情報を重視する必要がある。」
 「容易に方針が決定できない場合には → 本人の ACP の情報を重視する」!
 注釈 ACP:厚生労働省は、終末期の患者が家族や医師と話し合って治療方針を決める「アドバンス・ケア・プランニング」(ACP)の国内普及を図っており、2018年11月30日に「人生会議」との愛称を発表した。

 「容易に方針が決定できない場合には → 本人の ACP の情報を重視する」!=そんなこと、意向表明当時に本人は想定していないでしょ!!って率直に驚きました。
 こんな大事なこと、国民抜きに勝手に決めて良いものなの??とも感じました。
 「人生の最終段階における医療・ケア」に対する意向が、COVID-19による肺炎にも流用されかねないことをいったいどれだけの方が知っているのでしょうか。
 確かに、高齢者の新型コロナ肺炎において、人工呼吸器を使用する状態に至っては、予後はかなり悪いのが現状です。でも、安易に「人生の最終段階」という位置づけにしてよいのでしょうか?
 ネット上に流れている情報で信頼性の高そうなデータを探してみますと、確かに、「65歳以上で人工呼吸器の使用を余儀なくされた患者の生存率はわずか3%だった」と記載されています(https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-04-23/Q97Z2PDWX2PU01)。ただ、全年齢でみても、「人工呼吸器の使用を余儀なくされた患者の致死率は88%」と記載されており、予後が悪いのは決して高齢者だけではありません。
 「人生の最終段階」に対する意向を、3%は助かるCOVID-19による肺炎にも適用するには、十分な国民的議論を尽くす必要があると私は感じました。
 少なくとも、「3%」という数字を呈示して、意向に変化はないのかどうかを確認することは必要不可欠です!
 https://www.facebook.com/atsushi.kasama.9/posts/1772224532947218
 多くの方に、私が感じた「人生の最終段階」に対する意向表明の問題点を伝える必要があるなと感じ「声」欄に投稿した次第です。


 今回の私の私見とは直接は関係ありませんが、医療情勢が逼迫してきている状況を伝える深刻なニュースが配信されましたのでご紹介致します。
関連ニュース(エムスリー・医療ニュースより)
 https://www.m3.com/news/general/854755
【大阪】陽性患者、転院先見つからず…呼吸不全で死亡(2020年12月15日配信・読売新聞)
 キャプチャ.JPG


 胃ろうでの教訓、すなわち「胃ろうを選択しなかったデメリット」をきちんと伝えるということから、延命を望まないことから起こりうる事態も考える必要があるのかなと感じております。
投稿を終えて
 多くのメディアで、胃瘻についてネガティブなイメージが報じられ、すっかり「胃ろう=延命」というイメージが国民の中に定着した感があります。
 関連サイト4「胃瘻造設数に関する調査」(https://mediva.co.jp/info/2019/03/post-3492.html)を読まれると、胃瘻造設件数が減っている現状が分かると思います。
 しかし、胃瘻造設件数が減ったことで国民は自分が望んだ「人生の最終段階における医療・ケア」を受けられているのでしょうか。実際には、胃ろうを望まなかったことで「経鼻経管栄養」となっており喉に管が入っている違和感・苦痛から管の自己抜去を繰り返している方が大勢おられるのです。
 経鼻経管栄養の件数(推移)の全国的データはおそらく集計されていないと思いますが、『PEGバッシング』があってから、代わって経鼻胃管や PICCの件数が増えていることを指摘する論文『胃瘻バッシングの結果、起きたこと(西口幸雄:日本静脈経腸栄養学会雑誌 31(6):1225-1228:2016)』はネット上でも閲覧することができます。
 PEGが減ってEDが増加?!..JPG
 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspen/31/6/31_1225/_pdf
 また、2018年2月3日付朝日新聞総合5面には以下のような記述があります。
 「日本静脈経腸栄養学会が長期的な人工栄養の手法を全国の医師らに調査したところ、03年は胃ろうが71%で、経鼻栄養が24%だった。ところが14年、選択肢に中心静脈栄養も加えて同様の質問をすると、胃ろうは34%で、経鼻栄養が38%と逆転。中心静脈栄養も17%あった。調査の代表者の井上善文・大阪大特任教授は『消化管が使えるのに、中心静脈栄養が行われている可能性がある。感染症のリスクが大きく、コストも高いので問題だ』とみる。」
 https://www.facebook.com/atsushi.kasama.9/posts/908434872659526

 4週間以上の長期にわたり経腸栄養を施行する場合は、経皮内視鏡的胃瘻造設術(percutaneous endoscopic gastrostomy:PEG)が推奨されていることをこの機会に再認してくださいね。
静脈経腸栄養ガイドライン─第3版 より
①「中心静脈栄養法(TPN:total parenteral nutrition)においても、適切なエネルギー量が投与されれば、感染性合併症は増加しないとの見解もある。しかし、腸管を用いないこと(絶食など)により、小腸粘膜が萎縮し、それに伴って機械的なバリア機能が低下し、さらには免疫学的バリア機能の低下も招くことは多くの研究で証明されている。
 また、臨床における静脈栄養と経腸栄養の比較では、静脈栄養に比べて経腸栄養の方が感染性合併症発生頻度が低いことも事実である。その理由は、消化管内に栄養が投与されることにより、腸管粘膜のintegrityが維持され、機械的・免疫学的バリア機能が維持されるためと考えられる。特に、熱傷や重症急性膵炎などにおいてはこれらの利点のために早期経腸栄養法が推奨されている。したがって、理論的には、経腸栄養が禁忌で、静脈栄養の絶対適応とされるのは、汎発性腹膜炎、腸閉塞、難治性嘔吐、麻痺性イレウス、難治性下痢、活動性の消化管出血などに限定される。」(日本静脈経腸栄養学会編集:静脈経腸栄養ガイドライン─第3版 照林社, 東京, 2013, p15)
②「4週間以上の長期にわたる経腸栄養を施行する場合は経皮内視鏡的胃瘻造設術(percutaneous endoscopic gastrostomy:PEG)の適応であり、PEGを選択することを推奨する。」(日本静脈経腸栄養学会編集:静脈経腸栄養ガイドライン─第3版 照林社, 東京, 2013, p17)

 延命を希望せず「胃ろう」を受けなかったために、身体拘束されながら「経鼻経管栄養」を受ける状況を本当に本人は望んでいたのでしょうか?
 もう少しきめ細やかな説明がされるべきであると私は考えております。

 
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