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若年性アルツハイマー病におけるレカネマブの効果 [アルツハイマー病]

64歳以下の方から「レカネマブによる治療を検討した方が良いですか?」と相談されたとき用のパンフレット(自作)
 
 レカネマブ(レケンビ[レジスタードトレードマーク])は、全般臨床症状の評価指標であるCDR-SB(Clinical Dementia Rating Sum of Boxes)評価において18カ月時点の臨床症状の悪化をプラセボと比較して27%抑制しました。しかし、サブグループ解析のデータでは、64歳以下では6%の抑制効果でした。
 65歳未満のレカネマブの効果「Percent Slowing:6%」も踏まえて、外来診療場面における若年性アルツハイマー(疑い)の方からの質問を想定して、説明内容をQ&A形式でまとめてみました。
 https://drive.google.com/file/d/1GIWFRmpFvN-wrNVTOupUIUhcJ4d5ZM1n/view
 レカネマブ(レケンビ[レジスタードトレードマーク])による治療を開始するかどうか迷った際に読むための資料として参考になれば幸いです。

レカネマブー65歳以下では効果が乏しい=付録(Supplementary Appendix)のPDF19頁(van Dyck CH et al. N Engl J Med 2023 388(1)9-21).JPG

Percent Slowing of Decline (%)
 65歳未満:6%(CDR-SB:-0.08)
 65-74歳 :23%(CDR-SB:-0.37)
 75歳以上:40%(CDR-SB:-0.72)
私の感想
 この%の持つ意味については、日本経済新聞の解説がわかりやすいです。
  
 「不治の病」に希望の光【2023 年1月 22 日付日本経済新聞・総合5】
 https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK124WL0S3A110C2000000/
 =「当初、プラセボ(偽薬)と比べて 20%あれば合格といわれていた進行抑制効果で 27%の結果を出した。」

 最も効果を発揮して欲しい若年層(65歳未満)での効果が乏しいようです。
 この点について高名な吉山容正先生が専門誌において解説されておりますのでご参照下さい。

実臨床におけるアルツハイマー病疾患修飾薬導入の課題─レカネマブを中心に
患者選択
 レカネマブのサブグループ解析のデータ4)では75歳以上,65~75歳,65歳未満の3群のCDR-SBの結果をみると,年齢と逆相関するような形で65歳以下に対する効果が乏しい傾向がみられる.さらにMCIと軽度認知症の効果の比較においても,MCIの方で効果が乏しい傾向がある.これらのサブグループの解析の解釈には症例数の問題もあり制限があるが,本剤の進行抑制効果が最も期待されるごく軽症の若年例がレカネマブのよい治療対象グループであるかは今後のデー夕の蓄積が必要である.
 より高齢者においても有効であるが,進行予防という性質上,超高齢者や身体機能低下が目立つ患者,合併症が生活機能に大きな影響を与えている患者への投与に関しては,その適性を十分検討する必要がある.
 【吉山容正:実臨床におけるアルツハイマー病疾患修飾薬導入の課題─レカネマブを中心に. 医学のあゆみ Vol.287 No.13 2023年12月30日号 1047-1052 2023】

4)https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2212948

 付録(Supplementary Appendix)のPDF19頁
 https://www.nejm.org/doi/suppl/10.1056/NEJMoa2212948/suppl_file/nejmoa2212948_appendix.pdf

※レカネマブによる有害事象であるアミロイド関連画像異常(amyloid-related imaging abnormalities:ARIA)の発生頻度(APOEε4別の頻度)【上記NEJMより抜粋】
 ARIA-E(edema/effusion):浮腫や滲出液貯留=12.6%
  ARIA-E APOE別.JPG
 ARIA-H(hemorrhage):微小出血や脳表ヘモジデリン沈着=17.3%
  ARIA-H APOE別.JPG
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【救急】口腔内の痒みと腹痛の女児 適切な対応は? [アナフィラキシー]

【救急】口腔内の痒みと腹痛の女児 適切な対応は? 【2021.2.18 エムスリー・今日のクイズ】
 今日のクイズータイトルの画像.JPG
問題
 小麦アレルギーの9歳の女児。口腔内の痒みと腹痛を主訴に、母親に連れられて救急外来を受診した。30分程前に祖母が誤って原材料に小麦を含むお菓子を与えてしまったらしい。現在は口腔内の痒み、口唇のしびれと腹部の強い持続痛を訴えているが、バイタルサインは正常であった。
この女児にまず検討すべき対応として、最も適切なのはどれか。
 A:抗ヒスタミン薬内服
 B:アドレナリン筋注
 C:ステロイド筋注
 D:アドレナリン静注
 E:モニター装着し処置室で経過観察 

解答と解説
【正解】
 アドレナリン筋注
【解説と参考文献】
 日本アレルギー学会によるアナフィラキシーガイドラインによると、アナフィラキシーとは「アレルゲン等の侵入により、複数臓器に全身性にアレルギー症状が惹起され、生命に危機を与え得る過敏反応」と定義されている。アナフィラキシーの診断基準は2006年にアメリカ国立アレルギー・感染症研究所から発表されたもの1)が広く知られており、参照いただきたい。皮膚所見に加え気道閉塞(Airway)、喘息(Breathing)、ショック(Circulation)、消化器症状(Diarrhea:下痢、嘔吐、腹痛など)を伴う場合、とするDr.林のアナフィラキシーのABCD2)が簡便で覚えやすいが、皮膚所見を伴わない場合も経験するため注意が必要だ。
 アナフィラキシーへの対応の第一は迅速なアドレナリン投与で、0.01mg/kg(max:成人0.5mg、小児0.3mg)を大腿部中央の前外側、または臀部へ筋注する。末梢血管、心臓、気管支への作用で呼吸・循環症状を改善させるが、アドレナリンの作用は肥満細胞や好塩基球に存在しているβ-2受容体にもおよび、ヒスタミンや他の炎症メディエーターの分泌を抑える作用がある。つまりアナフィラキシー反応を早期に収束させる特効薬でもあるのだ。
 本症例では抗原曝露の病歴に加え、粘膜症状および腹部症状を認める点、及び2臓器以上で症状を呈している点からアナフィラキシーと判断し、アドレナリン筋注(B)を迅速に行う。抗ヒスタミン薬、ステロイド(C)は症状緩和のため補助的に使用されるが、二相性反応の予防としてはその根拠に乏しく、ルーチンでの使用は推奨されていない3)。抗ヒスタミン薬は皮膚症状への緩和に有効で、有効な血中濃度を速やかに得るために内服でなく静注(A)で投与する。ステロイドは作用発現までが遅く、急性アナフィラキシーでは効果が期待できない。蕁麻疹等のアナフィラキシーの皮膚症状が揃わないから、と経過観察(E)するのはNGである。炎症鎮火のタイミングをみすみす見逃してしまうことになる
【参考文献】
1)J Allergy Clin Immunol. 2006 Feb;117(2):391-7.
2)寺沢 秀一、島田 耕文、林 寛之. 研修医当直御法度[第6版], 三輪書店;2016. p.77-81
3)J Allergy Clin Immunol. 2020 Apr;145(4):1082-1123.


私の感想
 この程度の症状で、「アドレナリン筋注」まで要するのかなぁ~と少し意外に感じました。
 そこで、「アナフィラキシーガイドライン」を読んでみました。
 https://anaphylaxis-guideline.jp/pdf/anaphylaxis_guideline.PDF
 アドレナリンの適応.JPG
 14頁の「アドレナリンの適応」には、「過去の重篤なアナフィラキシーの既往がある場合や症状の進行が激烈な場合はグレード2(中等度)でも投与することがある。」と記載されておりますね。
 新型コロナウイルスワクチンの医療従事者に対する先行接種が2021.2.17に始まりました。アナフィラキシーに備えて、アドレナリン自己注射製剤「エピペン[レジスタードトレードマーク]」についての知識を深める必要がありそうですね。
 http://www.hiroshima.med.or.jp/pamphlet/256/7-2.html
 エピペン.JPG

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[連載]親の介護をしないとダメですか?~父と私の介護録【第10回】―年金「23万円」の認知症の父…施設探しで、経済的な壁に唖然 [介護費用]

[連載]親の介護をしないとダメですか?~父と私の介護録【第10回】―年金「23万円」の認知症の父…施設探しで、経済的な壁に唖然
 https://gentosha-go.com/articles/-/25317
 第10回.JPG

一見良さそうな施設でも「月額20万円」超えは必至
◆施設の空気を肌で感じる
 すでに母が銀行口座の管理をしていたので、父の経済状況を把握するのは楽だった。通信販売やカード会社など、無駄に年会費をとられるものはすべて退会。
 父の収入額と預金に多少余裕があると踏んだ私は、ネットで検索しまくり、12軒の施設の資料請求をした。有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)、グループホームの資料である。施設の違いもまだあまりよくわかっていなかったのだが、なにはともあれ参考になるだろうと思ったのだ。
 翌日から豪華なパンフレットが次々に届く。担当者から直接電話もかかってきた。大概は大手企業の施設である。好立地に立派な建物、サービス内容も充実と美辞麗句の嵐だ。
 しかし、よく読むとオプション項目が多く、月額20万円超えは必至。地獄の沙汰だけでなく、現世の介護も金次第だ。「豪奢な施設にいる石原慎太郎はいったいいくら払ってるんだ!」と赤の他人と世を呪う。それでも百聞は一見に如かず。母の家から近い4軒の施設を見学することに。
 実はこの段階で、ちょっとなら自分が金を出してもいい、とさえ思っていた。「月5万なら出せる」なんてことを考えていたのだ。これは後述するが、明らかに間違いである。親の介護に子供が金を出してはいけない。絶対に

「利用料の値上げに音を上げる可能性」を知った
 老人ホームの実態を見慣れていない私は、特養の雰囲気に気圧(けお)された。でもそれは特養に限ったことではない、と見学して気づいた。パンフレットで美辞麗句を並べる有料老人ホームでも、「この世の果て」みたいな施設はある。
 見学した中に1軒、入口に立った途端、冷気を感じて鳥肌が立つ施設があった。利用者の顔もことごとく暗くて怖い。まるで収容所の雰囲気だ。後で知ったが、そこは新興宗教が母体の企業が経営する施設だった。私の直感もたまには当たるんだなと思った。
 もちろん、明るくて活気のある施設もあった。スタッフも利用者も、比較的笑顔の割合が多い。営業担当者も親身に話を聞いてくれて、こまめに電話で施設のシステムや空き状況を知らせてくれる。ここは交通の便もよく、私は一番気に入ったところでもあった。見学時に試食させてもらった食事もおいしかったし。一緒に見て回った母もまんざらではなさそうだ。
 営業担当者も必死だった。「4月から料金改定で値上がりしてしまうので、今入居をお決めになったほうが現行の料金でイケますよ!」「ご希望の場所は満室ですが、新設した別の施設は今すぐに入れます!」と、なかなかにしつこかった。なんかインチキな不動産屋みたいだ
 後に、介護職の知人に聞いた話では、そこは「離職率が高く、利用料値上げが頻繁すぎるワースト施設」で有名とのこと。入居者が亡くなるから空きが出るのだと勝手に思っていたが、利用料を払えずに退所する人も実際には多いのだ。
 入居時は払えても、度重なる利用料の値上げに音を上げる。特に、子供が親の介護代を負担していて、にっちもさっちもいかなくなるケースもあるそうだ。やはり子供は金を出しちゃいけない。今よりもさらに大変な時代となる自分の老後に蓄えておくべきである
 次第に、母も「そんなに急かすなんて胡散(うさん)臭いわね」と疑い始めた。また、最初から、ひとり厳しい意見をもっていたのが姉である。「経済的に不安なら、特養でいいと思う」と言い切っていたのだ。

たった4軒の見学で痛感した「経済的な壁」
 このほかにも、認知症専門のグループホームやサ高住も見学したが、いずれも父には合わないと肌で感じた。
 グループホームは認知症でも自立した人、身の回りのことがある程度できる人、特に女性に向いている。入居者は洗濯物を畳んだり、食事の準備をしたりと、できることは任せられるという。
 父のように、家事を一切しない・したことがない人は厳しい。その施設長の女性にも父の体の状態を話したが、「お父様のような方はちょっと難しいかもしれませんね。うちは機械浴もないので……」とやんわりとお断りに近い返事をいただいた。
 サ高住は、さらに自立している人でなければ無理な施設だ。介護スタッフが常駐というが、常に見守っているわけではない。普通のマンション住人と管理人の関係のようなものだ。
 言わなければ歯も磨かない、ひとりで風呂も入れない、トイレすらおぼつかない父は、生きていけない。素敵インテリアに広めの個室ではあるが、言ってしまえばただの豪華なマンション。金額も月25万以上はかかってしまう。オプションを入れたらもっとかさむ
 たった4軒の見学でも肌で感じるものがある。見えてくるものもあった。なんといっても経済的な壁だ[図表]。
 表2.JPG
 サ高住や有料老人ホームでは、月額最低でも20万円以上かかる。ただし、初めに入居金を払うとその額に応じて、月額利用料が安くなるシステムもある。例えば、300万円払えば月額が18万円に、600万円払えば月額が13万円に、1000万円払えば月額は10万円に、といった形だ。年金収入額は少なくても、貯金だけはある人、あるいは家を売却してお金を用意できる人には、このシステムがあるという。
 最初にこのシステムを聞いたときは感心したし、父にもチャンスがあるかも、と思った。が、父は病気を患(わずら)っているわけではないし、そう簡単には死なないはず。5年、10年、下手したら20年は生きると考えると、どうだろう。貯金をはたいて父を有料老人ホームに入れたとしても、さらに長生きするであろう母の暮らしは不安しかなくなってしまう。

父の生活か、母の安寧か…子供には何ができる?
◆父の年金の話
 ざっくりぶっちゃけると、父の年金収入額は企業年金と厚生年金で、月に約23万円ある。月額20万のホームなら入れる、と思うかもしれない。ただし、父を高額な施設に入れれば、母の生活が苦しくなる。
 母自身は国民年金のみで月6万に満たない収入だ。父の年金からホーム代を除いた残りと、母の年金で暮らしていかなければいけない。家のローンは退職金で完済してあるので家賃支払いはないが、約3万円の管理費・修繕積立金は毎月支払っている。その他、生活費や税金、保険などの支払いもある。母の月額生活費が10万円以下というのは、決して安心できる金額ではない。
 特養は、2割負担の父の場合、月額14~15万円(多床室)と安めだが、要介護3以上でないと入れないし、何年も入居待ちしている人も多いと聞く(このとき、父はまだ要介護2だった)。要するに、月額20万以上の壁は越えられなかった。母が心穏やかな老後を過ごせるように、と考えると、やはり特養がベストな選択肢だと悟る。
 「2割負担ってなんのこと?」と思う方もいるだろう。簡単に解説しておく。
 介護保険の利用者負担割合のことで、年金収入等の金額によって、負担する割合が増えるという仕組みだ。1年の収入が280万未満の人は「1割負担」、つまり1割の金額で各種のサービスを受けられる。280万円以上の人は「2割負担」、そして2018年8月からは、340万以上の人は「3割負担」という枠ができた。
 この枠組みで言うと、父は2割負担なのだ。たとえば1万円の介護サービスなら、父は2000円で受けることができる。1割負担の人は1000円だ。
 また、要介護度が上がるごとに、もろもろの金額設定は高くなる。年収スライド方式や要介護度に見合うサービスが高くなるのは当たり前の話ではあるが、1割2割といってもあなどってはいけない金額でもある。決してきれいごとは書かない。
 施設選びは、「一に金、二にスタッフ(ソフト)、三に設備や立地(ハード)」だ。入居してみないと見えないことも多い。多いというか、見えないことだらけだ。しかもスタッフなんて、かなり流動的。介護施設が常に職員を募集しているのを見れば、入れ替わりの激しさも推して知るべし。
 ホームはある意味、賭けでもある。ベストな場所を選びたいと家族なら誰でも思うが、運と縁が大きいことも確かだ。「うちは年金収入も少なくて無理だわ」と思う方もいるかもしれない。が、特養には1割負担の人もたくさんいる。
 有料老人ホームは無理だが、特養ならば決して入れないわけではない。デイサービスやショートステイをうまく組み合わせて利用する手もある。要は、自分の親がどんな介護サービスが受けられるか、情報を得ることだ。
 子供の責務としては、ケアマネさんとタッグを組んで、情報を得ること。親の介護に手は出さず(何も自らが介護しなくてもいい)、金も出さずに(親の収入の範囲内で)、口を出す(情報を得て最適な形を決める)。これに尽きる。

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町の小さな診療所が病院になるまで 急患もコロナ患者も [新型コロナウイルス]

町の小さな診療所が病院になるまで 急患もコロナ患者も
 キャプチャ.JPG
 https://news.yahoo.co.jp/articles/44f50c5437f1542823dc7ed2a6d6d67b69e8540c

 新型コロナウイルスの感染が広がり、収束が見通せない日本。医療逼迫(ひっぱく)の事態に備えて、昨年春から奔走してきた、民間の小さな医療機関がある。
 埼玉県三芳町のふじみの救急病院は、24時間365日の救急診療で地域医療を支えながら、重症のコロナ患者も受け入れる。PCR検査場の設置をいち早く公表し、設備を拡充。その検査数は約9カ月間で5万件にのぼる。
 「感染拡大をくい止めるため、意味のある戦略的な検査を」――。院長の鹿野晃さん(47)は訴える。
 県から帰国者・接触者外来の指定を受けた昨年3月。ふじみのは「診療所」だった。人口10万人あたりの一般病床数が全国で最も少ない埼玉県で、「地域医療を担いたい」と、鹿野さんが24時間対応の救急クリニックを開業して1年半になる頃、国内で感染が広がった。
 「救急医としていま立ち上がらなければ、一生後悔する。地域のためにも、コロナ患者受け入れに全力を尽くしたい」。院長から相談を受けた当初、看護部長の板垣光純さん(43)には戸惑いもあった。患者に長時間接する看護師らの感染リスク、PCR検査の負荷、風評被害。感染者を受け入れることで、ほかの患者の足が遠のくことは目に見えていた。
 だが、苦労して開業したばかりなのに「潰れたら、そのときは裸一貫やり直す」と言う院長の決意に腹をくくった。「どこかが担わなければ」
 スタッフ総勢35人の小所帯で、未知のウイルスに向きあった。コロナ疑いの患者が院内の設備に手を触れず移動できる動線をつくり、PCR検査場を屋外に設置。ホームセンターで入手したフレームとビニールで、飛沫(ひまつ)防止の間仕切りをつくった。フェースシールド代わりのゴーグルを買いに走った。
 看護師の松本高宏さん(38)は「心の準備は必要だった。でも、怖さより使命感が勝った。普段から話を聞いてくれる風通しの良さもあって、ここでしかできないことがある、と思った」と振り返る。
 4月初旬に「コロナ患者が入院できる一般病床は県内に47床のみ」とニュースが報じると、クリニックは駐車場にプレハブの仮設病室をつくった。約1カ月で計19床のコロナ患者用ベッドを用意した。
 「感染は低温、低湿度で広がる。冬が正念場だ」。院長の鹿野さんは危機感を抱き、準備を進めてきた。
 隣接する休耕地など約3千平米を借り上げ、専用のCTを備えた発熱外来と、ドライブスルーにも対応する大規模なPCRセンターを整備。迅速に結果を確認するため、検査会社を誘致した。
 スタッフの数は3倍近くに増やし、独自に同額の危険手当を支給している。
 「科の垣根なく、みんなで負担して、みんなで分け合う。ワンチームで力を合わせたい」と板垣さんは言う。9月以降、全職員が週に1回のPCR検査を受けている。自費検査にあたり、全額が院負担だ。
 12月には、コロナ患者用のベッドを38床に倍増し、重症者の受け入れを始めた。ICU(集中治療室)やHCU(高度治療室)などの設備を整え、「病院」になった。
 医療法では診療所の病床数は19床以下と定められている。診療所で入院を受け入れられるのは中等症患者までだった。
 鹿野さんは言う。「スキルを持った医師や看護師がいて、乗り越えようという意志がある。困難な挑戦だが、重症者を診ないという選択はなかった」
 ふじみのが担ってきたPCR検査の数は、約9カ月間で5万件にのぼる。「新型コロナウイルスは発症前から感染性がある。疑いのある人を一刻も早く検査につなげ、結果を確認し、陽性者の隔離や治療を開始することが重要だ」。PCR検査場の設置を昨年春に公表すると、症状があっても検査を受けられないという人たちが、昼夜問わず、県外からも訪れた。
 今やPCR検査には民間企業も参入し、検査自体は比較的容易に受けられる。だが「信頼性があり、無症状者でもすぐ自宅療養につながる検査でなければ、感染拡大防止にはほとんど意味がない」と指摘する。
 1月第2週に実施したPCR検査3655件の陽性率は10・8%。検査件数の約3割を占めた自費検査――症状がなく濃厚接触者でもない人たちの陽性率は5%だった。
 厚生労働省は、新型コロナウイルスの感染可能期間が発症2日前から発症後7~10日間程度、との考えを示している。「療養や治療の開始まで、症状を自覚してから5、6日かかるようでは遅い。感染力の最も高い期間に出歩いてしまう」と鹿野さんは訴える
 「本気で医療現場の逼迫と感染拡大をくい止めるなら、戦略をもって、高齢者施設や医療機関など重症化リスクの高い場所、クラスターが発生しやすい場所での定期的な行政検査を徹底すべきだ。家庭内感染も外から持ち込まれるのだから」
 病院では、この年末年始も発熱外来を開き、重症患者を受け入れた。多くの患者が快方に向かう一方で、回復を見込めず、本人と家族が延命治療を望まずに亡くなる場合もある。
 それでも患者の苦しさが少しでも和らぐよう、医療従事者たちは手を尽くす。最後まで寄り添い、モバイル端末越しに家族の声を届ける。
 鹿野さんは悔しさをにじませる。「コロナが蔓延(まんえん)していなければ感染することもなく、寿命はもっとあったかもしれない。そう考えると、いま起きていることは人災なのかもしれません」
 1月半ば、鹿野さんは新型コロナウイルスに感染した。PCR検査で陽性が判明。すぐに外来診療を別の医師に引き継ぎ、2週間の自宅療養に入った。
 感染経路について、日常生活で思い当たることはない。病院では認知症患者の呼吸管理など、手探りの対応が増えていたという。
 自宅療養期間中は、開始から2日後が最も苦しかった。高熱と激しい悪寒や倦怠(けんたい)感、頭痛が4日間続いた。熱が下がった後は咳がひどく出るようになり、体重は5キロ減った。「軽症でも急変する可能性のある病気。医学の知識があっても強い恐怖感があった」と振り返る。
 回復し、25日から職場に復帰している。「症状があるのに医療の手の届かない人たちの不安はどれほどか。患者さんの思いに、これまで以上に寄り添っていきたい」(川村直子)


詳細は朝日デジタルをお読み下さい。
 https://www.asahi.com/articles/ASP1Y1T6YP1MUQIP01W.html
仮設病床.JPG
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アルツハイマー病「根本治療薬(アデュカヌマブ)」が迎えた正念場 [アルツハイマー病]

アルツハイマー病「根本治療薬」が迎えた正念場
 https://news.yahoo.co.jp/articles/ae69c12bd2d7d98320745142c1cfef421b34c35f?

 世界がFDA(アメリカ食品医薬品局)による承認の可否を固唾をのんで見守っているひとつの「薬」がある。アルツハイマー病の根本治療薬「アデュカヌマブ」だ。もし、この薬が承認されれば、病気の進行自体に直接介入する初めての薬となる。
 2000年代からアルツハイマー病研究を追ってきたノンフィクション作家の下山進氏の新刊『アルツハイマー征服』から、「アデュカヌマブ」にいたる開発の長い道をハイライトする。それは、ワクチンというまったく新しい発想から始まった。
キャプチャ.JPG
■ワクチン療法の開発
 アルツハイマー病の根本治療薬の開発が、ワクチンによって開けたと言うと、どういうことなのか目を丸くする人は多いだろう。
 新型コロナウイルスのワクチンをみてもわかるように、ワクチンは弱毒化した病原体を人体に注射することで生まれる抗体を利用した予防法である。抗体ができると新たな病原体が侵入してきてもそれとくっつき、無毒化する。
 アルツハイマー病は、アロイス・アルツハイマーというドイツの医者が100年以上前に発見したときから、老人斑と呼ばれる神経細胞の外にできるシミと、神経細胞内にできる神経原線維変化という糸くずのような固まりを病変とすることが知られていた。これらができると、神経細胞が死に、認知症とよばれる症状が出てくるのである。
 老人斑は、アミロイドβとよばれるタンパク質が固まってできたものだが、まずこれができて、次に神経原線維変化が出てくる。アミロイドβ─老人斑─神経原線維変化─神経細胞死という一連の流れ。
 そのドミノの最初の1枚を抜いてしまうと考えた天才科学者がいた。デール・シェンクというサンフランシスコにある医療ベンチャーのリード・サイエンティストだ。
 デール・シェンクは、アミロイドβが、原因なのであれば、そのアミロイドβをワクチンとして注射してしまえばいいと考えたのだ。それで人体に抗体が生まれれば、アルツハイマー病は治るのではないか?
 当時、その医療ベンチャーだけが持っていたアルツハイマー病の症状を呈するトランス・ジェニックマウスを使って、実験をしてみた。
 そうすると、老人斑はマウスの脳からきれいさっぱりと消えたのだった。それが、1999年7月8日号の『ネイチャー』に発表されると科学界のみならずジャーナリズムを巻き込んだ大騒ぎになった。
 ほかの科学者が相次いで、ワクチンを注射したトランス・ジェニックマウスで、迷路を使った実験をする。すると、認知機能の低下も抑えられるという実験結果まで得られたのだった。
 2000年代の初頭、アルツハイマー病は治る病気になる、と世界は沸き立った。

■AN1792の失敗から
 デール・シェンクらが開発したワクチンAN1792の治験はアメリカで行ったフェーズ1を通過し、欧州にまで広げたフェーズ2に進む。
 が、ここで急性髄膜脳炎という深刻な副作用が、治験を行った各病院から報告されたのである。症状は、頭痛や発熱、吐き気、患者によっては錯乱を起こし、昏睡状態に陥る患者もいた。
 半身が一時的に不随になる患者や、失語症に陥る患者もいた。
 ワクチンは免疫反応を強く出すために、アジュバントという物質をつけるのだが、それで自らの脳細胞を攻撃してしまうということが起こったらしい。一種の自己免疫疾患だ。治験を行っていたエラン社はAN1792の開発を中止する。
 AN1792の治験を行ったサイトのひとつにチューリッヒ大学医学部があった。ここでも、30人の患者のうち3人の患者が急性髄膜脳炎を発症したが、ロジャー・ニッチ、クリストフ・ホックはこの治験に入った30人の患者をその後1年経過を観察し、追跡調査をするのである。
 すると、意外なことがわかった。インフルエンザの予防接種をみてもわかるように、予防接種をしても免疫がつかない、つまり抗体が生まれない人がいる。AN1792の場合もそうだったが、この抗体が生じなかった10人は、その後急速に認知症の症状が悪化した。しかし、抗体が生じた20人の患者は、その後も認知機能の衰えがほとんど進まなかった
 ここから、ワクチンではなく、抗体そのものを投与するという発想が生まれるである。
 そのころ、ほかの学者が、アルツハイマー病になりにくい人は、アミロイドβにたいする自然抗体をもともともっていることを示唆する論文を発表していた。ロジャー・ニッチとクリストフ・ホックは、大学の付属病院に保管してある1000以上の検体から、老齢になってもアルツハイマー病にならなかった人を選んで調べていき、ある抗体を発見する。
 それが、後の「アデュカヌマブ」なのである。

■バイオジェン、乾坤一擲(けんこんいってき)の賭け
 アメリカのボストンにある製薬会社バイオジェンには「ドラッグハンター」と呼ばれる男がいた。小さな医療ベンチャーの開発している薬に目を配り、有望なものがあると、その権利を買い上げ、大規模な治験を行うのである。
 この「ドラッグハンター」アルフレッド・サンドロックとチューリッヒ大学のロジャー・ニッチは1990年代、ボストンのハーバード・メディカル・スクールで同じ師についていた同門だった。そのことから、サンドロックは、ニッチとコンタクトをとり、ニッチの発見した「自然抗体」の開発の権利を買い取る。
 「アデュカヌマブ」と名付けられたその自然抗体は、バイオジェンが2012年10月から行ったフェーズ2で、認知の面で初めて評価項目を達成した薬となった。
 そしてフェーズ3。
 アルツハイマー病の治験は莫大な費用かかかるようになっていた。というのは、それまでのほかの薬の治験が失敗したのは、患者を適切に選んでいなかったためと考えられたからだった。PET(陽電子放出断層撮影)によってアミロイドがたまった患者、本当のアルツハイマー病の患者、しかも初期の患者を選ぶ設計の治験が必要となっていた。PETは2002年に開発された技術だが、高額の費用がかかる。
 その費用は、探索研究から臨床までを含めて1薬当たり2000億から3000億円かかるようになっていた。
 AN1792の治験に失敗したエラン社は失敗の痛手から経営が悪化、他社に買収され2013年に消滅してしまっていた。業界第2位のファイザーは、アルツハイマー病の薬の成功率があまりに低いこと(2002年以来、承認されている薬はない)から、神経疾患分野の創薬からは撤退することを2018年に表明していた。
 それほどアルツハイマー病の創薬はリスクの高い事業だったのである。
 「アデュカヌマブ」のフェーズ3はEMERGEとENGAGEという被験者総数3210名のふたつの治験が並行して行われたが、共同開発に手をあげたのが、日本の製薬会社エーザイだった。エーザイは1990年代に対症療法的な薬だが、抗認知症薬の「アリセプト」を開発し、一時はこの一薬だけで、年間3000億円以上の売り上げをあげていた。しかし、その「アリセプト」の特許も切れ、特許の崖と言われる売り上げ減に苦しんでいた。
 2社ともに、社運をかけた開発だ。アルツハイマー病の患者は全世界で5000万人。日本でも400万人いる。もし「承認」されれば、リスクを回収し、莫大な売り上げとなる。

■矛盾する治験結果
 さて、そのフェーズ3の治験結果が2019年末までに出たが、これが物議をかもしている。1500人以上の被験者数があるふたつの治験があい矛盾する結果になったのだ。EMERGEでは認知機能を含むすべての評価項目を達成したものの、ENGAGEでは、プラセボより悪くなったグループもある、というものだった。
 バイオジェンの主張は、0、1、3、5、10ミリグラム投与の各グループで、高容量のものだけをみれば、ENGAGEでも結果は出ている、というもの。
 これをもとにFDAと折衝を続け2020年7月、ついに新薬申請にこぎつけた。以来、バイオジェンとエーザイの株価は乱高下している。
 FDAが11月に開いた外部の有識者からのアドバイスを求める「諮問委員会」で、サイト上に事前にFDAのペーパーがアップされると、バイオジェンの株価は45パーセントも上昇した。その文書でFDAは、バイオジェンの治験の結果は「明白なものであり、説得力がある」としていたのだ。翌日開けた東京市場でエーザイの株価はストップ高となった。
 しかし、11月6日にオンラインで開かれた「諮問委員会」の評決で、11人の委員のうち委員長1人しか、承認を推薦するという投票をしなかったことがわかると、株価は暴落。
 「諮問委員会」の評決にFDAは縛られるものではないが、「諮問委員会」をはずみにして一気に承認にもっていこうとしたFDAのもくろみは外れたのだった。

■矛盾する2つの治験結果に対してFDAの判定は
 治験のデータが完全でないのは明白だ。矛盾する2つの治験結果がある。ではもう一度治験をすることをFDAは勧告するのか? となるとあと4年はかかる。そもそももう1本の治験をするだけの体力がバイオジェンとエーザイにあるか?
 大きな影響力を持つ研究者や介護者の団体アルツハイマー協会が、「諮問委員会」のドケットによせた意見書にはこうある。
 <データが不完全だという科学コミュニティの議論はわかります。しかし治療法のない現在、可能性のある治療法へのアクセスが断たれるということは、何百万人もの患者、その配偶者、母親、父親、祖父、祖母、おじ、おば、友人たち、地域の人たちにとって、とりかえしのつかないことなのです。そうした比較衡量のうえで、われわれは、この薬の「承認」を求めます>
 FDAへの申請に続き、10月21日に欧州薬品庁、12月10日には日本の厚生労働省にも「アデュカヌマブ」の承認申請が、バイオジェンとエーザイによってなされた。
 FDAによる運命の判定は、2021年3月7日までに下されることになっている。
 【東洋経済オンライン 2021年1月11日 9:01配信  下山 進 :ノンフィクション作家】

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COVID-19流行下のACPの留意点は [人生の最終段階における医療・ケア]

COVID-19流行下のACPの留意点は
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 私が2020年12月25日に懸念したこと(=「人生の最終段階における医療・ケア」に対する意向が、COVID-19による肺炎にも流用されかねない)と同じ懸念を医療ジャーナリストの瀬川博子さんが抱き、一昨日(2021.1.8)届きました日経メディカルの最新刊において、日本老年医学会の倫理委員会「エンドオブライフに関する小委員会」委員長を務める葛谷雅文教授にぶつけておりました(2021年1月号日経メディカル p26-28)のでその文面を以下にご紹介したいと思います。

P27より抜粋
Q(瀬川博子さん)
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 今回の提言では、高齢者が「最善の医療およびケア」を人生の最終段階まで受ける権利を保障するために、「ACPを推進すべき」との文言が加わりました。ここで確認させていただきたいのですが、COVID-19は積極的治療の対象で、治る可能性がある急性疾患です。癌や慢性疾患のいわゆる終末期の患者とは、例えば人工呼吸器の使用においても意味が違ってくるように思いますが、ACPの実践ではそうした点での配慮は必要になりませんか

A(葛谷雅文教授)
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 例えば明らかに予後が明確である場合と、救命処置をすることによって回復する可能性がある場合では、人工呼吸器使用の選択にも違いがあるのではないかということですね。もちろんそうだと思います。ですから提言にも「ガイドラインに準じた適切な人工呼吸器装着・離脱のアプローチが必要である」と書いてあります。ただ、ACPに関して言えば、人工呼吸器を使用すれば将来助かる可能性があるとしても、患者さん自身がその医療行為自体を望んでいるかどうかは別問題です。例えば透析に関しても言えることですが、高齢者の中には「透析までして長生きしたくない」と思われる方もいるわけですね。そういう意味で、本人の意思確認が一番大切ということだと思います。
 ただ、本人の意思決定には十分な知識も必要です。COVID-19を発症し急速に重症化した際に、時間的余裕のない中、本人に負担をもたらす恐れのある集中治療など様々な医療・ケアについて説明し、本人や家族に選択してもらうことは救急の現場ではできない可能性があります。そうした事態を見越して、COVID-19に罹患する前から、高齢者は自分のやりたいこと、やってほしいことについて、ある程度家族や医療・ケアの従事者などと話し合ってほしいということです。

この記事を読んでの私の感想
 ACP(ACP:厚生労働省は、終末期の患者が家族や医師と話し合って治療方針を決める「アドバンス・ケア・プランニング ACP」の国内普及を図っており、2018年11月30日に「人生会議」との愛称を発表した。)を普及させたいという思いが根底にあって、厚生労働省&日本老年医学会としては、あまりややこしい質問をするとACPそのものが普及しなくなってしまうのではないかという懸念を抱いてしまうのかも知れませんが、ここはやはり私が2020年12月25日に指摘したように(https://akasama.blog.ss-blog.jp/2020-12-25)、「あなたは、『人生の最終段階』に対する医療において人工呼吸器を望まないと意向を述べられましたが、その意向は3%は助かるCOVID-19による肺炎に関しても同じ意向ですか?」と確認することは不可欠だと思います

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「出るから検査はしない」風潮一変、同時検査が可能に【時流◆ツインデミックに備える】 けいゆう病院・菅谷憲夫氏に聞く(中編) [新型コロナウイルス]

「出るから検査はしない」風潮一変、同時検査が可能に【時流◆ツインデミックに備える】 けいゆう病院・菅谷憲夫氏に聞く(中編)
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 https://www.m3.com/clinical/news/844407?pageFrom=conference

 【時流◆ツインデミックに備える】第2弾は、世界保健機関(WHO)重症インフルエンザ治療ガイドライン委員を務める菅谷憲夫氏(神奈川県警友会けいゆう病院感染制御センター、同院小児科参事)へのインタビューを紹介している。第2回は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と季節性インフルエンザ同時流行を見据えた検査体制について。(取材・まとめ:m3.com編集部・軸丸靖子)

「キット2つで同時に検査」が可能になった
 (省略)

検査控えの風潮一転、「感染症診療の基本」に立ち返る
 (省略)

「日本の対策は成功している」と誤解している人が多い
 現在の日本の人口あたりCOVID-19感染者数および死亡者数は、台湾、ベトナム、タイ、シンガポール、韓国といったアジア諸国よりもかなり高くなっています。中国をもとっくに上回ってしまいました。これらのアジア諸国は徹底的にPCR検査をやってきた国々です。日本のCOVID-19対策は成功しているとか、抑え込んでいるといったことは、とても言えない状況です。にもかかわらず、「日本の対策は成功している」と誤解している人が政治家を中心にして多いと感じています。
 マスクをはじめとする日本国民の自粛は、集団防衛、あるいは社会防衛としてかなり有効だとは思いますが、Go To トラベルやGo To イートをやり過ぎれば、この効果も消えてしまいます。

COVID-19変異ウイルス、D614Gの出現
 (省略)

偽陽性の問題は必ず解決する
 ――新しく可能になった検査で、懸念される点はありますか。
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 インフルエンザ迅速診断は、発症48時間以内に鼻咽頭から採取した検体を使えば、rt-PCRと比べても90%以上の感度がありますが、COVID-19抗原検査にはrt-PCR検査より感度が落ちるという問題があります。仮に「COVID-19抗原検査陰性」という結果であっても、状況や症状からCOVID-19が否定できない患者では、「やはりPCR検査も行いましょう」という判断を現場の医師がしなければなりません。COVID-19陽性者との濃厚接触歴があったり、高齢者である場合は、抗原検査の陰性結果で安心するのではなく、さらなる検査に進む必要があると考えています。
 もう一点、抗原検査については、偽陽性を指摘する声が若干あると聞いています。迅速診断キットですから「偽陰性」があることを臨床医はすべて十分承知していますが、「偽陽性」は困るのです。インフルエンザならまだしも、COVID-19での偽陽性は隔離の問題がありますから、できるだけ出てほしくありません。
 COVID-19抗原検査で偽陽性が出るというのは、当局からの要請もあって、おそらくは感度を無理に上げているためでしょう。今はまだ登場したてで、データが十分でないため致し方ない面はあります。インフルエンザの迅速診断キットも、そうした試行錯誤を経て信頼性を勝ち得てきました。抗原検査のキットもいずれ必ず最適値が見つかり、信頼できる検査になると考えています。
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コロナ禍で迫られる「命の選別」への処方せん [新型コロナウイルス]

コロナ禍で迫られる「命の選別」への処方せん ―リポート◎千葉大学医学部附属病院が非常時の対応策―【三和 護=編集委員】

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 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行拡大が続き、限りある医療資源が枯渇するという非常事態も念頭に置かなければならなくなった。「あの患者は助けるがこの患者は助けられない」。こうした命の選別を迫られるとき、医療者はどう対応すべきなのか──。この問いに答えるため、千葉大学医学部附属病院は組織を挙げた対応策を打ち立てた。
 2020年5月。日本医師会COVID-19有識者会議のウェブサイトに、「新型コロナウイルス診療におけるPOLST」と題する論文が掲載された。千葉大学医学部附属病院の医療安全管理学部教授の相馬孝博氏と千葉大学副学長の山本修一氏の連名による意見書だった。
 POLST(Physician Orders for Life Sustaining Treatment)とは、生命維持治療に関する医師の指示書のことだ。相馬氏によると、事前指示の実務経験を積み上げてきた米国で提唱された概念で、指示内容には心肺停止時に心肺蘇生をしないDo Not Attempt Resuscitation(DNAR)を包含している。
 意見書の趣旨は、COVID-19により医療資源がひっ迫すれば、命の選別を迫られる事態になりかねないとし、病院全体で対応するためPOLSTを柱とする検討プロセス案を議論している、というものだ。

命の選別の責任を組織で負う体制に
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 なぜ、新型コロナウイルス診療においてPOLSTが必要なのか──。
 「人工呼吸器などの医療機器や診療に携わる医療者も含め、医療資源が有限であることを大前提とすべきです」。こう話す相馬氏は、COVID-19の患者数がこのまま増え続ければ、医療資源が枯渇しかねないと懸念。「例えば、3月に英国Guardian紙に掲載された記事では、著者のPolly Toynbee氏が『誰を生かして誰を死なすのかという恐ろしい選択を迫られている』と、当時の英国の現状を赤裸々に語っていた。日本でも同じような状況になり得ると想定して、対策を練っておかなければならないと考えた」(相馬氏)。
 医療資源が枯渇した状況となれば、医療者は「どの患者の診療を優先すべきか」という非常に難しい判断を迫られる。「判断の結果は、誰もが納得できるものではないかもしれない。だが、少なくともできるだけの客観性と公平性は確保しなければならない。つまり、一部の医療者による恣意的なあるいは近視眼的な結論に陥らないよう、多角的な視点から議論しその記録を残すことが必須となる」(相馬氏)。
 また、「臨床倫理を検討する際は、医療者の生命、地位、道義的責任を守ることを前提にしなければならない」と語る相馬氏は、治療の最前線にいる医療者が命の選別を判断する責任を全て引き受けることはあってはならない、とも強調する。「病院幹部が承認することによって責任を引き受け、現場の医療者の負担を軽減しなければならない」。
 こうした議論の末にたどり着いたのがPOLSTであり、病院として具体的な運用指針を示すことだった。

命の選別を迫られた時に検討すべきプロセスを具体化
 「命の選別を迫られた際の検討プロセス」を具体化するため、千葉大学医学部附属病院では医療安全委員会の中にタスクチームを立ち上げた。医療安全はもとより、倫理的あるいは法律的な面からも議論を重ね、12月には「新型コロナウイルス感染症診療における非常事態時のPOLST運用手順書」をまとめ上げた。
 タスクチームを率いた同病院医療安全管理部副部長の宮内秀行氏は、「以下の大前提のもとにPOLST運用手順が実行される」と話す。
 「当院並びに地域の医療機関も含め、医療資源の確保に最大限務める。また、いかなる場合も、苦痛の緩和のためのケアは最大限行われるべきである」
 その上で、POLST運用手順を「通常COVID-19診療時」と「非常事態時におけるPOLSTを用いた診療体制の発動時」の2つのフェーズに分けたのが特徴と説明する。「非常事態時に備えるためには、通常時の対応も明示する必要があった」(宮内氏)からだ。
 通常時の対応では、「COVID-19重症患者の治療では、患者とその時の状況により、人工呼吸器やECMOによる治療が選択されないことがある」ことを、入院時に患者本人や重要他者(注1)に説明し、同意取得を行う。説明・同意には、入院時説明同意文書(表1)を用い、診療文書として取り込んだ後に原本を患者または重要他者に手渡しする、という段取りとした。
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 「非常事態時におけるPOLSTを用いた診療体制の発動時」のプロセスを示したのが表2だ。院内の医療資源の不足・枯渇状況に基づいて、非常事態時の診療体制に入ることを判断するのは、同病院の新型コロナウイルス感染症対策本部。その後、病院長が承認した上で、非常事態時の診療体制が発動となる。
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 非常時診療体制が発動されると、以下の5段階で進むことになる。
 まず、COVID-19診療チームカンファレンスの場で、POLST対象患者、つまり命の選別の対象となり得る患者を決定する。
 次に、主治医チームが非常事態時のPOLSTに沿って検討を進めることを患者、重要他者に説明し、症例シートを作成する。シートの作成は、臨床倫理で使われるJonsenの4分割表に沿いながら、医学的適応、患者の意向、QOL、周囲の状況の4つの領域から検討を進める。その結果、人工呼吸器やECMOによる治療が選択されない(あるいは継続しない)と判断された場合は、次の3段階目のステップへ進むことになる。
 3段階目では、主治医、入院病棟師長、感染症内科長または呼吸器内科長、新型コロナウイルス感染症対策本部の医師1人、支援チーム事務担当の4人以上からなるPOLST検討チームが症例検討シートの内容を評価し、検討結果文書を作成する。
 症例検討シートと検討結果文書が沿った段階で、4段階目に入る。この段階で、POLST検討チームは、症例検討シートと検討結果文書の内容を医療倫理委員会の委員長または副委員長に連絡し、内容の確認と承認を得ることになる。医療現場だけに、命の選別の判断を負わせないためのステップだ。
 そして5段階目として、患者または重要他者に対して、以上の検討内容および結果をもとに十分な説明を行い確認書にサインをもらう。確認書は診療文書として取り込み、原本は患者または重症他者に渡す。同時に診療録本文には「新型コロナウイルス感染症診療における非常事態時のPOLST運用の手順書に基づき人工呼吸管理またはECMOによる治療を行わない(継続しない)ことを検討・決定し、患者または重要他者に説明・署名を得た」などという記述も行う。
 命の選別が迫られた際、相馬氏は「多角的な視点から議論しその記録を残すことが必須」と語っていたが、できあがった運用手順書はこの考えを十分に反映している。

実際の運用には相談体制も必須
 今後の課題として宮内氏は、「この運用手順書は、医療資源が不足かあるいは枯渇する状況下において、COVID-19患者に限定して適用されるもの。今後は、COVID-19患者ではない患者、つまり入院患者全体に対する運用も検討しなければならない」と語る。COVID-19により医療体制がひっ迫すると当然、通常の医療にも影響が及んでしまうからだ。
 また、患者だけでなく、地域の住民からの相談にも十分に応えられる体制を整える必要もある。相談業務を担当する同病院地域医療推進部の竹内公一氏は、「治療の制限につながるという事態になると、相談が増えるのは目に見えている。不安や誤解などからクレームにつながる可能性も高く、十分な体制の整備は必須」と話す。具体的な対応については、現在も検討を重ねている最中だ。
 日本集中治療医学会は11月、委員会報告である「新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019、COVID-19)流行に際しての医療資源配分の観点からの治療の差し控え・中止についての提言」を発表した。コロナ禍であっても、治療の指し控えや中止を行う場合は、臨床倫理の原則を守りながら、医療資源を公正に配分するために適切な議論を経て行わなければならない、と訴えている。千葉大学医学部付属病院の取り組みは、この提言の趣旨に沿うものとなっている。命の選別という厳しい状況に陥った場合に備え、組織を挙げて対策に乗り出した千葉大学医学部附属病院が示した処方せんには、学ぶべき点が多いに違いない。
 なお、12月24日時点で、同病院は非常事態時の診療体制の発動には至っていない。


 詳細は、原文をご参照下さい。
 https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/report/t344/202012/568526.html
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人工呼吸器 理解し意思持つ必要 [人生の最終段階における医療・ケア]

2020年12月25日付朝日新聞「声」
人工呼吸器 理解し意思持つ必要(医師 笠間 睦  三重県 62)
 「誰に人工呼吸器 重い判断」(18日本紙)を読みました。新型コロナウイルスの感染が拡大すれば、人工呼吸器などの医療資源が不足する事態も起こり得ます。その際、治療の差し控えや中止の判断はどう行われるべきか。11月に日本集中治療医学会などが出した提言は、患者の意思に基づいて医療を進めることを基本としています。
 患者の意思に関してはここ数年、「人生の最終段階」で望む治療やケアを事前に話し合っておくことが推奨されてきました。高齢者などで新型コロナによる肺炎が急激に悪化して意思表示が困難となった場合、本人が過去の話し合いで示した意思が重視される可能性があります。
 ただ、人生の最終段階とはがん末期や老衰などを想定しており、コロナ肺炎を想定したものではなかったはずです。
 人工呼吸器は延命処置として装着する場合もありますが、コロナ肺炎での装着は、回復を目指す医療行為です。人生の最終段階での人工呼吸器を望まないと意思表示している人も、コロナ肺炎時の装着の意義について理解を深め、折に触れて再考することが肝要だと思います。
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関連サイト
1 「新型コロナウイルス感染症流行に際しての医療資源配分の観点からの治療の差し控え・中止についての提言」
 https://www.jsicm.org/pdf/covid-19_iryohaibun_27_27_509.pdf
 https://www.jsicm.org/news.html
2 人工呼吸器を誰に コロナ感染爆発時の治療判断で提言
 https://www.asahi.com/articles/ASND73TCLND3ULBJ010.html
3 人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン
 https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000197665.html
4 胃瘻造設数に関する調査
 https://mediva.co.jp/info/2019/03/post-3492.html
5 認知症患者の「最期の医療」、意思の確認に悩む現場(2016年5月23日付朝日新聞・フォーラム)
 https://www.asahi.com/articles/ASJ5M25WLJ5MUPQJ001.html
6 65歳以上で人工呼吸器を使用した新型コロナウイルス患者の生存率はわずか3%
 https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-04-23/Q97Z2PDWX2PU01
7 新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) 流行期において
 高齢者が最善の医療およびケアを受けるための日本老年医学会からの提言
  ─ACP実施のタイミングを考える─ 【2020年8月4日提言】
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 P9:「COVID-19のように急激に症状が悪化する場合、本人のみならず家族にとっても容易に方針を決定できない可能性もある。その際には、本人の ACP の情報を重視する必要がある。」
 https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/coronavirus/pdf/covid_teigen.pdf 
8 京都市の「事前指示書」は何が問題なのか
 病状と介護支援の説明もない事前指示書はありえない。
 「事前指示書を行政が用意することで、家族や社会に依存して生きている弱者は心理的圧力を受け、本当は書きたくないのに事前指示書に治療中止を希望する旨を書かされることになる」
 https://news.yahoo.co.jp/byline/satoshikodama/20170430-00070336/
9 人生の最期の医療を自分で選択するための4つのリンク(シニアガイド)
 「病院への入院や、老人ホームへの入所の際に『延命処置に関する意思確認書』や『終末期医療の事前指示書』という名前の書類への記入を求められることが増えてきました。
 …(中略)…
 このような書類が存在し、記入を求められるいうこと自体が、まだ、あまり知られていないのではないかと思います。」
 https://seniorguide.jp/article/1001604.html
 事前指示書.JPG
10 人生会議 ACP─東京都医師会
 「重い病気となり回復が期待できない場合に、命を長らえる処置が行われることがあります。食事ができなくなった場合に人工的な栄養補給として胃に管を通して栄養を入れる胃ろう、点滴で栄養を入れる静脈栄養法、また呼吸ができなくなった場合に人工呼吸器をつけるか、などいわゆる延命の処置があります。」
 「人生会議 ACP:事前指示書と異なる点は、事前指示書は自分の思いをあらかじめ提示しておくことが主なポイントですが、人生会議 ACPはご家族や医療やケアの担当者と話し合って確認するという行為が大事な点です。」
 https://www.tokyo.med.or.jp/citizen/acp
11 新型肺炎でイタリア医療崩壊「60代以上に人工呼吸器使わず」【Yahoo! Japan ニュース 3/11(水) 6:33配信】
 https://akasama.blog.ss-blog.jp/2020-03-11


「声」投稿に至った経緯
  『新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) 流行期において
 高齢者が最善の医療およびケアを受けるための日本老年医学会からの提言
  ─ACP実施のタイミングを考える─』
 https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/coronavirus/pdf/covid_teigen.pdf
 上記資料の9ページ目に以下の文面があります(提言2)。
 「COVID-19のように急激に症状が悪化する場合、本人のみならず家族にとっても容易に方針を決定できない可能性もある。その際には、本人の ACP の情報を重視する必要がある。」
 「容易に方針が決定できない場合には → 本人の ACP の情報を重視する」!
 注釈 ACP:厚生労働省は、終末期の患者が家族や医師と話し合って治療方針を決める「アドバンス・ケア・プランニング」(ACP)の国内普及を図っており、2018年11月30日に「人生会議」との愛称を発表した。

 「容易に方針が決定できない場合には → 本人の ACP の情報を重視する」!=そんなこと、意向表明当時に本人は想定していないでしょ!!って率直に驚きました。
 こんな大事なこと、国民抜きに勝手に決めて良いものなの??とも感じました。
 「人生の最終段階における医療・ケア」に対する意向が、COVID-19による肺炎にも流用されかねないことをいったいどれだけの方が知っているのでしょうか。
 確かに、高齢者の新型コロナ肺炎において、人工呼吸器を使用する状態に至っては、予後はかなり悪いのが現状です。でも、安易に「人生の最終段階」という位置づけにしてよいのでしょうか?
 ネット上に流れている情報で信頼性の高そうなデータを探してみますと、確かに、「65歳以上で人工呼吸器の使用を余儀なくされた患者の生存率はわずか3%だった」と記載されています(https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-04-23/Q97Z2PDWX2PU01)。ただ、全年齢でみても、「人工呼吸器の使用を余儀なくされた患者の致死率は88%」と記載されており、予後が悪いのは決して高齢者だけではありません。
 「人生の最終段階」に対する意向を、3%は助かるCOVID-19による肺炎にも適用するには、十分な国民的議論を尽くす必要があると私は感じました。
 少なくとも、「3%」という数字を呈示して、意向に変化はないのかどうかを確認することは必要不可欠です!
 https://www.facebook.com/atsushi.kasama.9/posts/1772224532947218
 多くの方に、私が感じた「人生の最終段階」に対する意向表明の問題点を伝える必要があるなと感じ「声」欄に投稿した次第です。


 今回の私の私見とは直接は関係ありませんが、医療情勢が逼迫してきている状況を伝える深刻なニュースが配信されましたのでご紹介致します。
関連ニュース(エムスリー・医療ニュースより)
 https://www.m3.com/news/general/854755
【大阪】陽性患者、転院先見つからず…呼吸不全で死亡(2020年12月15日配信・読売新聞)
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 胃ろうでの教訓、すなわち「胃ろうを選択しなかったデメリット」をきちんと伝えるということから、延命を望まないことから起こりうる事態も考える必要があるのかなと感じております。
投稿を終えて
 多くのメディアで、胃瘻についてネガティブなイメージが報じられ、すっかり「胃ろう=延命」というイメージが国民の中に定着した感があります。
 関連サイト4「胃瘻造設数に関する調査」(https://mediva.co.jp/info/2019/03/post-3492.html)を読まれると、胃瘻造設件数が減っている現状が分かると思います。
 しかし、胃瘻造設件数が減ったことで国民は自分が望んだ「人生の最終段階における医療・ケア」を受けられているのでしょうか。実際には、胃ろうを望まなかったことで「経鼻経管栄養」となっており喉に管が入っている違和感・苦痛から管の自己抜去を繰り返している方が大勢おられるのです。
 経鼻経管栄養の件数(推移)の全国的データはおそらく集計されていないと思いますが、『PEGバッシング』があってから、代わって経鼻胃管や PICCの件数が増えていることを指摘する論文『胃瘻バッシングの結果、起きたこと(西口幸雄:日本静脈経腸栄養学会雑誌 31(6):1225-1228:2016)』はネット上でも閲覧することができます。
 PEGが減ってEDが増加?!..JPG
 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspen/31/6/31_1225/_pdf
 また、2018年2月3日付朝日新聞総合5面には以下のような記述があります。
 「日本静脈経腸栄養学会が長期的な人工栄養の手法を全国の医師らに調査したところ、03年は胃ろうが71%で、経鼻栄養が24%だった。ところが14年、選択肢に中心静脈栄養も加えて同様の質問をすると、胃ろうは34%で、経鼻栄養が38%と逆転。中心静脈栄養も17%あった。調査の代表者の井上善文・大阪大特任教授は『消化管が使えるのに、中心静脈栄養が行われている可能性がある。感染症のリスクが大きく、コストも高いので問題だ』とみる。」
 https://www.facebook.com/atsushi.kasama.9/posts/908434872659526

 4週間以上の長期にわたり経腸栄養を施行する場合は、経皮内視鏡的胃瘻造設術(percutaneous endoscopic gastrostomy:PEG)が推奨されていることをこの機会に再認してくださいね。
静脈経腸栄養ガイドライン─第3版 より
①「中心静脈栄養法(TPN:total parenteral nutrition)においても、適切なエネルギー量が投与されれば、感染性合併症は増加しないとの見解もある。しかし、腸管を用いないこと(絶食など)により、小腸粘膜が萎縮し、それに伴って機械的なバリア機能が低下し、さらには免疫学的バリア機能の低下も招くことは多くの研究で証明されている。
 また、臨床における静脈栄養と経腸栄養の比較では、静脈栄養に比べて経腸栄養の方が感染性合併症発生頻度が低いことも事実である。その理由は、消化管内に栄養が投与されることにより、腸管粘膜のintegrityが維持され、機械的・免疫学的バリア機能が維持されるためと考えられる。特に、熱傷や重症急性膵炎などにおいてはこれらの利点のために早期経腸栄養法が推奨されている。したがって、理論的には、経腸栄養が禁忌で、静脈栄養の絶対適応とされるのは、汎発性腹膜炎、腸閉塞、難治性嘔吐、麻痺性イレウス、難治性下痢、活動性の消化管出血などに限定される。」(日本静脈経腸栄養学会編集:静脈経腸栄養ガイドライン─第3版 照林社, 東京, 2013, p15)
②「4週間以上の長期にわたる経腸栄養を施行する場合は経皮内視鏡的胃瘻造設術(percutaneous endoscopic gastrostomy:PEG)の適応であり、PEGを選択することを推奨する。」(日本静脈経腸栄養学会編集:静脈経腸栄養ガイドライン─第3版 照林社, 東京, 2013, p17)

 延命を希望せず「胃ろう」を受けなかったために、身体拘束されながら「経鼻経管栄養」を受ける状況を本当に本人は望んでいたのでしょうか?
 もう少しきめ細やかな説明がされるべきであると私は考えております。

 
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