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うつ病 NIRS 生活改善療法 [うつ病]

 2012年2月12日に放送されましたNHKスペシャル「ここまで来た! うつ病治療」(http://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20120212)の番組冒頭では、「うつ病は心の病気ではない。れっきとした脳の病気だ!」というナレーションが流れました。
 番組では、日本のうつ病診療においては、診断面で大きな進歩が出始めていることが紹介されました。それが光トポグラフィー(near-infrared spectroscopy;NIRS)という検査方法です。
 頭皮上から近赤外光を当てて、背外側前頭前野(dorsolateral prefrontal cortex;DLPFC)やその周辺の血液量の変化を測定し、うつ病かどうかを調べるのです。
 NIRSを用いることにより、「うつ病」と症状が似ている「双極性障害(そううつ病)」や「統合失調症」とを客観的に見分けられるようになってきており、誤診を防ぎ適切な治療につなげられると期待されています。うつ病と診断された患者の中に双極性障害の患者が41.4%も含まれていたという報告も紹介されました(Zimmermann P, Brückl T, Nocon A et al:Heterogeneity of DSM-IV major depressive disorder as a consequence of subthreshold bipolarity. Arch Gen Psychiatry Vol.66 1341-1352 2009)。この論文の抄録はウェブサイトにおいても閲覧可能です(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19996039)。番組においては、双極性障害の患者さんが抗うつ薬を服薬すると、気分の波が押し上げられ、危険な衝動に駆られることがあるという危険性も指摘されました。
 NIRSは、近赤外線の散乱光を用いて脳表面の血管の酸化・還元ヘモグロビン濃度を非侵襲的に計測することができ、空間分解能は2~3cmと低いものの、時間分解能は100msと他の脳血流評価法に比べて高く、神経活動による局所的な脳血流の変化を反映しているとされています(森田喜一郎、井上雅之、藤木 僚 他:認知症の早期発見と治療─精神生理学的検討. 臨牀と研究 Vol.89 1579-1583 2012)。
 NIRS検査は、精神科において2009年4月に「光トポグラフィー検査を用いたうつ症状の鑑別診断補助」として先進医療に承認され、2012年12月時点で全国19施設において実施されています(野田隆政:光トポグラフィによるうつ病診断. 医学のあゆみ Vol.244 425-431 2013)。
 NHKスペシャルにおいては、以下のような事例紹介もされました。
 吉岡明子さん(仮名)はある医療機関を受診した際に、「軽い認知症の疑いがある」と告げられ、さらに「治療法はないよ。認知症だから。」と説明を受け絶望的な気持ちになりました。しかしその後、NIRS検査を受けて「うつ病」という診断が下されます。正確な診断名がついたことで、吉岡さんはようやく自分自身の病気と正面から向き合えるようになっていきます。
 国立長寿医療研究センター内科総合診療部長の遠藤英俊先生は、近赤外光脳計測装置(http://www.an.shimadzu.co.jp/bio/nirs/nirs2.htm)を用いると頭皮から20mm程度の深さの大脳皮質の活動状態がリアルタイムにカラーマッピング表示されることを利用して、認知症患者が昔話をしたときの脳の活動状態を調べました。その結果、昔話をしているときは大脳皮質の活動状態が顕著に亢進したそうです。このような研究を通して遠藤英俊先生らは、オーダーメイドの認知症ケアの確立を目指しているそうです。

メモ:うつ病におけるNIRSの臨床応用(http://www.h.u-tokyo.ac.jp/vcms_lf/kokoro2.jpg
 「うつ病では、①言語流暢性課題開始直後からoxy-Hb賦活反応が速やかであるが、②賦活反応量は小さく、③賦活反応の重心値は言語流暢性課題の前半にある。
 双極性障害では、①言語流暢性課題開始後oxy-Hb賦活反応は緩やかで、②oxy-Hb賦活反応量はうつ病より大きく、③賦活反応の重心値は言語流暢性課題の後半にある。
 統合失調症では、①言語流暢性課題中の賦活反応量は少なく、②言語流暢性課題終了後に非効率的な賦活反応(再上昇)を示す。
 これまで研究としてしか行えなかった精神疾患についてのNIRS検査が、先進医療という形で、診療として行えるようになった。厚生労働省によると、先進医療の実施施設は2013年3月1日時点では21施設、2010年7月から2011年6月の1年間に実施された件数は703件であった。」(朴 盛弘、石田寿人、兼子幸一:Depressionの光トポグラフィー. 神経内科 Vol.79 42-49 2013)
 なお、2009年度に「光トポグラフィー検査を用いたうつ症状の鑑別診断補助」として先進医療に承認されました近赤外線スペクトロスコピー(near-infrared spectroscopy;NIRS)は、2014年度から「抑うつ症状の鑑別診断補助」のための光トポグラフィー検査として保険適用になっております。
 「精神疾患の補助診断のための光トポグラフィー検査」では、測定のためのプローブを頭に装着し、指定した頭文字で始まる単語を1分間でなるべく多く言うことを求める課題(言語流暢性課題)を用いて前側頭部を測定することで、うつ病、双極性障害、統合失調症それぞれの前頭葉機能の特徴を捉えることができます。検査に要する時間や手間は脳波検査より少なく、説明や準備の時間を含めて20分程度で実施することができる(福田正人:光トポグラフィー検査を用いた精神疾患診断. 日本医師会雑誌 第143巻 1020-1021 2014)。


 そして、2013年10月20日に放送されましたNHKスペシャル「病の起源・第3集 うつ病~防衛本能がもたらす宿命~」(http://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20131020)においては、うつ病のメカニズムについて詳しく解説されました。そして手術以外にも、生活を改善する治療法(生活改善療法)がうつ病治療に有用であることも分かってきたことが報道されました。
 5億2000万年前に誕生した私たち人類の遠い祖先「魚類」は天敵から身を守るために扁桃体を持つようになりました。天敵が近づくとストレスホルモンが分泌され全身の筋肉が活性化して素早く逃げられるような仕組みが体に備わったのです。
 その後、哺乳類が発達していくなかで、「孤独」「記憶」「言葉」が扁桃体を激しく活動させるようになります。実際の恐怖の記憶、そしてその恐怖の体験を他の人から言葉として聞いただけでも扁桃体の活動が活発になり、ストレスホルモンの過剰な分泌が続き脳の神経細胞がダメージを受け、うつ病が引き起こされてしまうのです。文明の発達がうつ病を引き起こしやすい状況を作ってしまったわけです。
 タンザニアの狩猟民族であるハッザ族にはうつ病がほとんど無いことが分かっております。ハッザ族は集めた食料を平等に分け合う生活をしております。こうした分け隔てのない平等な生活をうつ病治療に応用したのが生活改善療法(Therapeutic Lifestyle Change;TLC)なのです。TLCでは、地域活動に参加するなど社会的な結びつきを強めることを重視しており、他に「運動」「規則正しい生活」なども採り入れ、約7割の方において治療効果が認められているそうです。
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