SSブログ

認知症研究の最新動向(西澤正豊) [アルツハイマー病]

西澤.jpg

 西澤正豊先生(新潟大学脳研究所神経内科)が2016年2月号の『リハビリテーション医学』の【教育講座】に、「認知症研究の最新動向」というタイトルで寄稿されております。あまり目新しい記載は無かったものの、アルツハイマー病(Alzheimer's disease;AD)に対するインスリンの経鼻投与の具体的な投与量などが紹介されておりました。
 参考になりましたら幸いです。


認知症研究の最新動向
(冒頭省略)

予防介入検索研究
 いったん発症したADの脳機能を回復させることはきわめて困難と予想されるので、AD治療の目標は発症予防に向かっている。1990年代に盛んに行われたライフスタイル研究では、複数の調査に共通するAD群の危険因子として、(1)認知症の家族歴の存在、(2)意識消失を伴う頭部外傷の既往、(3)本を読まない、趣味が少ない、あまり運動をしないなど、精神的・社会的活動に不活発、消極的であること、(4)歯の喪失、(5)甲状腺機能低下症の合併などが挙げられている。食事、酒、喫煙、既往の疾患や服薬歴、居住地、職業、職業性曝露、家族構成、ペットの飼育などとの関連性は確認されていない。問題は、後ろ向き研究で確認されたこれらの生活習慣を前向きの介入試験によって改善した場合、認知機能の低下が予防できるか否かであり、現在さまざまな試験が行われている。
 AD発症予防のために、運動が有効であることはほぼ確立されている。たとえば、65歳以上の認知機能低下のない1,740人を対象として、散歩やジョギングなど15分以上の運動を行った場合と行わなかった場合を6年間追跡した結果では、週3回以上の運動を行った群では認知症の発症が有意に低下していたという5)。特に運動機能が低い場合ほど、運動効果が高いことも示されている。
 また環境の重要性を指摘する大変興味深い報告もある(図5)6)。ここで飼育されているのはヒトアミロイド前駆体遺伝子の変異体を導入され、ヒトAβが次第に蓄積するトランスジェニックマウスであり、飼育環境が通常のものか、「enrich」されたものかという点のみが異なっている。図5-bのような「豊かな」環境で飼育すると、図5-aの通常の飼育環境に比してAβの蓄積は約6割に減少し、これにさらに運動を加えると約2割まで減少したという。仮にAD発症の遺伝的な負荷をもっていても、環境の改善と運動の効果によって、ADの発症を大きく遅らせることが可能であることを示唆する結果である。ヒトでは具体的にどのような環境が望ましいのか、今後の研究の進展が大いに期待される。

糖尿病とAD
 …(中略)…
 インスリン受容体の脳内分布は、嗅球、視床下部、海馬、大脳皮質などで発現が高いことが明らかになっており、視床下部のインスリン受容体は食欲調節や末梢での糖代謝調節に、海馬のインスリン受容体はシナプス可塑性を介して学習記憶機能に関与するとされている。そこで、鼻腔粘膜を介したインスリンの脳内へのデリバリーが試みられている。健常者に160単位のインスリンを鼻腔内から投与すると、血糖値には影響せず、認知機能の向上が認められたという。さらにADに対して40単位のインスリンを経鼻投与すると、脳の糖代謝が改善し、併せて認知機能も改善したという報告もある9)10)。インスリンの経鼻投与が認知機能の改善に有効か否か、大規模試験の結果が待たれる。

まとめ
(省略)

文献
5)Larson EB, Wang L, Bowen JD, McCormick WC, Teri L, Crane P, Kukull W:Exercise is associated with reduced risk for incident dementia among persons 65 years of age and older.Ann Intern Med 2006;144:73-81
6)Lazarov O, Robinson J, Tang YP, Hairston IS, Korade-Mirnics Z, Lee VM, Hersh LB, Sapolsky RM, Mirnics K, Sisodia SS:Environmental enrichment reduces Abeta levels and amyloid deposition in transgenic mice.Cel1 2005;120:701-713
9)Craft S, Baker LD, Montine TJ, Minoshima S, Watson GS, Claxton A, Arbuckle M, Callaghan M, Tsai E, Plymate SR, Green PS, Leverenz J, Cross D, Gerton B:Intranasal insulin therapy for Alzheimer disease and amnestic mild cognitive impairment: a pilot clinical trial.Arch Neurol 2012;69:29-38
10)Claxton A, Baker LD, Hanson A, Trittschuh EH, Cholerton B, Morgan A, Callaghan M, Arbuckle M, Behl C, Craft S:Long-acting intranasal insulin detemir improves cognition for adults with mild cognitive impairment or early-stage Alzheimer's disease dementia.J Alzheimers Dis 2015;44:897-906
【西澤正豊:認知症研究の最新動向 Jpn J Rehabil Med Vol.53 No.2 152-157 2016】


P.S.
文献6の要約は以下にて閲覧できます。
 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15766532

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。