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ひょっとして認知症? PartⅡ 第115回『終末期への対応 認知症患者の胃ろう研究』 FASTstage [終末期医療]

ひょっとして認知症? PartⅡ 第115回『終末期への対応 認知症患者の胃ろう研究』(2013.4.19公開)

 さて、標準的には、終末期に栄養管理を行うことでどの程度の延命効果が期待できるのでしょうか。
 この点に関しては、日本医事新報の「時論」において以下のように報告されております(笠間 睦:事前指示書と終末期医療─療養病床転棟時における終末期意向の変化調査. 2011年2月19日発行日本医事新報No.4530 107-110 2011)。
 「高齢者終末期における栄養摂取方法と平均余命の関係を調査した西円山病院での検討結果によると(宮岸隆司:高齢者終末期における人工栄養に関する調査. 日本老年医学会雑誌 Vol.44 219-223 2007)、平均余命は、経管栄養選択症例では827±576日、中心静脈栄養選択症例(経管栄養から中心静脈栄養に変更した症例および中心静脈栄養のみの症例)では196±231日、人工栄養非選択症例(末梢静脈栄養)では60±40日であった。経管栄養の導入により、末梢からの点滴に比べて、平均的には767日(約2年1か月)程度延命できることをこの数字は示している 。」(一部改変)
 胃瘻造設931例を対象とした国内の全国調査(Suzuki Y, Tamez S, Murakami A et al:Survival of geriatric patients after percutaneous endoscopic gastrostomy in Japan. World J Gastroenterol Vol.16 5084-5091 2010)では、造設1年後の死亡率は34%、4分の1は1,647日以上生存し、海外と比べ日本では管理の質の高いことが示唆されております。しかしながらこのデータに関しては、「日本では比較的軽症の患者に胃瘻が作られている可能性がある。胃瘻を作ることにより生存期間が延びたかどうかについてはデータがない(胃瘻を作らないコントロール群の患者がいない)」(http://www.med.nagoya-cu.ac.jp/surg2.dir/decisionaid/gastrostomy/gastrostomy.html)という解釈上の問題点も指摘されております。
 このようにわが国では、胃瘻造設者の生命予後は、欧米より優れており欧米のデータに基づいて胃瘻の是非を論ずるべきではないとする意見(鈴木 裕:平成22年度老人保健事業推進費等補助金-老人保健健康増進等事業分 認知症患者の胃ろうガイドラインの作成 ―原疾患、重症度別の適応・不適応、見直し、中止に関する調査研究― 調査研究事業報告書)もあります(旭 俊臣、木檜 晃、畠山治子 他:認知症患者終末期医療ケアの課題. Dementia Japan Vol.27 27-36 2013)。
 国際医療福祉大学病院外科・鈴木裕教授の「認知症患者の胃ろうガイドラインの作成 ―原疾患、重症度別の適応・不適応、見直し、中止に関する調査研究― 調査研究事業報告書」は、ウェブサイト(http://www.peg.or.jp/news/research/h22_peg.pdf)においても閲覧可能であり、「日常生活自立度Ⅱの認知症患者に対して胃瘻が造設された場合、日常生活自立度の改善が25%に見られたのに対してⅢ/IV あるいはMであると、改善する確率は10%前後であった。このような生活の質の改善度に関するエビデンスは世界でも無く、本調査ではじめて判ったことである。また、認知症患者でも胃瘻造設により半数は2年以上生存しており、海外の報告と比較して日本人におけるその生命予後は著しく良いことも判った。」と記載されております。



「胃瘻などの経管栄養を行っても約1年で死に至ることが多い」は本当か?
 http://akasama.blog.so-net.ne.jp/2016-02-01-2
 
アルツハイマー型認知症の“末期”とは
 東京ふれあい医療生協梶原診療所在宅サポートセンター長の平原佐斗司医師は、アルツハイマー型認知症「末期の診断」に関して以下のように述べております。
 「嚥下反射は重度に入ると少しずつ低下しはじめますが、最終的には嚥下反射が消失します。この嚥下反射の消失を客観的方法で確認することで、末期の診断がなされます。末期と診断され、まったく経口摂取ができなくなってから、何もしなければ1~2週間、末梢輸液や皮下輸液だけを行うと2~3か月、胃瘻などの経管栄養を行っても約1年で死に至ることが多いと考えられています。」(平原佐斗司編著:認知症ステージアプローチ入門─早期診断、BPSDの対応から緩和ケアまで 中央法規, 東京, 2013, pp15-16)


「胃瘻などの経管栄養を行っても約1年で死に至ることが多い」は本当か?

FAST7:非常に高度の認知機能低下(高度のアルツハイマー病)
 7a:最大限約6語に限定された言語
 7b:理解し得る語彙はただ1つの単語となる
 7c:歩行能力の喪失
 7d:着座能力の喪失
 7e:笑う能力の喪失
 7f:昏迷および昏睡
FAST.jpg
 通常の経過であれば、FAST7c(歩行能力が失われる)の後で7dに至り、やがて「嚥下」が困難な状態となっていきます。
 一般的には、FASTステージ7f がアルツハイマー病(AD)末期の定義とされています(Reisberg B, Ferris SH, Anand R et al:Functional staging of dementia of the Alzheimer's type. Ann N Y Acad Sci Vol.435 481-483 1984)。
 榊原白鳳病院の私が担当する病棟で、終末期の状態に入って経鼻経管栄養を導入してから既に5年以上経過しているアルツハイマー病患者さんについて簡単にご紹介しましょう。

 2002年、患者さんは69歳の時に、とある有名病院にてアルツハイマー病と診断されました。
 一人暮らしが徐々に困難となり、2004年津市に在住する娘さんと同居するようになりました。その時から私が診療を担当しております。
 やがて、在宅介護が徐々に困難となり、施設に入所されました。熱心な介護施設でしたので、嚥下障害を起こしてからも懸命に経口摂取を続けてくれました。しかしそれもやがて限界を迎えます。
 FASTのステージ7e(笑う能力の喪失)の状況に陥ってしばらく経過したころ肺炎を併発され、2010年4月に榊原白鳳病院に入院となりました(当時77歳)。
 そして、ご家族と充分に話し合いを重ねた結果、経鼻経管栄養を導入することになりました。
 その頃の体重は36.0kg(BMI:18.1)、血清アルブミン値は2.8g/dlでした。
 ここで栄養指標についてちょっと復習しておきましょうね。栄養指標に関しては、「ひょっとして認知症? Part1─高齢者のその近未来を考える(第489~496回)」において詳しくお話しましたね。そのなかで、近未来の低栄養を予測するMini Nutritional Assessment-Short Form(MNA-SF)という指標についてもご紹介しました。MNA-SFにおいては、BMIが19未満は最も低いレベルの評価となります(高齢者の栄養スクリーニングツール─MNAガイドブック 医歯薬出版発行, 雨海照祥監修 編集/葛谷雅文、吉田貞夫、宮澤 靖, 東京, 2011, p23)。血清アルブミン値3g/dl以下も予後不良因子の一つです(同書, p28)。
 38×30mmの褥瘡(床ずれ)も生じました。しかし、経鼻経管栄養(1200kcal/日)を継続したところ、2010年12月に褥瘡は治癒しました。その時点での栄養状態は、体重42.1kg(BMI:21.2)、血清アルブミン値は3.4g/dlまで回復しておりました。
 FASTステージ7f(昏迷および昏睡)の状態がずっと続いておりますが、娘さんは以前と変わらずしばしば病棟に来られており、お母様の様子を看て行かれます。


P.S.
 この患者さんは、本日(2016.4.5)で、入院してからほぼ丸6年が経過しました。FAST7f(昏迷および昏睡)に入ってから6年が経過したのです。時々、肺炎は再燃するものの比較的落ち着いた状態で療養病床にて治療を続けられております。
 ご家族の率直な今の気持ちを聞いてみたいです。
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