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皮質下血管性認知症 認知症末期の定義は? [終末期医療]

高齢者のエンドオブライフケア解答.jpg
 「経口摂取困難」=「認知症末期」ということが前提となった設問/解答ですが、議論をよぶ部分でもありますね。
 と言いますのは、血管性認知症特に皮質下血管性認知症におきましては、「歩行障害や嚥下障害が早期から」発現することが指摘されておりますので、「早期」にも関わらず「経口摂取困難」という理由で、「認知症末期」と誤解されてしまい、安易に点滴を中止してしまうという状況が懸念されるからです。
 以下の冨本秀和先生の論文をお読み下さい。


皮質下血管性認知症認知症の診断と治療
要旨:
 皮質下血管性認知症(SVD)は比較的均質な臨床病理像を呈し,わが国の血管性認知症のおよそ半分を占める.広汎白質病変を特徴とするビンスワンガー型脳梗塞と多発ラクナ梗塞があるが,いずれも高血圧性小血管病変に起因する点で共通している.本稿では皮質下血管性認知症の概念,臨床症状とその発症機序,治療法について概説し,最後に近年話題になっているアルツハイマー病との関連や,鑑別診断について最新の知見を報告する.
(臨床神経2010;50:539-546)

4. 皮質下血管性認知症の臨床症状
 ビンスワンガー型脳梗塞を特徴づける白質病変に対し,その主要な危険因子として加齢,高血圧,糖尿病,喫煙,低教育歴などが指摘されてきた.臨床症状は大別すると,1)認知症,2)歩行障害,3)アパシー,抑うつなどの精神症状,4)めまいなどの非特異的神経症状がある.白質病変は軽度であれば無症状で経過するが,広汎になると症状の原因となる.白質病変に関連する認知機能障害は実行機能障害が主体であるが,前向き縦断研究では白質病変の進行がいちじるしい群ほど認知症の発症が有意に多かった.歩行障害についても,白質病変が高度なほど歩行障害の増悪傾向が強いことが示されている.
 ビンスワンガー型脳梗塞患者の多くは50~70 歳台に発症し,緩徐進行性または階段状の経過をとる.神経症状としては,ラクナ梗塞・白質病変の程度や分布に応じて,固縮・姿勢反射障害をともなうパーキンソニズム,偽性球麻痺,錐体路障害,失禁などがある.皮質下病変が主体であっても,けいれんをともなうばあいがある.健忘は比較的軽度であり,むしろ前頭葉機能を反映する実行機能障害や判断力の低下がめだつ.精神症状としては無為・抑うつ,自発性の低下などがある.高血圧はビンスワンガー型脳梗塞の大半の患者でみとめるが,縦断的にみると白質病変の進行期に血圧は低下し,受診時には血圧は正常のことがしばしばである.血圧の日内変動では,夜間の血圧低下が10mmHg 以下に留まるnon dipper が大部分を占める.血小板凝集能や凝固線溶能は亢進し,とくに脱水・感染症などにともなって凝固能が亢進するときに神経症状が増悪しやすい.典型例では末期に寝たきり状態となりやすく,その予後規定因子には脳卒中の合併,誤嚥性肺炎が挙げられる.歩行障害や嚥下障害が早期から発症するため寝たきりになりやすく,医療経済的にも問題となりやすい.
 【冨本秀和:皮質下血管性認知症認知症の診断と治療. 臨床神経 Vol.50 539-546 2010】

論文の全文は↓
 https://www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/050080539.pdf



 私も関連事項を「ひょっとして認知症-PartⅡ」において言及したことがあります。以下にご紹介します。

朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第21回 『認知症の代表的疾患─血管性認知症 血管性認知症の診断』(2013年1月4日公開)
 血管性認知症(Vascular dementia;VaD)は従来は脳血管性認知症と呼ばれることが多かったのですが、最近は血管性認知症と呼ばれるようになってきております。
 先ずは血管性認知症の診断についてお話しましょう。
 VaDの診断基準は、NINDS-AIREN(1993年)が代表的なものであり、脳血管障害発症後3カ月以内に認知症が出現することとなっております。しかし、日常診療の経験からは脳卒中後3カ月以内に認知症が出現する症例は少ないという印象を持っています。
 秋田県立脳血管研究センター神経内科の長田乾研究部長は、「脳卒中発症後3カ月以内に認知症が出現する場合は、脳卒中後認知症(post-stroke dementia)と診断され、典型的なVaDである」(長田 乾:血管性認知症の病態と診断. 日本医師会雑誌 第141巻・第3号 545-549 2012)と述べています。
 鳥取大学医学部保健学科生体制御学の浦上克哉教授は、「NINDS-AIRENの診断基準が汎用されているが、無症候のうちに脳血管障害を発症している例もあり、必ずしも3カ月という期間の設定は適切ではない。病変の部位と大きさが認知症の責任病巣として妥当かどうかの判断が重要である」(浦上克哉:血管性認知症. Medical Practice Vol.29 749-751 2012)と指摘しています。
 三重大学大学院医学系研究科神経病態内科学の冨本秀和教授は、VaDの分類と頻度に関して以下のように報告しております(冨本秀和:血管性認知症における症候学・画像診断学・生化学的バイオマーカー. 老年精神医学雑誌 Vol.23増刊号-Ⅰ 29-34 2012)。
①多発性梗塞性認知症(multi-infarct dementia;MID):
 MIDは大小の皮質・皮質下病変に起因するもので、病変の主座は大脳皮質領域にある。実際のところ、VaDのなかでMIDが占める割合は2~3割に過ぎない。
②認知症の発症に重要な部位の単一梗塞による認知症(strategic single infarct dementia):
 視床前核・背内側核、海馬、前脳基底部など、とくに優位側半球の記憶に重要な部位に生じた単一病変による認知症。VaDの数%を占める。
③小血管性認知症(small vessel disease with dementia):
 VaDの半数と最も多くを占める。皮質下と皮質に分布するものに分類され、前者は高血圧性小血管病変によって生じ、皮質下血管性認知症と呼称される。一方、皮質に分布する小血管病変はアミロイド血管症が代表的である。
 VaDには上記3病型の他に、心不全・低酸素などの脳低灌流によるもの、脳出血によるものなどがあります(田中 響、橋本 衛、池田 学:認知症. 臨牀と研究 Vol.89 1179-1184)。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第22回 『認知症の代表的疾患─血管性認知症 皮質下血管性認知症について』(2013年1月5日公開)
 皮質下血管性認知症は、皮質下領域に小梗塞が多発するタイプと神経線維の髄鞘が変性するタイプに分けられます(木村武実:BPSD─症例から学ぶ治療戦略 フジメディカル出版, 大阪, 2012, p24)。しかしながら、多発ラクナ梗塞(脳深部の直径1.5cm以下の小さな脳梗塞を「ラクナ梗塞」と呼びます)は多かれ少なかれ白質病変を伴っており、虚血性白質病変(ビンスワンガー型脳梗塞)との境界が不明であることから、最近では両者をまとめて皮質下血管性認知症(subcortical ischemic vascular dementia;SIVD)と称することも多くなっています。
 熊本大学大学院生命科学研究部脳機能病態学分野の池田学教授らは、「SIVDでは、皮質性血管性認知症の特徴である失語や麻痺のような局所神経症状は目立たず、歩行障害、尿失禁などの神経学的異常所見を共通して認める。前頭葉を中心とした神経ネットワーク障害が特徴であり、緩徐進行性の遂行機能障害を主症状とし、意欲低下や感情の不安定さを伴うことが多い。1/3は急性発症するが2/3は潜在性に発症し緩徐に進行する(福井俊哉:血管性認知症について. MEDICAL REHABILITATION Vol.91 21-33 2008)ことから、アルツハイマー病を代表とする変性型認知症との鑑別が必要となる。」と指摘しています(柏木宏子、橋本 衛、池田 学:前頭側頭葉変性症と脳血管性認知症の認知症症状. Mebio Vol.28 No.5 34-39 2011)。
 国立病院機構菊池病院の木村武実臨床研究部長も、皮質下血管性認知症においては、「記憶障害は軽度であり、実行機能・注意の障害、アパシー(意欲がなく、何事にも無関心になる)が目立ち、皮質下運動障害としてパーキンソン症状(震え、体が硬くなる、遅い動き、転びやすい)が認められます。血管病変が前頭葉にあると、前頭側頭葉変性症(FTLD)のような、易怒・攻撃性、暴力、脱抑制、アパシーなどの『認知症の行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia;BPSD)』が出現しますので、介護者の負担が高度になり、居宅介護が困難になります。VaDでは既述のようにアパシーが目立ちますが、これに対してドネペジル(商品名:アリセプト[レジスタードトレードマーク])、塩酸アマンタジン(商品名:シンメトレル[レジスタードトレードマーク])などの薬剤を使うと、精神症状が悪化することがしばしばありますので、これらの薬剤を使用する場合は、精神症状を綿密に評価する医療態勢をとらなければなりません。また、サアミオンもシンメトレルと同様にアパシーに使用され、シンメトレルほどではないものの、精神症状や易怒性をきたすことがあります。」(一部改変)と指摘しております(木村武実:BPSD─症例から学ぶ治療戦略 フジメディカル出版, 大阪, 2012, pp24-25,44)。

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 「皮質下血管性認知症(subcortical vascular dementia;SVD)の場合、高血圧や糖尿病などの脳卒中の危険因子を伴っている場合が多く、内服薬も複数処方されている場合が多い。しかし病気に対する深刻感がなく受診したがらず、服薬コンプライアンスも極めて悪い。一日中家の中でほとんど動かずに生活している場合でも、目立つ『問題行動』を示さないため、家族の中にも、深刻感が少なく『年のせい』で片付けてしまう場合がある。その結果、高血圧が悪化したり、脳卒中の再発作を生じたりと、悪循環に陥ってしまう場合がある。」(監修/松下正明 編著/粟田主一 著/目黒謙一:日常診療で出会う高齢者精神障害のみかた 中外医学社, 東京, 2011, pp229-234)

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 多発ラクナ梗塞性認知症(multiple subcortical lacunar strokes=lacunar state)は皮質下の小血管(small vessel)の閉塞によって生じる直径15mm未満の梗塞(ラクナ梗塞)が多発した状態である。
 Lacunar stateは半球の深部白質に10~15個の梗塞が生じたときに発症し、lacunar stateの患者は健常人に比べて認知症を4~12倍発症しやすいとの報告がある。
 Lacunar stateの経過をまとめたRopperらの報告によれば、6割の患者は認知機能障害がゆっくりと発症し、3割では急激に発症する。経過もゆっくりと進行し巣症状を呈するもの4割、呈しないもの4割、動揺性の経過を呈するものは2割とされている。
【佐々木貴浩、荒木信夫:多発脳梗塞に伴うdementia(multi-infarct dementia). 神経内科 Vol.80 49-56 2014】

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