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急増する認知症高齢者に対して、医師会はどう取り組むべきか [認知症]

急増する認知症高齢者に対して、医師会はどう取り組むべきか

 「急増する認知症高齢者に対して、医師会はどう取り組むべきか」との諸岡信裕代議員(茨城県)の質問に対して、鈴木邦彦常任理事は、かかりつけ医の果たす役割が重要になると指摘。「かかりつけ医には、最大の理解者として、患者が認知症と診断されても、日常の暮らしを大切にして、できるだけ社会と関わり続けながら、住み慣れた地域で穏やかに過ごしていけるよう、医療保険や介護保険のサービスに限らず、地域のさまざまな資源を活用して認知症患者を支えて欲しい」とした。
 更に、都道府県医師会に対しては、行政や医療・介護・福祉関係者と連携するとともに、日医かかりつけ医機能研修制度を活用することで、かかりつけ医の先生方を支援して欲しいと要望。日医としても、認知症施策の、推進に関わっていく中で、都道府県・都市区医師会を支援していきたいとした。
 【平成28年4月20日号日医ニュース第1311号 p3―個人質問1】

私の感想
 かかりつけ医の先生の認知症特にBPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia;BPSD=認知症の行動・心理症状)に対する対応能力は、一般的に(私が知る限り)かなり乏しいのが現状です! しっかり勉強する気持ち、認知症診療と向き合う気があるのか!と怒りたくなることもしばしばです。
 そんな時に私がかかりつけ医である主治医に「必ず読んで下さいよ」と言って勧めているのが『BPSD初期対応ガイドライン』です。2,000円+税金と安価ですし是非購入してお読み下さいね。


 『BPSD初期対応ガイドライン』にどのような内容が記載されているかを説明するために、私が朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」を連載していた際に、第743回 『つきまとい(シャドーイング)」への対応─作業療法もケアの一つ』(2015年1月24日公開)にて書いた内容を以下にご紹介します。

つきまとい(シャドーイング)」への対応─作業療法もケアの一つ
 話題を再び「つきまとい」に戻しましょう。
 独立行政法人国立長寿医療研究センターの服部英幸・行動心理療法部長は、「まとわりつき(つきまとい)の出現頻度は、軽度から中等度の認知症患者のうち67%に認められたという報告がある。不安を和らげる接し方の工夫をしたり、他の興味ある事柄(作業療法・レクリエーションなど)に参加してもらう」(服部英幸編集:BPSD初期対応ガイドライン ライフ・サイエンス, 東京, 2012, pp71-72,133)ことなどが直ちにできるケアであると報告しています。作業療法は、「つきまとい」だけではなく、繰り返す質問(Repetitive questioning;Godot症候群)にも効果があることが報告されております。
 服部英幸先生は、2012年10月4日に三重県津市に講演(第9回中勢認知症集談会)に来て下さいました。
 服部英幸先生が編集された著書『BPSD初期対応ガイドライン』においては、認知症の行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia;BPSD)に関して対応方法などが具体的に紹介されております。
 服部英幸先生は、著書のなかで、「行動異常」に対しては薬剤の効果が乏しいと述べております。以下にその部分をご紹介します。
 「BPSDはその名の通り精神症状と行動異常の2つの状態が混在している。この2つは単独で出現することも、複数が同時に出現することもある。精神症状にはみえないものがみえる、聞こえないはずのものが聞こえる、検査で異常がみつからない身体の痛みや異常な感覚などの幻覚や、真実でないことを真実であると思い込み、説得に応じない妄想などが含まれている。そのほかにうつ気分、易怒性など気分の変調も精神症状である。一方の行動異常には徘徊、常同行為のほかに、物をあてもなく集める濫集(らんしゅう)、便をつかむ弄便などが含まれている。この2つの違いは対応にも関連している。一般に、精神症状に属するものは薬物の効果が期待できるが、行動異常では効果が乏しく、非薬物療法が中心になる。」(服部英幸:BPSD初期対応ガイドライン ライフ・サイエンス, 東京, 2012, p28)
 服部英幸先生は、過活動症状BPSDに対する薬物療法の一般的傾向として、「精神症状には効果があるが、行動異常には効果が乏しい」ことを指摘したうえで、「ハロペリドールなどの定型抗精神病薬、リスペリドン・クエチアピンなどの非定型抗精神病薬ともに幻覚・妄想には効果的であるが、気分易変性や焦燥・不安には効果的でない。気分の変動が激しい例では、バルプロ酸のような気分安定剤を試してみる。心気的な訴えを繰り返す焦燥の強い例では、抗うつ薬が効果的で選択的セロトニン再取り込み阻害薬(Selective Serotonin Reuptake Inhibitors;SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(Serotonin&Noradrenaline Reuptake Inhibitors;SNRI)を試してみる。」(服部英幸編集:BPSD初期対応ガイドライン ライフ・サイエンス, 東京, 2012, pp30-31)と述べています。
 この点に関して、「認知症疾患治療ガイドライン2010」においては、どのような治療方針が推奨されているのでしょうか。
 CQ 3B-3の「認知症者の焦燥性興奮agitationに対する有効な薬物はあるか」という項目の要約を以下に抜粋してご紹介致します。
 「認知症者の焦燥性興奮を改善する目的では、非定型抗精神病薬であるリスペリドン、クエチアピン、オランザピン、アリピプラゾールの有効性が実証されており、その使用が推奨される(グレードB)。
 抗てんかん薬であるバルプロ酸、カルバマゼピンの有効性は報告されているが、科学的根拠は十分でなく、必要な場合には使用を考慮してもよい(グレードC1)。」(認知症疾患治療ガイドライン2010 医学書院発行, 日本神経学会監修, 東京, 2010, pp99-103)
 ですから、焦燥性興奮を呈している認知症患者さんに対しては、非定型抗精神病薬、バルプロ酸のような気分安定剤、SSRIなどを試行錯誤しながら投与してみるということになりますね。

メモ:Minds推奨グレード
 A:強い科学的根拠があり、行うよう強く勧められる。
 B:科学的根拠があり、行うよう勧められる。
 C1:科学的根拠がないが、行うよう勧められる。
 C2:科学的根拠がなく、行うよう勧められない。
 D:無効性あるいは害を示す科学的根拠があり、行わないよう勧められる。

 なお、砂川市立病院精神神経科の内海久美子部長も、BPSDやせん妄を呈する入院患者の場合、幻覚や抑うつ、不安などの心理症状に対しては薬物療法は比較的有効であったが、暴力や暴言、ルート抜去、大声、徘徊などの行動症状に対しての有効性は低かったと報告しています(内海久美子、白坂和彦:総合病院におけるBPSDへの対応と課題. 老年精神医学雑誌 Vol.18 1325-1332 2007)。
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