SSブログ

感情の記憶  ある日、森の中で熊さんに出会ったら・・ [記憶]

朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第655回『もの忘れを心配せず前向きに考える大切さ─残り続ける感情の記憶』(2014年10月28日公開)
 実は、認知症患者さんの方がむしろ感情が過敏であるという報告さえされているのです。『NHKためしてガッテン』(主婦と生活社発行 Vol.10春号 28 2011)には、以下のような記載があります。
 「アルツハイマー病の人は健康な人よりも、脳の中の感情をつかさどる扁桃体(Amygdala)の反応性が高く、感情が敏感になっている。」(Wright CI, Dickerson BC, Feczko E et al:A functional magnetic resonance imaging study of amygdala responses to human faces in aging and mild Alzheimer's disease. Biol Psychiatry Vol.62 1388-1395 2007)
 伊古田俊夫医師(脳神経外科学会専門医)は、情動記憶とノルアドレナリンの関係について以下のように述べております(一部改変)。
 「認知症においても、情動記憶(感覚の記憶)は最後まで残り続けることが特徴である。認知症の人は、自分を邪険にあつかう人の顔や名前は覚えられなくても、その人の足音や声の雰囲気などから存在を察知し、おびえることがある。反対に、自分を心地よく介護してくれる人のことも、感覚的に記憶していることがある。
 感情を揺さぶられるような情動刺激の強い出来事が起こると、扁桃体でのノルアドレナリン(神経伝達物質)の濃度が高まり、海馬における記憶定着の情報伝達が強く、速くなると考えられているのだ。
 災害や犯罪などに巻き込まれ、恐ろしい体験をした後に起きる『心的外傷後ストレス障害(PTSD)』は、恐ろしい記憶が過度に強く定着したために発生する精神的障害である。恐ろしい体験がフラッシュバックしてよみがえり、激しい動悸や発汗、悪夢や睡眠障害などが生じる。
 ノルアドレナリンの作用を抑える薬の早期投与で、PTSDを発症しにくくすることができるという研究報告がある。ノルアドレナリンが、記憶定着の強さに関わっていることを物語る事実である。」(伊古田俊夫:脳からみた認知症─不安を取り除き、介護の負担を軽くする 講談社, 東京, 2012, pp94-95)
 これまでに幾度か「ひょっとして認知症?」においてご紹介してきましたユマニチュード(http://apital.asahi.com/article/kasama/2014041000020.html)の手法におきましては、出会いから別れまでに5つのステップがあります。
 第1のステップ:出会いの準備
 第2のステップ:ケアの準備
 第3のステップ:知覚の連結
 第4のステップ:感情の固定
 第5のステップ:再会の約束
 この第4のステップである感情の固定においては、認知症が進行した状態においても感情記憶が保たれていることが応用されています。感情の固定により、気持ちよくケアができたことを患者さんの記憶にしっかりと残し、次回のケアにつなげることができるのです。
 国立病院機構東京医療センター総合内科医長の本田美和子医師らは、ケアやお互いの体験がポジティブなものであったことを言葉で明確に表現して、お互いの「絆」を確認することで、「つい先ほど行ったケアの価値を高めることができ、この人は嫌なことをしない、この人とはよい時間が過ごせるんだということを感情記憶にしっかりと残すことができる」(本田美和子、イヴ・ジネスト、ロゼット・マレスコッティ:ユマニチュード入門 医学書院, 東京, 2014, pp124-125)と指摘しております。

Facebookコメント
 納家勇治先生(Center for Neural Science, NewYork University)は、記憶の修飾に関して非常に印象的なコメントを語っています(村上郁也:イラストレクチャー 認知神経科学 ─心理学と脳科学が解くこころの仕組み─ オーム社, 東京, 2011, pp154-155)。
 「努力しても忘れてしまう記憶もあれば、その気はなくても忘れられない記憶もある。たとえば、ある日、森の中で熊に出会ったら、まず忘れることはない。これはなぜであろうか。記憶が強烈だから。この場合の強烈とは覚醒状態に入ることで、生理的にはアドレナリンの血中濃度があがり心拍数や血糖値が上昇することである。アドレナリンは闘争または逃走にそなえる身体的コンディションだけでなく、記憶修飾システムを介して記憶貯蔵の強度にも影響を与える。この記憶修飾システムは貯蔵のためのシステムとは独立して存在し、その中枢は扁桃体の外核と基底核からなる領域とされる。」
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。