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認知症の解明、予防薬研究 DIAN(ダイアン)

認知症の解明、予防薬研究
 原因遺伝子持つ人に協力呼びかけ
 
 認知症の治療法開発を目指す大阪市大、東大などの研究チームが、認知症の原因遺伝子を持つ人に対し、研究への参加を呼びかけ始めた。発症前から脳の状態などを調べ、発症の仕組みを解明して予防薬の開発につなげる。
 厚生労働省の推計では、国内の認知症高齢者は約500万人で、このうち7割程度がアルツハイマー型とされる。その一部は、「家族性アルツハイマー病」といい、変異した遺伝子が原因だ。原因遺伝子がないアルツハイマーは大半が70歳代以降に発症するのに対し、家族性は40~50歳代の発症が多い。研究チームの2013年年度の調査で、国内に原因遺伝子を持つ家系が少なくとも434あり、987人の患者がいることがわかっているが、具体的な所在までは把握できていない。
 研究チームが協力を求めるのは、家族性の認知症の人が親族にいて、自らも同じ遺伝子を持つ可能性がある未発症者。当面、30人以上の協力者の登録を目指す。陽電子放射断層撮影(PET)による脳画像撮影や血液検査、認知機能テストなどを行い、1~2年ごとに変化を観察。希望者は新しい治療薬の治験に参加することもできる。米国を中心とする国際研究プロジェクト「DIAN(ダイアン)」の一環で、各国と研究成果を共有していく。
 アルツハイマーが発症する仕組みは、不明な点が多い。原因遺伝子を持っている人は、親が発症したのと同じ年代で発症することが分かっており、症状が表れるまでの過程を明らかにすれば、アルツハイマー全体の発症を防ぐ手がかりになると期待されている。
 研究チーム代表の森啓・大阪市大特任教授は、「研究成果は、自分や子孫だけでなく、認知症になる可能性のある人全てのためになる。ぜひ協力をお願いしたい」と話している。問い合わせは、無料の専用ダイヤル(0120・342・605、平日の午前10時~午後5時)。
 【2016年5月22日付讀賣新聞・くらし】

私の感想
 米国を中心とする国際研究プロジェクト「DIAN(ダイアン)」については、以前私が連載しておりました朝日新聞社アピタルの医療ブログ「ひょっとして認知症?」において要点を解説しておりますので以下にご紹介致します。

朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第94回『アルツハイマー病の治療薬 アルツハイマー病が発症する前に診断される状態がある』(2013年3月29日公開)
 ではいったいアルツハイマー病を発症する何年ほど前に、「Preclinical AD」と診断される可能性があるのでしょうか。
 2012年9月10日発行の日経メディカル2012年9月号特別編集版は、2012年7月にカナダのバンクーバーで開催された国際アルツハイマー病会議(AAIC2012)において、以下のような報告があったと伝えています(友吉由紀子:ここまで分かったアルツハイマー病. 日経メディカル2012年9月号特別編集版 6-10 2012)。
 「Washington UniversityのRandall Bateman氏は、発症年齢が推定できる家族性AD患者のデータを分析し、発症に至るまでの脳病理の変化を時系列で示した。脳内アミロイドベータ(Aβ)の蓄積がPETで確認できるのは発症15年前からである。脳脊髄液Aβ42は、発症の約25年前、非キャリア群に比べて高値を示していたキャリア群の脳脊髄液Aβ42が減少し始め、発症10年前には非キャリア群よりも有意に低値となっている。今回の結果をそのまま遅発性のADに当てはめることはできないが、Aβ蓄積がPETで検出される時期よりももっと早く、約25年前には脳脊髄液を用いて病気の進行をキャッチできる可能性も出てきたわけだ。」(一部改変)

 アセチルコリンは、AD患者の脳内で低下している神経伝達物質の一つです。アセチルコリンエステラーゼとは、アセチルコリンを分解する酵素です。アセチルコリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)は、アセチルコリンエステラーゼの働きを阻害するため、結果として、脳内のアセチルコリンが分解されにくくなります。それにより脳が活性化していくのです。ADの治療には、このアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(AChEI)が主として用いられています。しかし、これは対症療法であり、病気の進行を根本的に食い止める根治療法ではありません。
 アセチルコリンの作用については、クリスティーン・ブライデンさんが著書のなかで分かりやすく解説しておりますので以下にご紹介しましょう(一部改変)。
 「アセチルコリンは脳内の化学伝達物質で、ニューロンの働きを活性化し、ニューロン間の伝達を促すものだ。基本的に脳の中のアセチルコリンが多いほど、受信状態はよくなる。アルツハイマー病などの認知症ではアセチルコリンが不足しがちになるため、脳の働きが遅くなり、頭の中は『霧の中』にいるような感じになる。」(クリスティーン・ブライデン:私は私になっていく─痴呆とダンスを 馬籠久美子・桧垣陽子訳, クリエイツかもがわ, 2004, p15)
 クリスティーンさんは、1995年に46歳の若さでアルツハイマー病と診断され、1995年10月より当時発売されていたアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(AChEI)であるタクリン(1993年に発売開始となった世界初のアルツハイマー病治療薬:肝機能障害の副作用が強く、日本では臨床治験が実施されていません)の服薬を始めました。クリスティーンさんは、その効果について「それから数か月すると、私の頭は霧が晴れたようになり、診断によるトラウマとなんとか向き合う余裕が出てきた」(クリスティーン・ブライデン:私は私になっていく─痴呆とダンスを 馬籠久美子・桧垣陽子訳, クリエイツかもがわ, 2004, p113)と述べています。
 その後、クリスティーンさんは、1998年に前頭側頭型認知症と再診断されております。
 なお、国立病院機構菊池病院の室伏君士名誉院長は、「アルツハイマー病の老化の脳変性過程とは異なる前頭側頭葉変性症へのAChEIの投与については、BPSD(認知症の行動・心理症状)が悪化することも多いと指摘されており留意すべきであろう」(一部改変)と注意を呼びかけています(木村武実:BPSD─症例から学ぶ治療戦略 フジメディカル出版, 大阪, 2012, p3)。

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DIAN(Dominantly Inherited Alzheimer Network)【嶋田裕之:DIAN研究. BRAIN and NERVE Vol.65 1179-1184 2013】:
 「DIANとはdominantly inherited Alzheimer networkの略であり、大意としては優性遺伝性のアルツハイマー病の両親を持つ子どもたちを対象としたネットワークである。すなわち本研究では彼らに発症前段階からネットワークに登録してもらい、種々のバイオマーカーを計測し、発症までの時間とそれらのバイオマーカーを比較検討したものである。その結果、遺伝性アルツハイマー病患者の発症30年前からのバイオマーカーの変化が明らかとなった。現在はそれらのバイオマーカーの変化が孤発性アルツハイマー病の患者の脳内においても同様に起こっているのではないかと推測されている。
 本研究を主導するのはワシントン大学のモリス教授であり、米国国内で7つの施設のほか、英国、オーストラリア、ドイツの施設を加え、合計12の研究機関が参加している。
 このネットワークの対象となる患者は、優性遺伝性の家族性アルツハイマー病を起こす遺伝子変異を持つ親の成人した子どもである(エントリー基準では18歳以上)。参加したときに種々の検査を受け、以後3年ごとに検査を継続して受けてもらうこととなっている。今回発表されたのは2009~2011年に研究参加時に行われる最初の検査を終了した128名の結果である。遺伝子変異の内訳は、PSEN1に変異を有する家系が40家系、PSEN2変異が3家系、APP変異は8家系であった。88名がいずれかの遺伝子変異を有するキャリアであり、40名は遺伝子変異を有さない非キャリアであった。キャリアのうちほぼ半数が無症状であった。
 髄液検査におけるキャリア群の特徴として、タウのレベルは症状が出現すると予想される15年前から増加し始め、一方、Aβ42の濃度は症状が出現すると予想されるときまで経過とともに低下した。しかしAβ42濃度の推移で注目すべきは、当初はむしろ高値を示し、約20年前の時点で見かけ上正常化し、その後さらに低下していることである。この『高値』はAPI研究でも認められている。
 本論文(Bateman RJ, Xiong C, Benzinger TL et al:Clinical and biomarker changes in dominantly inherited Alzheimer's disease. N Engl J Med Vol.367 795-804 2012)の発表後もDIAN研究への登録者は増加し、2012年秋の時点で290人が参加している。そのうち215人は無症候であるという。将来は400例の登録を目標としているという。なお、本論文発表以降、DIAN研究は当初の観察研究から、新たな薬剤介入研究へと進められることが決められた。」(一部改変)

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 「基本的にDIANは観察研究であるが、治験であるDIAN-TTU(またはDIAN-TU)とは連続・融合した活動である。

5.6 DIAN Neuropathology Coreの活動(Dr. Cairns)
 DIAN研究に参加されている被験者が亡くなったときの剖検検索を担当する。現在までに、12例の剖検が行われている。12例の中で、アルツハイマー病の病理所見に加え、レビー小体病理を合併する症例が少なくない。興味深いことに、それらの症例において生前、パーキンソン徴候は認められていないことが多い。剖検はADNIと同じプロトコールで行われる。DIAN研究の参加登録者(被験者)のうち85%の方から剖検の生前同意が得られており、病理検索の重要性についても十分認識されていることがうかがえる。」(森 啓、東海林幹夫、池田将樹、池内 健、岩坪 威、嶋田裕之:Dominantly Inherited Alzheimer's Network(DIAN)研究について. Dementia Japan Vol.28 116-126 2014)

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 アミロイドベータ(Aβ)の採血検査が実用化するのでしょうか?
 今まで報告されているのは髄液検査の有用性なのですが…・

 アルツハイマー、血液一滴で診断 愛知の研究チーム開発(2014年1月22日付朝日新聞・社会面)

P.S.
血液バイオマーカー
 「ここまで主として、髄液バイオマーカーについて述べてきたが、血液バイオマーカーは髄液よりも非侵襲的で簡便であるという利点がある。しかし、血液中の種々の分子がどの程度直接的にAD脳の病理変化と関連があるのかがほとんどわかっていないために、ADの血液バイオマーカーの探索は主に髄液での有用性が報告されているAβあるいはtau関連バイオマーカーを血液中で検討することから始まっている。しかし、血漿中のバイオマーカーに関しては報告によって結果に矛盾点があり、いまだ確定的なものとはいいがたい。」(徳田隆彦:アルツハイマー病の新診断基準とバイオマーカー. 内科 Vol.109 834-839 2012)

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 2014年1月19日に放送されましたNHKスペシャル「アルツハイマー病をくい止めろ!」(http://www.nhk.or.jp/special/detail/2014/0119/)におきましては、DIAN(ダイアン)研究の詳細も紹介されましたね。
 アミロイドβの沈着は、アルツハイマー病発症の25年も前!であることも分かりやすく紹介されました。
 そして番組においては、アルツハイマー病予防として「運動」の重要性が強調されました。非常に興味深い番組でした。

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 「米国オクラホマ州グローブ。湖に面した人口約6600人の町で暮らすブレント・ホイットニーさん(34)は2011年、32歳で家族性アルツハイマー病の遺伝子検査を受けた。検査結果は『陽性』。電話口でそう告げられ、職場の外で泣き崩れた。
 病因となる遺伝子を持つ人は、親が認知症になった時期とはぼ同じ年齢で発症するとされている。ブレントさんの祖母が発症後、亡くなったのは55歳。父は48歳で発症、55歳で亡くなった。そこから数えれば、症状が出るまでに自分に残された時間はほぼ15年……。ブレントさんには自分の血をひく13歳の息子と11歳の娘がいる。『残された時間で家族のために何かできるのか、そればかり考えるようになりました』
 …(中略)…
 ブレントさんの叔父、ダグラス・ホイットニーさん(63)は当時10歳だった。皆、なぜ親戚の多くが若くして脳の病気になるのか分からなかった。この時は、誰かがいなくなってしまう前に全員で写真を撮ろうとした気がする」と振り返る。この後多くの人が発症、再び全員で集まることはなかった。
 重い運命も影響して疎遠になりつつあった親族は、家族性アルツハイマー病に焦点をあてたDIAN研究のことを伝え合い、再び連絡を取り始めている。
 ブレントさんに研究参加を呼び掛けたのもダグラスさんだ。13年夏には、数十人の親族で集まる予定だという。
 こうした家族の協力について、DIAN研究を統括するワシントン大のジョン・モリス教授(65)は『DIANに参加する極めてまれな家族たちが、研究者にとって非常に力強い存在となっている』と強調する。「アルツハイマーは複雑な病気だ。研究を始めて30年間、何度も落胆を味わってきたが、今最もやりがいがある時期を迎えている』と力を込めた。」(読売新聞「認知症」取材班:認知症 明日へのヒント─800万人時代を共に生きる 中央公論新社, 東京, 2014, pp42-46)
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