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痴呆から認知症へ

朝日新聞アスパラクラブ「ひょっとして認知症-PartⅠ」第423回『■「ぼけ」って何でしょうね(その2) 「認知症」って言葉は不適切では?』
 シリーズ第73回『シリーズ・高次脳機能障害を学ぶ その2』においては、認知症と間違われやすい高次脳機能障害に関しても言及しましたね。一部再掲します。
 「主幹動脈の閉塞により失語・失行・失認などの複数の認知機能が障害されている場合は、広義には認知症の定義を満たすが、脳血管性認知症というよりはむしろ『脳梗塞による後遺障害』とすべきである。」

 シリーズ第197回『認知症の症状を正しく伝える』のコメント欄において、岩田誠先生という高名な神経内科医が「認知症」という漢字の使用法が不適切であると指摘している話をご紹介しましたね。その部分を以下に再掲します。
 「従来使用されてきた『痴呆』という差別的な用語に替えてdementiaを認知症と呼ぶようになってから時間が経ち、一般社会においては認知症という用語が使用されるようになっているが、認知症という語が、日本語における漢字の使用法としては、はなはだ不適切であるということ、および、漢字を生み出した中国語使用者においても、認知症という用語に違和感があることは、すでに筆者が指摘してきた通りである。このような理由から、筆者は、一般の人々を対象とする講演や著作においては、誤解を避けるために認知症という語を使用しているが、医師を含む医療従事者を対象とする著作においては、認知症という語を用いず、デメンチアという用語を使用することにしている。」(岩田誠:デメンチアの脳科学. 綜合臨牀 Vol.60 1792-1796 2011)

 使用法としてどこが不適切であるのかを、仁明会精神衛生研究所(http://www.j-ccp.jp/inst/)の三好功峰所長が分かりやすく解説しておりますのでご紹介しましょう。
 「認知症の中核症状は、認知障害である。その意味で『認知』を含む用語が『痴呆』にかわるものとして提案されたのは適切であったかと思われる。ただ、病名として『XX症』と呼ばれるときには、『感染症』、『高血圧症』、『甲状腺機能亢進症』といったように、語幹に、それ自体、異常・病態を示す言葉が用いられていることが多い。そのため『認知症』という命名に多少の違和感を感じた向きもあったかと思われる。ただ、例外的に『神経症』や『心身症』などのように、それ自体は障害を意味しない言葉の語尾に『症』とつけて、その障害を意味するという病名のつけ方は確かにある。これは語感の問題であり、このような命名の仕方が間違いであるとまでは、いえない。実際、『認知症』という言葉になじむに従って違和感は失われていった。今日では、医学的な用語として定着したように思われる。」(三好功峰:「痴呆」から「認知症」へ. Medical Practice Vol.29 708-712 2012)

 シリーズ第233回『【復習】認知症とアルツハイマー病の違いは?(下)』においても述べましたように、認知症とは、「後天的な脳の器質的障害により、いったん正常に発達した知能が低下し、知的機能障害のために、日常生活や社会生活に支障を生じてくる状態」と定義されています。
そしてその認知症を引き起こした原因疾患によって、アルツハイマー病(Alzheimer's disease;AD)、脳血管性認知症(Vascular dementia;VaD)、レビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies;DLB)などに分類されます。認知症の3大原因と言えば、このAD、VaD、DLBでしたね。


朝日新聞アスパラクラブ「ひょっとして認知症-PartⅠ」第424回『■「ぼけ」って何でしょうね(その3) 認知症の原因となる疾患』
 シリーズ第180回『認知症の最大のリスクは?』において、認知症の最新の疫学データについてご紹介しましたね。筑波大学臨床医学系精神医学の朝田隆教授の報告によると、認知症の基礎疾患は、ADが67.4%、VaDが18.9%、DLB/PDDが4.6%となっており(Medical ASAHI 2011 August 19-20)、上位3疾患で認知症全体の約9割を占めることが分かりますね。
 そしてシリーズ第107回『ケーススタディ・認知症と長寿社会(笑顔を取り戻したい)』のメモにて述べましたように、ADとVaDが並存しているような「混合型認知症」はかなり多く認められます。診断名に、「混合型認知症」と記載しても構わないのですが、ADとVaDの並存ではなくVaDとDLBが並存しているようなタイプの「混合型認知症」もありますので、誤解を受けやすい表現となります。因みに、前述の朝田隆教授の報告によると、複数疾患が原因となっている認知症は4.2%とされております。
 ところで先程、さりげなくDLB/PDDという表現を用いましたが、PDDって何のことか分かりますか?
 実は、この「ひょっとして認知症?」において過去に一度だけ登場したことがある略語なのです。もし覚えておられたら、相当なブログ通ということになりますね。その一度とは、私の感性ではこのブログ史上最も印象的なタイトルであるシリーズ第17回『矢吹丈の認知障害』です。PDD(Parkinson disease dementia)とは、「認知症を伴うパーキンソン病」でしたね。
 このPDDについてごく最近、詳細な報告がありましたので、一部抜粋してご紹介します(和田健二、中島健二:神経内科におけるMCI. 認知症の最新医療 Vol.2 76-82 2012)。
 「PDDの正確な頻度は不明であるが、系統的レビューでは横断的におよそ30%のPD患者で認知症を有すると報告されている。これは全認知症の3.6%に相当し、PD(Parkinson disease)患者における認知症発症率は健常者の4~6倍である。期間有病率の検討ではPD診断5年後で28%、15年後で48%、20年後で83%が認知症を発症するという報告がある。」
 パーキンソン病に関する詳細は、難病情報センターのウェブサイト(http://www.nanbyou.or.jp/entry/314)に記載されておりますのでご参照下さい。


朝日新聞アスパラクラブ「ひょっとして認知症-PartⅠ」第425回『■「ぼけ」って何でしょうね(その4) 「ぼけ」という用語が意味するところ』
 さて話を認知症という用語の問題に戻しましょう。
 神戸学院大学大学院人文学部人間心理学科の博野信次教授(神経内科医)は、「Sachdev(Sachdev P,2000)は、認知症という用語の問題点を指摘し、この語を廃絶し、アルツハイマー病などの疾患名を使用すべきであるとまで極言している。」という指摘もあることを紹介しています(博野信次:臨床認知症学入門─正しい診療・正しいリハビリテーションとケア 金芳堂, 京都, 2009, p17)。
 以前私が勤務していた病院において、私がカルテの診断名の欄に「認知症」と書いたのを見つけた同僚医師から言われたひと言は今も印象深く残っております。
 「笠間先生でも、『認知症』って病名をつけることがあるんですね。」
 典型的なアルツハイマー病ではなかったため診断に迷い、「認知症」としたわけですが、そこを見事に突っ込まれた状況でした。
 お笑い(漫才)の世界では、ボケとツッコミのどちらが重要か?なんてな議論も話題になりますね。余談はさておき、このブログではきちんと「ぼけ(呆け)」に関しても説明したいと思います。
 「ぼけ」と「認知症」(かつての「痴呆」)は同義語とも考えられています。しかし、「ぼけ」という用語はグレーゾーンにある状態を指しているという指摘もあります。
 「1954年に精神医学研究家の新福尚武氏は、老人の生活実態と、知能テストの成績からグループ分けを行い、テストの成績では認知症に属するが、面接所見や日常生活などからは認知症とは判断しにくいグループが存在することを認め、これを『ぼけ』と分類することを提唱した。」(2005年2月号日経メディカル・オピニオン)
 平成3年10月19日付日本医事新報No.3521より引用された少々古い資料ですが、厚生労働省内のサイト(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/09/dl/s0901-3a2.pdf)には、「呆け」という言葉の語源に関して考察した資料もみられます。以下に抜粋致します。
 「『ぼけ』と云う用語はもともと通俗語であるため、人によって多様な意味に使用されている。『ぼけ老人』という場合は痴呆をもつ老人と同義であり、健康な老人の体験する『もの忘れ』と、『痴呆』の中間を指す学者もいる。最近は、むしろ広く高齢者の著明なもの忘れを意味し、『痴呆』を含んだ広い概念として使う人が多いが、厳密な用語とは云えないので、なるべく使用しない方がよい」
 なお、「痴呆」という呼称が「認知症」に変更されたのは、平成16(2004)年12月24日http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/12/s1224-17.html)のことです。


スウェーデン、日本新生
投稿者:笠間 睦 投稿日時:12/06/03 10:36
 今朝の紙面の「ザ・コラム」に書かれていた「上級階級サファリ」を取り上げた記事は興味深い内容でしたね。
 キーワードは、「福祉国家が安心感を生み、経済活動を支えている」「どんどん長生きになれば、いずれ人々は気づく。このままでは、満足できる年金がもらえないということに」という部分ですかね・・。それにしても相続税が廃止とは・・!
 昨日放送のNHKスペシャル「大激論!日本新生」において、コメンテーターの方が、「若い世代の平均年収が、この20年間で平均で約400万円→約300万円と約100万円も低下した。少子化によって、若い世代が良い職業に就ける可能性が高くなるように『錯覚』している人も居るが、実は、少子高齢化の影響で日本経済全体に深刻な影響が出始めている・・」という趣旨の発言をしていました。


おどろきでした。
投稿者:Aga 投稿日時:12/06/03 19:33
 「ザ・コラム」、私も読みました。
 福祉国家と言われるスウェーデンであんなことが起きてるなんて知りませんでした。
 日本においても一昔前の規制緩和が良かったのどうかは疑問です。私たちも75歳になっても働かなくてはならない時代が来るのでしょうか。


Re:おどろきでした。
投稿者:笠間 睦 投稿日時:12/06/04 05:59
Agaさんへ
 コメント拝見致しました。五十肩以来のコメントですね。
 私の五十肩は、今のところ治る気配がありません。毎晩、夜中に痛みで目が覚めます。

 もうかれこれ20年近く前になりますが、「スウェーデン人はいま幸せか」(日本放送出版協会)という本を読んだときにも強い感銘を受けた記憶があります。

> 私たちも75歳になっても働かなくてはならない時代が来るのでしょうか。

 元気ならば、私は75歳になっても働きたいですが、問題は、後期高齢者が雇用される環境があるかどうかなのかな・・って感じています。
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