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急速進行性認知症 [認知症]

朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第672回『転倒防止─急速に進むプリオン病』(2014年11月14日公開)
 さて、急速に進行する「急速進行性認知症」(rapidly progressive dementia;RPD)の存在も知られております(Geschwind MD, Shu H, Haman A et al:Rapidly progressive dementia. Ann Neurol Vol.64 97-108 2008)。RPDの代表的疾患は、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)です。この論文の要旨は、ウェブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18668637)においても閲覧可能です。
 かなり専門的な話にはなりますが概要をご紹介しておきます。
 2001年8月から2007年9月までにカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)に紹介されたプリオン病(代表は、CJD)または急速進行性認知症が疑われた症例は178例あったそうです。
 その原因は、「62%(111例)がプリオン病であった。プリオン病以外の疾患では神経変性疾患が26例(14.6%)と最も多く、自己免疫疾患が15例(8.4%)、感染性疾患が4例(2.2%)。…(中略)…神経変性疾患では、大脳皮質基底核変性症(CBD)8例、前頭側頭型認知症(FTD)7例、アルツハイマー病(AD)5例、レビー小体型認知症(DLB)4例、進行性核上性麻痺(PSP)2例」(浜口 毅、山田正仁:急速進行性認知症の鑑別診断. 最新医学 Vol.68 842-851 2013)という内訳であったそうです。
 なお、神経変性疾患以外の原因により「急速進行性認知症」を来す原因疾患としては以下のa~dのような原因疾患が挙げられます(シリーズ総編集/辻 省次 専門編集/河村 満 著/石原健司、中野今治:アクチュアル脳・神経疾患の臨床─認知症・神経心理学的アプローチ 中山書店, 東京, 2012, pp391-394)。
a)傍腫瘍性神経症候群あるいは自己免疫疾患としての脳炎または脳症:橋本脳症、電位依存性Kチャンネル抗体陽性辺縁系脳炎、Hu抗体陽性辺縁系脳炎など
b)感染症:AIDS白質脳症、進行性多巣性白質脳症など
c)腫瘍:中枢神経原発悪性リンパ腫、脳原発悪性腫瘍
d)てんかん:非痙攣性てんかん重積状態
 「傍腫瘍性神経症候群」についてはシリーズ第53回『その他の認知症 治療可能な認知症―甲状腺機能低下症』(http://apital.asahi.com/article/kasama/2013013100010.html)のコメント欄をご参照下さい。
 なお、体重減少も急速な認知機能低下の危険因子であることが報告されております(荒木 厚:認知症と栄養障害. Geriatric Medicine Vol.51 826-832 2013)。
 「414名のprobable ADの地域住民の15カ月の追跡調査では、AD(アルツハイマー病)発症後最初の1年で4%以上の体重減少があると急速な認知機能低下(6カ月でMMSEが3点以上の低下)が起こることがわかっている(Soto ME, Secher M, Gillette-Guyonnet S et al:Weight loss and rapid cognitive decline in community-dwelling patients with Alzheimer's disease. J Alzheimers Dis Vol.28 647-654 2012)。体重減少があった患者は体重減少がない患者と比べて、認知機能低下のハザード比は1.5(95%CI=1.04~2.17)であり、体重減少はADになってからも急速な認知機能低下の危険因子であるといえる。」(一部改変)


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第48回『その他の認知症 クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)』(2013年2月9日公開)
⑤クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)
 クロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt Jakob disease;CJD)と聞いてもピンとこない方がほとんどでしょうね。
 でも、「狂牛病」・「肉骨粉」・「全頭検査」と聞くと、数年ほど前に米国産牛肉の輸入停止により吉野家の牛丼が食べられなくなった例の一件を思い起こされるのではないでしょうか。
 CJDはプリオン病の一つです。プリオンとは、タンパク質から成る感染性因子です。プリオン病とは、正常なプリオンが何らかの原因により異常なプリオンに変わってしまい、その異常プリオンが脳などの神経組織に蓄積することによって発症する病気です。CJDにおいては、脳は隙間だらけのスポンジ状になってしまいます。
 ウシのプリオン病は、ウシ海綿状脳症(BSE、狂牛病)と呼ばれています。
 プリオン病は、元々はヒツジの伝染病でした。しかし、イギリスではヒツジの脳や肉骨粉をウシの飼料に使用したためウシに感染し、さらに狂牛病に感染したウシをヒトが食べたためヒトに感染してしまいました。
 CJDには4つのタイプがあります。原因不明の「孤発性」、狂牛病のウシを食べて発症する「変異型」、乾燥硬膜の移植によって起きた「医原型」、遺伝による「家族性」の4タイプです。
 最も多いのは、原因不明(特発性)の弧発性CJDです。最も多いと言っても、頻度はおよそ100万人に1人程度で非常に稀な疾患です。発病は50~70歳代が多く、40歳以下での発症は極めて稀です。これに対し変異型CJDは、10~30歳代という若年層で発症することが多いです。これまでに報告された変異型CJDの発症年齢は12~74歳で、平均発症年齢は29歳です。
 弧発性CJDの場合、発症すると認知症が出たり、身体がビクついたりします。一方変異型の場合には、認知症に先立ち手足の痺れ(しびれ)・疼痛などの感覚障害や、抑うつ・不安・無関心・自閉・錯乱などの精神症状が出現します。幸いにして日本国内での変異型CJDの発症は、2005年2月4日に報告された英国滞在歴のある一例だけですので、対策が充分に取られている現状(http://www.mhlw.go.jp/topics/0103/tp0308-1.html#32q1)においては過度に心配する必要はありません。
 弧発性CJDの症状をもう少し詳しく説明しましょう。初期には、倦怠感、ふらつき、物忘れ、視覚異常などの症状だけですので、「ストレス」「うつ状態」などと診断されることもあります。
 やがて、急速に進行する認知症症状とミオクローヌス(メモ1参照)が出現し徐々に寝たきり状態となります。その後、無動無言状態となり、1~2年程度(平均約14か月)で死に至る大変おそろしい疾患です。

メモ1:ミオクローヌス
 筋肉が、急に激しくぴくつくもので、音や光などで誘発されることもあります。健常な人でも眠りかけた時などには、「ビクッ」とするミオクローヌスは時折あります。
 弧発性CJDでは、発症後数か月以内にほとんどのケースでミオクローヌスが認められます。ただし、アルツハイマー病やレビー小体型認知症においてもミオクローヌスが認められることがあります。

 CJDは後頭葉、頭頂葉を好んで障害するために、視覚・視覚認知障害が初発症状となることが多いことが報告されています。
 昭和大学横浜市北部病院の福井俊哉教授は、「視覚・視覚認知障害の他に、着衣失行、構成障害、半側空間無視、失語、失行などが単独に、そして比較的急速に出現するため脳血管障害と間違われることも少なくない」(一部改変)と指摘しています(福井俊哉:症例から学ぶ戦略的認知症診断 南山堂発行, 東京, 2011, pp84-90)。
 CJDについて詳しく勉強されたい方は、以下のサイトなどをお読み下さい。
 難病情報センター・プリオン病(http://www.nanbyou.or.jp/entry/240
 水澤英洋:プリオン病─わが国の現状と最近の進歩─. 臨床神経 Vol.48 861-865 2008(http://www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/048110861.pdf

 「急速に進行する認知症」(rapidly progressive dementia;RPD)についても簡単にご紹介しておきましょう(Geschwind MD et al:Rapidly progressive dementia. Ann Neurol Vol.64 97-108 2008)。Abstractはウェブサイトにおいても閲覧可能です(http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ana.21430/abstract)。
 RPDの代表は、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)であり、他には、アミロイド血管症を伴うアルツハイマー病、レビー小体型認知症なども挙げられています

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