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専門医の新制度─地域医療に負の影響も [医療情報公開]

専門医の新制度─地域医療に負の影響も

 2017年度から医師の専門医制度が変わる。従来の2年間の初期臨床研修に加え、内科や外科といった基本領域から一つを選び、さらに3年間の研修を受ける。この制度変更で特に影響を受けるのは、内科だと思う。これまでは初期臨床研修を修了したあと、そのまま循環器内科や消化器内科の専門性が高い研修を受けていた。だが今後は、その前に内科全般を3年間かけて研修しなければならない。
 果たして、これは国民にとって良い制度なのだろうか。私は、命にかかわる高度医療を受けられない患者が増えてしまうと考えている。心臓血管カテーテルや内視鏡などの高度な医療技術を身につけるには時間がかかるのに、新制度では循環器内科や呼吸器内科の専門的なトレーニングを始めるのは早くても30歳。研修を終えるのは30代半ば以降になる。一方で医師の引退時期は変わらないのだから、スタートが遅れれば実質的に専門医が減ることになる。
 新制度は、女性医師にとってはさらに厳しい。多くの女性医師は家庭と仕事の両立を希望しており、そのためには出産前に研修を終わらせた方が有利だ。しかし、新制度では研修期間が数年間延びてしまう。
 さらに、新制度は地域医療にも大きな打撃を与える可能性がある。これまで主に大学病院は研究、国公立・民間病院が地域医療を担い、若手医師の多くは後者での研修を希望してきた。ところが新制度では、大学病院などでしか治療していないようなまれな疾患も、全員が経験するよう求められている。
 そのため、民間病院の多くは大学病院と連携することになり、研修を受ける医師は大学病院でも一定期間の勤務を求められる。逆に、大学病院からも地域の病院に医師が派遣されることになるが、地域の病院に直接就職する医師と、大学病院から短期で派遣される医師に同じことは期待できない。大学病院の医師は「お客様」として経験を積むために勤務するのであり、地域の病院の医療スタッフを教育したり、退院した患者を外来で長期間にわたってフォローしたりする役割は担えず、地域医療への影響は避けられない。
 高齢化が進む日本では高血圧、糖尿病、骨粗鬆症など複数の疾病がある患者が増え、在宅医療や地域医療の分野では医師に幅広い知識が求められる。専門医の質も高める必要があるという、新制度導入のお題目は立派だ。だが、急激な全国一律の制度変更は、社会に大きな影響を与えるだろう。本来、その負の側面まで社会に情報を提供し、国民的な合意を形成すべきだ。もう少し慎重な議論が必要だと思う。

 ◆投稿は手紙かsiten@asahi.comへ。電子メディアにも掲載します。
 【2016年3月10日付朝日新聞・オピニオン─私の視点 著/医師・森田 麻里子】


私の感想:
> 本来、その負の側面まで社会に情報を提供し、国民的な合意を形成すべきだ。

 まったく同感ですよね。
 私は長年にわたって初期臨床研修の現場を離れているため、「大学病院の医師は『お客様』として経験を積むために勤務するのであり、地域の病院の医療スタッフを教育したり、退院した患者を外来で長期間にわたってフォローしたりする役割は担えず、地域医療への影響は避けられない。」という負の側面には全く考えが及びませんでした。
 勉強になりました。
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