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医出づる国⑤―明日を拓く [医療]

医出づる国⑤―明日を拓く
 医師任せで大丈夫?
 患者の選択、生き方決める

 東京都立神経病院(府中市)で2月、難病を患う小川伝司さん(59)の退院後の支援体制を話し合う会議が開かれた。医師や地域の保健師ら十数人を前に小川さんが切り出した。「今後が楽しみです」

残した声で参加
 小川さんは3年前、全身の筋肉が動かなくなるALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断された。声はほとんど出ない。それでも肉声で表現できるのは「マイボイス」と呼ぶシステムで声を残していたからだ。
 パソコンに入力した文字情報を前もって取り込んだ自分の声に変換する。同病院の作業療法士、本間武蔵さんが開発に携わり、これまでに約220人が録音した。治療に直接役立つわけではないが、本間さんは「患者の医療参加を後押ししたい」と力を込める。
 神戸市の人工島ポートアイランド。2013年に開業したチャイルド・ケモ・クリニックは小児がんの子供と家族が共同生活しながら治療を受けられる。
 楠木重範院長も子供の頃にがんを患った。その経験を生かし、設計段階から家族の声を取り入れ、面会ルールも話し合って決めた。「患者や家族と一緒に進めでこそ、理想の医療が実現する」(楠木院長)
 患者は長年、医師が決めた治療を受けるだけの立場とされてきた。いち早く改革に動いた米国では1973年に病院協会が「患者の権利章典」を作成。90年、連邦法に「患者の自己決定権」が加わった。
 日本でもインフォームドコンセント(十分な説明と同意)の考え方が徐々に浸透し、97年の医療法改正で理念が明確に位置付けられた。推奨される治療法などを記した診療ガイドラインづくりに患者が参加するケースも増え始めた。
 だが「医師に判断を委ねる『お任せ医療』はまだ根強い」と滋慶医療科学大学院大の飛田伊都子准教授は話す。技術の進歩が医師と患者の情報格差を広げている面もある。

医師任せ.jpg
リスクまで共有
 上下関係を解消し、病という共通の敵にどう立ち向かうか。近年、SDM(Shared Decision Making)という考え方が注目される。治療過程を共有し、医師が示した選択肢から患者が治療法を選ぶ。インフォームドコンセントと比べ、患者の意思決定権は強い。
 昨年秋、がん研有明病院(東京・江東)の大野真司乳腺センター長の元に乳がん患者が訪れた。腫療は3~4センチとやや大きめ。手術で取り除いても再発率は40%あり、術後の抗がん剤治療が望ましかった。
 選択肢は2つ。再発率を20%に抑えるタイプは手にしびれが残る恐れがある。もう一つは25%だが、しびれはない。患者は大野氏とじっくり話し合い「生きがいである書道を続けたい」と後者を選んだ。
 医療は患者と医師の共同作業だ。リスクや限界も含め情報を共有し、信頼関係を築かなければ、安全で安心な医療は実現しない。主役となる患者が「任せる」から「参加する」に意識を変え、行動を起こすことが「医出づる国」への第一歩となる。
 【2016年3月30日付日本経済新聞・1面】
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