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「“事故調”、見直しは時期尚早」四病協 [医療事故調査制度]

シリーズ: 始動する“医療事故調”(https://www.m3.com/news/series/iryoishin/10496
 
「“事故調”、見直しは時期尚早」四病協
 自民党に要望、21条改正求める日医と相違
 【レポート 2016年4月3日 (日)配信橋本佳子(m3.com編集長)】

 日本医療法人協会常務理事の小田原良治氏は、4月2月に開催されたシンポジウム「医師法21条と医療事故調を考える」で、四病院団体協議会が、医療事故調査制度を今年6月末に見直すことは「時期尚早である」との見解をまとめたことを明かした。近く開催される自民党の「医療事故調査制度の見直し等に関するワーキングチーム」(座長:後藤茂之氏)で説明するという。

 四病協の見解は、「医師法21条と医療事故調査制度は別の問題であり、切り分けて議論すべき」が前提で、(1)異状死体の届出を定めた21条は、「外表異状説」の運用を徹底する、(2)医療事故調査制度の見直しとは別に、今後21条についての検討の場を設ける、(3)医療事故調査制度は2015年10月の開始から間もないことから、現時点での見直しは「時期尚早」であり、今後報告例を積み重ねて、経過を見てから検討すべき――という内容だ。
 小田原氏は、「改正ありきの話ではない。まだ始まって間もなく、制度の正しい理解が周知されず混乱もある」と話し、当分の間は運用の徹底を進めることが重要だとした。
 医師法21条については、日本医師会が、医療事故調査制度の見直しと合わせて、「死体を検案して犯罪と関係ある異状があると認めたとき」に変更し、罰則規定を削除するよう求める方針(『医師法21条の届出、「犯罪と関係ある異状」に変更を』 https://www.m3.com/news/iryoishin/402403)。この動きを問題視していた日本医療法人協会の基本的考えが、四病協の総意となった(『日医の21条改正案に異議、医療法人協会』 https://www.m3.com/news/iryoishin/402743)。
 シンポジウムには、弁護士・医師の田邉昇氏、弁護士の井上清成氏、いつき会ハートクリニック(東京都葛飾区)院長の佐藤一樹氏も出席。四病協の見解と同様に、医師法21条については「外表異状説」の徹底を求め、日医の改正案を批判した。
 田邉氏は、2004年の東京都立広尾病院事件の最高裁判決で、医師法21条は「外表異状説」で解釈が確定しており、「この解釈は厚生労働大臣も認めている。医師法21条を改正する必要はない」と説明。その上で、「日医改正案は、広尾病院事件の判例を引用していない。医師法21条をめぐる混乱は、厚労省ではなく、日医によるものであることを自覚していない」と述べ、日医改正案が届出を求める「犯罪の疑い」には、業務上過失致死罪も含まれるため、自ら診療していた患者が死亡した場合なども届出対象になり得るため、黙秘権侵害に当たる点などを問題視した。医療への刑事司法の介入を避けるのであれば、刑法そのものの改正を求めるべきとした。

 井上氏も、「外表異状説に立つと、届出数は1990年代前半くらいの少なさになり、実害はなくなる」と指摘、にもかかわらず、日医が医師法21条の改正を求めるのは、「頓珍漢な話」と切り捨てた。「医師法21条を炯々に改正する必要はない。それよりも業務上過失致死罪の医療への適用について検討すべき。行政指導を連想するような副作用がない形を想定して、行政、民事、刑事処分の在り方をトータルにじっくり考えるべき」(井上氏)。さらに、「異状な死体」と「異状な死亡」は意味が違うものの、両者を混同したために医師法21条をめぐる混乱が生じたとし、同じ轍を踏まないように、今回の医療事故調査制度が設計されたと説明した。
佐藤さん.JPG
 佐藤氏も、日医の改正案について、「外表異状の有無で、医師法21条の届出要件が決まる。医療過誤や過失の有無とは関係ないというのが本来の趣旨」と説明。田邉氏と同様の考えで、日医案では、医療過誤や過失がある場合にも届出要件になるので、届出範囲が拡大する懸念から、「日医は根本的に考え方を変えなければいけない」と指摘した。

「外表異状説」は「the 法律」
 医師法21条の解釈を詳しく解説したのは、田邉氏。
田邉さん.JPG
 医師法21条が規定する異状死体の届出は、警察が捜査を始める端緒となると説明。さまざまな誤解があるものの、その解釈は、「外表異状説」を採用した東京高裁判決を支持した、2004年の東京都立広尾病院事件の最高裁判決で確定したと説明。田邉氏は、「死体を検案して、外表に異状がなければ、届出をすべきか否かの判断における“入口”には入れない」と語る。憲法38条には、「自己に不利益な供述を強要されない」と規定されている。この黙秘権侵害を回避するために、採用されたのが「外表異状説」だ。「外表異状説」では、医療過誤・過失等の有無を問わない。
 この最高裁判決について、「法律ではない」との批判がある点について、田邉氏は、「刑集に掲載され、下級審に拘束力を有している」と述べ、外表異状説は「the 法律」と説明。前田村憲久厚労大臣も、2014年6月の参議院厚生労働委員会で「外表異状説」を支持する答弁をしていることを挙げた(『医師法21条、「医療事故の届出想定せず」、厚労相』 https://www.m3.com/news/iryoishin/223482)。
 さらに田邉氏は、医療と刑事司法との関連にも触れた。業務上過失致死罪の適用対象から、診療関連死を除外することに関しては、「医療だけ特別扱いするのか」との指摘もある。これに対し、田邉氏は、国家賠償法では、「公務員が職務において、故意・過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国・公共団体がその責任を負う」と規定されている例などを紹介、他の業種を参考に検討の余地があるとした。

「異状な死亡」と「異状な死体」は異なる
 井上氏は、医師法21条と同様の混乱を招かないために、制度設計されたのが医療事故調査制度であるという視点から解説した。
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 まず医師法21条の解釈について説明。「医師法21条が警察への届出を定めるのは、あくまで『異状な死体』であり、『異状な死亡』ではないと」と井上氏は釘を刺す。「『異状な死亡』と言うと、医療の素人にとっては、『過誤による死亡、あってはならない死亡』が想起される。『なぜ死亡したか、分からないものも、おかしな死亡だ』などとされ、死因不明、死因不詳なものは警察に届けようと話が広がってきた」(井上氏)。「異状な死体」は、「外表異状説」、あくまで外見を見て判断するものであり、死亡に至る経過や、医療過誤の有無などは関係しない。
 次に、医療事故調査制度について説明。井上氏は、「今回の制度では、医療過誤であっても、医療事故でない場合もあり得る」「医療事故であっても、医療過誤でない場合もある」と謎解きのような問いかけをし、今回の制度では、「医療に起因した」「予期しない死亡」という二つの軸から、医療事故が定義されていると説明した。医療過誤の有無などを問わないのは、医師法21条をめぐる混乱の教訓を踏まえたものだ。
 さらに井上氏は、医療事故調査制度の趣旨について、大学病院をはじめとする大病院だけでなく、中小病院や診療所なども含め、「全国津々浦々行き渡る制度にする。国家的な制度として医療安全への注意喚起するのが狙い」と見る。「管理者が全ての死亡症例を一元的にチェックするようになる。それが制度の狙い」と述べ、医療事故調査・支援センターに報告する医療事故には当たらない場合でも、医療安全の視点から検討の余地がある事例については院内で議論し、体制を見直すといった取り組みを通じて、医療安全の向上を図るのが「裏の狙い」(井上氏)。
 井上氏は「医療安全と医療の質向上は、重なり合うところはあるが、本来は別の話。質は向上しても、医療事故はなくならない」とも指摘。腹腔鏡下手術を例に挙げ、開腹手術よりも、侵襲性が少なく、治療成績なども上がれば、医療の質は向上するものの、医療事故は起き得るとした。さらに、研修医などは、経験や知識の不足などの理由から事故を起こしやすい現状があるとし、「個人の行為を『不可』などと評価するのではなく、いかにカバーするかを考えなければいけない」と述べ、医療安全を教育・支援体制などのシステムの問題として捉える必要性を指摘した。
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