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SD-NFT AGD 糖尿病性認知症 軽度認知障害 [認知症]

神経原線維変化型老年期認知症(senile dementia of the neurofibrillary tangle type;SD-NFT)
嗜銀顆粒性認知症(argyrophilic grain dementia;AGD)
糖尿病性認知症
軽度認知障害 軽度認知障害から認知症への進展

 AGDは、認知症の5~10%を占めるとされており、決して稀な疾患ではありません。そして、高齢になるほど頻度を増すものと考えられております(認知症テキストブック, 中外医学社, 2008, pp326-329)。AGDにおいて脳萎縮が顕著な部分は側頭葉内側ですので、記憶障害が主たる徴候で、進行しても他の認知機能は比較的保たれます。日常生活動作(Activities of Daily Living;ADL)もアルツハイマー病に比べると、比較的良好です。
 AGDに特徴的とされるのは、易刺激性・被害妄想・不機嫌・激越などの「認知症に伴う行動障害と精神症状」(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia;BPSD)です。そして、易刺激性が最も頻度の高い症状です。認知機能が比較的保たれていますので、行動異常が症状として目立ちます。
 AGDは、臨床的にはADとの鑑別が非常に難しい疾患です。金沢大学大学院医学系研究科脳老化・神経病態学(神経内科)の山田正仁教授は、「嗜銀顆粒性認知症(AGD)や神経原線維変化型老年期認知症(senile dementia of the neurofibrillary tangle type;SD-NFT)は高齢発症タウオパチーと呼ばれているが、それらの診断法は開発途上であり、ほとんどの患者はADと誤診されている。」(山田正仁:認知症疾患の精度の高い早期診断を目指して. 最新医学 Vol.68 741-742 2013)と指摘しております。
 また、東京都健康長寿医療センター放射線診断科部長の德丸阿耶医師は、「海馬傍回萎縮をきたし認知症を惹起するAD以外の疾患、前述の嗜銀顆粒性認知症、海馬硬化症などが、ADと安易に誤診される場合も想定され、一般に広く普及してきたVSRAD[レジスタードトレードマーク]の有用性と問題点を把握することは大切である。」(德丸阿耶:MRIと病理. 老年精神医学雑誌 第24巻増刊号-Ⅰ 39-48 2013)と述べています。すなわち、きちんと臨床症状・経過を評価することなく、MRI画像診断の判定結果を重視してしまうと、AGDであるにも関わらず安易にADと診断されてしまうという問題点を有しているのです。
 しかしながら近年においては、PIB-PET(http://apital.asahi.com/article/kasama/2013032600015.html)などのアミロイドイメージングが可能な時代となっており、アミロイドβが有意に検出されなければ、アルツハイマー病を除外診断できるようになっております。ただし、シリーズ第93回『アルツハイマー病の治療薬 期待される根本治療薬』(http://apital.asahi.com/article/kasama/2013032700006.html)において説明しましたように、PET(ポジトロン断層法)アミロイドイメージングに関する適正使用指針において示された適切な候補者の3条件のうちの1つは、「進行性の認知機能の低下がある65歳未満の人」でしたね。高齢発症の認知症患者さんに対してアミロイドPETが実施されることは基本的にはないのが今の現状です。
 国立精神・神経医療研究センター病院臨床検査部医長の齊藤祐子医師は、AGDの臨床的特徴として以下の4点を挙げております(齊藤祐子、村山繁雄:嗜銀顆粒性認知症の鑑別診断. 最新医学 Vol.68 820-826 2013)。
①高齢発症であること。
②初発はもの忘れの症例が多いが、ADと比べ、頑固さ、易怒性など、前頭側頭型認知症と共通点があること。
③進行は緩徐で、MCI に比較的長期間とどまり、ADLも保たれる傾向がある。
④塩酸ドネペジルの効果は限定的で、いわゆるノンレスポンダーのことが多い。
 上記のような特徴を持った認知症患者さんを診療した際には、AGDを念頭において診療に臨むことが肝要と言えそうですね。
 【https://medqa.m3.com/doctor/showForumMessageDetail357644.do


2013.3.27公開
 http://apital.asahi.com/article/kasama/2013032600015.html
ひょっとして認知症? 第92回『アルツハイマー病の治療薬 アルツハイマー病、発症まで20~30年』
 アルツハイマー病(AD)は、アミロイドβというタンパク質が脳内に過剰に蓄積することが発症の引き金になると考えられています。
 少々専門的な用語を用いて発症機序について説明しますがこれからも度々登場する用語になりますから頑張ってお付き合い下さいね。
 認知症の発症は、アミロイドβ前駆体タンパク(APP)→アミロイドβタンパク産生→アミロイドβタンパク(Aβ)が凝集し、アミロイドβオリゴマーと呼ばれる毒性の強い浮遊する凝集塊となる→アミロイドβの沈着(老人斑)→神経原線維変化→神経細胞減少→認知症発症という機序で起こると考えられています。
 アミロイドβの沈着は40歳代以降に始まっており、ADを発症するまでには20~30年の歳月を要することが分かっております。
 神経原線維変化に先立ってアミロイドβの蓄積が起きるため、アミロイドβによる神経細胞への悪影響が神経細胞死の原因としてより根本的であるとする考え方は、「アミロイド・カスケード仮説」と言われており、アルツハイマー病発症の機序として現在最も広く受け入れられている考え方です。

 27年ぶりに改訂され2011年4月に発表されたNIA/AAによる新しい診断基準では、アルツハイマー病(AD)は、ADによる認知症(dementia due to AD)、ADによる軽度認知障害(MCI due to AD)、発症前段階のAD(Preclinical AD)の3段階に分けられています。
 バイオマーカー(髄液Aβ42)、陽電子放射断層撮影(positron emission tomography;PET)によるアミロイドイメージング(アミロイドPET)などを駆使して、アルツハイマー病に特徴的な所見が検出されたら、臨床症状がみられなくても病気(Preclinical AD)に組み入れることになりました。
 京都府立医科大学大学院医学研究科分子脳病態解析学講座の徳田隆彦准教授は、「髄液中Aβ42がADと正常対照者を鑑別する最も良い指標であり、感度96.4%、特異度76.9%であった。…(中略)…p-タウ181は認知機能の低下を反映する可能性がある。」というデータを紹介しています(徳田隆彦:認知症のCSFマーカー診断. 綜合臨牀 Vol.60 1891-1899 2011)。
 また、徳田隆彦准教授は、「11C-PIB-PETでのアミロイド沈着陽性所見は、髄液中のAβ42、Aβ40、t-タウ、p-タウ181の中で、髄液Aβ42レベルの低下と最もよく一致(91%の一致率)していた。PIB-PETによるアミロイド定量値は、より安価な検査である髄液Aβ42値に変換できることが指摘されている。」(徳田隆彦:認知症の診断─認知症の診断バイオマーカー. 医薬ジャーナル Vol.48 1978-1983 2012)と述べています。
 さらに、徳田隆彦准教授は、「最近の研究からは、ADにおける神経細胞障害は、沈着したアミロイド線維ではなく、可溶性のAβオリゴマーによって惹起されるという考えが主流となっている。筆者らも、高分子量のAβオリゴマーを特異的に検出するBAN50-SAS-ELISAを開発し、AD患者群で有意に増加していること、および髄液Aβ42よりも高い弁別能力で鑑別できること、さらに認知機能障害の重症度と有意な負の相関を有していることを示した。」(一部改変)と報告しています(徳田隆彦:認知症の診断─認知症の診断バイオマーカー. 医薬ジャーナル Vol.48 1978-1983 2012)。
 2012年4月の診療報酬改定により、脳脊髄液のリン酸化タウ蛋白(メモ1参照)の測定が、1患者につき1回に限り算定可(680点)となりました。詳細は東北大学のウェブサイト(http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2012/04/news20120404-02.html)などをご参照下さい。

メモ1:リン酸化タウ蛋白
 アルツハイマー病では、二次性にタウ蛋白も蓄積します。アミロイドβがGSK-3βという物質の活性化に関与し、そのGSK-3βによってリン酸化されたタウ蛋白は微小管結合能を失い微小管が崩壊し、神経細胞死が引き起こされると考えられています。また、高度にリン酸化されたタウ蛋白が重合すると、神経細胞内でpaired helical filaments(PHF)を形成し、それが蓄積し神経原線維変化を生じることが知られています。
 脳の虚血は、タウ蛋白質のリン酸化を促進させることが指摘されており(下門顕太郎:生活習慣病と認知症─動脈硬化・成因. MEDICINAL Vol.2 No.9 36-41 2012)、また、糖尿病モデル動物では、タウのリン酸化の亢進が複数報告(里 直行:生活習慣病と認知症─糖尿病・インスリン抵抗性. MEDICINAL Vol.2 No.9 64-70 2012)されております。
 東京医科大学病院老年病科の羽生春夫教授は、「最近の大規模疫学研究から、糖尿病患者ではアルツハイマー病(AD)の発症リスクが約2倍と高いことが示されている。さらに、インスリン抵抗性、インスリンシグナル伝達の障害、高インスリン血症が脳内のアミロイドβ蛋白の沈着やタウのリン酸化を介してADの病理学的変性過程を促進する機序が、最近の研究から明らかになってきた。」と報告しています(羽生春夫:生活習慣病と認知症─糖尿病性認知症の臨床と治療. MEDICINAL Vol.2 No.9 79-86 2012)。

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 2014年5月30日に開催されました第3回Mie AD Symposiumに、朝田隆教授(筑波大学臨床医学系精神医学)、羽生春夫教授(東京医科大学病院老年病科)が講師として来津されました。羽生春夫教授は糖尿病性認知症に関してもご紹介して下さいました。

1 糖尿病性認知症の症状の特徴:
  注意障害は強い
  遅延再生障害は軽い
2 糖尿病性認知症の自験7例のPiB PET(アミロイドイメージング)結果:
  陽性:3例
  +/-:2例
  陰性:3例

私の感想:
 陽性例があると言うことは、アルツハイマー病と血管性認知症の混合型があるように、アルツハイマー病と糖尿病性認知症の混合型があるということになるのでしょうね。

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 糖尿病患者はボケることが多く、Ⅱ型糖尿病にかかっている人の場合、ボケるリスクが1.2~2.3倍になることがわかっています。
 糖尿病がボケるリスクを高めるのは、血管がぼろぼろになってしまうことが大きな原因だと考えられます。脳の中では神経の突起に沿って微小血管が伸びており、これらの血管が詰まってしまうと、神経突起も短くなってしまうのです。
 もう一つの原因は、インシュリンの働きが悪くなることで、脳の老化が促進される点にあります。インシュリンの働きが落ちるとGSK-3β(グリコーゲン・シンテース・キナーゼ 読み:ジーエスケースリーベ一タ)という酵素の活性が上がり、それによってタウというタンパク質が悪いタンパク質になり、神経原線維変化が進んでしまうのです。
【髙島明彦:淋しい人はボケる─認知症になる心理と習慣 幻冬舎, 東京, 2014, pp25-27】


2013.3.28公開
 http://apital.asahi.com/article/kasama/2013032700006.html
ひょっとして認知症? 第93回『アルツハイマー病の治療薬 期待される根本治療薬』
 Preclinical ADに関しては、現時点では臨床現場での超早期診断を念頭に置いて提唱されているわけではなく、あくまでも臨床治験などの研究で用いることが前提となっています。
 期待された多くの根本治療薬は、臨床試験において実薬群とプラセボ群との間に有意差が認められず治験が不成功に終わっています。根本治療薬の治験が成功しないことの要因として、「多くの研究者が心の中で思っていることの一つは、根本治療薬の投与時期が遅すぎるのではないか」(荒井啓行:序文─先制医療と認知症予防の展望─. 日本臨牀 Vol.69 Suppl8 1-6 2011)という点です。
 初期ADであっても、アミロイドの蓄積と広範な神経細胞死が既に生じており、その段階で根本治療薬を投与しても遅いのではないかという考えに立って、「Preclinical AD」という概念が導入されてきたわけです。
 東京都健康長寿医療センター研究所附属診療所の石井賢二医師は、Preclinical ADの研究を通して、アルツハイマー病の根本的な克服に向けた発症予防・遅延研究が進んでいくという大きな意義を認めつつも、臨床症状が認められなくとも病気(Preclinical AD)に組み入れることの問題点について言及しております(石井賢二:アミロイドイメージングの現状と有用性. 神経内科 Vol.77 597-605 2012)。
 「まず第一に、preclinical ADという言葉が独り歩きすることの倫理的問題である。健常者におけるアミロイド陽性所見が発症のリスクとしての正確な評価が得られていないにもかかわらず、発症が運命づけられているかのように誤解されることは、新しい診断技術が普及する過程で起こりうることである。また、この検査結果が社会的『差別』を生む可能性も指摘されている。保険料が高くなったり、社会的地位から排除されたりする可能性がないとはいえない。リスクとしての評価が定まり、なんらかの発症遅延法が確立されるまでは、みだりに『検診』として用いるべきではないし、結果の開示や取り扱いについても十分な配慮が必要である。
 第二点として、この診断基準のストーリーに乗らない症例を見出して検索することも、病態理解や治療法の開発の上で、重要な意味を持つと考えられる。すなわち、アミロイド陽性所見があっても、神経変性のプロセスが始まらないあるいはきわめて緩徐にしか進行しない例が存在することはすでにある程度知られている。このような症例は、おそらくアミロイド抵抗性の因子を持っていると考えられる。このような抵抗因子の検索も治療予防法の開発に結びつく可能性がある。」
 このような背景もあって、米国核医学分子イメージング学会(SNMMI)と米国アルツハイマー病協会は2013年1月28日、アルツハイマー病の診断技術として注目されているPET(ポジトロン断層法)アミロイドイメージングに関する初めての適正使用指針を発表し(First guidelines published for brain amyloid imaging in Alzheimer's)、米国アルツハイマー協会発行のAlzheimer's & Dementia誌(http://www.alz.org/news_and_events_60578.asp)、The Journal of Nuclear Medicine誌(http://interactive.snm.org/index.cfm?PageID=12318)に掲載しました。
 今回の指針内容を簡単にご紹介しましょう。
 PETアミロイドイメージングはアルツハイマー病の診断に有益な手法となると指摘しつつも、PETアミロイドイメージング実施の前に、必ず医師による認知機能の検査を実施することが重要であることを強調しました。
 その上で、適切な候補者の条件を3つ示しました。
1 説明の付かない記憶機能の問題がある人。記憶、認知機能の標準的テストで障害が認められる人。
2 テストでアルツハイマー病を疑われる人で、診察では典型的なアルツハイマー病に該当しない人。
3 進行性の認知機能の低下がある65歳未満の人。
 また、検査の意義のないケースも2つ示しました。
1 患者が65歳以上で標準的なテストによりアルツハイマー病であると明確であるケース(追加的な価値が乏しいため)。
2 無症状の人で、認知機能の訴えがあるが臨床的には障害を認められない人。
 さらに、実施が不適切と考えられる条件として、「認知症の重症度判定、家族歴や危険因子があるだけでの検査、遺伝子検査の代替としての実施、非医学的な理由(保険や法的、雇用)では実施すべきではない」と報告しております。
 最初に述べましたように、「Preclinical ADに関しては、現時点では臨床現場での超早期診断を念頭に置いて提唱されているわけではなく、あくまでも臨床治験などの研究で用いることが前提」となっていることをしっかりと肝に銘じて下さいね。


2013.3.7公開
 http://apital.asahi.com/article/kasama/2013030600003.html
《73》軽度認知障害 軽度認知障害から認知症への進展
 さて、軽度認知障害(MCI)と診断された患者さんを追跡しますと、4年間で48%(1年あたり平均12%)が認知症を発症します(Bowen J et al:Progression to dementia in patients with isolated memory loss. Lancet Vol.349 763-765 1997)。また、Petersenらは、MCIと診断された人はその後1年間に約12%が認知症となり、6年間で約80%が認知症になったと報告しています(Petersen RC et al:Current concepts in mild cognitive impairment. Arch Neurol Vol.58 1985-1992 2001)。
 コンバートとは、MCIからADなど認知症へと進展することであり、その率がコンバート率です。
 2012年2月18日名古屋で開催された「デメンシアコングレスJAPAN 2012」には、東京大学大学院神経病理学の岩坪威教授が来られ講演されました。J-ADNI主任研究者である岩坪威教授は、J-ADNIにおける最新のコンバート率についても言及し、1年間の経過観察期間中に29.6%がコンバートし、従来の報告よりも随分と高率であったと報告されました。

 因みに認知症をめぐる大規模疫学研究として有名な「ボルチモア老化縦断研究」によれば、「軽度認知機能障害(MCI)からアルツハイマー病にコンバートするまでに要する期間の中央値は4.4年であった」(飯島 節:ボルチモア老化縦断研究. 日本臨牀 Vol.69 Suppl8 587-593 2011)ことが報告されています。
 MCI段階で留まっているのかADに進展したのかを判断する基準は、「生活自立能力」の有無です。学術的にはコンバートの判定は、Mini-Mental State Examination(MMSE)、Clinical Dementia Rating(CDR;メモ1参照)、ウェクスラー記憶検査改訂版(Wechsler Memory Scale-Revised;WMS-R)の論理記憶(メモ2参照)という3つの認知機能検査を総合的に勘案して評価されます。
 しかし、MMSE、CDR、WMS-Rだけでは決め手に欠けるケースがあることも事実です。ですから、生活自立能力の有無を正確に判断するためにも、本人の家に行き、実際の生活の様子を確認するという視点が重要となってきます。
 
メモ1:Clinical Dementia Rating(CDR)
 CDRは臨床認知症尺度と呼ばれ、記憶、見当識、判断力と問題解決、地域社会活動、家庭生活および趣味・関心、介護状況の6項目から構成されます(http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/CDR.jpg)。
 それぞれの項目について患者およびその家族などから聞き取り調査を行い、5段階で重症度を判定します。
 5段階とは、CDR0(正常)、CDR0.5(軽度認知障害Mild Cognitive Impairment;MCI)、CDR1(軽度認知症)、CDR2(中等度認知症)、CDR3(重度認知症)です。
 具体的なCDRの判定方法は、先ずは各6項目のそれぞれの項目ごとに5段階で重症度(CDR0~3)を評価します。各項目を評価した後に、最終的には1つの段階に当てはめます。
 記憶が1次項目であり、残りの項目は2次項目となります。1次項目の評点と2次項目のうち3つ以上が同じ評点であれば、CDRは1次項目の評点になります。ただし、1次項目の評点よりも、2次項目の評点が高いか低い場合、3つ以上同じ2次項目の評点がCDRの評点となります。

メモ2:ウェクスラー記憶検査改訂版の論理記憶
 MCIの診断には、WMS-Rの論理記憶が標準的に用いられます。これは、検者が話す短い物語を聞いて、直後にそのまま再生する即時再生と、30分経過してから再度再生してもらう遅延再生があります。「会社の食堂で/調理師として/働いている/北九州の/上田恵子さんは、/…」と25の部分に分かれている文章を聞きながら暗記してもらい、被検者が再生した文章を25点満点で採点します。二つの物語で合計50点になります(山口晴保:認知症の正しい理解と包括的医療・ケアのポイント第2版 協同医書出版社, 東京, 2010, p226)。
 Logical memoryⅡ(論理記憶Ⅱ;遅延再生)の最高得点は、50点です。J-ADNIにおけるMCIの診断基準の一つとして、教育年数16年以上の方の場合には、Logical memoryⅡが「8点あるいはそれ以下」という条件があります。

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 MCI(軽度認知障害)を予防することが、認知症予防の基本です。
 MCIで衰えるのは、①エピソード記憶機能、②注意分割機能、⑨実行機能(計画力)の3つの機能ですから、それぞれの機能の維持・向上がキーになります。
 ①のエピソード記憶機能とは、「昨日の夕食の内容」など体験そのものを銘記する力と、それを再生する力のことです。エピソード記憶機能を鍛えるには、単語、文章や図形などの暗記が効果的です。これには何か動機がないと長続きしませんから、趣味の仲間と会話を継続的に楽しむ機会を持ったり、検定や資格などにチャレンジするなど目的をつくります。ただチャレンジして資格・検定をとったらそれで終わりでは何にもなりませんから、その後、資格を役立てるような仕事、ボランティアをしたり、趣味の仲間を持ち、人間関係をつくります。
 もう少し簡単に行えるものは、日記や、家計簿、趣味などの記録をつけることです。「このことを日記に書こう」と思ったり(銘記)、その日のことを思い出しながら日記をつける(再生)という、銘記と再生を繰り返す習慣をつくることです。
 ②の注意分割機能とは、いくつかの対象に注意を振り分けたり、注意を切り替える機能です。誰にでもできるものとして、「会話しながら歩く」があります。会話しながら前方へ注意を向けるためには聴覚や視覚など2つ以上の注意力を要します。簡単なことなのですが認知機能の低下とともに難しくなります(歌いながら歩くというのは認知機能がかなり衰えても可能で、またリハビリとしても有効です)。
 ③の実行機能とは、先を予想して手順を組み立て、ものごとを遂行する能力ですが、中でも手順を組み立てることが重要です。
 料理、パソコン作業、旅行など複雑な手順が必要なものはすべてこの機能を高めます。囲碁、将棋、麻雀などのゲームは、先を読みながら手順を考えるいいトレーニングになります。もちろん、園芸、陶芸、絵画、演奏など芸術的で能動的な活動も実行機能を高めます。他者と協働することでさらに複雑な実行機能が必要になり、また喜びも倍加することは多くの人が経験していることであると思います。
【長谷川和夫:よくわかる認知症の教科書 朝日新書, 東京, 2013, pp124-126】yobou
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