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教員のメンタルヘルスの課題と取り組み [ストレスチェック制度]

教員のメンタルヘルスの課題と取り組み

抄録:わが国の教員の精神疾患による休職者数は近年増加し,平成21年度以降は横ばいで推移しているが,その在職者に占める割合は平成11年度の約3倍に達している。教員のメンタルヘルスについては,その職務特性,労働環境の苛酷さに関する論考が多いが,関与する精神科医療や援助の仕組みにも課題が多い。不調者の多くを占めるのは適応障害であり,その援助においては休職以前にストレス要因の評価と調整,対処行動の検討が求められる。しかし実際には休職が先行してしまいやすい。休職は教員としての自己肯定感をさらに低下させるきっかけになりやすく,慎重な判断が求められる。またひとたび休職すると復職までの過程には職場と精神科医療の連携が欠けがちである。こうした課題を解決するためには,職場と精神科医療をつなぐ保健師の存在や,連携のためのクリニカルパスなどいくつかの工夫が求められる。

 …(中略)…
Ⅱ. 教員のメンタルヘルスの現況
 教員という職務には対人援助職,感情労働であるが故の過酷さがある。そうした職務特性に配慮された労働環境があればまだ救われる気もするが,その労働環境は過酷である。2013年の経済協力開発機構(OECD)による世界34の国と地域にある中学校教員を対象に行われた国際教員指導環境調査(Teaching and Learning International Survey:TALIS)によれば,日本の教員の労働時間は加盟国の中で最も長く,部活動など課外活動指導,事務作業など授業以外に費やす時間が長くなりやすく,一方で肝心の授業に割くことのできる時間は平均を下回っていた。さらに学級運営や教科指導等の指導力に対する自己評価は参加国平均を下回り,教員の自己効力感は低い傾向を示していた。教材研究,調査への対応やそれらに関わる事務的業務はかつてより増え,こうした教員の労働環境の変化が多忙感を高めているという指摘もある。それに対してわが国の教員は高い水準を目指すあまり自己評価が低くなっているという意見もあるようだが,少なくとも労働時間を考えると諸外国に比べてわが国の教員は過酷な状況にあると言える。
 しかし教員の精神疾患による休職者数増加には,平成11年度以降のわが国における気分障害患者数の増加と時期的に一致する点もあるし,メンタルヘルスの悪化は何も教員に限ったことではない。だが多くの教員を診療している東京都教職員互助会三楽病院精神神経科の2011年の調査によれば,教員の初診者の疾病分類は59%が適応障害であり,発症の原因あるいは症状に最も影響を及ぼしたストレス要因としては業務関連ストレス要因が78%を占めていた。平成11年度以降のわが国の精神科医療が気分障害をやや過剰に診断しやすかった時期においても適応障害という診断が過半数を占めていたという点を考えると,教員のメンタルヘルスの悪化にはその職務特性を素地に持ちながら労働環境の変化などが関与しているという意見は妥当と言えるかもしれない。
 職務特性や労働環境がメンタルヘルスの不調に強く影響している場合,精神科医療は診察室でのやりとりと薬物療法に終始するのではなく,業務関連ストレス要因の評価と調整,対処行動の提案やそのための職場との連携が求められるであろう。
…(中略)…

休職中の援助
 あれこれ手を尽くしても休職に至ることはある。休職は病状の回復と復職の準備のための期間である。だが今日の精神科医療はストレス要因の調整や対処行動の検討よりも薬物療法に偏りやすいようだ。適応障害だからと言って薬物療法を否定するつもりはない。だが復職を念頭にした場合,薬物療法による眠気や集中力の低下をはじめとする副作用は,児童・生徒に影響を及ぼしかねない。あしたがって向精神薬は開始したとしても,中止できそうなものは可能な限り早い段階で漸減中止を目指すことが求められる。また業務関連ストレス要因に関する職場との調整が欠けたままの治療が継続されると,休職期間は長引きやすくなる。ストレス要因から回避し続ける状況が続けば,休職によって生じる利得が強化されかねない。いたずらに休職期間が長引くと,回復不十分な状態のまま休職期間満了が近づき,結果的に焦燥感を強めることになる。業務関連ストレス要因を調整するためには,保健師,校長等管理職との調整が必要になる。これもまた多忙な精神科医の診療を考えると骨の折れる作業であろう。とはいえ復職を目指すためには必要な作業と言える。
 決して多いわけではないが,教員のメンタルヘルス上の不調を怠けや指導力不足と校長等管理職が認識していることがある。たしかに教員の資質や能力が主たる要因と考えざるをえないこともある。しかし校長等管理職がそのような認識を過度に強めているとそれは回復を阻害する要因になるし,復職しても再休職を招きかねない。休職期間中に校長等管理職と連携することは彼らの認識を適正化することに寄与し,不調からの回復を促進することが期待できる。
 (以下省略)
 【大石 智、宮岡 等:教員のメンタルヘルスの課題と取り組み. 精神科治療学 Vol.31 89-94 2016】

私の感想:
 「日本の教員の労働時間は加盟国の中で最も長く,部活動など課外活動指導,事務作業など授業以外に費やす時間が長くなりやすく・・」といった調査結果などから、『プロコーチ部活指導』(2016年4月22日付日本経済新聞・くらし)などの試みが始められたという側面もあるのかなぁ・・。
 詳細は、同日のFacebookをご参照下さい。
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