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認知症当事者の体験 [認知症]

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認知症当事者の体験

はじめに
 2014年10月11日,「日本認知症ワーキンググループ(Japan Dementia Working Group;JDWG)」が発足した.認知症の人と社会のために,認知症の人自身が活動する日本初の独立した組織であり,「認知症になってから希望と尊厳をもって暮らし続けることができ,よりよく生きていける社会を創りだしていくこと」を目的に,認知症関連の諸団体と友好的な関係を築きながら活動する.
 2015年3月29日に開催された第1回JDWG全体ミーティングには,40~80歳代の男女23人の認知症の本人が参加し,「診断前後に『どんな出会いが必要』か?」をテーマに話し合った(意見提出3人を含む).
 2015年4月18日に開催されたアルツハイマー病研究会第16回学術シンポジウムでは,認知症を実際に体験している本人だからこそ気づけたことを,JDWGメンバーであり共同代表のひとりである藤田和子と,パートナーである水谷佳子の対談形式で発表した.
 本稿は,その記録を加筆修正したものである.

目に見えにくいやりづらさ
【水谷】
 私たちはJDWGのメンバーとパートナーとして,ともに活動しています.普段はお互いに悩み事を相談したり,たまに会えたときにはおいしいものを食べたり,元看護職の藤田和子さんに,先輩としてアドバイスしてもらったり,泣き言を言ったり……,そんな仲です.今日は私が聞き手として,和子さんからお話を何います.
 「認知症があると,周りの人からはわかりにくい緊張や疲れがある」と,和子さんは日頃からおっしゃっていますね.
【藤田】
 そうなんです.私は8年前にアルツハイマー型認知症と診断されましたが,たぶん初期の段階にあります.日常生活のいろんなことを,すごい集中力と頑張りで,こなしてしまおうとして,実際こなせてしまう状況にあるのです.でも,どれだけ頑張っているか,その結果「できてしまっている」んだってことは知られていません.なので,ぱっと見た感じでは,そのやりづらさを周囲の人は気づけないのです.
 今日のお話はたった20分です.頑張ってここで話している20分だけをみると,何てことなく見えるでしょう.でも,この場に向かうための気力,精神力,体力,いろいろなものを調整して,今,この場にいます.目には見えない,言葉には表しきれない緊張と集中です.緊張のあとには,ガーッと頭痛がして,ぐったりしてしまいます.頭痛というと簡単ですが,実際は頭の中がパンパンになるというか,脳が腫れ上がったような感覚があったり,なにも映っていないテレビ画面がざーっといっているような感覚が頭の中にあったりします.疲労感のような,何ともいえない感覚です.
 …(中略)…
【水谷】
 そういうつらさや疲労があっても,苦手な部分を補ってくれる人たち,パートナーがおられて,そうすると,まあまあ結果としてうまくいくということが暮らしのなかに多くなる.
【藤田】
 そうですね.
 …(中略)…
 私の体験なのですが,認知症の人はしゃべれないということはなくて,しゃべりたい相手やしゃべられる環境があると,ものすごくしゃべるのです.一生懸命しゃべっているうちに,自分のなかで起きていることや不安なこと,どうしたらよいか,そういうことがだんだん整理できていく.すると,物事や自分がやるべきことが1つずつ決まっていくのです.それをうまく支えてくれる人たちがたくさんいて,今の私がいます.私はそういう環境,人間関係に恵まれていて,本当に特別によい状態にあったと思います.そのように恵まれた人たちだけではなくて,すべての認知症の人たちが「ああ,よかった」って思えるようになってほしい.私も今でも不安はあるし,これからも不安は続くのだけれども,一人で抱え込んで,孤独で,社会とのつながりも切れて……,というような悲しい事態が起きなくて済むようになったらいいなと思います.
 …(中略)…

メッセージ
【藤田】
 今まで描かれてきた認知症の人像,認知症観というのは,一部の見方であって,それがすべてではありません.認知症にも始まりはあります.それは,どういう体験なのか──本人も混乱し不安な始まりのときから,皆がさーっと手を差し伸べて,「人として世の中で生きていっていい」「私たちのなかに一緒にいようよ」ということを,言葉や態度で示してくださると,生きる力になります.私や,ワーキンググループのメンバーもそうなのですけども,「よりよく生きる」「希望をもって生きている」認知症の人がいるということを知ることが力になります.「よい状態を保つために,一緒に考えていきましょう」「ご家族や友だちと一緒に」ということを本人に伝えてくださることが,薬以外の治療にもなるのです.
 これから,たくさんの人たちが認知症になっていくといわれています.認知症の最初の入り口である医療機関で,最初に希望と出会えたら,その先をよりよく生きることにつながると思います.認知症になった本人も,その周囲の人たちも,希望をもって暮らせる社会を,一緒につくっていってくださるとうれしいです.
 【藤田和子、水谷佳子:認知症当事者の体験. 老年精神医学雑誌 Vol.27増刊号-Ⅰ 172-176 2016】

私の感想
 私自身、2015年にはひどい「大うつ病」を経験し、自分が壊れていく感覚を体感しており、その恐怖感は今も脳裏に深く刻み込まれております。認知症の人が感じる「自分を失う怖さ」と共通する部分もあるのかも知れません。
 第16回学術シンポジウム(2015.4.18 in グランドプリンスホテル新高輪)におきましては、私はJ-CATIA(新井平伊先生)の演題をどうしても聴きたかったのでトラックセッション5会場に居たようです。
 「私や、ワーキンググループのメンバーもそうなのですけども、『よりよく生きる』『希望をもって生きている』認知症の人がいるということを知ることが力になります」という部分、とても重要な視点だと思いました。
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