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アミロイドPETイメージング [アルツハイマー病]

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脳ドックの実際―認知症への対応
3.アミロイドPETイメージング
 アミロイドPETイメージングは,脳アミロイドβ蓄積の検索として有用な手法であり,特にアルツハイマー病の診断あるいは除外に有益である.アルツハイマー型認知症は発症の約20年前から脳内のアミロイドβ蓄積が始まるとされており(図),発症前段階でのアミロイドβ蓄積の有無の評価も可能である.一方,健常高齢者でアミロイドPETが陽性となる率は15~20%程度と推察されるため,本検査の意義としてより重要なのは認知機能障害があった場合アミロイドPETが陰性であればアルツハイマー病は否定的であるという点である.
 本検査で注意すべき点としては,現時点では発症前に蓄積を捉えられたとしてもアルツハイマー型認知症への移行阻止の手立てがないということであり,したがって無症候者への検査施行には慎重になるべきである.本検査に関しては,厚生労働省研究班・日本核医学会・日本認知症学会・日本神経学会が2015年に合同で「アミロイドPETイメージング剤合成装置の適正使用ガイドライン」を発表している(厚生労働省研究班「アミロイドイメージングを用いたアルツハイマー病発症リスク予測法の実用化に関する多施設臨床研究」,日本核医学会,日本認知症学会,日本神経学会,編.アミロイドPETイメージング剤合成装置の適正使用ガイドライン.2015).これによれば,適切な使用例として,「臨床的に認知症があり,その背景病理としてアルツハイマー病の可能性が支持,または除外される(アルツハイマー病の病理診断に相当する密度の老人斑が存在するか否かがわかる)と診療上有益である場合に適応が考慮される」としている.また,本検査の不適切な使用例として,「無症候者に対するアルツハイマー病の発症前診断」,「自覚的な物忘れ等を訴えるが客観的には認知機能障害を認めない場合」等が明記されており,脳ドックでの施行は基本的には望ましくないと考えられる.
 そもそも本検査を実施可能な施設はまだ限られているのが現状であるが,今後の普及が見込まれる.将来的には,発症前のアミロイドβ蓄積段階での有効な治療介入が可能になれば,脳ドックの一環としても有用な検査にはなり得る.
 【土田剛行、岩田 淳:脳ドックの実際―認知症への対応. Clinical Neuroscience Vol.34 432-434 2016】

私の感想
 アミロイドPETの日米の適正使用指針について、以下にまとめておきます。

朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第93回『アルツハイマー病の治療薬 期待される根本治療薬』(2013年3月28日公開)
 Preclinical ADに関しては、現時点では臨床現場での超早期診断を念頭に置いて提唱されているわけではなく、あくまでも臨床治験などの研究で用いることが前提となっています。
 期待された多くの根本治療薬は、臨床試験において実薬群とプラセボ群との間に有意差が認められず治験が不成功に終わっています。根本治療薬の治験が成功しないことの要因として、「多くの研究者が心の中で思っていることの一つは、根本治療薬の投与時期が遅すぎるのではないか」(荒井啓行:序文─先制医療と認知症予防の展望─. 日本臨牀 Vol.69 Suppl8 1-6 2011)という点です。
 初期ADであっても、アミロイドの蓄積と広範な神経細胞死が既に生じており、その段階で根本治療薬を投与しても遅いのではないかという考えに立って、「Preclinical AD」という概念が導入されてきたわけです。
 東京都健康長寿医療センター研究所附属診療所の石井賢二医師は、Preclinical ADの研究を通して、アルツハイマー病の根本的な克服に向けた発症予防・遅延研究が進んでいくという大きな意義を認めつつも、臨床症状が認められなくとも病気(Preclinical AD)に組み入れることの問題点について言及しております(石井賢二:アミロイドイメージングの現状と有用性. 神経内科 Vol.77 597-605 2012)。
 「まず第一に、preclinical ADという言葉が独り歩きすることの倫理的問題である。健常者におけるアミロイド陽性所見が発症のリスクとしての正確な評価が得られていないにもかかわらず、発症が運命づけられているかのように誤解されることは、新しい診断技術が普及する過程で起こりうることである。また、この検査結果が社会的『差別』を生む可能性も指摘されている。保険料が高くなったり、社会的地位から排除されたりする可能性がないとはいえない。リスクとしての評価が定まり、なんらかの発症遅延法が確立されるまでは、みだりに『検診』として用いるべきではないし、結果の開示や取り扱いについても十分な配慮が必要である。
 第二点として、この診断基準のストーリーに乗らない症例を見出して検索することも、病態理解や治療法の開発の上で、重要な意味を持つと考えられる。すなわち、アミロイド陽性所見があっても、神経変性のプロセスが始まらないあるいはきわめて緩徐にしか進行しない例が存在することはすでにある程度知られている。このような症例は、おそらくアミロイド抵抗性の因子を持っていると考えられる。このような抵抗因子の検索も治療予防法の開発に結びつく可能性がある。」
 このような背景もあって、米国核医学分子イメージング学会(SNMMI)と米国アルツハイマー病協会は2013年1月28日、アルツハイマー病の診断技術として注目されているPET(ポジトロン断層法)アミロイドイメージングに関する初めての適正使用指針を発表し(First guidelines published for brain amyloid imaging in Alzheimer's)、米国アルツハイマー協会発行のAlzheimer's & Dementia誌(http://www.alz.org/news_and_events_60578.asp)、The Journal of Nuclear Medicine誌(http://interactive.snm.org/index.cfm?PageID=12318)に掲載しました。
 今回の指針内容を簡単にご紹介しましょう。
 PETアミロイドイメージングはアルツハイマー病の診断に有益な手法となると指摘しつつも、PETアミロイドイメージング実施の前に、必ず医師による認知機能の検査を実施することが重要であることを強調しました。
 その上で、適切な候補者の条件を3つ示しました。
1 説明の付かない記憶機能の問題がある人。記憶、認知機能の標準的テストで障害が認められる人。
2 テストでアルツハイマー病を疑われる人で、診察では典型的なアルツハイマー病に該当しない人。
3 進行性の認知機能の低下がある65歳未満の人
 また、検査の意義のないケースも2つ示しました。
1 患者が65歳以上で標準的なテストによりアルツハイマー病であると明確であるケース(追加的な価値が乏しいため)。
2 無症状の人で、認知機能の訴えがあるが臨床的には障害を認められない人。
 さらに、実施が不適切と考えられる条件として、「認知症の重症度判定、家族歴や危険因子があるだけでの検査、遺伝子検査の代替としての実施、非医学的な理由(保険や法的、雇用)では実施すべきではない」と報告しております。


<認知症>アミロイドPET 発症前診断に賛否、続く議論
 毎日新聞2014年6月6日(金)10時2分配信
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140606-00000016-mai-soci

 アルツハイマー型認知症の早期診断に向けた取り組みが進んでいる。検査技術の進歩で、発症前に脳内の異変が察知できるようになったが、必ず発症するとは限らず、現在は確実な予防法も根本的治療薬もない。このため、不安をあおる可能性があるなどとして、検査の利用を拡大していくかどうかについては慎重な議論が続いている。検査の実際と注意点をまとめた。

◇ガイドライン作成
 アルツハイマー型認知症は、脳内にたんぱく質の一種のアミロイドベータなどが蓄積して神経細胞が死に、認知機能や生活能力が低下する。こうした脳内の変化は、物忘れなどの症状が表面化する前に始まっている。
 現在の技術でも、脳内のアミロイドベータの蓄積状況を画像で診断することは可能だ。ただし現在、医療現場では研究や治験以外の目的で利用できない。将来、認知症を発症する可能性が高いと分かっても、発症を抑えたり根本的に治療したりする薬がなく、症状の進行を遅らせるなどの対処しかできないためだ。
 こうした現状を踏まえ、医療現場での適切な検査技術の利用に向けた取り組みが始まっている。日本神経学会、日本認知症学会、日本核医学会は合同で、どのような場合に画像診断(アミロイドPET)を実施するのが適当かガイドラインをまとめ、一定の基準を示すとともに、検査の有用性を判断したり、画像を診断したりするための資格要件などを定めた。
 ガイドラインでは、アミロイドPETが有用なケースを(1)アルツハイマー型認知症かそれ以外の疾患か区別が難しい場合の鑑別診断(2)若年性認知症の診断…などとし、既に症状が表面化した人を対象としている。
 一方、フォローアップができない▽被験者や家族が結果を受け止められない…など倫理的問題が解決できない場合や、重度▽診断がはっきりしている▽物忘れなどの症状がない--など検査結果がその後の治療に生かせない人への検査は「不適切」とした。
 とりまとめの座長を務めた、東京都健康長寿医療センター研究所の石井賢二研究部長は「画像は診断の決め手になる」とする一方、「根本治療薬がない中で、早期診断によって生活習慣の改善を図り、治療効果や予後改善が期待できるかは今後の検討課題だ。いたずらに不安をあおったり検査結果が不適切に利用されたりすることにもなりかねず、利用には慎重な判断が必要」と指摘する。
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