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ミラーニューロン ミーム [ミラーニューロン]

朝日新聞アスパラクラブ「ひょっとして認知症-PartⅠ」第442回『■物まねニューロンとアスペルガー症候群 (その1) 脳がジェラートをほしがった』(2012年6月20日公開)
 書店を歩いていて私が足を止めるのは、「認知症」、「脳科学」などの文字が目に飛び込んできた時です。
 2011年の秋、書店をぶらぶら歩いていて飛び込んできた文字は、『ミラーニューロンの発見「物まね細胞」が明かす驚きの脳科学』という本のタイトルでした。著者はマルコ・イアコボーニ(塩原通緒 訳)、発行は早川書房です。本の帯には、「脳科学最大の発見」と書かれています。

 さてミラーニューロンとはいったいどのような細胞なのでしょうか。
 愛知医科大学精神科学講座の兼本浩祐教授が書かれた本のcolumnに簡潔にまとめられていますのでご紹介しましょう(一部改変)。
 「ミラー・ニューロン(物まねニューロン)とは、たとえば自分が果物を手に取る時に駆動されるのと同じ脳部位が、対面している他者(ないしは他の動物)が果物を手に取っても駆動される現象を言う。原始的なものでは、一羽の水鳥が物音に驚いて飛び立つと、一斉に他の水鳥も飛び立つ現象などもこのニューロンの働きなのではないかと言われている。こうした物まねニューロンの存在は、1996年にイタリアのパルマ大学のジャコモ・リゾラッティ(Giacomo Rizzolatti)らのグループによって偶然発見されたものである。彼らは手の運動、たとえば何かを掴んだり操作したりする行動に特化した神経細胞を研究するために、カニクイザルの下前頭皮質に電極を設置して長時間実験を続けていた。ところが、実験の途中でカニクイザルが何も手で掴んでいない時にも電気的な興奮が記録されるということが度重なった。よく観察すると、実はカニクイザルは、彼らの実験を手伝っていた学生がイタリアン・ジェラートを持ち込んで食べているのに対して反応していたことが判明したのである。その後の追試によって、腹側運動前野だけでなく下部頭頂葉(Brodmannの7b野)にも同様の活動パターンを示す神経細胞があることを見出し、これをミラー・ニューロンと名づけた。
 この物まねニューロンの存在がにわかに脚光を浴びたのは、このニューロンの働きが、他人への感情移入の脳における基盤なのではないかと考えられたからである。自閉症やアスペルガー症候群における他人への共感性の問題をこのニューロンの機能不全によって説明しようとする試みなど、多岐にわたる発想へと展開していった。」(兼本浩祐:心はどこまで脳なんだろうか 医学書院, 東京, 2011, pp77-78)。


ストレッチクラスの先生の話
投稿者:梨木 投稿日時:12/06/20 22:46
笠間先生
 面白いトピックですね!
 このカニクイザルさんも、学生さんが食べている美味しそうなジェラートに関心持ったのですね。
 関心持たないものだったら、この偶然は生まれなかった?

 これを読んで、関係あるか分かりませんが、常々ストレッチクラスの指導者が仰っていること(そして私がホントかな、と半信半疑のこと)を思い出しました。話がアスペルガーから離れますが。
 先生が言われるには、例えばバスケットが大好きな人が怪我で動けなくなっても、試合のTVなどを観て自分もその動きをしたつもりで想像すると、実際筋肉は動かせなくても動かしたのに近い効果があると。
 だから私達も又被介護家族にも、関心を持っているスポーツの映像を観せたり、あるいはベッドに寝ながらでも頭の中で運動しているつもりの意識が大切と。
 その先生は今でもいろいろな指導者研修に出られており、そこで学ばれたことを伝えて下さるのですが、とても興味深い話が多いです。
 これって脳科学的に考えていかがなものですか。
 機会がありましたら、教えていただけると嬉しいです。


Re:ストレッチクラスの先生の話
投稿者:笠間 睦 投稿日時:12/06/21 07:07
梨木さんへ

> 面白いトピックですね!

 そうですよね。私も非常に興味深く感じました。
 でもこのシリーズの後半で、この話にまつわるもっと興味深い事実を知ることになりますよ。ヒントだけ出しておきますね。
 キーワードは、「ミーム」です。


朝日新聞アスパラクラブ「ひょっとして認知症-PartⅠ」第446回『■物まねニューロンとアスペルガー症候群 (その5) 物まねニューロンと言語の獲得』(2012年6月24日公開)
 さて話題をミラー・ニューロンの話に戻しましょう。
 東京大学大学院医学系研究科認知・言語神経科学の坂井克之准教授は、ミラー・ニューロンと言語の獲得に関して言及しています(一部改変)。
 「サルでその存在が明らかになったミラー・ニューロンは、ヒトにも存在するのだろうか。健常者を対象とした脳機能画像研究により、他者が動作を行っている様子を見ているときには、自身がその動作を行っているときと同じ領域が活動することがわかった。これはサルの場合と同じく、腹側運動前野と下頭頂小葉であった。ところが機能画像では、同じ領域が活動していることはいえても、同一の神経細胞が活動しているかどうかは不明である。そこでヒトの場合はミラー・ニューロンとはいわず、ミラー・システムと呼ばれている。
 『相手の気持ちになって考える』という表現が日常的に用いられるが、ミラー・システムの働きからするならば相手の動作、さらには意図を自分の脳内に表現する、すなわち相手を自分の脳に取り込むことによってその気持ちを理解している、ということができる。
 ミラー・ニューロンが見出された腹側運動前野が、ヒトの言語領域であるBroca領域と相同であるとの考えが、『ミラー・ニューロン=言語の起源』説を信憑性のあるものとしている。赤ん坊が言葉の発音を真似るときに、親の口元をじっと見て、これをまねするようにして言語発声することはその可能性を感じさせる。だが、動作の模倣によって言語が獲得されるとの考えは、言語学者の間では主流の考え方ではない。」(岩田誠,河村満・編集:ノンバーバルコミュニケーションと脳-自己と他者をつなぐもの. 医学書院発行, 東京, 2010, pp107-119)。

 「Broca」という用語に関しては、シリーズ第78回『高次脳機能障害を学ぶ・その3』(https://aspara.asahi.com/blog/hyottoshite/entry/uNOo6neFZY)において簡単に説明しております。以下に再掲しますね。
 左前頭葉には運動性言語中枢があり、この部位が障害されると運動性失語(ブローカ失語)が起きます。言葉の表出面が強く障害されるタイプの言語障害で、話し言葉の理解面は比較的保たれています。「めがね」とか「時計」などの単語が出ず(喚語困難)、「あれ」とか「それ」と言います。
 ブローカ野の障害などが原因で起こる健忘失語(別称:失名詞失語)の特徴として、喚語困難(語想起障害)があげられます。健忘失語は、アルツハイマー病で起きる失語症の代表的なタイプです。


朝日新聞アスパラクラブ「ひょっとして認知症-PartⅠ」第447回『■物まねニューロンとアスペルガー症候群 (その6) 私たちはそもそも一日中なにをしているのか?』(2012年6月25日公開)
 さて、冒頭でご紹介した『ミラーニューロンの発見「物まね細胞」が明かす驚きの脳科学』という著書の書き出し部分をご紹介しましょう。
 「いきなりだが、私たち人間はそもそも一日中なにをしているのだろうか。突きつめて言えば、私たちは世界を読み解いている。とくに自分が出くわした人間のことを、と言ってもいい。たとえば朝、起き抜けに鏡に向かうと、そこに映った自分の顔はどうも冴えないが、隣に映っている顔を見れば、うちの美しい妻は朝からいたって元気そうだと察せられる。朝食の席で11歳の娘の顔をちらりと見れば、これは触らぬ神になんとやら、黙ってエスプレッソをすすっていたほうがよさそうだと見当がつく。研究室で同僚の一人がレンチに手を伸ばしていても、彼はこれから磁気刺激装置の仕事に取りかかろうとしているのであって、怒ってレンチを壁に叩きつけようとしているのではないとわかる。そして別の同僚が笑みを浮かべながら近づいてきたときも、それが他意のないにこやかな笑顔なのか、あるいは含みのあるにやついた笑顔なのか──その差が紙一重で、顔の筋肉の動かし方にわずかに違いが現れているだけだとしても──見れば自動的に、ほぼ瞬時に判別がつく。人間は誰しもこのような判別を、毎日、無数に行なっている。それがまさしく私たちのしていることなのだ。…(中略)…長いこと科学者たちは頭をかきむしっていた。他人のしていることや考えていることや感じていることを私たち人間はどうしてわかるのか、その仕組みは誰にも説明できなかった。いまでは、それが説明できる。人間は脳にある特殊な細胞の集まりのおかげで、他人をきわめて微妙なところまで鋭敏に理解することができるのだ。それらの細胞群を総称してミラーニューロンという。この微小な奇跡によって、私たちは一日を切り抜けていける。これがあるからこそ、迷わず日々を送っていける。これが私たち人間どうしを精神的、感情的に結びつけているのである。」(マルコ・イアコボーニ:ミラーニューロンの発見「物まね細胞」が明かす驚きの脳科学 塩原通緒訳, 早川書房発行, 東京, 2011, pp13-15)


朝日新聞アスパラクラブ「ひょっとして認知症-PartⅠ」第448回『■物まねニューロンとアスペルガー症候群 (その7) じつは都市伝説だった!』(2012年6月26日公開)
 さてこのシリーズのはじめに、ミラーニューロンが発見された経緯は、サルが実験を手伝っていた学生がイタリアン・ジェラートを持ち込んで食べているのに反応し偶然発見されたものだと説明しましたね。
 皆さん、「ミーム」って言葉をご存じですか。大変興味深い記述をご紹介しますね(マルコ・イアコボーニ:ミラーニューロンの発見「物まね細胞」が明かす驚きの脳科学 塩原通緒訳, 早川書房発行, 東京, 2011, pp70-72)。
 「ドーキンスは約30年前の有名な著作『利己的な遺伝子』の中で、「ミーム」という用語を考案した。生物学と遺伝学の分野からコンセプトを「模倣」し、遺伝子が世代から世代へと伝達されるのと同じように、行動もまた世代から世代へと伝達されると考えたのだ。彼の用語(すなわち彼のミーム)は広く受け入れられるようになり、いまではオックスフォード英語辞典にまで、次のような定義で載せられている。『遺伝子によらない手段、とくに模倣によって、受け渡されていくと考えられている文化の一要素』。…(中略)…非常に活発なミームのよい例が、どこにでも存在する「都市伝説」だ。皮肉なことに、そうした根強い都市伝説の一つがいまや世界伝説と言ってもいいが、当のミラーニューロンの発見にまつわる話である。パルマのジャコモ・リゾラッティの研究室で、思いがけなくもミラーニューロンの初観察がなされたときの曖昧さを思い出してもらえるだろうか? 科学界を駆けめぐつた無数の逸話の一つは、ヴィットリオ・ガレーゼが研究室でコーンアイスを舐めているときに、電極をつながれていたマカク属のサルの脳内のニューロンが発火しはじめた、というものだった。私はこの話を複数の場所で何度も聞いたし、そのうちに私自身もこの話を信じるようになった。そればかりか、私もまたこのミームを伝達する「乗り物」の一つになった。講演会でもこのアイスの話を出したし、私にミラーニューロンについての意見を聞きに来た数人の記者にまで話したのだから。私はこの本にもその話を盛り込むつもりでいたが、とりあえずその信憑性をリゾラッティとガレーゼに確かめたほうがいいと思った。するとなんということか、アイスの話は根も葉もない噂だったのである。」

 なお兼本浩祐教授と医学書院の名誉を損なわないために敢えて申し上げておきますが、『心はどこまで脳なんだろうか』(兼本浩祐:医学書院, 2011)が出版されたのは2011年5月であり、『ミラーニューロンの発見「物まね細胞」が明かす驚きの脳科学』(マルコ・イアコボーニ:塩原通緒訳, 早川書房発行, 2011)が出版されたのは2011年7月です。
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