SSブログ

認知症早期診断の「3つの意義」 [アルツハイマー病]

認知症早期診断の「3つの意義」

 樋口直美様より「BPSDは、病気だけで起こるのではなく、環境(ストレスをかける不適切な対応・ケアなど)が引き金になるのではないでしょうか? 病気であっても、あたたかい人間関係の中で安心して、役割を持って、笑って生活していてもBPSDが、同じ%で起こると思われるでしょうか? 私は、限りなくゼロに近づくと考えていますが、間違っていますか?」というご質問を受けました。
 私は、「昨日受診された患者さんのご家族が、『家でBPSD(易怒性)がひどくって・・』と話されましたので、私は以下のように返事しました。
 この診察室ではまったくBPSDの様子が確認できませんので、言いにくいことですが、ご自宅での『対応』が大きな要因ではないかと私は思います。」とお返事致しました。
 

朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第76回『軽度認知障害 進行がとてもゆっくりなケース』(2013年3月10日公開)
 アルツハイマー病(AD)の経過は、「緩やかな発症と持続的な認知障害の進行」により特徴づけられており、進行が確認されない場合にはアルツハイマー病という診断そのものが疑わしいことになります。
 進行が非常にゆっくりである場合には、神経原線維変化型老年(期)認知症(senile dementia of the neurofibrillary tangle type;SD-NFT)なども念頭に置く必要があります。
 ちょっと難解な用語が並びますが、アルツハイマー病の根本的な治療を理解するためにはどうしても必要な知識になりますのでお付き合い下さいね。
 SD-NFTは、神経原線維変化型認知症の一つの亜型です。神経原線維変化型認知症は、神経原線維変化が病変の主座を占める認知症の総称です。
 SD-NFTは、辺縁系神経原線維変化認知症(limbic neurofibrillary tangle dementia;LNTD)とも呼ばれています。主に後期高齢者に物忘れで発症し、軽度認知障害を経て認知症に至りますが進行がゆっくりで、認知機能障害も比較的軽く、人格レベルも割合保たれるという特徴があります。CT所見では、海馬領域の限局性萎縮が特徴的です。病理所見では、海馬領域に限局した無数の神経原線維変化が見られ、老人斑がほとんどないことでADと区別されます。
 SD-NFTは、すべてのMCIがADに至るわけではないということに関する理解を深めるうえで重要な疾患概念となります。
 ADでは、アミロイドβというタンパク質が脳内に過剰に蓄積することが引き金となって神経細胞死が起き、認知症を発症すると考えられております。PET検査を実施すれば、そのアミロイドβを検出することが可能ですので、アルツハイマー病の超早期診断(発症前も含めて)および鑑別診断という観点からPET診断の重要性が指摘されています。
 SD-NFT、嗜銀顆粒性認知症(argyrophilic grain dementia;AGD)といった疾患は、ADと症状が似かよっており、ADと誤診されているケースが多いのが現状です。症状は非常によく似ていてもADとは発症機序が異なり、アミロイドβは関与しておりません。
 したがって、現在、臨床試験が実施されておりその登場が待ち望まれているアミロイドβをターゲットにした根本的な治療薬は、SD-NFT、AGDといった疾患では効果が期待できないことになります。ですから、新薬の有効性を正しく評価するためにも、より正確な診断が求められる時代に入ってきているのです。
 東京都健康長寿医療センター研究所附属診療所の石井賢二診療所長は、「AGDは、連続剖検例の検討から、高齢者の認知症の背景病理として、ADやDLB(レビー小体型認知症)に次ぐ頻度があることが報告されている。日常診療の中ではADと誤診されることが多い。経過が緩徐で生活機能障害は比較的軽度にとどまることが多いので、ADと鑑別できれば患者や家族にとって有益であると考える。」(石井賢二:認知症の診断─認知症の画像診断. 医薬ジャーナル Vol.48 1973-1977 2012)と述べています。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第77回『軽度認知障害 自分のボケ予防が役に立つケース』(2013年3月11日公開)
 東北大学加齢医学研究所老年医学分野の荒井啓行教授は、第125回日本医学会シンポジウムにおいて、「東北大学老年内科におけるもの忘れ専門外来における経験から、医療機関を受診するMCI患者の約70%は進行性に認知機能が低下し、脳脊髄液タウ値が高く、アルツハイマー病(AD)の前駆段階と思われ、実際MCIからADへの年間転化率は約15%であった(progressive MCI,進行型MCI)。一方、他の30%は認知機能障害に進行がみられず、脳脊髄液タウ値が正常範囲内で、MRIにおいて脳室周囲白質病変が比較的高度であった(stable MCI,非進行型MCI)」と報告しています(荒井啓行:軽度認知機能障害と痴呆症の早期診断. 日本医師会雑誌 第133巻第2号 275 2005)。
 この非進行型MCIとはいったいどういう病態なのでしょうか? 実は、MCIと診断されたものの進行が乏しいケースの中には、辺縁系神経原線維変化認知症(limbic neurofibrillary tangle dementia;LNTD)や海馬硬化性認知症(hippocampal sclerosis dementia;HSD)などの疾患が含まれているのではないかと指摘されています。
 診断技術の進歩とともに、これらの疾患が正確にAD前段階としての軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment;MCI)から除外されるようになっていけば、MCIの中に占める「非進行型MCI」の割合は、30%よりも減少していくと考えられるわけですね。

 では、MCIと診断されると、進行していく一方なのでしょうか。
 ここで注目したい数字が「リバート率(リバージョン率)」という指標です。
 筑波大学臨床医学系精神医学教授の朝田隆先生は、「一旦はMCIと診断されても後日の評価で知的に正常と判定されることをリバージョンといい、そのような個人をリバーターと言う。…(中略)…従来の報告ではリバート率は14~44%とかなり多い(Manly JJ et al:Frequency and course of mild cognitive impairment in a multiethnic community. Ann Neurol Vol.63 494-506 2008)。とくに地域研究におけるMCI は複合的な集団とされ、この傾向が強い。この問題は今後のMCI研究における重要課題と思われる。」と報告しています(朝田 隆:軽度認知障害. 認知神経科学 Vol.11 252-257 2009)。
 認知症介護研究・研修東京センター研究部長であり浴風会病院診療部長の須貝佑一医師は、浴風会病院の患者さんでリバージョンした方たちから、聞き取り調査を実施したそうです。  その結果、「そうした方たちは皆さん、健康維持やボケ予防のためになんらかの取り組みをしていました。たとえば、ボケ予防のために定年後から英会話や物理学の勉強を始めたとか、体力づくりのために山登りをもう10年も続けているとか、あるいはパソコン教室に通って自分のブログまで開設しましたとか…。」ということが分かったそうです(須貝佑一:朝夕15分 死ぬまでボケない頭をつくる! すばる舎, 東京, 2012, pp32-34)。

 さて皆さん、認知症早期診断の意義って何だと思われますか?
 実は3つの大きな意義があります。
1 早期診断・早期治療により、アルツハイマー病の進行をなるべく遅らせる
2 治療可能な認知症を見逃さない
3 初期のうちに、適切な認知症ケアの方法を指導し、「認知症の行動・心理症状」(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia;BPSD)の発生を未然に防ぐ
 この3点、どれも非常に重要な意義を持っています。中でも3番目のBPSDの予防という目的はあまり知られていない大きな意義ですので、しっかりと啓蒙していくことが必要だと感じています。

Facebookコメント
認知症 受診まで9ヵ月半
 「本人が拒否」多く
 民間調査:診断への不安 背景に

 家族に物忘れなどの異変が表れ、認知症を疑いながら、医療機関を受診するまでに平均で9カ月半かかっていることが16日、「認知症の人と家族の会」 (京都市)などのアンケートで分かった。本人が受診を拒否したのが主な理由で、診断を受けることへの不安が背景にあるとみられる。
 認知症にはさまざまな原因があり、患者が最も多いアルツハイマー型認知症は投薬で症状の進行を抑えられる。他にも早期診断で治療可能なものがあり、カウンセリングや医療体制の整備が課題といえそうだ。
 アンケートは、製薬会社の日本イーライリリー(神戸市)が同会と共同で実施。昨年9月に会員に質問票を郵送し、465人が回答した。
 家族が異変に気付いてから、患者本人が受診するまでの期間は「6カ月以上」が46.7%だった。中には「5年以上」(2.8%)、「3年以上、5年未満」(6.7%)など、長期間におよぶケースもあり、全体の平均は9.5カ月だった。
 6カ月以上と答えた人に時間がかかった理由(複数回答)を尋ねると、「本人が病院に行きたがらなかった」が38.7%で最も多かった。「年齢によるものだと思っていた」(33.6%)、「本人に受診を言い出せなかった」(21.2%)が続き、家族が判断に迷ったり、本人を説得できなかったりする実態も浮き彫りになった。
 【2014年9月17日付日本経済新聞・社会 42面】

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。