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認知症―最重要項目のワンポイントレッスン [認知症]

認知症―最重要項目のワンポイントレッスン
 今回は、誰もが知っている教科書的な話ではなく、以下の5項目に関する「すぐに活用できるとっても重要な豆知識」をご紹介したいと思います。
 1 早期診断
 2 軽度認知障害とは
 3 診断(もの忘れ検診)
 4 終末期医療における問題点は何か
 5 認知症ケア


1 早期診断
Q 認知症の早期診断をするにはどうすればいいですか?
A 軽度認知障害(MCI)という病態があります。認知症の前段階とされます。
 ですから、軽度認知障害をきちんと診断できれば早期診断につながりますよ。

2 軽度認知障害とは
Q じゃあ、その軽度認知障害ってどんな状態なのですか?
A 2016年4月27日付中日新聞にて分かりやすく解説されておりますので先ずはそこで基礎的な知識を身につけましょう。

3 診断(もの忘れ検診)
Q 診断するにはどうすれば良いですか?
A 誰でも簡単にできる検査として、改訂長谷川式認知症スクリーニングテスト(HDS-R)があります。
 このテストは30点満点です。20点以下は「認知症の疑い」と教科書には書かれています。しかし、そんなことを信じていたら絶対に早期診断はできませんよ。早期のアルツハイマー病の方は30点満点が取れるですよ!
 じゃあ診断の役に立たないじゃないの?と言いたくなりますよね。

 安心して下さい! もっと詳しい検査がありますから!
 2010年6月4日付三重タイムズをお読み下さい。
 リーバーミード行動記憶検査という詳しい検査をすれば、かなりの早期診断が可能です。
 なお、HDS-Rを繰り返し実施する(年1~2回)することにより、点数の低下傾向をキャッチできれば、HDS-Rでも早期診断は可能なんですよ!

4 終末期医療における問題点は何か
Q “胃ろう”=「延命」といった記事が近年多くなりました。その結果、胃ろうを拒否して経鼻経管栄養、中心静脈栄養(TPN:Total Parenteral Nutrition)を望まれる方が増えてしまいました。
 その弊害ってご存じですか?
A この分野に関しては、ガイドラインに記載されております記述をじっくりとお読み下さいね。

【PART-Ⅰ・Q6:経腸栄養のアクセスはどのように選択するの?─PEGをめぐる議論と評価】
 「現在、経皮内視鏡的胃瘻造設術(Percutaneous Endoscopic Gastrostomy;PEG)の適応に関する議論が行われている。栄養状態が維持・改善できても、ADLやQOLの改善効果が期待できない超高齢者、遷延性意識障害、末期の認知症に対するPEGは、単なる延命治療でしかないという考え方がある。この考え方に基づいてPEGは施行すべきでない、という意見が強くなっていることは否定できないが、このような症例に対するPEGの適応については社会的な議論が必要である。このPEGに対する否定的な考え方のために『本来、PEGの適応である症例に対してPEGが実施できなくなっている』状況の方が重大である。PEGを用いた経腸栄養の適応である症例に対し、経鼻胃カテーテルを用いた経腸栄養が実施されることが多くなっている、あるいはポートを用いたTPN施行症例が増加している、という、栄養管理法の選択上、間違った状況が出現していることは由々しき問題である。
 考え方の基本は、栄養管理そのものの適応について正しい判断を下すことで、栄養療法実施経路としてPEGが適応であるのなら積極的にPEGを実施するべきである。
 超高齢者や遷延性意識障害、あるいは高度の認知症であっても、栄養療法の適応であると判断された場合には、PEGが最適な栄養投与経路であることが多い。現在、栄養療法の適応とPEGの適応とが混同して議論されているが、これらは分けて考えるべきであり、したがって、これらの症例においても、栄養療法という観点から適応と判断されたら、積極的にPEGを実施することを推奨する。
 また、PEGを造設したからといって、経口摂取を諦めるのではなく、嚥下機能評価や嚥下訓練を実施し、経口摂取への移行、あるいは併用を試みるべきであることを強調したい。」(日本静脈経腸栄養学会編集:静脈経腸栄養ガイドライン─第3版 照林社, 東京, 2013, p18)

 患者さんおよび家族に説明する際には、次の「1」「2」についてもきちんと説明してあげて下さいね。
「1」 経鼻経管栄養の問題点:
 患者さんにとっては不快感を伴いますので管を自己抜去するリスクが高く、自己抜去を防止するためには身体拘束が必要となります。
「2」 完全静脈栄養(Total Parenteral Nutrition;TPN)の問題点:
 敗血症のリスクが高いため、長期間に及ぶ栄養管理手段としては不向きです。

 少々専門的な記述にはなりますが、「2」の静脈栄養に関して補足しておきます。
 「経腸栄養が禁忌で、静脈栄養の絶対適応とされるのは、汎発性腹膜炎、腸閉塞、難治性嘔吐、麻痺性イレウス、難治性下痢、活動性の消化管出血などに限定される。」(日本静脈経腸栄養学会編集:静脈経腸栄養ガイドライン─第3版 照林社, 東京, 2013, p15)
 「4週間以上の長期にわたる経腸栄養を施行する場合はPEGの適応であり、PEGを選択することを推奨する。」(同上, p17)

◎2014年1月15日付讀賣新聞にコンパクトにまとめられていますので、配付資料としてご活用下さいね。
◎認知症終末期医療の分野には、「告知」「アルツハイマー病末期の定義」といったまだまだ多くの課題が残されております。2016年5月23日付朝日新聞「最期の医療」はその課題にメスを入れ極めて重要な課題を投げかけています。じくりとお読み頂ければ幸いです。

5 認知症ケア
 認知症のケアは技術論から入ると壁にぶつかることでしょう。実は教えるものではなく身につけていくものだと考えております。以下のQ&Aをご参照下さい。

Q 認知症ケア―どのような指導をすれば“寄り添う気持ち”を身につけることができますか?
A 回答の代わりに私の質疑応答をご参照下さい。
 2016年4月24日、大阪大学大学院医学系研究科・精神医学分野の数井裕光先生が第15回日本認知症学会教育セミナー(in 砂防会館別館)におきまして『認知症診療のトピックス:BPSDの包括的治療』というタイトルでご講演されました。
 その際に私(=笠間)は、数井裕光先生に対して、以下のような質問をしてみました。
私の質問
 「亡くなられた京都大学の小澤先生が『認知症ケアはやさしさがあればできますよ』と言われているのですが、優しさって指導することが難しいですよね。下手に指導したら個人の人格否定になりかねませんし・・。でも『私が優しくないからケアが上手くいかないのかな・・』って悩んでいる介護者・ケアスタッフもおられますので、何か数井先生の感じるところがありましたらアドバイス頂けますと幸いです。」
数井裕光先生の回答
 「時間に余裕がないと優しくなれないから、「認知症ちえのわnet」などで基礎を身につけ時間に余裕を持って介護していけばその分優しくなれるのではないでしょうか。
 『認知症ちえのわnet』におきましては、さまざまなBPSD対応法の奏功確率が公開されております。ご参照頂ければ幸いです」
 http://orange.ist.osaka-u.ac.jp/

 以下に、「やさしさがあればできますよ」の引用元を以下に提示致します。

朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第374回『その人はどう生きたかをきっかけに─ある日、玄関に便があった』(2014年1月14日公開)
 『とにかく外へ出ない、出たがらない人で、人と会うのもお嫌なんですね。外に出ないのだからデイヘの送り出しは難しい。とりあえずヘルパーさんに入ってもらったのですが、居室は椅子がひっくり返ったりして家具が散乱していることがしょっちゅう。トイレはウォシュレットに手をかけてしまうため、水浸しです。そのAさんのところに通ったうちのヘルパーさんの報告を受けていたらこんな話がありました。
 ある日、玄関に便があった。ヘルパーさんは、Aさんに何も言わないでそれを片づけてきたと言うのです。散乱している家具もそうです。ヘルパーさんはそれを元通りにし、水でびしょびしょのトイレは拭いてくる。そうやって淡々と元通りにしていたら、Aさんがだんだん心を開いてくれるようになったというのです。
 ああ、そうなんだ、これって考えてみるとすごいなと思いました。玄関に便があって、それを誰かに詰問されたら、Aさんは自分ではないと言ったり、動揺したりするでしょう。ですが、ヘルパーさんが何も言わないで静かに片づけ、まるで何事もなかったかのように生活が元通りになったら、Aさんにとっては気持ちのなかでゆれがないわけですよね。それは、認知症の人にとっては気持ちの上でとても楽なのだろうなあと思ったのです』

 当初ヘルパーに対して拒否的な態度だったAさんが、あるヘルパーに対しては心を開いていった。その理由を聞いていて気づいたのが、『気持ちのゆれをつくらない介護』だったという。生活基盤が安定すれば、認知症の人も穏やかに暮らせるのではないか、と伊藤さんは考えた。
 頑なだったAさんの心を開いたのは、一人のヘルパーの配慮あるケアだった。しかしこれは多分にそのヘルパーの資質にもよる。では、訪問介護に入るヘルパー全員が『ゆれをつくらない介護』をするにはどうしたらいいか。伊藤さんはこのとき、『一日が何事もなくふつうに過ぎていけるように支援するという最低限のケア』を考えたという。」(小澤 勲、土本亜理子:物語としての痴呆ケア 三輪書店, 東京, 2004, pp266-268)
 実は、伊藤美知さんが通所施設を開くにあたって相談したのが「れんげの里」施設長である柳誠四郎さんでした。そして、その柳さんの紹介で精神科医の小澤勲さん(故人)のもとを訪れた際に、小澤勲先生は伊藤さんに対して、認知症のケアは「やさしさがあればできますよ」(小澤 勲、土本亜理子:物語としての痴呆ケア 三輪書店, 東京, 2004, p260)と話されております。
 伊藤さんはAさんの事例を通して、「小澤先生が最初におっしゃった『やさしさがあればできますよ』という言葉は、もしかしたら、このことかなと思ったんです。ゆれがないように支援するというのは、すごいやさしさなのではないかな、と。こじつけかもしれませんが、そう思ったのです」(小澤 勲、土本亜理子:物語としての痴呆ケア 三輪書店, 東京, 2004, p268)と語っておられます。


P.S.
 精神論的な認知症ケアではなく技術論的な認知症ケアについて学びたいという方は、「ユマニチュード」について勉強されるか、『BPSD初期対応ガイドライン』を購入してお読み下さいね。2,000円+税金と安価でよくまとまった本でお勧めです。

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