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本日の新患―終末期医療の意向調査Stage2・No.9 [認知症]

本日の新患―終末期医療の意向調査Stage2・No.9

 本日の新患は、70歳女性。一人暮らし。
【受診理由】
 数年程前からもの忘れが出現し、この1年ほど目立ってきたことを遠くに住む家族が心配し、「もの忘れ検診」を受診されました。

【問診】
 料理はご自身でされており、息子さんの話では、味付けなどに変化は感じられないそうです。
 礼節:問題なし
 ADL:問題なし
 「病識」に関するご本人の話:「私は何とも思っておりませんが息子からみるともの忘れが強いんでしょうね」と語られました。

【検査所見】
MRI:
 海馬の軽度萎縮あり
HDS-R(改訂長谷川式認知症スクリーニングテスト):
 29/30点
リバーミード行動記憶検査(日本版/RBMT):
 標準プロフィール点(24点満点、22点以上は正常):7
  =軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment;MCI)レベル
 スクリーニング点:1
  =アルツハイマー病レベル


 以上の結果を総合的に判断し、私は軽度認知障害から初期アルツハイマー病への移行期と判断し、そのことをご本人にも説明したうえで投薬開始を勧めました。
 この事例は、「MCI段階で留まっているのかADに進展したのかを判断する基準は、『生活自立能力の有無』」という原則に従うならば、MCIということになります。
 しかし、群馬大学大学院保健学研究科リハビリテーション学講座の山口晴保教授が指摘している「MCIとADの境界は、『病識の有無』」という基準を重視すれば、アルツハイマー病の段階に入っているということになります。
 なぜこの事例を詳しく紹介したかと言いますと、HDS-R(改訂長谷川式認知症スクリーニングテスト)が満点に近い点数(29/30)が獲得されていても、アルツハイマー病を念頭に置かなければならない事例があることを知って欲しかったこと、そして、自動車の運転可否の問題を考えるのにも良い事例かな・・と思いましたのでご紹介致しました。
 アンケートにおいて、予後告知に関して、「あまり先のことを知るのは怖い」と回答されておりましたので、現時点での病状説明に留めました。ただ、アルツハイマー病を強く念頭に置いておく必要があるケースでしたので、「もしアルツハイマー病であったとしたら・・」という仮定の話として、マイルドな告知に基づく終末期医療に対する意向もお伺いしました。


 リバーミード行動記憶検査(日本版/RBMT)、改訂長谷川式認知症スクリーニングテスト(HDS-R)、もの忘れ検診、病識などについて復習しましょう


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第14回『認知症の診断─素人判断は難しい』(2012年12月28日公開)
 素人判断は、難しいわけですね?

 はい! 確かに、素人判断は危険です!!
 ですから、物忘れが気になるおじいちゃん・おばあちゃんに対してテストを実施してみることは構いませんが、あくまでも一つの目安として捉えて下さいね。

 医療機関においては、認知症が疑わしい状況であるならば、認知機能検査を1回きりで終わらせるのではなく、時間を置いて再検査します。
 それは、アルツハイマー病では、HDS-Rが年間2.5点悪化し、MMSEでは病期全期間で年間に2.2点(ただし、軽度~中等度の時期では、年間3.4点)悪化していくことが知られているからです。進行の有無をきちんと確認することは、アルツハイマー病であるかどうか正しく判定する上で欠かせません。

 得点による重症度分類は行わない(http://ninchisyoucareplus.com/plus/pdf/070421%E5%8A%A0%E8%97%A4%E6%8A%84%E9%8C%B2.pdf)ことになっております。しかしながら、各重症度別のHDS-R平均得点の目安も報告されています。
 非認知症: 24.27±3.91
 軽度  : 19.10±5.04
 中等度 : 15.43±3.68
 やや高度: 10.73±5.40
 非常に高度: 4.04±2.62

 大まかな目安として、中等度の認知機能低下(HDS-R≧16点)、やや高度の認知機能低下(15≧HDS-R>10点)、高度の認知機能低下(10点≧HDS-R)と覚えておいて下さい。
 なお、認知機能検査が何点以下なら「意思能力の欠如」という明確な規定を定めることは困難です。それは、検査の点数には教育歴などが影響しますし、問題となる法律行為(意思表示)の内容によって、必要とされる意思能力は異なるという背景があるからです。

 MMSEは30点満点の認知機能検査で、目安として、9点以下は高度アルツハイマー病、10~19点が中等度アルツハイマー病、20~23点が軽度(初期)アルツハイマー病、24点以上は軽度認知障害(MCI)ないし正常と判定されます。
 すなわち、30点満点を獲得してもMCIと評価される場合もあり得るということになります。

 リバーミード行動記憶検査(日本版/RBMT)は、国際的にも評価の高い記憶障害の判定・診断のための検査です。
 特徴は、単語を覚えるなどの机上のテストではなく、日常生活をシミュレーションして、記憶を使っている場面場面を想定して検査することです。
 RBMTには、標準プロフィール点とスクリーニング点という2つの指標があり、検査の所要時間は約30分です。
 標準プロフィール点(24点満点、22点以上は正常)は、日常生活上の行動の把握や治療効果などを評価できます。数点しか獲得できない場合には新しい情報の学習はかなり困難であり、病棟内では迷子となる危険性があります。訓練スケジュールを記憶しているレベルは、10点以上とされています。
 スクリーニング点(12点満点)は、全般的な記憶機能の指標となります。
 アルツハイマー病の前段階とされる軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment;MCI)では、標準プロフィール点が15点以下、スクリーニング点が5点以下となることが多いです。
 アルツハイマー病では、標準プロフィール点が5点以下、スクリーニング点が1点以下まで低下してきます。

 私の検討した結果では、HDS-Rが26点辺りまで低下してきますと、RBMTが基準点以下に低下していることが多く、「初期アルツハイマー病」と診断される可能性が出てきます。
 認知症が専門ではない医師の場合には、HDS-Rが26点も獲得できればそれだけで「異常なし」と判断してしまい、精密検査を実施しないことも多いですので診断医の力量には留意する必要があります。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第12回『認知症の診断─もの忘れ検診』(2012年12月26日公開)
 認知症の診断はどのようにして行われているのでしょうか。私が勤務する榊原白鳳病院の「もの忘れ検診」を例にとって説明しましょう。
 ところで、認知症の検診は、私が1996年7月9日に国内で初めて開設したものです。当初専門誌に投稿(笠間 睦:痴ほう専門ドックの開設. 脳神経 Vol.49 195 1997)した際には、「痴ほう専門ドック」と名付けていました。
 2004年12月24日、「痴呆」という呼称が「認知症」に改称されたのを契機に、「痴ほう専門ドック」を「もの忘れ検診」に改称しました。
 そもそも私が認知症の検診を開設した動機は、いたって単純なものでした。脳ドック受診者のアンケート調査を実施したところ、受診理由の3割が「認知症が心配なので」という動機であったからです。そこで、脳ドックから認知症の検診を分離独立させたのでした。
 榊原白鳳病院では、2010年4月より「もの忘れ検診」を実施しております。
 もの忘れ検診の検査項目は以下の4項目です。
 1)血液検査
 2)MRI検査
 3)認知機能検査:改訂長谷川式認知症スクリーニングテスト(HDS-R)および日本版/RBMT
 4)問診・診察
 以上の項目を約2時間かけて実施し、結果の説明をしております。検診費用は2万円(税別)であり非常に安価です。安価で実施できる理由には、脳血流検査を実施していないという要因もあげられます。

 まずは画像診断(CTないしはMRI)についてお話します。
 アルツハイマー病(AD)においては、内側側頭葉の萎縮に伴い、側脳室下角が拡大してきます。この所見は、比較的初期段階のADにおいても確認できるため、ADの画像診断上のポイントとなる所見です。

 アルツハイマー病研究会という盛大な研究会が毎年4月に東京で開催されています。その第九回学術シンポジウム(2008年4月5日)において、以下の報告がされました。
 認知症における重症度別脳萎縮出現率(MRIにて脳萎縮を認める%)は、軽度認知障害では15%、軽度アルツハイマー病では25%、中等度アルツハイマー病でも40%という報告でした。
 すなわち、初期アルツハイマー病の場合には、萎縮が確認されないケースが結構多いわけです。ですから、MRIだけではなく、認知機能検査の検査なども総合的に判断して、認知症であるかどうかを判定することになります。

 初期のアルツハイマー病(AD)では、海馬傍回が最も早く萎縮することが分かってきております。しかし海馬傍回の体積は小さく、CT・MRI などの画像写真では視覚的には評価が困難です。そこで考案されたのがブイエスラド(voxel-based specific regional analysis system for Alzheimer's disease;VSRAD)という早期アルツハイマー病診断支援のためのソフトウェアです(元・埼玉医科大学国際医療センター/核医学科の松田博史教授らが監修されており、エーザイ株式会社が無料提供しています)。
 VSRADではMRI画像を利用し、小さな海馬傍回の体積の萎縮度を正常脳と比較して数値化(Zスコア)します。すなわちZスコアは、被験者画像と健常者平均画像を統計比較した結果、平均値からどれだけの標準偏差分だけ離れているかを示す値です。Zスコア「2」とは、平均値から標準偏差の2倍を超えたものという評価となり、「5%の危険率で統計学的有意差をもってADの疑い有り」と判定されます。
 すなわち、Zスコアが2.0を超えているときには、ADの可能性が高いと判断されるわけですね。Zスコアの数値が境界付近にある場合には、経過を追ってZスコアの変化を見ていくことも必要となるケースがあります。
 Zスコア0~1:海馬傍回の萎縮はほとんど見られない
 Zスコア1~2:海馬傍回の萎縮がやや見られる
 Zスコア2~3:海馬傍回の萎縮がかなり見られる
 Zスコア3~ :海馬傍回の萎縮が強い

 ただし画像検査の結果だけで判断すると誤診に繋がります。画像検査は、あくまでも臨床診断の補助的役割という位置づけなのです。
 八千代病院(愛知県安城市)神経内科部長の川畑信也医師は、物忘れ外来を受診しMRI検査を受けた151名の解析では、VSRADのZスコアが2以上を示していた80名の中に健常者が3名(3.7%)含まれていたと報告しています。逆に、VSRADのZスコアが1未満を示していた29名の中にアルツハイマー型認知症患者が18名(62.1%)も含まれていたことを報告しております。また、VSRADの対象は50~86歳までの患者さんであることにも注意する必要があると述べています(川畑信也:日常臨床からみた認知症診療と脳画像検査─その意義と限界 南山堂, 東京, 2011, pp5-10)。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第31回『認知症の代表的疾患─レビー小体型認知症 もの忘れを自覚することの多いレビー小体型』(2013年1月14日公開)
 もの忘れに関しても、DLBにおいては内省できることが多いことが報告されています。
 アルツハイマー病では、初期ですらもの忘れを自覚していないケースが多いです。一方、DLBでは、初期においてはもの忘れを自覚しているケースが多いのです。
 東京医科大学病院老年病科の羽生春夫教授は、疾患別の病識の有無について検討しており、「有意な認知機能障害を認めない老年者コントロールの病識低下度の平均+2標準偏差を超えるものを病識低下ありと定義すると、AD(アルツハイマー病)群の65%、MCI(軽度認知障害)群の34%、DLB(レビー小体型認知症)群の6%、VaD(血管性認知症)群の36%が該当し、AD群が最も多く、DLB群は最も少なかった。」(羽生春夫:老年期認知症患者の病識―生活健忘チェックリストを用い、介護者を対照とした研究―. 日本老年医学会雑誌 Vol.44 No.4 463-469 2007)と報告しております。

メモ:内省
 「記憶、見当識、思考、言葉や数の抽象化機能などは、日常生活を送っていく上でそれぞれがとても大切な機能である。しかし、暮らしのなかでは、これらの機能一つひとつがバラバラに役立っているわけではない。複数の知的道具あるいは要素的知能を組み合わせて使いこなす『何か』がなけれはならないはずである。それを知的主体あるいは知的『私』とよぶことにすると、そこに障害が及ぶのである。だから、認知症を病む人は、いろいろなことができなくなるという以上に、『私が壊れる!』と正しく感じとるのである。
 知的主体などという硬い言葉ではなく、もう少しうまい言葉が見つかればよいのだが、学者も苦労してこの『何か』を『内省能力』(ツット)、『本来の知能』(ヤスパース)、『知的人格』『知的スーパーバイザー』(室伏)などと名づけている。どれもが、個別の、記憶、見当識、言葉、数といった道具的、要素的知能を統括する、より上位の知的機能を何とか言い表そうと苦労しているのである。」(小澤 勲:認知症とは何か 岩波新書出版, 東京, 2005, pp141-143)

 認知症の介護においては、しばしばアパシー(自発性の低下・無関心)の存在が問題となります。
 アパシー(apathy)とは、無気力・無関心・無感動のため、周りがやるようにと促しても、本人は面倒だから、全然動こうとしないし気にもしない状態です。そして、このアパシーの存在ゆえに、認知症がうつ病と誤診されているケースもあります。
 なお、DLBでは、うつ病を有する頻度が比較的高いことも知られております。
 「Ballardら(1999)は病理診断されたDLB、AD各40例を比較し、DLBでは、初診時に幻視、幻聴、妄想、誤認妄想、うつ病を有する頻度がADに比べて高い」と報告しています(長濱康弘:レビー小体型認知症の臨床症候学と病態生理. Dementia Japan Vol.25 145-155 2011)。
 なおこの点に関して筑波大学臨床医学系精神医学の朝田隆教授は、「伝統的な精神科のうつに対する見方では、悲哀感、悲しみをもって『うつ』の本質とし、それに不安ややる気のなさを加えます。DLBの場合、精神科の伝統的なうつというよりは基本的にはアパシーです。周りは困っているが本人は何もしなくて当然とケロッとしているような患者さんが比較的多いですね。」と指摘しています(朝田 隆 et al:座談会─認知症の早期発見・薬物治療・生活上の障害への対策. Geriatric Medicine Vol.50 977-985 2012)。

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 2014年7月30日にホテルグリーンパーク津において開催されました第16回中勢認知症集談会特別講演会には、群馬大学大学院保健学研究科リハビリテーション学講座の山口晴保教授らが講師として来て下さいました。

 山口晴保先生は、「MCIとADの境界は、『病識の有無』だと思っています」と講演で述べられました。そして、SED-11Q(Symptoms of Early Dementia-11 Questionnaire)を用いた病識の評価に関する検討結果についてご紹介して下さいました。
判断基準
 医療機関においてはSED-11Qが11項目中3項目以上で認知症を強く疑い、地域の認知症スクリーニングでは11項目中4項目以上で受診を勧めるというのが目安だそうです。

SED-11Q【認知症初期症状11項目質問票】
①同じことを何回も話したり、尋ねたりする
②出来事の前後関係がわからなくなった
③服装などの身の回りに無頓着になった
④水道栓やドアを閉め忘れたり、後かたづけがきちんとできなくなった
⑤同時に二つの作業を行うと、一つを忘れる
⑥薬を管理してきちんと内服することができなくなった
⑦以前はてきぱきできた家事や作業に手間取るようになった
⑧計画を立てられなくなった
⑨複雑な話を理解できない
⑩興味が薄れ、意欲がなくなり、趣味活動などを止めてしまった
⑪前よりも怒りっぽくなったり、疑い深くなった

※上記の11項目に関して、ご本人は病識が欠如しているため「該当しない」にチェックを入れるものの家族はそれを感じているため「該当する」にチェックを入れ、その差がMCIにおいては乖離しないものの、軽度AD&中等度ADにおいては有意に乖離(p<0.001)しているそうです。
 そして、「その結果を介護者に見せて、本人の自覚が乏しいことを理解してもらい、叱らないように指導することでBPSDを予防しましょう」と講演会で配布されました資料には記載されておりました。
 詳細は論文をご参照下さい。
 Maki Y, Yamaguchi T, Yamaguchi H:Symptoms of Early Dementia-11 Questionnaire(SED-11Q): A brief informant-based screening for dementia. Dement Geriatr Cogn Disord Extra Vol.3 131-142 2013
 Maki Y, Yamaguchi T, Yamaguchi H:Evaluation of Anosognosia in Alzheimer's Disease Using the Symptoms of Early Dementia-11 Questionnaire(SED-11Q). Dement Geriatr Cogn Disord Extra Vol.3 351-359 2013

P.S.
MCI段階で留まっているのかADに進展したのかを判断する基準は、「生活自立能力」の有無!
 「生活自立能力」については、シリーズ第73回『軽度認知障害─軽度認知障害から認知症への進展』をご参照下さい。
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