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私の脳で起こったこと レビー小体型認知症からの復活―本文冒頭 [レビー小体型認知症]

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『私の脳で起こったこと レビー小体型認知症からの復活』・本文の出だし

……2012年9月23日 発症
 9月19日、動く虫の幻視を見た。その瞬間、悪夢が現実になったと直感した。幻視は、去年の春にも見た(歩く虫。人)。その後はなかったので、目の錯覚と思おうとしていた。でも錯覚にしては、リアル過ぎた。幻視について調べ、レビー小体型認知症を強く疑うきっかけになった。
 調べれば調べるほど、症状が当てはまる。8年前のうつ病の診断、抗うつ剤でひどい副作用が出たこと、悪夢を見て叫ぶこと、様々な自律神経症状(橋本病のせいだと思っていた)。パーキンソン症状はないが、あちこちにこわばりを感じる。
 若年性レビー小体型認知症の情報は、ネット上にもない。『第二の認知症』にあったのが、唯一の症例。急激に進行して、衰弱して、10年で亡くなっている。初診から6年後、47才で。
 恐い? 恐くはない。やり残したこともない。私は、十分に家庭の幸せを味わった。
 失うものはほとんどない。責任のある仕事もない。子供達も成人した。
 生きることは苦しいことだ。死ぬことは恐くない。ただ淋しい。
 子供達を見守っていくことができなくなることが淋しい。夫の描いていたのどかな老後の夢を壊すことが苦しい。オムツをするようになることが辛い。夫にも子供にもさせたくないし、できないとも思う。
 50代で入れる施設もないだろう。ボランティアを募集しようか。
 【樋口直美:私の脳で起こったこと レビー小体型認知症からの復活. ブックマン社, 東京, 2015, pp10-11】

私の感想
 「悪夢を見て叫ぶこと」は、レム睡眠行動障害(REM sleep behavior disorder;RBD)と呼ばれる症状です。
 実はこの症状、私にもあります。「RBDが、DLB発症の数年前から予兆として認められるケースもある」ことを専門医である私は知っていますので少しだけ心配してしまいますが、本当に少しだけしか心配しないのです。
 だって私、毎晩浴びるように飲んでいるから、どう考えても確率的には、レビー小体型認知症を心配するよりも、肝硬変を心配する方が正しい心配方法ですよね。
 しかも「医者の不養生」を自慢していてガン検診も受けていない。もう数年、胃・大腸などのガン検診を受けていません。

 まあそんな余談はさておき、以前アピタルに寄稿した「レム睡眠行動障害」に関する記述を以下にご紹介しましょう。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第30回『認知症の代表的疾患─レビー小体型認知症 歯切れの悪い回答をした理由』(2013年1月13日公開)
 そうなのか! 薬を投与して無理して幻視を消さなくても良いのか!
 じゃあ、幻視以外にはどんな症状が特徴なの?

 電気のコードがヘビに見えたり(錯視)、天井や壁がゆがんで見えたり(変形視)します。花瓶を子どもと勘違いして、花瓶に話しかけたりします。

 レビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies;DLB)では、「幻視以外の幻覚として幻聴や体感幻覚が出現することもあるが、頻度は高くない」ことが報告されています(Iseki E et al:Psychiatric symptoms typical of patients with dementia with Lewy bodies─similarity to those of levodopa-induced psychosis. Acta Neuropsychiatr Vol.14 237-241 2002)。
 「幻聴」は、統合失調症において有名な症状ですね。統合失調症では、幻聴が多くみられますが幻視は稀です。いずれにしても、幻聴を認めるから統合失調症であると短絡的に判断をしてはいけないわけです。
 では「体感幻覚」ってどんな症状でしょうか。具体例を挙げて説明しましょう。「頭・胸・肩に虫がたまっている」とか「頭から虫が流れる」などと訴え、「むずむず足症候群」の様相を呈したりします。むずむず足症候群だと思ってそのまま経過観察していたら、実はレビー小体型認知症だったということもありますから診断面において注意を要しますね。

 レム睡眠行動障害(REM sleep behavior disorder;RBD)においては、夢内容(悪夢が多い)に興奮して、激しい寝言(奇声・大声)、手を振り上げる・脚で蹴る(壁などを叩いて手を怪我してしまったり、無意識の中で隣で寝ている配偶者を殴ってしまう)、周囲の状況が分からないまま立ち上がったり歩き出すといった行動障害が認められます。RBDが、DLB発症の数年前から予兆として認められるケースもあります
 私は学生時代にサッカー部に所属しておりました。今でも時折サッカーの夢を見ます。何と言っても最悪なのがシュートするシーンの夢ですね。シュートした途端に、寝室の壁を蹴ってしまいます。添い寝している愛犬を蹴ってしまったこともありました。それ以来わが家の愛犬リッキー君は、冬になると掛け布団と掛け毛布の間に入って、私の脚を避けて眠るようになりました。私は夜中の寝言も激しいようですし、RBDではないかと心配しています。
 津市で2012年6月14日に開催されました医師会後援の住民健康講座の質疑応答時間において、ある女性の方から、「私の主人もRBDがあるようで、笠間先生の講演をお聴きし、主人を受診させるべきかどうか迷いだしました。どうすればよいのでしょうか?」と質問を受けたことがあります。この質問には、ちょっと返事に困ってしまいました。私は、「自分自身もRBDではないかと懸念していることをお伝えし、どうしてもご心配でしたら受診され、確認することになりますが…」とお返事しました。しかし、何とも歯切れの悪い回答になってしまいました。それは私自身が葛藤する部分でもあるからです。RBDであることが確認されたとしても、レビー小体型認知症(DLB)などの疾患に移行するのかどうかなんて予測困難であるし、仮に予測できたとしてもDLBへの移行を予防する手段があるわけじゃないんだから…。
 この女性の方からの質問に対する回答として、現状ではベストであろうと思われる返事について金沢大学大学院医学系研究科脳老化・神経病態学(神経内科)の山田正仁教授が言及されておりますので、一部改変して以下にご紹介しましょう。
 「最近では一般の方でも『RBDみたいな症状があるから自分はDLBではないか』と訴えて神経内科に来院される方がいます。おそらくDLBを含むレビー小体病の初発病変の局在や、その後の進行形式・速度には大きなバリエーションがあり、それに対応して睡眠障害、うつ、パーキンソン症状、嗅覚異常、認知症などの様々な症状で発症し、さらに症状が出現した後、進行していく場合ばかりでなく、進行していかない場合もあります。現在われわれの知っているDLBは氷山の一角であり、自然経過のバリエーションがわかってくるのはもう少し先ではないかと思っています。」(山田正仁 他:座談会─認知症の早期発見・薬物治療・生活上の障害への対策. Geriatric Medicine Vol.50 977-985 2012)
 現状では、自然経過が詳しく解析されていないようですので、あまり過度に心配するのは控えておいた方が良さそうですね。

 なお、RBDに対して、転落防止の目的で4点柵を施すと、ベッド柵に脚をぶつけ骨折するケースもありますので、ベッド柵にタオルを巻くなどの工夫も必要となります。
 RBDは、睡眠からの覚醒とともに消失します。起こされるとすぐに覚醒し、夢の内容を再生できることが多いです。RBDが睡眠中のてんかん発作と誤診される場合があります。しかし、てんかんと違い、行動を内省できるのがRBDの特徴です。
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