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嗅覚障害 [レビー小体型認知症]

……2014年8月12日 臭覚障害の実験
私の脳で起こったこと.jpg
 臭覚と認知症について調べていて、ピーナッツバターと定規でアルツハイマー病の早期発見をするという研究があることを初めて知った。既にこの春に 『ためしてガッテン』などで紹介していた様子。臭覚低下に左右差があり、左の方が、低下が強いという。
 ピーナッツバターを使ってやってみた。右18cm。左10cm。三叉神経を刺激しないからピーナッツバターが良いのだと書いてある。刺激臭がなければいいのかと思って、味噌でもやってみる。左右差がほとんど出ない。
 疑問は色々ある。レビー小体型の臭覚低下と同じメカニズムなのか? それとも私は、アルツハイマー病を合併しているのか? 短期記憶障害を特に感じないが、近い将来、一気に起こるのか? 私に残された時間はわずかなのか? でも、たとえ記憶障害が起こったとしても、それを補う対策を取れば、自立した生活は続けられるのではないか。記憶障害があっても、思考力や人格が変わらなければ、私は、私のままだ。
 浦上克哉教授は、アロマセラピーで臭覚を刺激することが、認知症の予防になると書いている。刺激することで臭覚は回復するとも。
 私は臭覚にも波がある。右肩下がりではない。回復したと感じる時もある。臭覚の神経もオンになったりオフになったりするのだろうか? わからないことばかり。
 【樋口直美:私の脳で起こったこと レビー小体型認知症からの復活. ブックマン社, 東京, 2015, pp187-188】

私の感想
 朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」から「嗅覚障害」に関連する記述を拾い出してみました。

3. DLB診断あるいは記憶障害出現以前からみられる症状
 「OnofrjらはDLBと診断される以前に、しばしば身体症状が認められることを報告している。彼らによれば15例の検討から、87%の患者が心気症状を呈した(Onofrj M, Bonanni L, Manzoli L et al:Cohort study on somatoform disorders in Parkinson disease and dementia with Lewy bodies. Neurology Vol.74 1598-1606 2010)。このほか消化器症状をともなう多発性の疼痛は53%、麻痺様症状は40%、感覚異常は27%にみられた。
 Fujishiroらは、記憶障害が出現する以前に見られる症状を検討した(Fujishiro H, Iseki E, Nakamura S et al:Dementia with Lewy bodies: early diagnostic challenges. Psychogeriatrics Vol.13 128-138 2013)。その結果、記憶障害出現前に便秘が76%の患者にみられ、平均9.3±13.8年記憶障害出現に先行したという。このほか、嗅覚障害(44%, 8.7±11.9年)、うつ(24%, 4.8±11.4年)、レム睡眠行動障害(66%, 4.5±10.5年)、起立性めまい(33%, 1.2±6.5年)の順であった。」(水上勝義:DLBの早期診断. Dementia Japan Vol.28 176-181 2014)


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第431回『加齢とからだ、加齢と知能─目的遂行に欠かせない作業記憶』(2014年3月12日公開)
メモ5:ワーキングメモリー(ワーキングメモリ)
 ワーキングメモリ(作業記憶・作動記憶)とは、短期記憶の概念を拡大し、課題を遂行するための処理機能の役割を含む概念です。作業中の何かを一時的に覚えておく記憶であり(例:電話をかけるために、電話帳を見て番号を覚える)、主として前頭葉の前頭前野(概ね前頭葉の前半部分)が司っています。
 『ホンマでっか!? TV』の辛口コメントで有名な澤口俊之先生は、「作業記憶は、言語理解はもとより、思考や推論、計画、決断などの多様な認知機能(高次脳機能)の最重要な基礎機能となっている。」(澤口俊之:大脳皮質─作業記憶. Clinical Neuroscience Vol.29 188-191 2011)と指摘しております。
 また、大阪大学大学院人間科学研究科の苧阪満里子教授は、ワーキングメモリについて以下のように述べております(苧阪満里子:ワーキングメモリ. こころの科学 通巻138号 47-51 2008)。
 「ワーキングメモリは目標志向的であり、課題の遂行に必要な情報を一時的に活性化状態で保持するとともに、平行して処理をおこなう機能をもつ。」
 「高齢者はある程度の年齢まで短期記憶は保持されるものの、ワーキングメモリは加齢とともに徐々に低下する。」
 「ワーキングメモリは、社会生活のなかで毎日を無事過ごすのになくてはならないシステムである。火の消し忘れによる台所の火事、運転中の携帯電話(二重課題下)等が引き起こす事故の背景には、ワーキングメモリの機能劣化が潜在しているといっても過言ではない。」
 遂行機能が低下してきますと、いったいどのような状況が生じてくるのでしょうか。住友病院副院長の宇高不可思医師(神経内科)が繁田雅弘医師(首都大学東京)、篠原幸人医師(国家公務員共済組合連合会立川病院神経内科)との鼎談のなかで、分かりやすく解説しておりますので以下にご紹介しましょう(一部改変)。
 「アルツハイマー病において日常生活で気づかされる一番重要な症状は、短期記憶の障害、記銘力の障害、エピソード記憶の障害です。同じことを何度も何度もいう、あるいは質問する、ある用件で電話をして、まったく同じ用件で翌日も同じ人に電話をする。
 記憶以外では、遂行機能の低下があります。ちょっと複雑なことができなくなる、仕事でミスが多い、あるいは今までちゃんとやれていた家事でも間違いが多くなる、料理もそうですが、一つひとつの動作はできても、計画的に材料を買って準備するという遂行機能に障害が起こる。一緒に暮らしている人には、日常生活でちょっと変だなと気づきます。
 それから、意欲の低下。だんだんものぐさになって、今まで自分でやっていたことをやらなくなる。」(繁田雅弘、篠原幸人、宇高不可思:鼎談─本邦の認知症. 成人病と生活習慣病 Vol.43 799-813 2013)

 『バナナ・レディ(前頭側頭型認知症をめぐる19のエピソード)』(Andrew Kertesz著 河村満・監訳 医学書院発行, 東京, 2010)という著書のエピソード16には、「行動を『遂行』するのに必須の脳内の要素は『ワーキングメモリ』であり、言い換えれば、適切な行動を決定するために、直前に起こったことを頭にとどめつつ過去の経験と照らし合わせる過程である。遂行機能はアルツハイマー病や脳卒中など、前頭側頭型認知症(FTD)以外にも多くの神経疾患や精神疾患で障害される。また、健常者でも加齢に伴い遂行機能(エグゼクティブ・ファンクション)は低下する。遂行機能の障害は特異性は低くても、FTDの初期にも感度が高く、最初に現れる症状となりうる。」と記載されております。
 認知症の症候学に詳しい滋賀県立成人病センター老年内科の松田実部長は、論文(松田 実:認知症の症候論. 高次脳機能研究 Vol.29 312-320 2009)において、「MMSEにおける計算の誤りは、計算そのものの誤りではなくworking memoryや注意力の障害と考えられる」と述べています。
 松田実部長の報告によりますと、初期アルツハイマー病におけるMMSEの減点項目は3単語遅延再生、見当識、計算の3項目がほとんどであり、計算の誤りは計算の途中で引く数を保持できずに誤ってしまう場合がほとんどであった(典型例:100から順に7を引く課題では、79まで正解して「9を引くんやったかな?」といった誤り)と報告しています。

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 久しぶりに日本医師会雑誌の「生涯教育」問題に挑戦してみて下さいね。

【問題2-2】嗅覚障害で正しいのはどれか。1つ選べ。
①嗅覚同定能力は50歳代から低下する。
②原因として最も多いのは頭部外傷である。
③慢性副鼻腔炎では嗅神経の変性は起こらない。
④嗅覚が低下しても味覚が変化することはない。
⑤嗅覚障害はアルツハイマー病の早期症状である

【正解】
 私は⑤を選択しました。

【解説】
 近年、パーキンソン病やアルツハイマー病などの神経変性疾患の発症前に嗅覚障害が出現することが判明し、嗅覚検査がこれらの疾患のバイオマーカーとして用いられるようになっている。中枢性嗅覚障害では、嗅覚自体の低下と共に、その認知能力および識別能力の低下が特徴とされている。
 
嗅覚障害の原因別頻度と特徴
 表に金沢医科大学耳鼻咽喉科嗅覚外来における原因別頻度を示す。最も多いのは慢性副鼻腔炎によるものであり、アレルギー性鼻炎も含めると嗅覚障害患者の半数以上を占めている。次いで感冒罹患後、頭部顔面外傷と続くが、原因不明の嗅覚障害も少なからず存在する。

 嗅覚検査開発のために行われた過去の研究でも、65歳以上で嗅覚が有意に低下することが報告されている。したがって、嗅覚低下で問題になるのは、特定される疾患を除けば65歳以上の高齢者であるといえる。

 嗅覚障害患者が日常生活で最も困っていることは、食品の腐敗に気付かないことであり、それ以外にも、ガス漏れ、煙に気付かないなどの生活面での安全、味覚の変化による食欲の低下、食への関心の低下、調理の不具合も、半数以上の患者が日常の支障と感じている。

【三輪高喜:嗅覚障害の疫学と臨床像. 平成26年3月号・日本医師会雑誌 Vol.142 2623-2626 2014】

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 「嗅覚低下は必ずしもパーキンソン病に特異的ではなく、関連した神経変性疾患において広く観察されるとの指摘もあり、臨床的にはアルツハイマー病においても強い嗅覚低下がみられることが報告されてきた。しかし、病理学的検討からは嗅覚低下がアルツハイマー病の病理変化の程度には依存せず、むしろ随伴するLewy小体の出現に関連していることが示唆されている。臨床的にも、Lewy小体型認知症との比較においてアルツハイマー病の嗅覚低下はより軽度であることが知られている。」(武田 篤、馬場 徹:パーキンソン病における嗅覚障害と扁桃体. Clinical Neuroscience Vo.32 659-661 2014)


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第766回『軽度認知障害? それとも?─料理の味付けが変化』(2015年2月16日公開)
さて、実行機能障害(遂行機能障害)が生じてきますと、目的をもった行動や動作の遂行が困難な状態となり、料理・掃除・仕事・後片付けなどの「段取り」が悪くなります。
 八千代病院(愛知県安城市)神経内科部長の川畑信也医師が軽度アルツハイマー病患者さん72名(MMSEが20点以上に該当)で調査した結果によれば、「軽度アルツハイマー病患者さんにみられる実行機能障害」ベスト5は以下のものでした(川畑信也:物忘れ外来ハンドブック─アルツハイマー病の診断・治療・介護─ 中外医学社, 東京, 2006, pp44-46)。
 1 伝言を正確に書いて伝えられない        :74.6%
 2 余暇活動や趣味に関心がなくなってきた     :63.8%
 3 適切な交通手段をきちんととれない       :57.4%
 4 適切な品物を買って店から戻れない       :51.5%
 5 薬を自分から飲もうとしない          :50.0%
 5 以前行っていた家事をきちんとこなせなくなった :50.0%

 5の「家事」の中で、料理に関する話は、ご家族がよく訴える症状です。
 料理という実行機能は、献立を考え、必要な食材を考え買い物し、調理して味付けを吟味し盛りつけるという多くの過程を必要とします。
 川畑信也医師は、「認知症に罹患している患者さんが作る料理は、以前に比べて味が濃くなってくる、辛くなってくることが多い。これは、患者さんの味覚が鈍麻してくることと記憶障害のために不必要に調味料を加えたり煮込みすぎる傾向からと思われる。以前は多くの種類の料理ができたのにできる料理の数が減ってきたときも危険信号である。この料理の問題は比較的早期から家族が気づく行動の変化といえる。」と指摘しています。
 アルツハイマー病患者さんにおいて料理の味付けが変化する背景には、感覚器の機能低下が絡んでいる可能性もあります。

 東京大学医学部附属病院老年病科・保健健康推進本部の亀山祐美助教は、認知症患者さんにおける感覚器の機能低下について詳細な報告をしております(亀山祐美:感覚器の機能低下と認知症. 医学のあゆみ Vol.239 No.5 388-391 2011)。一部改変して以下にご紹介します。
 「高齢者では老化とともに高周波の音が聞こえにくくなり、50歳くらいからすこしずつ低下しはじめ、65歳以上では約30%が一定の聴力障害を起こしている。当科に『物忘れ精査入院』した99名の患者において、認知症の行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia;BPSD)の有無と難聴の有無との関連を解析した。その結果、難聴とBPSDの有無には有意な関連が認められた(BPSDありの群の43名中21名に難聴あり)。とくに物盗られ妄想との関連がみられた。このように、聴覚障害があるとBPSDなどの精神症状を生じやすい。
 視覚障害や聴覚障害は眼鏡・補聴器の装用あるいは手術による治療の可能性もあるが、加齢に伴う嗅覚障害や味覚障害には有効な治療法はなく『年を取ればあたりまえ』と放置されがちである。嗅覚障害が日常生活に与える影響はさして強くないとみなされがちである。しかし、ガス漏れや鍋をこがしても気づかないといった思わぬ事故につながることもあり、看過することはできない。最近では嗅覚障害が認知症早期のサインとして注目されている。
 嗅細胞にニオイ分子がつくと電気信号が起こり、嗅神経から一次中枢である嗅球に伝わる。嗅球で処理された情報は二次中枢である嗅皮質を経て前頭前野に達する。嗅覚に関する情報は扁桃体や海馬などの大脳辺縁系に到達し、最終的な嗅覚の認知は記憶と照合されて認識される。
 認知症患者において味覚障害を訴え拒食になるケースも見受けられ、中枢への味覚伝導の部分の問題も生じると考えられる。」
 上記の記述にありますように、嗅覚は原始的な感覚で中枢経路は他の感覚と違い視床を経由せずに大脳辺縁系に到達します。近年、嗅覚を刺激することで認知症の進行を穏やかにする、一時的に意識を晴明にすることができるという考えから食事前にアロマテラピーを行い、安全な食事介助を行う試みもなされております(正田晨夫:認知症患者の口腔ケア. 精神科 Vol.19 132-140 2011)。
 なお、嗅覚は視床を経由しない唯一の感覚であると考えられてきましたが、視床が関与しているという指摘もあります(岩田 誠、河村 満・編集:脳とアート─感覚と表現の脳科学 医学書院, 東京, 2012, pp71-72)。
 また、東京ふれあい医療生協梶原診療所在宅サポートセンター長の平原佐斗司医師は、「AD(アルツハイマー病)で、どのような感覚器の障害が起こるかは十分明らかにはなっていませんが、一般的には、視覚、ついで聴覚などの系統発生学的に新しい感覚器の機能から低下すると考えられています。」と述べたうえで、「ADでは、味覚や嗅覚、触覚などの原始的な感覚は重度になっても保たれていると推定されています。そのため重度の患者に対しても、ハーブやアロマ、タクティールなどの非薬物療法が有効だと考えられるのです。」と指摘しております(平原佐斗司編著:認知症ステージアプローチ入門─早期診断、BPSDの対応から緩和ケアまで 中央法規, 東京, 2013, p28)。
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