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ユマニチュード(Humanitude) [認知症ケア]

 来月開催されます院内学習会において、「ユマニチュード」について講演することになりました。レジュメができましたのでご紹介致します。

認知症ケア:ユマニチュード(Humanitude)について
【2016年3月 榊原白鳳病院・教育委員会】

 ユマニチュード(Humanitude)はイヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティの2人によってつくり出された、知覚・感情・言語による包括的コミュニケーションにもとづいたケアの技法です。この技法は「人とは何か」「ケアをする人とは何か」を問う哲学と、それにもとづく150を超える実践技術から成り立っています。認知症の方や高齢者のみならず、ケアを必要とするすべての人に使える、たいへん汎用性の高いものです。
 体育学の教師だった2人は、1979年に医療施設で働くスタッフの腰痛予防対策の教育と患者のケアへの支援を要請され、医療および介護の分野に足を踏み入れました。その後35年間、ケア実施が困難だと施設の職員に評される人々を対象にケアを行ってきました。
 彼らは体育学の専門家として「生きている者は動く。動くものは生きる」という文化と思想をもって、病院や施設で寝たきりの人や障害のある人たちへのケアの改革に取り組み、「人間は死ぬまで立って生きることができる」ことを提唱しました。
 その経験の中から生まれたケアの技法がユマニチュードです。現在、ユマニチュードの普及活動を行うジネスト─マレスコッティ研究所はフランス国内に11の支部をもち、ドイツ、ベルギー、スイス、カナダなどに海外拠点があります。また2014年には、ヨーロッパ最古の大学のひとつであるポルトガルのコインブラ大学看護学部の正式カリキュラムにユマニチュードは採用されました。
 「ユマニチュード」という言葉は、フランス領マルティニーク島出身の詩人であり政治家であったエメ・セゼールが1940年代に提唱した、植民地に住む黒人が自らの“黒人らしさ”を取り戻そうと開始した活動「ネグリチュード(Negritude)」にその起源をもちます。その後1980年にスイス人作家のフレディ・クロプフェンシュタインが思索に関するエッセイと詩の中で、“人間らしくある”状況を、「ネグリチュード」を踏まえて「ユマニチュード」と命名しました。
 さまざまな機能が低下して他者に依存しなければならない状況になったとしても、最期の日まで尊厳をもって暮らし、その生涯を通じて“人間らしい”存在であり続けることを支えるために、ケアを行う人々がケアの対象者に「あなたのことを、わたしは大切に思っています」というメッセージを常に発信する──つまりその人の“人間らしさ”を尊重し続ける状況こそがユマニチュードの状態であると、イヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティは1995年に定義づけました。これが哲学としてのユマニチュードの誕生です。
【本田美和子、イヴ・ジネスト、ロゼット・マレスコッティ:ユマニチュード入門 医学書院, 東京, 2014, pp4-5】

 イブ・ジネストさんはTV番組において、ユマニチュードについて以下のように語りました。
 「ユマニチュードは、認知症の人との人間関係・“絆”をつくるテクニックなんです。」
 「『私はあなたの友人ですよ、仲間ですよ』と認知症の人に感じてもらうには、“見る”“話す”“触れる”という3つの行動で伝えることが大切なのです。」
 「認知症の人は相手から見られないと“自分は存在しない”と感じ、自分の殻に閉じ籠もってしまいます。私たち介助者が最初にすべきことは、あらゆる手段を使って、彼らが“人間である”と感じさせることなんです。」
 「認知症の人の場合、相手が優しい人かどうかを知性で判断することが難しくなっています。しかし感情の機能は最期を迎える日まで働いています。ですから、ユマニチュードではその優しさを“感情”にうったえるのです。」

 番組においては、“見る”“話す”“触れる”の3つの具体的な手法も紹介されました。
 近づく際にまず留意する点は、“遠い位置から視野に入る”ことです。
見る:
 目線は正面から水平の高さ(=お互いに平等だということを伝える)、近い距離で長い時間見つめる!
話す:
 優しいトーンで、できるだけ前向きな言葉で友好的に語りかける(この時、大袈裟とも思える位の笑顔を作る!)。
 そして、相手の反応をみながら触れる!
触れる:
 触れる時には触れる場所・触れ方に注意することが必要です。【スライド2】

 2014年7月20日に放送されましたNHKスペシャル「認知症をくい止めろ!」におきまして、ユマニチュードの実践例が紹介され、ユマニチュードの基本である「見つめる」「話しかける」「触れる」「寝たきりにしない」についても若干の解説が加えられました。

 「見つめる」際には、遠くから視野に入り正面から見つめます。認知症の人は視界の中心に居る人しか認識できない場合があるためです。
 「話しかける」時には、実況中継をするように話しかけつづけるのがポイントです。
 「触れる」時はやさしく、「つかむ」のではなく動こうという意志を活かして下から「支える」。
 スタジオゲストの本田美和子医師は、車椅子を押す場合には認知症の人の視野から消えてしまいますが、片手で車椅子を押し、もう片方の手を(軽くではなく少し力を加えて)肩において「いるんだよ」というメッセージを伝えましょうとお話されておりました。

やってみたユマニチュード
 ユマニチュードのテクニックに『目が合ったら2秒以内に話しかける』というのがあります。そんなことは当たり前だと思われるかもしれないですが、目が合わないと思っていた方と目が合うと、びっくりしてこちらも一瞬固まってしまうんです。
 患者さんの立場になって考えると、ふと気づいたら目の前に人がいて、何も言わずにじっとこちらを見ていたら怖いですよね。攻撃しにきたのかと勘違いされてしまいます。2秒以内に話しかけなければいけないというのは、自分が敵意をもっていないことを相手に示すためなんだ、と知りました。
 そういった一つひとつのテクニックが具体的に構築されているところが、ユマニチュードの優れた点だと思います。」(本田美和子、イヴ・ジネスト、ロゼット・マレスコッティ:ユマニチュード入門 医学書院, 東京, 2014, pp46-47)


ケアの準備
 第2のステップは、ケアについて合意を得るプロセスです。
 所要時間は20秒~3分です。これまでのユマニチュードの実践の経験では、およそ90%は40秒以内で終わっています。つまり、面倒なようでも、とても短い時間しかかかりません。
 ユマニチュードのこの技術を用いることで、攻撃的で破壊的な動作・行動を83%減らせたという報告があります。実際に日本で、日本人のスタッフが実施してみても、この段階ですでに本人の反応が異なることを数多く体験しています。どんなに業務が忙しくても、40秒程度ならその時間を捻出することはそれほど難しくないはずです。

●正面から近づく。
●相手の視線をとらえる。
●目が合ったら2秒以内に話しかける。
 例:「おはようございます! お会いできて嬉しいです。」
●最初から「ケア(仕事)」の話はしない。
●体の「プライベートな部分」にいきなり触れない。
 ここで気をつけておきたいのは、顔は極めてプライベートな領域であることです。
●ユマニチュードの「見る」「触れる」「話す」の技術を使う。
●3分以内に合意がとれなければ、ケアは後にする。
【本田美和子、イヴ・ジネスト、ロゼット・マレスコッティ:ユマニチュード入門 医学書院, 東京, 2014, pp100-113】
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