SSブログ

早期受診 進行止めるかぎ─気付きにくい軽度認知障害 認知症早期診断の意義 コンバート率 リバート率 [認知症]

早期受診 進行止めるかぎ
 気付きにくい軽度認知障害

 2025年に現在の1.5倍の700万人に達するとされる認知症。早期の診断と治療につながるとして注目されているのが、前段階の軽度認知障害(MCI)という状態だ。「もの忘れ外来」を開設する榊原白鳳病院(津市)の診療情報部長、笠間睦さん(57)に、どのような状態か聞いた。(稲田雅文)
 「認知症と診断された人は通常回復しない。しかし、MCIと診断された人のうち、後日の検査で正常とされる人が一定の割合でいる。早い段階で専門医を受診する意義は大きい」と笠間さんは話す。
 例えば、電話で要件を頼まれたとする。頼まれたことを忘れるのは通常の老化現象でも起こるが、電話があったこと自体が記憶から抜け落ちるのが認知症の特徴だ。時間や場所を把握する能力や、計画を立てて実行する能力も低下する。
 MCIは健常の人と認知症の人との中間の状態で、記憶力などが低下していても日常生活に支障がない人を指す。認知症に至る数年前からMCIの時期があるケースが多い。
 笠間さんによると、MCIと診断された人のうち、一年後に一割、六年後には八割が認知症になったとの報告や、逆に後日に正常と判定された人が一~四割いるという研究結果もある。心配なら、早めに専門医の診察を受けるのが症状進行を止めるかぎになる。もの忘れ外来では、問診と、磁気共鳴画像装置(MRI)などの画像検査や血液検査などで診断する。
 …(中略)…
 まずは、昨日の夕食が何だったか尋ねる。思い出せなければ認知症やMCIの疑いが強い。一分間にできるだけ多くの動物名を言えるかどうかのクイズは遊び感覚ででき、「言えた動物名が十四以上なら、ひとまず安心と考えられる」。
 MCI予防には、新たな挑戦や人との交流、複雑な手順が必要なゲームなどが有効だ=イラスト参照。
 認知症やMCIは進行性の病気であることを丁寧に説明しているという笠間さんは、「異常なしと診断された場合も、半年から一年後にもう一度受診してほしい」と強調する。
 …(中略)…
 MCIと診断するのが難しい場合もあり、専門医を受診することが大切だ。
 【2016年4月27日付中日新聞 くらし─な~るほど介護】

私の感想
 「MCIと診断された人のうち、一年後に一割、六年後には八割が認知症になったとの報告や、逆に後日に正常と判定された人が一~四割いるという研究結果もある。」の部分、正確な数字をご紹介しておきますね。

 軽度認知障害(MCI)と診断された患者さんを追跡しますと、4年間で48%(1年あたり平均12%)が認知症を発症します(Bowen J et al:Progression to dementia in patients with isolated memory loss. Lancet Vol.349 763-765 1997)。また、Petersenらは、MCIと診断された人はその後1年間に約12%が認知症となり、6年間で約80%が認知症になったと報告しています(Petersen RC et al:Current concepts in mild cognitive impairment. Arch Neurol Vol.58 1985-1992 2001)。
 コンバートとは、MCIからADなど認知症へと進展することであり、その率がコンバート率です。
 2012年2月18日名古屋で開催された「デメンシアコングレスJAPAN 2012」には、東京大学大学院神経病理学の岩坪威教授が来られ講演されました。J-ADNI主任研究者である岩坪威教授は、J-ADNIにおける最新のコンバート率についても言及し、1年間の経過観察期間中に29.6%がコンバートし、従来の報告よりも随分と高率であったと報告されました。

 東北大学加齢医学研究所老年医学分野の荒井啓行教授は、第125回日本医学会シンポジウムにおいて、「東北大学老年内科におけるもの忘れ専門外来における経験から、医療機関を受診するMCI患者の約70%は進行性に認知機能が低下し、脳脊髄液タウ値が高く、アルツハイマー病(AD)の前駆段階と思われ、実際MCIからADへの年間転化率は約15%であった(progressive MCI,進行型MCI)。一方、他の30%は認知機能障害に進行がみられず、脳脊髄液タウ値が正常範囲内で、MRIにおいて脳室周囲白質病変が比較的高度であった(stable MCI,非進行型MCI)」と報告しています(荒井啓行:軽度認知機能障害と痴呆症の早期診断. 日本医師会雑誌 第133巻第2号 275 2005)。
 この非進行型MCIとはいったいどういう病態なのでしょうか? 実は、MCIと診断されたものの進行が乏しいケースの中には、辺縁系神経原線維変化認知症(limbic neurofibrillary tangle dementia;LNTD)や海馬硬化性認知症(hippocampal sclerosis dementia;HSD)などの疾患が含まれているのではないかと指摘されています。
 診断技術の進歩とともに、これらの疾患が正確にAD前段階としての軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment;MCI)から除外されるようになっていけば、MCIの中に占める「非進行型MCI」の割合は、30%よりも減少していくと考えられるわけですね。

 では、MCIと診断されると、進行していく一方なのでしょうか。
 ここで注目したい数字が「リバート率(リバージョン率)」という指標です。
 筑波大学臨床医学系精神医学教授の朝田隆先生は、「一旦はMCIと診断されても後日の評価で知的に正常と判定されることをリバージョンといい、そのような個人をリバーターと言う。…(中略)…従来の報告ではリバート率は14~44%とかなり多い(Manly JJ et al:Frequency and course of mild cognitive impairment in a multiethnic community. Ann Neurol Vol.63 494-506 2008)。とくに地域研究におけるMCI は複合的な集団とされ、この傾向が強い。この問題は今後のMCI研究における重要課題と思われる。」と報告しています(朝田 隆:軽度認知障害. 認知神経科学 Vol.11 252-257 2009)。
 認知症介護研究・研修東京センター研究部長であり浴風会病院診療部長の須貝佑一医師は、浴風会病院の患者さんでリバージョンした方たちから、聞き取り調査を実施したそうです。
 その結果、「そうした方たちは皆さん、健康維持やボケ予防のためになんらかの取り組みをしていました。たとえば、ボケ予防のために定年後から英会話や物理学の勉強を始めたとか、体力づくりのために山登りをもう10年も続けているとか、あるいはパソコン教室に通って自分のブログまで開設しましたとか…。」ということが分かったそうです(須貝佑一:朝夕15分 死ぬまでボケない頭をつくる! すばる舎, 東京, 2012, pp32-34)。

 さて皆さん、認知症早期診断の意義って何だと思われますか?
 実は3つの大きな意義があります。
1 早期診断・早期治療により、アルツハイマー病の進行をなるべく遅らせる
2 治療可能な認知症を見逃さない
3 初期のうちに、適切な認知症ケアの方法を指導し、「認知症の行動・心理症状」(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia;BPSD)の発生を未然に防ぐ
 この3点、どれも非常に重要な意義を持っています。中でも3番目のBPSDの予防という目的はあまり知られていない大きな意義ですので、しっかりと啓蒙していくことが必要だと感じています。
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。