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大人の発達障害 病識 常同行動 [発達障害]

大人の発達障害

 2016年4月28日のNews ZERO(http://www.ntv.co.jp/zero/hataraku/2016/04/post.html)では、「大人の発達障害」が取りあげられました。
大人の発達障害.jpg
 以前から興味を持っている分野でしたのでしっかりと観ました。

 岩本友規さん、実名報道で勇気があります。
 「うつ病」も「認知症」も「発達障害」も、ともすれば「偏見」を持って見られやすい疾患です。こうした疾患を患っている方が、勇気を持ってカミングアウトし、しかも報道番組に出演し、そして啓蒙活動までやる!
 これはもう、「同じ疾患で悩んでいる仲間を救いたい」という気持ちしかありません。私も「うつ病」をカミングアウトした背景にはそんな気持ちがあったからです。そして、実名報道されても構わないと思っており、新聞社の取材も・・という話にはなり主治医の了解も得ました。しかし、それに躊躇する人が居ることもまた事実・・。この件はペンディングとなっております。

 岩本友規さんは、レノボ・ジャパンで、どんな商品が売れるのかを分析するアナリストの仕事をされているそうです。4年前に「ASD+ADHD」と診断されているそうです。
キャプチャ.JPG
 ADHDに関しては本年3月26日のFacebook(https://www.facebook.com/photo.php?fbid=563094167193600&set=pb.100004790640447.-2207520000.1461960534.&type=3&theater)でもご紹介しましたね。
 http://akasama.blog.so-net.ne.jp/2016-03-26-2
 岩本友規さん、4回の転職か・・。辛かったでしょうね。。。
 News ZEROの報道内容を観て私が感じたことは、自分自身の病気に「気づける人」・「気づけない人」の違いは何なのか?ということが1点。気づければ治っていく可能性があるからです。
 もう1点興味深いことは、発達障害と前頭側頭型認知症で同じ「常同行動」という行為が出現するという点です。

 前頭葉が何らかの関与をしているということなんだと思います。
 この、「病識」と「常同行動」に関して、アピタルの原稿から関連事項を拾い上げてみます。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第31回『認知症の代表的疾患─レビー小体型認知症 もの忘れを自覚することの多いレビー小体型』(2013年1月14日公開)
 もの忘れに関しても、DLBにおいては内省できることが多いことが報告されています。
 アルツハイマー病では、初期ですらもの忘れを自覚していないケースが多いです。一方、DLBでは、初期においてはもの忘れを自覚しているケースが多いのです。
 東京医科大学病院老年病科の羽生春夫教授は、疾患別の病識の有無について検討しており、「有意な認知機能障害を認めない老年者コントロールの病識低下度の平均+2標準偏差を超えるものを病識低下ありと定義すると、AD(アルツハイマー病)群の65%、MCI(軽度認知障害)群の34%、DLB(レビー小体型認知症)群の6%、VaD(血管性認知症)群の36%が該当し、AD群が最も多く、DLB群は最も少なかった。」(羽生春夫:老年期認知症患者の病識―生活健忘チェックリストを用い、介護者を対照とした研究―. 日本老年医学会雑誌 Vol.44 No.4 463-469 2007)と報告しております。

メモ:内省
 「記憶、見当識、思考、言葉や数の抽象化機能などは、日常生活を送っていく上でそれぞれがとても大切な機能である。しかし、暮らしのなかでは、これらの機能一つひとつがバラバラに役立っているわけではない。複数の知的道具あるいは要素的知能を組み合わせて使いこなす『何か』がなけれはならないはずである。それを知的主体あるいは知的『私』とよぶことにすると、そこに障害が及ぶのである。だから、認知症を病む人は、いろいろなことができなくなるという以上に、『私が壊れる!』と正しく感じとるのである。
 知的主体などという硬い言葉ではなく、もう少しうまい言葉が見つかればよいのだが、学者も苦労してこの『何か』を『内省能力』(ツット)、『本来の知能』(ヤスパース)、『知的人格』『知的スーパーバイザー』(室伏)などと名づけている。どれもが、個別の、記憶、見当識、言葉、数といった道具的、要素的知能を統括する、より上位の知的機能を何とか言い表そうと苦労しているのである。」(小澤 勲:認知症とは何か 岩波新書出版, 東京, 2005, pp141-143)

 認知症の介護においては、しばしばアパシー(自発性の低下・無関心)の存在が問題となります。
 アパシー(apathy)とは、無気力・無関心・無感動のため、周りがやるようにと促しても、本人は面倒だから、全然動こうとしないし気にもしない状態です。そして、このアパシーの存在ゆえに、認知症がうつ病と誤診されているケースもあります。
 なお、DLBでは、うつ病を有する頻度が比較的高いことも知られております。
 「Ballardら(1999)は病理診断されたDLB、AD各40例を比較し、DLBでは、初診時に幻視、幻聴、妄想、誤認妄想、うつ病を有する頻度がADに比べて高い」と報告しています(長濱康弘:レビー小体型認知症の臨床症候学と病態生理. Dementia Japan Vol.25 145-155 2011)。
 なおこの点に関して筑波大学臨床医学系精神医学の朝田隆教授は、「伝統的な精神科のうつに対する見方では、悲哀感、悲しみをもって『うつ』の本質とし、それに不安ややる気のなさを加えます。DLBの場合、精神科の伝統的なうつというよりは基本的にはアパシーです。周りは困っているが本人は何もしなくて当然とケロッとしているような患者さんが比較的多いですね。」と指摘しています(朝田 隆 et al:座談会─認知症の早期発見・薬物治療・生活上の障害への対策. Geriatric Medicine Vol.50 977-985 2012)。

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 2014年7月30日にホテルグリーンパーク津において開催されました第16回中勢認知症集談会特別講演会には、群馬大学大学院保健学研究科リハビリテーション学講座の山口晴保教授らが講師として来て下さいました。

 山口晴保先生は、「MCIとADの境界は、『病識の有無』だと思っています」と講演で述べられました。そして、SED-11Q(Symptoms of Early Dementia-11 Questionnaire)を用いた病識の評価に関する検討結果についてご紹介して下さいました。
判断基準
 医療機関においてはSED-11Qが11項目中3項目以上で認知症を強く疑い、地域の認知症スクリーニングでは11項目中4項目以上で受診を勧めるというのが目安だそうです。

SED-11Q【認知症初期症状11項目質問票】
①同じことを何回も話したり、尋ねたりする
②出来事の前後関係がわからなくなった
③服装などの身の回りに無頓着になった
④水道栓やドアを閉め忘れたり、後かたづけがきちんとできなくなった
⑤同時に二つの作業を行うと、一つを忘れる
⑥薬を管理してきちんと内服することができなくなった
⑦以前はてきぱきできた家事や作業に手間取るようになった
⑧計画を立てられなくなった
⑨複雑な話を理解できない
⑩興味が薄れ、意欲がなくなり、趣味活動などを止めてしまった
⑪前よりも怒りっぽくなったり、疑い深くなった

※上記の11項目に関して、ご本人は病識が欠如しているため「該当しない」にチェックを入れるものの家族はそれを感じているため「該当する」にチェックを入れ、その差がMCIにおいては乖離しないものの、軽度AD&中等度ADにおいては有意に乖離(p<0.001)しているそうです。
 そして、「その結果を介護者に見せて、本人の自覚が乏しいことを理解してもらい、叱らないように指導することでBPSDを予防しましょう」と講演会で配布されました資料には記載されておりました。
 詳細は論文をご参照下さい。
 Maki Y, Yamaguchi T, Yamaguchi H:Symptoms of Early Dementia-11 Questionnaire(SED-11Q): A brief informant-based screening for dementia. Dement Geriatr Cogn Disord Extra Vol.3 131-142 2013
 Maki Y, Yamaguchi T, Yamaguchi H:Evaluation of Anosognosia in Alzheimer's Disease Using the Symptoms of Early Dementia-11 Questionnaire(SED-11Q). Dement Geriatr Cogn Disord Extra Vol.3 351-359 2013

P.S.
MCI段階で留まっているのかADに進展したのかを判断する基準は、「生活自立能力」の有無!
 「生活自立能力」については、シリーズ第73回『軽度認知障害─軽度認知障害から認知症への進展』をご参照下さい。

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 認知症初期症状11項目質問票(SED-11Q)の評価用紙は山口晴保研究室のホームページ(http://www.orahoo.com/yamaguchi-h/)からダウンロード可能(山口晴保:認知症の本質を知り、リハビリテーションに活かす. MEDICAL REHABILITATION No.164 1-7 2013)。

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 「ところで、認知症の人には『自分は病気である』という自覚はあるのでしょうか?
 この『自分は病気だ』と自覚することを『病識』といいます。医師の中には、認知症の人には『病識がある』という人もいれば、『ない』という人もいます。
 私は『病識は低下している(一部ある)』という考えです。自分はどんな病気でどのような問題が生じているのかといった自覚は乏しくなっていますが、『何だかいつもと違う』という感覚はあると思っています。これを『病感』といいます。」(山口晴保:認知症にならない、負けない生き方 サンマーク出版, 東京, 2014, p53)


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第461回『患者の声が聞こえていますか?─残っているものを大切に』(2014年4月11日公開)
 NHK・Eテレにおいては、2013年7月1日・2日・3日・15日・25日の5回にわたって、『シリーズ 認知症 “わたし”から始まる』が放送されました。7月15日の第4回放送は『自分らしく生きよう─アニメ映画「しわ」が描く当事者の世界―』(http://www.nhk.or.jp/heart-net/tv/calendar/2013-07/15.html)がテーマであり、NPO町田つながりの開「DAYS BLG!」(デイサービス施設)にアニメーション映画『しわ』の監督であるイグナシオ・フェレーラスさんを招いて映画の上映会が開催されました。インパクトが強い放送内容でしたので、皆さん印象深く覚えておられるのではないでしょうか。
 池田英材さんをはじめとする認知症当事者の方たちも、自分自身の姿と重ね合わせながら、映画『しわ』を観た感想を述べておられました。
 フェレーラス監督は番組のなかで、「私は以前から、年をとっても、病気になっても、人は変わらないと思っていました。病気ばかりに気をとられると、どうしても失われるものにこだわってしまいます。私は、むしろ残っているものを大切にしょうと思いました。この映画で表現したかったことは、認知症になってもその人らしさが残り、変わらない部分が必ずあるということなのです。」とこの映画に込めた思いを語りました。
 エスポアール出雲クリニック(島根県)の高橋幸男院長は、「成書には、もの忘れを自覚しないのがアルツハイマー型認知症の特徴と記載されているが、これは誤りである。認知症を認めたくないという強い思いがあり『否認』機制が働いて、表面的にもの忘れを否定したりすることはよくあるが、アルツハイマー型認知症の初期はもちろん中期でも、もの忘れごときは十分自覚しわかっている」と述べています(高橋幸男:認知症をいかに本人と家族に伝えるか. 治療 Vol.89 2994-3000 2007)。
 そして、認知症の症候学に詳しい滋賀県立成人病センター老年内科の松田実部長は、論文(松田 実:認知症の症候論. 高次脳機能研究 Vol.29 312-320 2009)において、「アルツハイマー型認知症(AD)で『早期に病識が失われる』という記載は、『取り繕い』を『病識のなさ』と混同していることから起こる誤謬(ごびゅう)である。『ADで病識が失われるというのは誤りである。ADの初期はもちろん中期でも、もの忘れごときは十分自覚しわかっている』という高橋(2007)の意見に筆者は賛同する。もちろん、患者の病態はさまざまであり、病識のレベル、その深さや内容も問題となるであろうから、一概には結論ができる話ではない。」(http://www.jstage.jst.go.jp/article/hbfr/29/3/312/_pdf/-char/ja/=現在リンクは無効)と指摘しています。
 また松田実部長は、前述の論文において、「『病識のなさ』と『取り繕い』を同一視すべきではない。病識の有無と取り繕いとには、直接的関連はない。少なくとも、病識がないから取り繕うのではない。むしろ、自身の異常に気づいているからこそ取り繕っていると考えられる場合もある(ボーデン 2003)。」とも述べています。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第73回『軽度認知障害 軽度認知障害から認知症への進展』(2013年3月7日公開)
 さて、軽度認知障害(MCI)と診断された患者さんを追跡しますと、4年間で48%(1年あたり平均12%)が認知症を発症します(Bowen J et al:Progression to dementia in patients with isolated memory loss. Lancet Vol.349 763-765 1997)。また、Petersenらは、MCIと診断された人はその後1年間に約12%が認知症となり、6年間で約80%が認知症になったと報告しています(Petersen RC et al:Current concepts in mild cognitive impairment. Arch Neurol Vol.58 1985-1992 2001)。
 コンバートとは、MCIからADなど認知症へと進展することであり、その率がコンバート率です。
 2012年2月18日名古屋で開催された「デメンシアコングレスJAPAN 2012」には、東京大学大学院神経病理学の岩坪威教授が来られ講演されました。J-ADNI主任研究者である岩坪威教授は、J-ADNIにおける最新のコンバート率についても言及し、1年間の経過観察期間中に29.6%がコンバートし、従来の報告よりも随分と高率であったと報告されました。

 因みに認知症をめぐる大規模疫学研究として有名な「ボルチモア老化縦断研究」によれば、「軽度認知機能障害(MCI)からアルツハイマー病にコンバートするまでに要する期間の中央値は4.4年であった」(飯島 節:ボルチモア老化縦断研究. 日本臨牀 Vol.69 Suppl8 587-593 2011)ことが報告されています。
 MCI段階で留まっているのかADに進展したのかを判断する基準は、「生活自立能力」の有無です。学術的にはコンバートの判定は、Mini-Mental State Examination(MMSE)、Clinical Dementia Rating(CDR;メモ1参照)、ウェクスラー記憶検査改訂版(Wechsler Memory Scale-Revised;WMS-R)の論理記憶(メモ2参照)という3つの認知機能検査を総合的に勘案して評価されます。
 しかし、MMSE、CDR、WMS-Rだけでは決め手に欠けるケースがあることも事実です。ですから、生活自立能力の有無を正確に判断するためにも、本人の家に行き、実際の生活の様子を確認するという視点が重要となってきます。
 
メモ1:Clinical Dementia Rating(CDR)
 CDRは臨床認知症尺度と呼ばれ、記憶、見当識、判断力と問題解決、地域社会活動、家庭生活および趣味・関心、介護状況の6項目から構成されます(http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/CDR.jpg)。
 それぞれの項目について患者およびその家族などから聞き取り調査を行い、5段階で重症度を判定します。
 5段階とは、CDR0(正常)、CDR0.5(軽度認知障害Mild Cognitive Impairment;MCI)、CDR1(軽度認知症)、CDR2(中等度認知症)、CDR3(重度認知症)です。
 具体的なCDRの判定方法は、先ずは各6項目のそれぞれの項目ごとに5段階で重症度(CDR0~3)を評価します。各項目を評価した後に、最終的には1つの段階に当てはめます。
 記憶が1次項目であり、残りの項目は2次項目となります。1次項目の評点と2次項目のうち3つ以上が同じ評点であれば、CDRは1次項目の評点になります。ただし、1次項目の評点よりも、2次項目の評点が高いか低い場合、3つ以上同じ2次項目の評点がCDRの評点となります。

メモ2:ウェクスラー記憶検査改訂版の論理記憶
 MCIの診断には、WMS-Rの論理記憶が標準的に用いられます。これは、検者が話す短い物語を聞いて、直後にそのまま再生する即時再生と、30分経過してから再度再生してもらう遅延再生があります。「会社の食堂で/調理師として/働いている/北九州の/上田恵子さんは、/…」と25の部分に分かれている文章を聞きながら暗記してもらい、被検者が再生した文章を25点満点で採点します。二つの物語で合計50点になります(山口晴保:認知症の正しい理解と包括的医療・ケアのポイント第2版 協同医書出版社, 東京, 2010, p226)。
 Logical memoryⅡ(論理記憶Ⅱ;遅延再生)の最高得点は、50点です。J-ADNIにおけるMCIの診断基準の一つとして、教育年数16年以上の方の場合には、Logical memoryⅡが「8点あるいはそれ以下」という条件があります。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第39回『認知症の代表的疾患─前頭側頭葉変性症 バナナとミルクばかり食べる女性』(2013年1月31日公開)
 群馬大学脳神経内科学の岡本幸市教授がバナナ・レディという著書の紹介を専門誌においてされました。
 「エピソード1では、本書のタイトルになっている女性の症状が詳細に述べられている。口数の減少、悲哀感のない抑うつで発症し、次第に脱抑制的な異常行動、特に過剰にミルクとバナナを摂取するようになったが、診察では知能や記銘力は驚くほど正確であった。9年の経過で死亡され、剖検所見も記載されている。FTDの典型的な症例の全経過を理解するのに有用な症例であり、なぜ患者がバナナを過剰に摂取するのかについても合理的に説明されている。」(岡本幸市:バナナ・レディ─前頭側頭型認知症をめぐる19のエピソード. Clinical Neuroscience Vol.29 352 2011)
 岡本幸市教授が書評で紹介したepisode1(バナナ・レディ、偏食)の冒頭は次のような記載で始まります。
 「牧師であるヘンリーの妻ドーンは、病気になる前は有能で社会的に洗練され、音楽の才能にも恵まれており、教会の受付として働いていた。彼女はヘンリーが受けもつ教区で重要な役割を演じており、イギリス女王がカナダを訪れた際にもてなしたこともある。ドーンが奇妙な行動をとり始めたのは50代後半のことであった。彼女は教会に集まった人々の隅で、誰とも話さず立っているようになり、行事の間中、2階に上がってピアノを弾いていることもあった。彼女は客のもてなしや教区の仕事をしなくなり、ある日は、何の説明もなく、1時間も早く仕事から家に帰ってしまった。…(中略)…症状が始まってから2年後に神経学的診察を受けることになった。…(中略)…真夜中に起きて、眠るための運動としてよく街へ出かけた。不眠対策の一つとして、主にスコッチで『寝酒』を始めたので、ヘンリーは彼女の見えないところにボトルを隠さなければならなかった。かかりつけ医が睡眠促進に、酒ではなくホットミルクとバナナをとることを勧めたのをきっかけに、ドーンは一度に5~6本のバナナを食べ始めた。その後、他の食物は胃を悪くすると言い張って、1日3~4リットルのミルクと数束のバナナによる食事療法を始めた。彼女は教区事務所にいるヘンリーに一日に何度も電話してきて、自分のための十分なミルクとバナナがあることを確認した。彼は、ドーンに新たな問題、すなわち夜尿症が生じたため、夜にミルクを飲むことを制限した。しかし、彼女は通りを歩きながら、ミルクをもらいトイレを使わせてもらうために、隣近所のドアを叩いてまわった。…(中略)…私が最初にドーンに会ったとき、彼女は快活で、話好きで、見当識も正常で、『認知症』的なところは全くなかった。しかし彼女の話は幾分まとまりに欠け、本題から離れやすく、的はずれな部分があった。やや躁的にもみえたが、無関心で洞察を欠いているところもあった。神経心理学者は常同性と集中力欠如に気づいたが、知能や記銘力は驚くほど正常であった。彼女はトレイルメイキング(数と文字とを交互に結んでいくテストで、注意と集中力を必要とする)を除けば、通常の前頭葉検査は良好な成績であった。…(中略)…ドーンの病気は悪化したが、徘徊や過度のミルクとバナナの摂取はトラゾドンの服用によってやや改善していた。しかしその後、頻繁で強迫的なトイレ使用といった新たな症状が加わった。」


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 FTDの症状を、1.前頭葉そのものの機能低下による症状、2.後方連合野への抑制障害による症状、3.辺縁系への抑制障害による症状、4.大脳基底核への抑制障害による症状に分けて述べる。

1. 前頭葉そのものの機能低下による症状
1)病識の欠如
 病識は病初期より欠如しており、病感すら全く失われていると感じられることが多い。さらに、自己を意識させるだけでなく、社会的環境のなかでの自己の位置を認知させる能力、すなわち“自己”を主観的意識を保持しながら比較的客観的な観点から認識する能力(self-awareness)が障害されている。このような障害を「心の理論」から説明しようという試みもある。心の理論は、自己および他者の動きを類推する、すなわち他者の心的状態、思考や感情を類推する機能と定義される。FTDの臨床診断基準(表)でも重視されている、社会的対人行動の障害、自己行動の統制障害、情意鈍麻、病識の欠如の背景にある共通の心的機構を心の理論の障害として捉える研究がある。
2)自発性の低下

2. 後方連合野への抑制障害による症状
1) 被影響性の亢進ないし環境依存症候群
 FTDでみられる被影響性の亢進ないし環境依存症侯群environmental dependency syndromeは、前方連合野が障害され後方連合野への抑制が外れ、後方連合野が本来有している状況依存性が解放された結果、すなわち外的刺激あるいは内的要求に対する被刺激閾値が低下し、その処理は短絡的で反射的、無反省になったものと理解できる。日常生活場面では、介護者が首をかしげるのをみて同じように首をかしげる反響ないし模倣行為、相手の言葉をそのままおうむ返しにこたえる(反響言語)、何かの文句につられて即座に歌を歌いだす、他患への質問に先んじて応じる、視覚に入った看板の文字をいちいち読み上げる(強迫的音読)、といった行為であらわれる。
2)転導性の亢進、維持困難
 ある行為を持続して続けることができないという症状である。これも、後方連合野が本来有している状況依存性が解放された結果、注意障害あるいは注意の維持困難が出現したものと考えられる。

3. 辺縁系への抑制障害による症状
1)脱抑制、「我が道を行く行動」
 反社会的あるいは脱抑制的といわれる本能のおもむくままの行動は、前方連合野から辺縁系への抑制がはずれた結果と理解できる。店頭に並んだ駄菓子を堂々と万引きする、あるいは検査の取り組みに真剣さがみられず(考え不精)自分の気持ちのままに答える、診察中に鼻歌を歌う、関心がなくなると診察室や検査室から勝手に出て行く(立ち去り行動)などの表現をとる。社会的な関係や周囲への配慮がまったくみられず、あやまちを指摘されても悪びれた様子がなく(患者本人に悪気はない)、あっけらかんとしている。

4. 大脳基底核への抑制障害による症状
1)常同行動
 自発性の低下や無関心が前景に立つ前にほぼ全例で認められる。ADとの鑑別にも重要な症状である。日常生活では、常同的周遊(roaming)や常同的食行動異常が目立つことが多い。
 絶えず膝を手でこすり続けたり、手をパチパチと叩いたりするような反復行動がみられることもある。
2)食行動異常
 FTDにおいては、食欲や食習慣、食の嗜好の変化が顕著である。特に初期のうちからみられるのは、食欲の亢進と嗜好の変化である。嗜好の変化としては、チョコレートやジュースなど甘いものを毎日大量に食べる行動がしばしばみられる。続いて、十分に咀嚼せずに嚥下するため食事速度が早くなるといった食習慣の変化や、決まった少品目の食品や料理に固執する常同的な食習慣が出現する。
【福原竜治、池田 学:前頭側頭型認知症の精神症状. 精神科治療学 Vol.28 1615-1619 2013】
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