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色平哲郎先生の思い出 [日々想々]

色平哲郎先生の思い出

 以前、朝日新聞社のアピタル連載を担当しておりましたときに、色平哲郎先生の書かれた『医のふるさと―認知症者が背負ってきた「ものがたり」』をご紹介させて頂いたことがあります。
 その色平哲郎先生を本日Facebookでたまたまお見かけし、本日、Facebookを通じてお友達になることが出来ました。
 以下に、その時の原稿内容をご紹介いたします。

朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第429回『臨時原稿 胃瘻について―平成26年度診療報酬改定』(2014年3月10日公開)
 平成26年3月5日に開催されました「平成26年度診療報酬改定説明会」資料(http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000039381.pdf)が厚生労働省のウェブサイトにおいて公開されております。

 いきなり話が脇道に逸れますが、先週の木曜日(3月6日)に私が担当しておりました患者さんの病状が悪化しました。特別な思いを抱く患者さんでしたので、急遽私は病院に駆けつけました。駆けつけた私の姿を見て当直事務をしておりました若手のNさんが「笠間先生、平成26年度診療報酬改定の胃瘻に関わる部分読まれましたか?」と声を掛けてきました。もう既に知っていることだろうなぁ…と思いつつ資料に目を通しました。しかし、資料には非常に大きな改定内容が記載されておりました。
 冒頭にて紹介しました資料のp133-135に胃瘻に関わる改定内容が記載されております。4月からいったい何が変更されるのでしょうか。

 資料の内容について私見を述べる前に、まずは胃瘻を巡る諸問題について復習しましょう。
 まずは酒井健司先生が本年3月3日に書かれました「診療報酬改定の思惑」をお読み下さい。Facebookコメント欄において私見を述べておりますが、私が一番強く主張したいのは、「胃ろうはすべて悪であると思うな」(http://apital.asahi.com/article/kasama/2013042600014.html)という視点です。
 次にシリーズ第278回「難しい早期診断と告知─胃ろうに関わる本末転倒」を読み返してみましょう。
 以下に重要な部分を抜粋(一部改変)して再掲いたします。
 「高山義浩先生は、『直観の濫用としての“胃ろう不要論”』において、『私は胃ろう推進論者ではありませんが、胃ろうを選択した方々が後ろめたさを感じることがないよう配慮したいと思っています。寝たきりでも、発語不能でも、それで尊厳がないと誰が言えるでしょうか? コミュニケーションできることは“生命の要件”ではありません。胃ろうを受けながら穏やかに眠り続けている…。そんな温室植物のように静謐な命があってもよいと私は思うのです。』と述べておられます。
 シリーズ第131回『終末期への対応─「胃ろうはすべて悪である」と思うな』において、『胃ろうは嫌だけど、経鼻経管栄養なら構わない』という全くもって不可思議な意向を述べる家族が多くなってきているという現状をご紹介しました。
 長尾和宏先生も2013年8月3日発行の日本医事新報において同様の指摘をされております。
 『この1年間で、老衰や認知症終末期の方への胃ろう造設は明らかに減っている。しかし、経鼻栄養や中心静脈栄養(IVH)は、むしろ増加し、人工的水分栄養補給(AHN)の総数としては決して減っていない。先日、テレビの某人気報道番組を観ていて腰を抜かした。高齢者への胃ろう造設に大反対されている先生の施設の様子が映されていたが、その施設にはたしかに胃ろうの方はいなくても、鼻から管を入れている患者が何人かおられたのだ。
 “これでは本末転倒だ!”と思った。経鼻チューブの苦痛があるからこそ、またIVHは非生理的で管理が大変だからこそ、便利な胃ろうに変わり普及したわけだ。しかしこの2~3年のマスコミ報道が正しく伝わらず、人工栄養法が逆行、退行しているのだ。』(長尾和宏:シリーズ「平穏死」③─水分、人工栄養補給を巡る混乱への対応. 日本医事新報No.4658 28-29 2013)」

 日本静脈経腸栄養学会もこの問題(=本来、PEGの適応である症例に対してPEGが実施できなくなっている)を「由々しき問題」として捉えており、ガイドラインには以下のように記述されております。
【PART-Ⅰ・Q6:経腸栄養のアクセスはどのように選択するの?─PEGをめぐる議論と評価】
 「現在、経皮内視鏡的胃瘻造設術(Percutaneous Endoscopic Gastrostomy;PEG)の適応に関する議論が行われている。栄養状態が維持・改善できても、ADLやQOLの改善効果が期待できない超高齢者、遷延性意識障害、末期の認知症に対するPEGは、単なる延命治療でしかないという考え方がある。この考え方に基づいてPEGは施行すべきでない、という意見が強くなっていることは否定できないが、このような症例に対するPEGの適応については社会的な議論が必要である。このPEGに対する否定的な考え方のために『本来、PEGの適応である症例に対してPEGが実施できなくなっている』状況の方が重大である。PEGを用いた経腸栄養の適応である症例に対し、経鼻胃カテーテルを用いた経腸栄養が実施されることが多くなっている、あるいはポートを用いたTPN施行症例が増加している、という、栄養管理法の選択上、間違った状況が出現していることは由々しき問題である。
 考え方の基本は、栄養管理そのものの適応について正しい判断を下すことで、栄養療法実施経路としてPEGが適応であるのなら積極的にPEGを実施するべきである。
 超高齢者や遷延性意識障害、あるいは高度の認知症であっても、栄養療法の適応であると判断された場合には、PEGが最適な栄養投与経路であることが多い。現在、栄養療法の適応とPEGの適応とが混同して議論されているが、これらは分けて考えるべきであり、したがって、これらの症例においても、栄養療法という観点から適応と判断されたら、積極的にPEGを実施することを推奨する。
 また、PEGを造設したからといって、経口摂取を諦めるのではなく、嚥下機能評価や嚥下訓練を実施し、経口摂取への移行、あるいは併用を試みるべきであることを強調したい。」(日本静脈経腸栄養学会編集:静脈経腸栄養ガイドライン─第3版 照林社, 東京, 2013, p18)

 患者さんや家族の方とお話をしていて、「胃瘻=延命」と思い込んでおられる方が多いことには本当に驚かされます。そしてその結果として、「経鼻経管栄養」が増えてしまっていることがごく最近の悪しき傾向なのです。
 経鼻経管栄養を継続するためには「身体拘束」が必要となるケースも多く、「身体拘束ゼロ」(http://www.wam.go.jp/wamappl/bb05kaig.nsf/0/1a06bd1862325ece49256a08001e5e43?OpenDocument)とは相反する結果となってしまいます。
 「胃瘻造設術、胃瘻造設時嚥下機能評価加算」(資料p133)を読みますと、「胃瘻造設の必要性、管理方法、閉鎖の条件等を患者・家族に説明」することを求めております。
 しかし、患者さんや家族への説明はそれだけで十分なのでしょうか? 胃瘻に関してだけ説明し、他の選択肢のデメリットが医師より説明されないため、安易に「経鼻経管栄養」、「完全静脈栄養(高カロリー輸液)」が選択されてしまうという問題について私は何度も警鐘を鳴らしてきました。
 以下に記載しますのは、私からの提案です。
 患者さんおよび家族に説明する際には、次の「1」「2」についてもきちんと説明することを義務づけていただきたいと思います。
「1」 経鼻経管栄養の問題点:
 患者さんにとっては不快感を伴いますので管を自己抜去するリスクが高く、自己抜去を防止するためには身体拘束が必要となります。
「2」 完全静脈栄養(Total Parenteral Nutrition;TPN)の問題点:
 敗血症のリスクが高いため、長期間に及ぶ栄養管理手段としては不向きです。

 少々専門的な記述にはなりますが、「2」の静脈栄養に関して補足しておきます。
 「経腸栄養が禁忌で、静脈栄養の絶対適応とされるのは、汎発性腹膜炎、腸閉塞、難治性嘔吐、麻痺性イレウス、難治性下痢、活動性の消化管出血などに限定される。」(日本静脈経腸栄養学会編集:静脈経腸栄養ガイドライン─第3版 照林社, 東京, 2013, p15)
 「4週間以上の長期にわたる経腸栄養を施行する場合はPEGの適応であり、PEGを選択することを推奨する。」(同上, p17)

 患者さんが「自己決定」に基づいて自らの治療方針を決めるためには、以上述べてきましたようなメリット及びデメリットがきちんと医師より説明されることが不可欠の条件となります。
 ごく最近私は、アルツハイマー病やレビー小体型認知症で通院中の患者さんを対象として、終末期になったときに自身が受けたい医療についてアンケート調査を実施しております。その最新結果については、私が管理するウェブサイトにおいて公開しておりますのでご参照下さい。3月5日までに14名の意向調査を終えております。
 経口摂取困難となった際の治療手段として胃瘻を希望されたのは1名でした。末梢点滴を第一希望としたものの、「点滴が困難な状況(←不穏などのため)であれば胃瘻を希望する」と回答された方が2名おられました。
 認知症が初期の段階において、終末期の治療方針について本人と向き合って説明している医師は極めて少ないのが現状ではないかと思われます。私もごくごく最近まで、この領域には踏み込めておりませんでした。
 今後は、今回実施しました意向調査の結果を治療方針に反映させ、本人が望む医療が実現できるよう取り組んでいきたいと考えております。

【追伸】
 胃瘻に関わる平成26年度の診療報酬改定において、私が驚いた項目がもう1つあります。それは「胃瘻抜去術」(2,000点)という新設の技術料です。冒頭にてご紹介しました資料のp134に記載されております。
 「抜去術」と漢字で書きますと難しそうな技術に思えるかも知れませんが、管の種類によっては引き抜くだけのとても簡単な操作であり1分も要しません。
 このような技術に対してなぜ2,000点(2万円)もの高い点数が評価されるようになったのかは私には理解しかねます。
 おそらく、狙いは「経済誘導」なんでしょうね。。。

胃瘻抜去術―2,000点
 平成26年3月5日に開催されました「平成26年度診療報酬改定説明会」資料(http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12400000-Hokenkyoku/0000039381.pdf)が厚生労働省のウェブサイトに公開されおり、そのpdfファイルのp134に記載されております。

 最初にこの「胃瘻抜去術」という文字を見たときには、私は信じられない気持ちでした。
 そうまでして、本気で「PEG抑制」に取り組みだしたということですね。

P.S.
 この「胃瘻抜去術―2,000点」の新設で私がもっとも懸念することは、誤嚥の心配が残っている状況であるにも関わらず、「本人のQOLのために、一度経口摂取に挑戦してみましょう」と医師から誘導的な説明を受けて、じっくりと(慎重に)試行錯誤せずに胃瘻を抜いてしまうという状況です。
 そして、やはり食べられませんでしたので、もう一度胃瘻を造設しますという“事の顛末”です。
 胃瘻抜去術(2,000点)プラス胃瘻造設術(6,070点)という二度おいしい丸儲けを医療機関ができ、しかも患者さんは内視鏡を飲まないといけないという身体侵襲を受ける悪夢が容易に想像されてしまうわけです(←私の妄想力をもってすると)!
◎アピタル『ひょっとして認知症?』の再開第1回にてご紹介しましたように、私の座右の銘は「妄想は力なり!」です。

 こんな診療報酬おかしいと思いませんか?! 今からでも遅くないので、こんな胃瘻抜去術(2,000点)の新設(創設)なんて撤回すべきです!!
 あるいは短期間に胃瘻を再造設した場合には、胃瘻抜去術(2,000点)の算定は取り消すという付記事項が必要なのでは…と私は思います。

Facebookコメント
認知症の母へのまなざし
 「天草出身の母は、生前、酒乱でさんざん手を焼かされた父と、懐かしそうに語り合っている。脳梗塞の後遺症でしびれた手を父になでてもらい、『おいしか酒ば用意して、待っとりますけん』と笑いかける。
 ホームの食事を母が平らげた直後、『どもネ』と父はまた現れる。俺にできることがあったら言ってくれ、と父が言うと、『がんばらんば(がんばろうよ)って言ってください』と母は返す。そんなやり取りが、息子ペコロスの慈しみに満ちた視点で描かれている。
 他人は、ペコロスの母のこうした言動を幻覚、幻聴と呼ぶ。しかしそれは一面的な見方なのかもしれない。この家族が生きてきた歳月と、関係性で紡がれた『ものがたり』を、母は現実として生きている。
 私たち医師は、認知症の人、一人ひとりで背負ってきた『ものがたり』を、どのくらい読み解こうとしているだろうか。読み解けているのだろうか。
 他者の生活史を知るには、普通いうところの医学知識とはまた別の、広い教養と感受性が必要な気がしてならない。日本の医学教育濫觴(らんしょう)の地、長崎で、そんなことを考えた。」(色平哲郎:医のふるさと―認知症者が背負ってきた「ものがたり」. 日経メディカル2014年3月号 通巻556号 121 2014)

P.S.
 色平哲郎先生は、私が尊敬する医師の一人です。
 東大理科1類中退後に世界を放浪し、京大医学部に入学され、2008年からはJA長野厚生連・佐久総合病院地域医療部地域ケア科医長を務められております。
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