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リバスチグミンとドネペジルの差異 [レビー小体型認知症]

リバスチグミンとドネペジルの差異―私のスライドより

 図表1-1「薬物に関する根拠の現状」【編/小阪憲司、著/森 悦朗:レビー小体型認知症の診断と治療─臨床医のためのオールカラー実践ガイド. harunosora, 川崎, 2014, p111】におきまして、認知機能障害に対する根拠として、DLBにおいてはドネペジルが「4(=有効:2つ以上の高品位のRCTで効果が示され、他に矛盾した知見がない)」でリバスチグミンが「2(=可能性あり:RCTの部分的・事後的解析、あるいは低品位のRCTで示唆されている)」、一方PDDではドネペジルが「2」でリバスチグミンが「4」と記載されております。
 これは不思議ですよね。病理学的にも症候学的にも共通した病態であるにも関わらず治療効果に差異が出てくるということは・・。
 だとすれば、ドネペジルとリバスチグミンの作用機序の違いが影響しているとしか考えられません。
 発売された当初は、ドネペジルとリバスチグミンとガランタミンの違いについて医学雑誌、講演会でよく話題として提供されました。
 最近では、3者の違いについて触れられることはほとんど無くなりました。それは、細かな違いこそあれ大きな違いは無いだろう・・というコンセンサスが得られてきたからではないでしょうか。
 しかし、薬剤過敏の目立つレビー小体型認知症(DLB)の治療におきましては、その“細かな違い”が病状に大きく影響しうるかも知れないということを忘れてはいけないのかも知れません
 そこで、DLBにおいて比較的治療効果が高いのではないかと指摘されてきたリバスチグミンと、従来からの治療薬で現在DLBに対して唯一保険適用(http://kaigo123.net/rebi-chiryo/)を有しているアリセプトの差異について考察するため、私のスライド集に忘備録としてしまい込んであった文献を抜き出してみました。
 この中に、何らかのヒントが隠されているとは思うのですが、現状ではまだ推測の域を出ておりません。


AChE3剤の作用機序の違い.jpg
 【高齢者のアルツハイマー型認知症治療における課題と展望. Geriat Med Vol.49 815-824 2011】

3剤の違い1.jpg
【池田篤平、山田正仁:アルツハイマー病新薬の使い分け方. 医学のあゆみ Vol.239 No.5 407-412 2011】
 

 アルツハイマー病、とくにBuChEによるアセチルコリン分解が主体となった進行例でもリバスチグミンは有用である可能性が期待されている。
 【岩手医科大学神経内科高橋智准教授:抗ChE-I剤とメマンチンの現状. Modern Physician Vol.30 1139-1143 2010】



 AChEは主に神経細胞に発現するが、BuChEは神経細胞のほか、グリア細胞にも発現するのが特徴である。ADでは進行に伴って、神経細胞の変性・脱落が起こりAChE活性は低下するが、一方でグリア細胞は増生し、BuChE活性が上昇する。そこにリバスチグミンのBuChE阻害作用が働くことで、シナプス間隙のACh濃度を上昇させることができる。
 【下濱 俊:Geriat Med Vol.49 819 2011】



 ドネペジル・ガランタミンで消化器症状が出現したら、消化器症状の頻度が少ないリバスチグミン・パッチに変更を検討できる。
 【繁田雅弘:Medical Practice Vol.29 799-802 2012】



 リバスチグミンはAChEといったん結合すると分離するまで長時間かかるため、偽非可逆性ChE阻害薬と言われ、最高血中濃度までの時間は0.5~2時間と短いが10時間程度の持続性ChE阻害作用を有する
 【和田健二、中島健二:Alzheimer病の治療薬-総論. 神経内科 Vol.76 113-119 2012】



 Bullockらは中等度AD患者994名についてプラセボ対照試験を行い,リバスチグミンとドネペジル塩酸塩の効果を比較したところ,NPI-10の下位項目にはいずれも有意差は認められなかった【Bullock R, et al. :Rivastigmine and donepezil treatment in moderate to moderately-severe Alzheimer’s disease over a 2-year period. Curr Med Res Opin. Vol.21 1317-1327 2005】
しかし,患者を75歳末満と75歳以上の2群に分けて再検討したところ,75歳末満の群では,不安,無為,脱抑制,睡眠,食欲,妄想の下位項目について,リバスチグミンがドネペジル塩酸塩よりも有意な効果が認められた【Bullock R, et al. :Effect of age on response to rivastigmine or donepezil in patients with Alzheimer’s disease. Curr Med Res Opin. Vol.22 483-494 2006】
 【朝田 隆、木之下 徹:『認知症の薬物療法』 新興医学出版社 2011 p38】




 Chee-Iのうちrivastigmineは、DLBにおける不安や意欲低下に対して効果的だったという報告(McKeith I et al:Efficacy of rivastigmine in dementia with Lewy bodies: a randomised, double-blind, placebo-controlled international study. Lancet Vol.356 2031-2036 2000)があるため、本邦でも使用経験の蓄積が待たれる。
 【熊谷 亮、一宮洋介、新井平伊:認知症の診断と治療における精神科的アプローチの特性. Dementia Japan Vol.26 164-170 2012】



順天堂大学大学院精神行動科学・新井平伊教授
 「海外の報告では、ドネペジル効果不十分例におけるリバスチグミンパッチへの反応率が約70%であった(Figiel GS:Prim Care Companion J Clin Psychiatry. Vol.10 291-298 2008)とされているため、効果不十分であった患者への切り替え投与も今後検討すべきでしょう。」
 【認知症治療における新規薬剤への期待. 2011年11月10日付日経メディカル第528号 113-116】



 G1-subtypeのAChEは海馬、扁桃体などのAD病変が強く認められる部位に強く発現し、リバスチグミンは他のAChE阻害薬に比べて、G1-subtypeのAChEへの選択性が高い。ADCS-ADL(Alzheimer’s Disease Cooperative Study Activities of Daily Living)スコアを用いた日常生活活動能力では、「入浴」、「買い物」、「何かを書き留める」、「最近の出来事を話す」などの点で有意な改善が報告されている(Alva G et al:Efficacy of rivastigmine transdermal patch on activities of daily living:item responder analyses. Int J Geriatr Psychiatry Vol.26 356-363 2011)。
 【門司 晃:リバスチグミンの臨床. MEDICINAL Vol.2 56-62 2012】



 DLBの治療は容易ではありません。薬物療法として、McKeithらは、AD治療薬であるアセチルコリンエステラーゼ阻害薬のなかでは、リバスチグミンがより効果的と報告(McKeith IG et al:Diagnosis and management of dementia with Lewy bodies:third report of the DLB consortium. Neurology Vol.65 1863-1872 2005)しています。レビー小体型認知症を命名したMckeithらは、レビー小体型認知症では、リバスチグミン投与群はプラセボ群に比べてアパシー、不安、妄想、幻視の有意な改善がみられ、レビー小体型認知症のBPSDにおけるリバスチグミンの有用性を報告(McKeith IG et al:Efficacy of rivastigmine in dementia with Lewy bodies:a randomized, double-blind, placebo-controlled international study. Lancet Vol.356 2031-2036 2000)しています。
 【木村武実:BPSD─症例から学ぶ治療戦略 フジメディカル出版, 大阪, 2012, pp29,107】



 著者は、保険適応外であるが、パーキンソン病に伴う認知症(Parkinson’s disease with dementia;PDD)あるいはレビー小体型認知症の患者さんに、しばしばイクセロン・リバスタッチを使用している。幻覚などの精神症状が著しく改善・消失する事例が少なくない
 【川畑信也:臨床医へ贈る抗認知症薬・向精神薬の使い方 中外医学社, 東京, 2012, pp40-41】



リバスチグミン18mg=ドネペジル9.4mg
 リバスチグミンは、最大容量18mgがドネペジル9.4mgに相当し(Bullock R, Touchon J, Bergman H et al:Rivastigmine and donepezil treatment in moderate to moderately-severe Alzheimer‘s disease over a 2-year period. Curr Med Res Opin 2005 Vol.21 1317-1327)、さらにパッチ剤となったため、高容量の投与も可能である。
 ドネペジルの項でも述べたが、実際、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤は高容量必要であることが示唆されており、その点でリバスチグミンパッチは有効である。
 【工藤 喬、武田雅俊:認知症の新しい薬物療法. 精神科 Vol.22 418-423 2013】



 進行したADでは、BuChEを抑制する方がより効果がある可能性がある。
Rainaらのメタ解析では9試験(2,164症例)が検討され、認知機能や全般的臨床症状で有意な改善を認めている【Raina P et al:Effectiveness of cholinesterase inhibitors and memantine for treating dementia:evidence review for a clinical practice guideline. Ann Intern Med Vol.148 379-397 2008】。
 しかし、高度ADに対する効果についてのメタ解析では、2試験のみが評価対象となり、その効果は限定的であると報告【Birks J et al:Rivastigmine for Alzheimer’s disease. Cochrane Detabase Syst Rev, 2009;CD001191】、さらなる検討が必要である。
【浜口 毅、山田正仁:認知症の薬物療法─認知症の中核症状に着目した治療薬の使用方法と注意点. Geriat Med Vol.51 39-45 2013】



リバスチグミン─BuChを介する効果か?
 BuChは、記憶を司る海馬や喜怒哀楽に関与する扁桃体に多く発現するため、易怒性、易刺激性、無気力(アパシー)などに効果的である。
 【吉岩あおい:認知症治療薬の特性─認知症の人のために、介護者の負担軽減に根ざした治療─. 第14回日本認知症ケア学会プログラム・抄録集, pp30-31 2013=特別講演2】



Six-month, placebo-controlled randomized controlled trials (RCTs) of the cholinesterase inhibitor rivastigmine have indicated modest but significant benefits in cognition, function, global outcome and neuropsychiatric symptoms in both PDD and DLB. (コリンエステラーゼ阻害剤リバスチグミンの6カ月のプラセボ対照無作為化試験では、認知、機能、全般的な臨床アウトカム、神経精神徴候においてPDDとDLBのいずれにおいても大きくはないものの有意な効果が示されている。)
 他のコリンエステラーゼ阻害剤のRCTによるエビデンスについては結論が得られていない。最近のPDD/DLB患者を対象としたメマンチンのRCTでは、全般的な臨床アウトカム、なかでも睡眠障害に対して明確な有効性が得られている。抗精神病薬の感受性リスクが高いので、抗精神病薬の投与は避けるべきである。PDD/DLB患者のかなりの割合でレボドパに対して反応するが、特に幻視などの神経精神徴候を増悪させる傾向があるため、抗パーキンソン病薬投与の際にはケアの必要がある(Ballard C, Kahn Z, Corbett A:Treatment of Dementia with Lewy Bodies and Parkinson's Disease Dementia. Drugs Aging Vol.28 769-777 2011)。
 【山本泰司:最近のジャーナルから. 認知症の最新医療 Vol.3 102 2013】




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