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認知症の人の精神病院入院 [認知症ケア]

認知症の精神病院入院はやめよう(2011.9.16)

 「介護に疲れた家族を救うため」という大義名分のもと、精神科病院で認知症の人を預かる動きが進行しています。08年には少なく見積もって約5万2千人。さらに増える勢いです。
 「介護の社会化をすすめる1万人市民委員会2010」の代表・堀田力さんの司会で8月に開かれたシンポジウム「各党代表と、これからの認知症ケアを考える」で、精神科医の上野秀樹さんはこう告白しました。
 「以前に勤めていた病院では、認知症の方をたくさん入院させ、困っていたご家族に大変に喜ばれ、良いことをしたと思い込んでいました。今の病院に移り、『入院はできません』というと、ご家族はがっかりします。しかし訪問診療で症状が改善すると、ご家族の喜びはさらに大きく、ご本人の幸せにもつながっています」
 上野さんが診療した540人の高齢者のうち、認知症でどうしても入院が必要な人はわずか5人でした。
 【大熊由紀子:誇り・味方・居場所─私の社会保障論. ライフサポート社, 横浜, 2016, pp76-79】


 「どうしても入院が必要な認知症の人」ってどんなイメージでしょうか。
 松本一生先生が著書の中で精神科病院入院に至った事例を紹介しておりますので以下にご紹介したいと思います。

事例―暑さをきっかけに精神症状が激しくなった宅間次郎さん
 宅間次郎さん(63歳・男性)は、3年前に脳梗塞で2週間ほど入院した後、自宅療養を続けています。息子2人と娘はすでに独立し、現在は妻との二人暮らしです。
 これまで少しずつ脳血管性認知症が進んできましたが、知的能力が高かった人だけに、今なお「自分でできること」も多く、妻には年齢相応の能力低下としか映らないまま、夏を迎えました。
 しかし暑さのせいか、宅間さんの血圧はどうしても安定しません。さらに8月初めに急激な暑さが来たのを境に、もの忘れなど認知症の中核症状よりもむしろ精神面の症状が激しくなり、妻が一睡もできないほど夜中に興奮することが繰り返されるようになりました。
 困った妻がかかりつけの内科医に相談したところ、ある病院を紹介され、入院することが可能となりました。しかし、入院する認知症病棟が精神科病院にあるため、事態は思わぬ展開になってしまいました。温かい雰囲気の病院であり、宅間さんがケアを受けながら入院するには適切な医療機関でしたが、妻は「○○精神科病院」という名前だけで拒否感をもってしまい、ついに入院することを決断できなかったのです。
 しかし宅間さんをそのまま自宅に戻すこともできません。かかりつけ医は妻の不安定な様子を心配しました。かかりつけ医の努力によって、ある整形外科医が開設した近県の一般病院にようやく入院することになりました。

病院での宅間さんへの対応
 彼の入院に際し、精神面に対する薬の処方はその病院でできましたが、問題はケア体制でした。
 交通事故など救急の整形外科の患者が多い病院なので個室に入院することになり、若い男性看護助手が宅間さんを担当することになりました。この看護助手は熱意にあふれた優秀な人でしたが、精神面のケアが必要な患者を担当したことがありません。そのため彼にどう対応すればよいのかわかりませんでした。
 「とにかく精神面で不安定になっている人には抱擁(ハグ)をする」と日ごろから言っていた看護助手は、宅間さんが夜間混乱しているときでも寄り添い、抱きかかえようとしました。しかしその途端、恐怖に顔をひきつらせた彼は看護助手に対してつかみかかっていきました。
 その後、こうしたことが原因となって、宅間さんは退院を迫られるようになるのですが、それまでの10日間、宅間さんは何度も興奮して看護助手を殴りました。
 このことを気にした妻も体調を崩してしまい、結局彼はかかりつけ医が最初に勧めた精神科病院の認知症病棟に転院することになり、ここでようやく落ち着きを取り戻しました。

その人の恐怖をはかり知ること
 このエピソードのなかに、責められるべき人は1人もいません。家族も周囲の支援者も皆、宅間さんのことを思っていたからこそ、いろいろな支援に努めたのです。
 看護助手は、交通事故の患者などに対するこれまでの臨床経験を活かして、自分の心意気を示すこと(ハグ)で利用者のこころに「親しみやすい」印象を与えたかったのです。しかし、ただ1つ欠けていたのは、認知症という病気の宅間さんがどのように世界を理解しているか、どんな状況になれば恐怖を感じて、どう反応するかといったことを、宅間さん自身の立場に立って見極められなかったことだと思います。
 一般的な理解では、相手が安心できるように笑顔を向け、また敵意がないことを示すようハグすることで、信頼感は高まると思います。しかし認知症の人自身がどのような世界を体験して、どのような恐怖を抱くか予想しながらかかわらなければ、その善意は脅威へと変わってしまいます。
 (以下省略)
 【松本一生:喜怒哀楽でわかる認知症の人のこころ. 中央法規, 東京, 2010, pp73-77】

私の感想
 「触れる」ことは、ユマニチュードの4つの柱「見る」「話す」「触れる」「立つ」の一つですが、使い方を間違うとこのような事態になってしまうこともあるということを想定しておく必要がありそうですね。
 ユマニチュードの動画は↓
 https://www.facebook.com/atsushi.kasama.9/videos/595811383921878/?permPage=1

 私自身の経験でも、この方は一般病院での入院は無理だな・・。精神科病院に入院せざるを得ないかな・・と感じるケースがやはりどうしてもあります。必要と判断されれば、介護が破綻する前に決断しなければならない時もあると思います。
 ただ一つ言いたいことは、入院する精神科病院の質を高めて欲しいということです。理想を言えば、石川県立高松病院副院長の北村立医師のような精神科医が増えて欲しいと願っております。
 以下に、北村立医師の取り組みをご紹介します。

朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第178回『深刻化する認知症患者の長期入院 退院に向けてケア会議』(2013年6月21日公開)
 精神科病院における長期入院の解消に成果をあげている取り組みについてご紹介しましょう。
 2012年11月22日放送のクローズアップ現代(http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail_3278.html)では、「“帰れない”認知症高齢者 急増する精神科入院」と題して、増え続ける認知症高齢者の精神科病院への入院をどう解消するのかが大きな課題として取り上げられました。
 放送された内容で私が強く印象に残ったのは、石川県立高松病院副院長の北村立(きたむら たつる)医師(精神科医)らの取り組みです。
 北村立医師らは、4年前から退院を促すための様々な取り組みを始めているそうです。まず取り組んだことは、家族や介護施設が抱えている退院後の不安を解消するための退院に向けてのケア会議でした。ケア会議では、家族や介護施設の担当者が集まり、退院後の過ごし方について話し合われます。その中で北村立医師は、「(退院してみて)うまくいかなかったら、また入院すればいいんだし…。やってみないことには分からんから」と話しておりました。
 その他に北村立医師が取り組んでいることが、「早期治療」と「BPSDの予防」です。早期治療とは、医師自ら介護施設に出向き、認知症の行動・心理症状(BPSD)がひどくなる前に治療に取り組むものです。BPSDの予防とは、認知症と診断後に病院のスタッフが患者さんの自宅を訪問し、関係者に集まってもらいBPSDの原因を探りアドバイスする取り組みです
 当日の番組コメンテーターを務めた敦賀温泉病院・玉井顯院長(精神科医)は、北村立医師らの取り組みを見て、認知症はチーム医療が一番大切であるがそれを実践していることが素晴らしく、生活の場を実際に見ているのでBPSDの原因が分かり対処方法を家族に伝えられるし、精神科病院は「最後の砦」なのでいつでも再入院できますよと保証する(バックアップ体制をしっかりする)ことで家族が安心し長く在宅で過ごすことができるのではないかと高く評価しておりました。
 北村立医師らの取り組みは、2013年3月1日付朝日新聞「認知症とわたしたち」においても取り上げられました。記事においては、「入院期間をなるべく短くしようと、病院は4年前から、家やグループホームヘ訪問看護を始めた。症状がひどくなったときには再入院させ、落ち着けばまた家へ帰す。抗精神病薬や睡眠薬などは最小限に抑える。患者の活動量が落ちれば看護は楽だが、寝たきりになって家へ帰れなくなる恐れもある。最近は、患者の半分近くは2カ月以内で退院できるようになった。」とその成果も報道されました。

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 2013年6月15日に放送されましたNHK・Eテレ/チョイスでは、「もし認知症とわかったら」(http://www.nhk.or.jp/kenko/choice/archives/2013/06/0615.html)に関連するチョイスがいくつか示されました。
 私が一番印象に残ったのが、若狭町福祉課地域包括支援センターの髙島久美子さんらが取り組んでいる試みです。
 髙島さんは、若狭町に住む65歳以上の人を年1回訪ねており、戸別訪問により認知症の早期発見に努めております。さらに、家族だけではなくご近所の方に対しても認知症ケアについてアドバイスし、認知症の行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia;BPSD)を未然に防止することに精力的に取り組まれておりました。
 若狭町では、これらの取り組みによって、認知症患者の入院数(平成24年人口比)が福井県の周辺自治体の約5分の1であったという成果をあげているそうです(嶺南認知症疾患医療センター調べ)。
 町ぐるみで認知症対策に取り組むことにより、BPSDを未然に防止し精神科病院への入院を減らした具体的な事例と言えますね。

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 事例を紹介しよう。90歳の母親を60代後半の娘さんが一人で介護していたケースである。娘さんが急性の心筋梗塞で入院することなり、その日から誰が母親の介護をするかが問題となった。関与していた初期集中支援チームは、残された母親にはほとんど清神症状がないのに、なんと認知症疾患医療センターの民間精神科病院に入院させて、支援終了としてしまったのである。地域の介護施設でショートステイをつなげたり、工夫次第でいくらでも地域生活を継続できていたかも知れないケースである。
 精神科病院は「地域にとって困った存在」を強力に引き寄せ、入院させてしまうことでその存在を目の前から消し去ってくれる。地域で対人的支援を行っている人にとっては大変に便利な施設である。とりあえず「困った人」を引き受けてくれて、問題が解決してしまうので、一回利用すると癖になってしまう。 しかし利用したことによる副作用は極めて大きく、こうした「便利な施設」が地域にあるために、「工夫すれば地域で支えることができる人」がみな精神科病棟に吸い込まれてしまうことにもなりかねない。こうした「便利な施設」があると地域で対人支援を行っている人々が支援方法を工夫することがなくなるので、多様な人を地域で支える仕組みが育たないのである。
 結局、現在の日本では精神科病床が過剰に存在しているために地域力が育たず、いつまでたっても精神障害者を地域で支えられない状態がつくられてしまっているのである。
 さらに、この精神科病院の吸引力のために、私たちは普通に生活していると精神障害がある人と接する機会が奪われてしまい、国民全体の精神障害に関する理解も深まらないのだ。いわば、過剰な精神科病床の存在のために大きな社会的損失が生じているのである。真の共生社会の実現のためには、精神科病床は適正数まで強制的に減少させる必要があると考えられる。
 病床削減の方法としては、厚生労働省の審議会「長期入院精神障害者の地域移行に向けた具体的方策に係る検討会」で検討されていた「病床転換型居住系施設」は極めて問題の大きい、危険な施策である(厚生労働省:長期入院精神障害者の地域移行に向けた具体的方策に係る検討会 http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000almx.html#shingi141270)。単なる看板の書き換えに終わってしまう可能性が高いことと、日本と同じような精神科医療状況にあるベルギーで、似たような施策を行い、20年以上の社会実験の末に完全に失敗に終わったからである。
【上野秀樹:認知症の人の支援─初期集中支援チームと精神科医療供給体制. 公衆衛生 Vol.78 683-688 2014】

朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第179回『深刻化する認知症患者の長期入院 専門病院と介護老人施設の連携をスムーズに』(2013年6月22日公開)
 最後に、石川県立高松病院副院長の北村立医師が論文で報告している理念をご紹介して本稿を閉じたいと思います(一部改変)。
 「在宅や介護老人施設などで対応困難なBPSDが発生した場合、可及的速やかに対応でき、かつ人権擁護の観点から法律的な裏づけがあるのは精神科病院しかないと思われる。したがってBPSDの救急対応も精神科病院の大きな役割として強調されるべきである。
 石川県立高松病院ではBPSDに対する救急・急性期治療の重要性を認識し、早くからそれを実践してきている。具体的には認知症医療においても365日24時間の入院体制を合言葉に、『必要なときに即入院できる』体制を作り上げてきた。
 さて、今後爆発的な増加が予想される認知症の人をできるかぎり地域でみていくためには、BPSDの24時間の対応体制の整備が必要なのは明らかであるが、わが国にはそのような報告は筆者らの知る限りない。
 当院のような365日24時間受け入れ可能な精神科専門医療機関が地域にあれば、多少重症のケースであっても、介護老人施設でぎりぎりまで対応できる可能性が示されている。施設が困ったときにただちに対応すれば信頼が得られ、状態が安定すれば短期間で元の施設に受け入れてもらうことが可能となり、専門病院と介護老人施設の連携がスムーズとなる。
 成人の精神科医療と同様、高齢者に認められる急性一過性の激しい精神症状は、適切に対応すれば容易に消退するものであり、これこそが精神科における認知症急性期医療の重要性を示すものである。また、筆者らの臨床経験からいえば、家族の心配や介護負担感を増やさないようにするには、初診時から365日24時間いつでも受け入れることをあらかじめ保証することが重要である。家族が困ったときにすぐ対応すれば、介護者は余裕をもって介護に当たることが可能であり、近年問題となっている介護者のメンタルヘルスを保つうえでもきわめて有益と考える。」(北村 立 他:石川県立高松病院における認知症高齢者の時間外入院について. 老年精神医学雑誌 Vol.23 1246-1251 2012)
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