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「病識」と「病感」 [認知症]

本人が異変に気づく

 家族よりも本人が先に異変に気づくケースもあります。それまで健康に過ごしていた若年性認知症の人のほうが、高齢になって発症した人よりも、自分の異変に気づきやすいようですが、高齢の人でも、外出の際に目的地にたどり着けない、帰ってこられないといった経験をして、自ら受診を希望する人もいます。
 本人が 「異変」と感じているのは、必ずしももの忘れなどの典型的な症状ばかりではありません。「自分が自分でないような感じ」「物が見えていても、そこにないような感じ」などで、実際に本人が違和感があると感じていても、それをうまく説明できないことも多いようです。


語り 006

 妻が心配して、「どうなったのか」っていうことでね、何回も聞かれたかな。「どうしたの? どうなったの?」、そういうような言葉をたくさん言われましたね。それで、私が説明しようと思ってもですね、説明ができないわけですよ。「自分がどうなっているか、よくわからない」って言っても、妻もわからないわけですよね。
 私、それがもう本当に、「ここにおる○○は誰なのか」っていうような感じというかね……、そんなことです。非常に心細いですね。
                    本人04(プロフィール:p.611)
 【認知症の語り─本人と家族による200のエピソード. 健康と病いの語りディペックス・ジャパン, 東京, 2016, pp16-18】

私の感想
 「病識」と「病感」の言葉の使い分けになるんでしょうね。

朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第31回『認知症の代表的疾患─レビー小体型認知症 もの忘れを自覚することの多いレビー小体型』(2013年1月14日公開)
 もの忘れに関しても、DLBにおいては内省できることが多いことが報告されています。
 アルツハイマー病では、初期ですらもの忘れを自覚していないケースが多いです。一方、DLBでは、初期においてはもの忘れを自覚しているケースが多いのです。
 東京医科大学病院老年病科の羽生春夫教授は、疾患別の病識の有無について検討しており、「有意な認知機能障害を認めない老年者コントロールの病識低下度の平均+2標準偏差を超えるものを病識低下ありと定義すると、AD(アルツハイマー病)群の65%、MCI(軽度認知障害)群の34%、DLB(レビー小体型認知症)群の6%、VaD(血管性認知症)群の36%が該当し、AD群が最も多く、DLB群は最も少なかった。」(羽生春夫:老年期認知症患者の病識―生活健忘チェックリストを用い、介護者を対照とした研究―. 日本老年医学会雑誌 Vol.44 No.4 463-469 2007)と報告しております。

メモ:内省
 「記憶、見当識、思考、言葉や数の抽象化機能などは、日常生活を送っていく上でそれぞれがとても大切な機能である。しかし、暮らしのなかでは、これらの機能一つひとつがバラバラに役立っているわけではない。複数の知的道具あるいは要素的知能を組み合わせて使いこなす『何か』がなけれはならないはずである。それを知的主体あるいは知的『私』とよぶことにすると、そこに障害が及ぶのである。だから、認知症を病む人は、いろいろなことができなくなるという以上に、『私が壊れる!』と正しく感じとるのである。
 知的主体などという硬い言葉ではなく、もう少しうまい言葉が見つかればよいのだが、学者も苦労してこの『何か』を『内省能力』(ツット)、『本来の知能』(ヤスパース)、『知的人格』『知的スーパーバイザー』(室伏)などと名づけている。どれもが、個別の、記憶、見当識、言葉、数といった道具的、要素的知能を統括する、より上位の知的機能を何とか言い表そうと苦労しているのである。」(小澤 勲:認知症とは何か 岩波新書出版, 東京, 2005, pp141-143)

 認知症の介護においては、しばしばアパシー(自発性の低下・無関心)の存在が問題となります。
 アパシー(apathy)とは、無気力・無関心・無感動のため、周りがやるようにと促しても、本人は面倒だから、全然動こうとしないし気にもしない状態です。そして、このアパシーの存在ゆえに、認知症がうつ病と誤診されているケースもあります。
 なお、DLBでは、うつ病を有する頻度が比較的高いことも知られております。
 「Ballardら(1999)は病理診断されたDLB、AD各40例を比較し、DLBでは、初診時に幻視、幻聴、妄想、誤認妄想、うつ病を有する頻度がADに比べて高い」と報告しています(長濱康弘:レビー小体型認知症の臨床症候学と病態生理. Dementia Japan Vol.25 145-155 2011)。
 なおこの点に関して筑波大学臨床医学系精神医学の朝田隆教授は、「伝統的な精神科のうつに対する見方では、悲哀感、悲しみをもって『うつ』の本質とし、それに不安ややる気のなさを加えます。DLBの場合、精神科の伝統的なうつというよりは基本的にはアパシーです。周りは困っているが本人は何もしなくて当然とケロッとしているような患者さんが比較的多いですね。」と指摘しています(朝田 隆 et al:座談会─認知症の早期発見・薬物治療・生活上の障害への対策. Geriatric Medicine Vol.50 977-985 2012)。

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 2014年7月30日にホテルグリーンパーク津において開催されました第16回中勢認知症集談会特別講演会には、群馬大学大学院保健学研究科リハビリテーション学講座の山口晴保教授らが講師として来て下さいました。

 山口晴保先生は、「MCIとADの境界は、『病識の有無』だと思っています」と講演で述べられました。そして、SED-11Q(Symptoms of Early Dementia-11 Questionnaire)を用いた病識の評価に関する検討結果についてご紹介して下さいました。
判断基準
 医療機関においてはSED-11Qが11項目中3項目以上で認知症を強く疑い、地域の認知症スクリーニングでは11項目中4項目以上で受診を勧めるというのが目安だそうです。

SED-11Q【認知症初期症状11項目質問票】
①同じことを何回も話したり、尋ねたりする
②出来事の前後関係がわからなくなった
③服装などの身の回りに無頓着になった
④水道栓やドアを閉め忘れたり、後かたづけがきちんとできなくなった
⑤同時に二つの作業を行うと、一つを忘れる
⑥薬を管理してきちんと内服することができなくなった
⑦以前はてきぱきできた家事や作業に手間取るようになった
⑧計画を立てられなくなった
⑨複雑な話を理解できない
⑩興味が薄れ、意欲がなくなり、趣味活動などを止めてしまった
⑪前よりも怒りっぽくなったり、疑い深くなった

※上記の11項目に関して、ご本人は病識が欠如しているため「該当しない」にチェックを入れるものの家族はそれを感じているため「該当する」にチェックを入れ、その差がMCIにおいては乖離しないものの、軽度AD&中等度ADにおいては有意に乖離(p<0.001)しているそうです。
 そして、「その結果を介護者に見せて、本人の自覚が乏しいことを理解してもらい、叱らないように指導することでBPSDを予防しましょう」と講演会で配布されました資料には記載されておりました。
 詳細は論文をご参照下さい。
 Maki Y, Yamaguchi T, Yamaguchi H:Symptoms of Early Dementia-11 Questionnaire(SED-11Q): A brief informant-based screening for dementia. Dement Geriatr Cogn Disord Extra Vol.3 131-142 2013
 Maki Y, Yamaguchi T, Yamaguchi H:Evaluation of Anosognosia in Alzheimer's Disease Using the Symptoms of Early Dementia-11 Questionnaire(SED-11Q). Dement Geriatr Cogn Disord Extra Vol.3 351-359 2013

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 認知症初期症状11項目質問票(SED-11Q)の評価用紙は山口晴保研究室のホームページ(http://www.orahoo.com/yamaguchi-h/)からダウンロード可能(山口晴保:認知症の本質を知り、リハビリテーションに活かす. MEDICAL REHABILITATION No.164 1-7 2013)。

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 「ところで、認知症の人には『自分は病気である』という自覚はあるのでしょうか?
 この『自分は病気だ』と自覚することを『病識』といいます。医師の中には、認知症の人には『病識がある』という人もいれば、『ない』という人もいます。
 私は『病識は低下している(一部ある)』という考えです。自分はどんな病気でどのような問題が生じているのかといった自覚は乏しくなっていますが、『何だかいつもと違う』という感覚はあると思っています。これを『病感』といいます。 」(山口晴保:認知症にならない、負けない生き方 サンマーク出版, 東京, 2014, p53)
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