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改訂長谷川式認知症スクリーニングテスト(HDS-R) [アルツハイマー病]

語り 014
認知症の語り.jpg
 心療内科のある市立病院に行って、MRIとか脳波とかの検査をして、若年性アルツハイマーだと言われました。海馬〔脳の大脳辺縁系の一部〕の萎縮が見られるって。そのときは、「中期ぐらいです」って言われたんですが、私たちも受け止めることができなくって。「うそだろう」というところもあり、若年性アルツハイマー専門の外来があることを友だちから聞いて、そこでセカンドオピニオン的な形で診ていただいたら、「初期」って言われました。
 長谷川式っていう筆記のテストの点数が、テストをしたのは2か月しか違わないのに、結果が全然違っていて、市立病院では16点だったんですが、専門外来では23点だったんですよ。市立病院は先生が外来の患者を診るお部屋の中の、ワサワサした環境の中で、時計とか見せながらやっていたんですけど、専門外来ではちゃんとしたお部屋があって、こぎれいでゆっくりした環境の中でやらしてもらえるんです。だからそういう環境の違いで、病院の診断も違うんだなって、すごくわかりました。
 市立病院だと、家族の気持ちを聞く余裕がないんですよ。問診して、お薬をくれるだけでいっぱいいっぱい。専門外来では最初は20分ぐらい話を聞いてくれる。なので、今は2つの病院を使い分けています。
                    介護者03(プロフィール:p.599)
 【認知症の語り─本人と家族による200のエピソード. 健康と病いの語りディペックス・ジャパン, 東京, 2016, pp39-40】

私の感想
 よくあるパターンですね。
 でも、「中期」と言われたり、「初期」と言われたら、戸惑ってしまいますよね。

 アピタルより、関連事項を以下に記載いたします。
 第13回の中で私は「私自身の経験では、初期アルツハイマー病の患者さんで初回のHDS-Rが27点であった方を経験しております。」と述べておりますが、最近では、HDS-R満点の初期アルツハイマー病の方も数多く経験しております。
 ですから、本当の「初期」診断には、改訂長谷川式認知症スクリーニングテスト(HDS-R)では「限界」があることを知っておくべきです。

朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第13回『認知症の診断─認知機能の検査』(2012年12月27日公開)
 簡便に認知機能や記憶力を測定できる認知機能検査として、日本国内ではMMSE(Mini-Mental State Examination)と改訂長谷川式認知症スクリーニングテスト(HDS-R)が普及しております。
 近年は、HDS-RよりもMMSEが多用される傾向にあります。しかしHDS-Rの方が、1)記憶を重視し、2)被験者の負担が少なく、3)教育歴の影響を受けにくいので、日常臨床ではMMSEよりもHDS-Rの方が有用という意見もあります(山口晴保:認知症の正しい理解と包括的医療・ケアのポイント 協同医書出版社, 東京, 2010, p225)。

 認知機能検査の数値に関しては、今後このブログで何度も紹介する指標になると思いますので、この機会に説明しておきます。
 改訂長谷川式認知症スクリーニングテスト(HDS-R)は、認知症のスクリーニングテストとしてわが国で開発されたもので30点満点です。
 実際にHDS-Rを行ってみましょう。
 その前に、HDS-R実施にあたっての注意事項を、詳しく解説しているサイト(http://ninchisyoucareplus.com/plus/pdf/070421%E5%8A%A0%E8%97%A4%E6%8A%84%E9%8C%B2.pdf)がありますので、このサイトを開いて検査用紙(p13)をプリントアウトして下さい。
 質問は全部で9項目あります。

 1. 年齢(記憶)
 2. 時間の見当識
 3. 場所の見当識
 4. 3単語の即時再生(記銘)
 5. 引き算(計算力と注意力)
 6. 数字の逆唱(記憶と注意力)
 7. 3単語の遅延再生(想起)
 8. 5物品想起
 9. 野菜の名前(言語の流暢性)

 質問1の年齢に関する質問に関しては、2年までの誤差は正解とします。
 実はこの質問だけでも、アルツハイマー病かな?と疑わせるような回答内容があります。それは、例えば「大正13年生まれやから、何歳なのか先生考えたら分かるでしょう」というような回答をした場合です。自分の年齢は忘れてしまっても、生年月日は何度も繰り返し刻み込まれた記憶ですので覚えており、その場を取り繕うため、上記のような返事をするのです。

 さてHDS-Rの結果判定に際して、鍵を握る設問の一つが質問7です。
 質問4で覚えてもらった三つの言葉を、もう一度言ってもらうものです。これは遅延再生(Delayed Recall)の障害をチェックするものです。アルツハイマー病患者さんでは遅延再生が顕著に障害されますので、他の設問に正答してもこの設問だけが回答できないというケースも多く、初期のアルツハイマー病を見逃さないために最も注目すべき項目です。

 質問8の実施にあたっては、事前に相互に関係のない5つの物品を用意し隠しておく必要があります。例えば、以下のものをご用意下さい。
 時計 歯ブラシ スプーン 鍵 鉛筆

 質問9は、「知っている野菜の名前をできるだけ多く言って下さい。」という設問です。いくつ言えましたか? 採点上の注意点として、野菜の名前が重複した場合は、採点に加えません。途中で詰り約10秒待っても出ない場合はそこでテストは終了します。採点は5個までは0点で、以後6個=1点、7個=2点、8個=3点、9個=4点、10個=5点となります。この設問は、「言葉の流暢性」をチェックしております。
 前頭葉の機能が低下してくると、野菜の名前がスラスラと出てこなくなります。

 HDS-Rは30点満点であり、20点以下は「認知症の疑い」と判定されます。
 では21点以上獲得できれば認知症の心配はないのでしょうか? 私自身の経験では、初期アルツハイマー病の患者さんで初回のHDS-Rが27点であった方を経験しております。検査の点数には教育歴(学校等で学んだ年数)なども影響しますので、21/20点というラインで杓子定規に判定することはできないのです。
 また逆に、20点以下ならば安易に「認知症の疑い」と判断することも慎む必要があります。八千代病院(愛知県安城市)神経内科部長の川畑信也医師は、「著者が開設している『物忘れ外来』で健常者と診断された161人のHDS-Rの得点分布をみると、30歳代から50歳代までの年齢層では全員が21点以上を獲得しているが、60歳代では10.0%、認知症の好発年齢となる70歳代では16.3%、80歳代では14.3%が20点以下であった。」(一部改変)と報告し(川畑信也:物忘れ外来ハンドブック─アルツハイマー病の診断・治療・介護─ 中外医学社, 東京, 2006, pp70-73)、HDS-Rの結果を解釈する際に留意すべき点であると指摘しています。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第14回『認知症の診断─素人判断は難しい』(2012年12月28日公開)
 素人判断は、難しいわけですね?

 はい! 確かに、素人判断は危険です!!
 ですから、物忘れが気になるおじいちゃん・おばあちゃんに対してテストを実施してみることは構いませんが、あくまでも一つの目安として捉えて下さいね。

 医療機関においては、認知症が疑わしい状況であるならば、認知機能検査を1回きりで終わらせるのではなく、時間を置いて再検査します。
 それは、アルツハイマー病では、HDS-Rが年間2.5点悪化し、MMSEでは病期全期間で年間に2.2点(ただし、軽度~中等度の時期では、年間3.4点)悪化していくことが知られているからです。進行の有無をきちんと確認することは、アルツハイマー病であるかどうか正しく判定する上で欠かせません。

 得点による重症度分類は行わない(http://ninchisyoucareplus.com/plus/pdf/070421%E5%8A%A0%E8%97%A4%E6%8A%84%E9%8C%B2.pdf)ことになっております。しかしながら、各重症度別のHDS-R平均得点の目安も報告されています。
 非認知症: 24.27±3.91
 軽度  : 19.10±5.04
 中等度 : 15.43±3.68
 やや高度: 10.73±5.40
 非常に高度: 4.04±2.62

 大まかな目安として、中等度の認知機能低下(HDS-R≧16点)やや高度の認知機能低下(15≧HDS-R>10点)高度の認知機能低下(10点≧HDS-R)と覚えておいて下さい。
 なお、認知機能検査が何点以下なら「意思能力の欠如」という明確な規定を定めることは困難です。それは、検査の点数には教育歴などが影響しますし、問題となる法律行為(意思表示)の内容によって、必要とされる意思能力は異なるという背景があるからです。

 MMSEは30点満点の認知機能検査で、目安として、9点以下は高度アルツハイマー病、10~19点が中等度アルツハイマー病、20~23点が軽度(初期)アルツハイマー病、24点以上は軽度認知障害(MCI)ないし正常と判定されます。
 すなわち、30点満点を獲得してもMCIと評価される場合もあり得るということになります。

 リバーミード行動記憶検査(日本版/RBMT)は、国際的にも評価の高い記憶障害の判定・診断のための検査です。
 特徴は、単語を覚えるなどの机上のテストではなく、日常生活をシミュレーションして、記憶を使っている場面場面を想定して検査することです。
 RBMTには、標準プロフィール点とスクリーニング点という2つの指標があり、検査の所要時間は約30分です。
 標準プロフィール点(24点満点、22点以上は正常)は、日常生活上の行動の把握や治療効果などを評価できます。数点しか獲得できない場合には新しい情報の学習はかなり困難であり、病棟内では迷子となる危険性があります。訓練スケジュールを記憶しているレベルは、10点以上とされています。
 スクリーニング点(12点満点)は、全般的な記憶機能の指標となります。
 アルツハイマー病の前段階とされる軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment;MCI)では、標準プロフィール点が15点以下、スクリーニング点が5点以下となることが多いです。
 アルツハイマー病では、標準プロフィール点が5点以下、スクリーニング点が1点以下まで低下してきます。

 私の検討した結果では、HDS-Rが26点辺りまで低下してきますと、RBMTが基準点以下に低下していることが多く、「初期アルツハイマー病」と診断される可能性が出てきます
 認知症が専門ではない医師の場合には、HDS-Rが26点も獲得できればそれだけで「異常なし」と判断してしまい、精密検査を実施しないことも多いですので診断医の力量には留意する必要があります。

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 MMSE(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%83%8B%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%AB%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%BC%E3%83%88%E6%A4%9C%E6%9F%BB)における3単語(「桜」・「猫」・「電車」)の想起について:
 「直後再生は主に注意課題遅延再生は記憶課題である。」(吉益晴夫:神経心理学的検査. 日本医師会雑誌・生涯教育シリーズ85 神経・精神疾患診療マニュアル Vol.142・特別号(2) S58-59 2013)
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