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DLBのSPECT所見を読影する際の注意点 [レビー小体型認知症]

認知症の語り.jpg
語り 021

 床を虫がつっつっつーと歩いているのを見て、「あれ、こんなところに虫がいる」って思いました。数秒間なんですけれども、虫が歩いてぱっと止まったときに、それが綿くずだったんですね。それを見たときに、「これは目の錯覚でも何でもない。これこそが幻視なんだ」と思いました。そのとき、ほんとに血の気が引くというか、……冷汗は出ませんでしたけれども、とんでもないことになったと思いました。
 で、病院に行かなければいけないと思いました。ただ、誤診が多いということなので、誤診されたらたまらないと思いまして、調べました。で、この先生なら大丈夫だろう、というところに、かなり遠かったんですけれども、行きました。
 そこで、脳血流の検査、MRIとMGBI〔MIBGのこと〕だったっけ、心筋シンチグラフィの検査をしまして、あと、血の検査とか、血圧の検査とかしました。で、結局、画像には出ませんでした。MRI正常。ま、レビーではそれが当たり前なんですけれども。で、脳血流は、レビーでは後頭葉が血流低化すると言うんですけれども、私の場合は前頭葉が血流低下しているって。「これは、うつ病でよくあるものです」って言われました。心筋シンチグラフィは9割の精度でわかるということなんですけども、……レビーは心臓が(黒く)写らないんですけども、私は写ったんですね〔p.60参照〕。
 知能検査は、計算を全部間違いました。100引く7っていうやつですね。100引く7、はい、また7引いて、7引いてって、それを私は全部間違えたようで……。自分ではわからなかったんですけども、「認知機能の低下があります」と言われました。「何を間違ったんですか」って聞きましたら、「計算が違っていました」って。
 で、「画像で出ないので、診断できません。診断できませんから、治療もできません」と言われました。
 早期発見・早期治療が、残された唯一の希望だと思っていましたので、「治療しない」と言われて、……何か、こう、命綱が目の前で、ぷつんと切られたと感じまして、……ほんとに、私の真後ろに死神が立っていて、今にも鎌を振り下ろしそうなので、「何とかしてください」って言いに行ったのに、「鎌を振り下ろして、けがをしたら来てください」って言われたような……、そういう感じがしましたね。
                    本人11(プロフィール:p.613)
 【認知症の語り─本人と家族による200のエピソード. 健康と病いの語りディペックス・ジャパン, 東京, 2016, pp57-59】

私の感想
 福井俊哉先生が著書『症例から学ぶ戦略的認知症診断』の中で、DLBのSPECT所見を読影する際の注意点について言及しております。
 たいへん重要な視点を述べておられますので以下に抜粋してご紹介致します。

 DLBの診断基準の支持的症状の一つとして,「SPECT上の後頭葉の機能低下を伴った全体的な取り込み低下」がある.これはあくまでも,DLBとADを比較した場合の所見であることに注意を要する.DLBをADと比較した場合には,後頭葉[Lobotesisら2001,Pasquierら2002,Rossiら2009]または頭頂後頭葉[Collobyら2002]における取り込み低下がDLBにてより高度である.しかし,この点が強調され過ぎ,後頭葉取り込み低下を示さない症例はDLBにあらずといった極論すら見聞するが,これは大きな誤解である.後頭葉取り込み低下所見のDLBとADの鑑別診断に対する感度は60~70%[Lobotesisら2001,Pasquierら2002],特異度は87%[Lobotesisら2001]程度である.さらに後頭葉における取り込み低下を呈するDLB症例は7割弱[Tatenoら2008]に過ぎない.一方,DLBやPDDを正常コントロールと比べた場合は,後頭葉には有意な取り込み低下は見られず,頭頂後頭葉,頭頂葉,前頭葉,視床などが主たる取り込み低下部位である[Rossiら2009,Changら2008].側頭葉の取り込みはPDよりもDLBで有意に低値である[Changら2008].したがって,健常人を正常コントロールとするSPECT統計ソフト(easy Z-score Imaging System(eZIS),Voxel-Based Stereotactic Extraction Estimation(vBSEE)をDLB症例に応用する場合には,後頭葉ではなく,頭頂後頭葉,前頭葉,側頭葉にて取り込み低下が見られることがDLBの特徴であることを念頭に置くべきである.後頭葉取り込み低下はDLB診断基準の支持的症状ではあるが,その意味合いは「DLBとADの鑑別上重要な所見である」というもので,DLBを正常対象や非AD認知症疾患と対比した場合の所見ではないことに注意を喚起したい.
 …(中略)…
DLBの血流低下部位.jpg
 図10はDLB19例全例における,検討脳部位における取り込み変化を示したものである.Y軸はこのextensionとseverityの積であるが,マイナス方向は取り込み低下,プラス方向は相対的な取り込み増加を示す.相対的な取り込み増加とは,当該脳部位の取り込み低下が全脳の取り込み低下の平均値よりも軽度であることを意味し,必ずしも実際に取り込みが亢進していることを示すのではない.
 取り込み低下は主に前頭葉と頭頂葉にてみられた.後頭葉ではむしろ相対的な取り込み増加が見られた.これは,DLBを正常コントロールと比較した場合,前頭葉,頭頂葉,前部帯状回,楔前部の取り込み低下が重要であるとの見解[Rossiら2009,Changら2008]を支持するものであった.この結果から,正常例を対照とするeZIS/VbSEE処理のSPECT所見を用いてDLB診断を行う際,後頭葉に単独の取り込み低下を認めなくてもDLBは必ずしも否定できないことが理解できよう.
 【福井俊哉:症例から学ぶ戦略的認知症診断 南山堂発行, 東京, 2011, pp234-238】

DLBのSPECT.jpg
 本例のように,CDT(Clock Drawing Test)などの視空間認知課題の障害が全般性認知レベルに比べて不釣り合いに高度であることがDLBの診断に結びつくことが少なくない.SPECTを用いてCDT障害と高度・軽度DLBの関係を比較した検討[Nagahamaら2008]によると,CDT高度障害DLBにおいて両側前頭葉眼球運動領域,補足運動野,被殻,視床の取り込みが有意に低かった.したがって,DLBでは前頭葉線条体障害が視空間認知に関わる注意/覚醒障害を生じる結果,視空間認知障害が顕著になると推測されている[Nagahamaら2008]
 【福井俊哉:症例から学ぶ戦略的認知症診断 南山堂発行, 東京, 2011, p229-234】

P.S.
[Nagahamaら2008]
 Nagahama Y, et al.:Cerebral substrates related to impaired performance in the clock-drawing test in dementia with Lewy bodies. Dement Geriatr Cogn Disord, 25:524-530 2008.
 Abstractは以下サイトにてお読み頂けます。
 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18477845

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