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認知症を巡るほとんどは『人災』 レビー小体型認知症 樋口直美さん ルポ 希望の人びと ここまできた認知症の当事者発信 えにしの会 [レビー小体型認知症]

「医師は、精神科に体験入院して」 当事者が提案
 「認知症を巡るほとんどは『人災』」/本人著作が受賞

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 認知症の当事者の発言はいろいろな場面で注目されてきた。15年の日本医学ジャーナリスト協会賞優秀賞を2人の認知症の本人が受賞した。6、7章で書いた佐藤雅彦さんと、もう1人が樋口直美さんだ(62年生まれ)。
 30代から幻視を見た樋口さんは、13年、50歳でレビー小体型認知症と診断されるまで、41歳でうつ病と誤診されて重い薬物治療の副作用に約6年間苦しんだ、という。その体験と復活を『私の脳で起こったこと レビー小体型認知症からの復活』に綴った。
 樋口さんは医師から「レビー小体型認知症」と告げられ、「進行を遅らせるためにできることは?」と尋ねると「ないんですよ」と言われた。本には「急激に進行し余命8年」。一時は真剣に自殺も考えた。その後、信頼できる医師や同世代の仲間と出会い、適切な治療と努力、数々の出会いのたまもので、進行を食い止められている。だが嗅覚や時間の感覚をほぼ失い、自律神経障害などのつらさも抱えている(発言は樋口さんの公式サイトやディペックス・ジャパンのサイトなどでも見られる)。
 「認知症を巡る問題のほとんどは、人災」だと語る。病気そのものの症状ではなく「人災」。
 …(中略)…
樋口直美さん-えにしの会.jpg
 東京のプレスセンターで開かれた受賞記念のシンポジウムでは、自分でつくったスライドを映し出した。思わず見入った。

最大の問題は医療
・認知症権威による「認知症」の説明が偏見をつくってきた
医師が書く医療情報で、診断された本人と家族が絶望
誤診の多さ 知識のなさ 診断を変えない 減薬しない
診断後の精神的・社会的サポートのなさ
・薬の副作用による悪化(薬剤性せん妄)
・精神科病院への入院は、誰のために必要なのか?

 どれも厳しい。樋口さんの身も心もえぐられるような体験から生まれた言葉だ。医療への願いであり、私たちへの問いかけでもある。なかでも、「入院は、誰のために必要なのか?」の問いは、まったく同感だ。そして、「医療情報で、診断された本人と家族が絶望」は、情報を伝える身として胸に突き刺さる。
 【生井久美子:ルポ・希望の人びと. 朝日新聞出版, 東京, 2017, pp223-226】

私の感想
 このスライドに書かれた文章を読んで、「そうじゃない」と反論したいと考える医師も多いかも知れませんね。
 私なりにこの部分について思いを述べてみたいと思います。

認知症権威による「認知症」の説明が偏見をつくってきた

 病気に関して調べる際には、何度も言ってきましたようにメルクマニュアルがとっても有益です。
 http://www.msdmanuals.com/ja-jp/ホーム
 ではそのメルクマニュアルには「アルツハイマー病の進行」についてどう記述されているのでしょうか。
 http://www.msdmanuals.com/ja-jp/ホーム/09-脳、脊髄、神経の病気/せん妄と認知症/認知症
 アルツハイマー病の予後.JPG
 =「アルツハイマー病の症状は、他の認知症の症状と同様です( 認知症 : 症状を参照)。具体的には、記憶の喪失、人格の変化、言語の使用や日常的な作業の障害、見当識障害、破壊的な行動などが挙げられます。症状は徐々に進行するため、多くの患者は、しばらくの間、発症前に楽しんでいたことの大半を変わらず楽しめます。
 …(中略)…
 最終的には、歩行や身の周りのことも一人ではできなくなります。失禁するようになったり、飲み込む、食べる、しゃべるなどの行為ができなくなったりします。こうした変化により、低栄養、肺炎および床ずれのリスクが高くなります。記憶は完全に失われます。最後には、(多くの場合、感染症により)昏睡と死に至ります。
 進行の予測は不可能です。診断後の平均的な生存期間は7年間ですが、アルツハイマー病があり、歩けなくなくなると、ほとんどの場合は6カ月以内に死に至ります。しかし、生存期間には大きな個人差があります。」

 「歩けなくなくなると、ほとんどの場合は6カ月以内に死に至ります」と記載してありますが、経腸栄養を実施すれば私が紹介しているアルツハイマー病の事例(https://www.facebook.com/atsushi.kasama.9/posts/587799344723082)のようにもうすぐ7年を迎えるという事例もありますからね。

医師が書く医療情報で、診断された本人と家族が絶望

 これは、主としてレビー小体型認知症の進行に関する指摘なんでしょうね。
 先程のメルクマニュアルには、レビー小体型認知症の予後についてどう記載されているのか見てみましょう。
 http://www.msdmanuals.com/ja-jp/ホーム/09-脳、脊髄、神経の病気/せん妄と認知症/認知症#v737838_ja
 レビー小体型認知症の予後.JPG
 =「症状が現れてからの平均的な生存期間は約6~12年間です。
 …(中略)…
 治療では、すべての認知症の場合と同様に、安全と支援を提供するための一般的な対策が講じられます(認知症 : 治療を参照)。レビー小体型認知症に対する具体的な治療法はありませんが、アルツハイマー病の治療薬(特にリバスチグミン)が有用な場合があります。パーキンソン病の治療薬は、パーキンソン病の症状を軽減しますが、錯乱、幻覚、妄想などを悪化させることがあります。抗精神病薬はできるだけ使用しません。」

 進行しない事例があることには触れられておりませんね。
 「DLBを含むレビー小体病の初発病変の局在や、その後の進行形式・速度には大きなバリエーションがあり、さらに症状が出現した後、進行していく場合ばかりでなく、進行していかない場合もあります。現在われわれの知っているDLBは氷山の一角であり、自然経過のバリエーションがわかってくるのはもう少し先ではないかと思っています。」(山田正仁 他:座談会─認知症の早期発見・薬物治療・生活上の障害への対策. Geriatric Medicine Vol.50 977-985 2012)

誤診の多さ 知識のなさ 診断を変えない 減薬しない

 私自身も、レビー小体型認知症(DLB)なのにアルツハイマー病(AD)と誤診していた事例(https://www.facebook.com/atsushi.kasama.9/posts/719022474934101)をごく最近ご紹介しましたね。
 医師のプライドが、診断名を変えないことの主因なんでしょうね。
 樋口直美さんのレビー小体型認知症に関する知識、認知症専門医とほぼ同じレベルだと思っています。患者さんって、徹底して自分自身の病気のことを調べますのでそのレベルまで到達される方は居るんですよね。
 そのためには、確かな医学情報を流しているサイトなどからの知識の吸収が手っ取り早いと思います。私も少しでもそうしたことで寄与できればと考えております。

 減薬の問題は、アリセプトによるパーキンソニズムなどで何度かご紹介してきましたね。
 「DLBのパーキンソン症状に対する治療とケア」
 https://www.facebook.com/atsushi.kasama.9/posts/665994963570186
 =Hoehn &Yahr 重症度0~Ⅱ度におけるドネペジル3mgでのパーキンソン症状発現率:3/23=13.0%(プラセボ群では、0/43=0%)

診断後の精神的・社会的サポートのなさ

 徐々にサポートを拡げていくことが大切ですね。
 以下のサイト、素晴らしい内容が記載してありますのでご一読くださいね。
 「当事者・家族と医療・ケアを提供する側の双方がDLB当事者を支援するネットワークが大分で発足」
 https://www.facebook.com/atsushi.kasama.9/posts/654368751399474

 私も「『早期発見 → 告知が早期絶望とならないように!』 Ver.3(2017.2.12)」を更にバージョンアップしていきたいと考えております。
 https://drive.google.com/file/d/0B-gBQ1xrZ5fhSXhrVERqSjBWUnM/view
 https://www.facebook.com/atsushi.kasama.9/posts/719886698181012 

薬の副作用による悪化(薬剤性せん妄)

 レビー小体型認知症(DLB)の診断基準の示唆的特徴の一つとして抗精神病薬に対する薬剤過敏性があげられておりますね。何と、53.3%
 抗精神病薬以外にも、「抗コリン薬および抗コリン作用を有する薬剤に対してもたいへん過敏であり、それらの投与は避けるべき」(森 悦郎:レビー小体型認知症の臨床―レビー小体型認知症の薬物療法. 精神科 Vol.29 32-37 2016)と指摘されております。
 具体例を挙げれば、DLBの53.3%においてAP(Antipsychotics:抗精神病薬)に対する薬剤過敏(https://www.facebook.com/atsushi.kasama.9/posts/666955796807436)があるのでしたね。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15889951
RESULTS:
 Severe NSR(Severe neuroleptic sensitivity reaction) only occurred in patients with Lewy body disease: DLB (8 [53%]), PDD (14 [39%]), and PD (7 [27%]), but did not occur in Alzheimer's disease (p=0.006).
 =8/15:があるとは!!

 ただ皆さん、信じられないかも知れませんが、たかが風邪薬でもせん妄が起きることはあるんですよ。私もPL配合顆粒Ⓡ(総合感冒薬)でせん妄に至ったDLBの事例を複数経験しております。
 その理由は、PL配合顆粒には抗ヒスタミン薬が配合されているため、緑内障、前立腺肥大などに禁忌となっているのですが、成分の一つであるプロメタジンメチレンジサリチル酸塩は抗コリン作用も有しているからなんです。

精神科病院への入院は、誰のために必要なのか?

 2013年1月29日に東京都内で開催された「認知症国家戦略に関する国際政策シンポジウム」(主催:東京都医学総合研究所)においては、精神科病院への入院に関する報告もなされましたね。
 以下にその記事をご紹介します。
 「先日東京で開かれた認知症政策に関する国際会議でも、『向精神薬(メモ2参照)を減らす』(イギリス)、『精神科への転科・転院は1%と少ない』(フランス)、『認知症の人の入院はない』(オランダ)、『行動心理症状を持つ人の精神科による治療はほとんど外来での治療』(デンマーク)、『精神科病院への入院を防ぐ』(オーストラリア)という報告が相次いだ。」(2013年3月15日付朝日新聞・オピニオン─中村秀一の現場から考える社会保障)

 『精神科病院への入院を防ぐ』という取り組みは、福井県では実践されておりましたね。
 石川県立高松病院副院長の北村立医師が書かれた論文(一部改変)を以下にご紹介します。
 「在宅や介護老人施設などで対応困難なBPSDが発生した場合、可及的速やかに対応でき、かつ人権擁護の観点から法律的な裏づけがあるのは精神科病院しかないと思われる。したがってBPSDの救急対応も精神科病院の大きな役割として強調されるべきである。
 石川県立高松病院ではBPSDに対する救急・急性期治療の重要性を認識し、早くからそれを実践してきている。具体的には認知症医療においても365日24時間の入院体制を合言葉に、『必要なときに即入院できる』体制を作り上げてきた。
 さて、今後爆発的な増加が予想される認知症の人をできるかぎり地域でみていくためには、BPSDの24時間の対応体制の整備が必要なのは明らかであるが、わが国にはそのような報告は筆者らの知る限りない。
 当院のような365日24時間受け入れ可能な精神科専門医療機関が地域にあれば、多少重症のケースであっても、介護老人施設でぎりぎりまで対応できる可能性が示されている。施設が困ったときにただちに対応すれば信頼が得られ、状態が安定すれば短期間で元の施設に受け入れてもらうことが可能となり、専門病院と介護老人施設の連携がスムーズとなる。
 成人の精神科医療と同様、高齢者に認められる急性一過性の激しい精神症状は、適切に対応すれば容易に消退するものであり、これこそが精神科における認知症急性期医療の重要性を示すものである。また、筆者らの臨床経験からいえば、家族の心配や介護負担感を増やさないようにするには、初診時から365日24時間いつでも受け入れることをあらかじめ保証することが重要である。家族が困ったときにすぐ対応すれば、介護者は余裕をもって介護に当たることが可能であり、近年問題となっている介護者のメンタルヘルスを保つうえでもきわめて有益と考える。」(北村 立 他:石川県立高松病院における認知症高齢者の時間外入院について. 老年精神医学雑誌 Vol.23 1246-1251 2012)

 2013年6月15日に放送されましたNHK・Eテレ/チョイスでは、「もし認知症とわかったら」(http://www.nhk.or.jp/kenko/choice/archives/2013/06/0615.html)に関連するチョイスがいくつか示されました。
 私が一番印象に残ったのが、若狭町福祉課地域包括支援センターの髙島久美子さんらが取り組んでいる試みです。
 髙島さんは、若狭町に住む65歳以上の人を年1回訪ねており、戸別訪問により認知症の早期発見に努めております。さらに、家族だけではなくご近所の方に対しても認知症ケアについてアドバイスし、認知症の行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia;BPSD)を未然に防止することに精力的に取り組まれておりました。
 若狭町では、これらの取り組みによって、認知症患者の入院数(平成24年人口比)が福井県の周辺自治体の約5分の1であったという成果をあげているそうです(嶺南認知症疾患医療センター調べ)。
 町ぐるみで認知症対策に取り組むことにより、BPSDを未然に防止し精神科病院への入院を減らした具体的な事例と言えます。

P.S.
 上野秀樹医師の記事もご参考に。
 「精神科病院を考える・下─根強い 入院中心の文化」
 https://www.facebook.com/atsushi.kasama.9/posts/718834371619578

賢い医者のかかり方①─診療明細書 [医療情報公開]

賢い医者のかかり方① ─ 「一物一価」でない理由知ろう

 医療機関で払う医療費に「あれっ?」と思ったことはありませんか。支払いの根拠などは、患者にはわかりにくいものです。立ち止まって、整理して考えてみることが、賢い患者への一歩になるかもしれません。
 
金太郎(かねたろう)
 隣のおじさんが高血圧で倒れて病院に運ばれたんだけど、いい薬のおかげで退院できたって。いまの通院も、入院していた病院じゃなくて、近所の診療所でよくなったんだ。
得子(とくこ)
 よかったわね。

 それがいいことばかりじゃないらしいんだ。

 どうして?

 入院した病院に通院していた頃は、1回の診察で払うのは500円でおつりが来た。なのに、近所の診療所だと、2480円も請求されるんだって。診療内容は同じなのに。

 いいところに気づいたわね。医療費って「一物一価」と思われているけど、医療機関の規模などで異なる場合が多いの。
 高血圧のような生活習慣病は、食事や運動といった生活全般を見直す必要があるでしょ。指導にかかる費用を、月1回の診療で「生活習慣病管理料」として検査や其の処方とまとめて定額請求する方式があるの。お隣さんはこれね。診療所だけが使えて、大病院にはこうした上乗せはないの。

 そうなんだ。

 多くの診療所は「高額だと患者が離れる」と、慢性疾患に適用される「特定疾患療養管理料」の上乗せにとどめていると聞くわ。この上乗せはベッド数200床未満の中小病院も使える。検査などは別料金だけれど、こっちの「管理料」なら安いからよ。

 結局、大病院を受診した方が得ってこと?

 そう言うつもりはないわ。「医療の機能分化」ってわかる? 大病院は救急や重症者に専念し、比較的安定した患者は、診療所などが受け持つという考え方。同じ診療行為でも値段に差がつけられているのは、それを促すためよ。
 紹介状なしで大学病院などの特定機能病院や500床以上の地域医療支援病院を受診すると、初診料のほかに最低5千円払うようになったのも同じ理由から。

 聞いた覚えがある。

 私はこう割り切ることにしているの。近所に普段から相談できる、ちゃんとしたかかりつけ医を持てば、いざというとき、必要に応じた大病院につないでもらえる。割高に見える医療費は、そのための「保険」のようなものだと。

 なるほどね。

 取材協力・山口育子さん(ささえあい医療人権センターCOML理事長)
 (構成・鈴木淑子)=全5回
 【2017年2月4日付朝日新聞・知っ得なっ得】

私の感想
 (大半の病院で)診療明細書の無料発行が義務付けられたのは2010年4月です。
 私はこの制度にも猛反発しましたね。
 なぜだか分かりますか?
 明細書には「病名」が書いてあるんですよ。
 しかし、認知症の告知は進んでなかった! なので、「告知されていない本人が読んだらビックリするからもっとじっくり議論して!」って反対してたんです。
 2010年3月10日に中日新聞(http://iryou.chunichi.co.jp/article/detail/20100310142018071)が取りあげてくれました際に私は以下のような私見を述べています。
 診療明細書20100310.jpg
 「笠間さんは『明細書発行の義務化を、開かれた医療に結び付けたい』と話している。」
 「診療明細書は受診した際、領収書よりも細かく医療費の内訳が記される。患者が請求ミスを知る端緒にもなりうるが、専門的で一般の患者が判読するのは難しい」から、それを読み解くための解説書を作成して外来窓口に置いたんですね。
 診療明細書解説パンフレットp1.jpg
 診療明細書解説パンフレットp2.jpg  

P.S.
 私が榊原白鳳病院に就職したのは2010.1.16日です(7年が過ぎましたね)。赴任して最初に取り組んだ課題は認知症ではなく、私のもう一つの生涯テーマである「医療情報公開」絡みだったんですよー。

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