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認知症と自動車運転 [認知症と自動車運転]

認知症と自動車運転
 以前、この問題についてご紹介しました。
 http://akasama.blog.so-net.ne.jp/2016-02-10-2

 本日の中日新聞(http://akasama.blog.so-net.ne.jp/2016-04-27)で軽度認知障害の話題が取り上げられ、自動車運転の可否に関する問い合わせも榊原白鳳病院の方に入っておりますので、自動車運転と絡む部分の問題点を整理しておきましょう。

 警察庁は、平成27年参議院内閣委員会において、CDR(臨床認知症評価法)1の評価結果については、免許の拒否、取消しに該当すると答弁しています。
 http://www.hcd-japan.com/drive/2016ninchishou.htm
 従いまして、CDR0.5に該当する軽度認知障害(MCI)に関しては、「免許の取り消し」には該当しません
 ただし、以下に留意する必要があります。
 
軽度認知障害(MCI)への対応
 認知症ではないが認知機能の低下がみられ今後認知症となるおそれがある場合医師が「軽度の認知機能の低下が認められる」「境界状態にある」「認知症の疑いがある」等の診断を行った場合には、その後認知症となる可能性があることから、6ヵ月後に臨時適性検査を行うこととする。なお、医師の診断結果を踏まえて、より長い期間や短い期間を定めることも可能である。(ただし、長期の場合は最長1年とする。
警察庁通達「一定の病気等に係る運転免許関係事務に関する運用上の留意事項について」(H27/8/3より)
 このように、軽度認知障害の場合の臨時適性検査では、免許は有効のまま、6ヵ月後の再検査となる可能性があります。

CDR0.5
 認知症疑い,もしくは軽度認知障害(MCI)。軽い物忘れがあり,それが毎週,もしくは毎月のように,一貫して認められる。“家族で旅行に行った”などの「出来事の枠組み」は保たれており,旅行に行ったこと自体を忘れるわけではない。したがって,生活に支障をきたすほどではない。自分で物忘れを自覚しているとは限らないが,家族に物忘れを指摘されて,憂うつになっていることもある。「年のせい」と思われていることがほとんどである。自分では,家電製品の使い方が不得手になったり,地域における行動範囲が狭くなったりする自覚がある。しかし,何とかひとりで生活することができる。
CDR1
 軽度認知症。物忘れがあり,「出来事の枠組み」が障害され,家族で旅行に行ったこと自体を忘れてしまう。「財布を嫁が盗った」などの物盗られ妄想や,話を作って取り繕うことがみられる場合もある。したがって,生活に支障をきたすほどの物忘れがある。今日の日付が不確かで,たまに道に迷うこともある。家庭生活は,明らかに以前に比べて低下しており,ひとりで生活することができない。地域の老人会にも,ひとりで参加することができない。しかし,久しぶりに会った遠い親戚には,異常を気づかれないこともある。家族に連れられて,物忘れ外来を受診するレベル。
 【目黒謙一:認知症早期発見のためのCDR判定ハンドブック. 医学書院, 東京, 2008, pp21-22】

P.S.
 少々古い論文にはなりますが、CLINICIAN Vol.53 no.548 2006年4月号(http://www.e-clinician.net/vol53/no548/)にも「認知症患者の自動車運転をどのように考えるべきですか」というタイトルの記述があり参考になると思いますのでご紹介しておきましょう。
 認知機能障害における自動車運転可否の厳重化には、「告知」問題も深く絡んでいるということを念頭に置いておく必要があります。

かかりつけ医のための認知症Q&A―問題となる認知症患者への対応
 http://www.e-clinician.net/vol53/no548/pdf/sp_548_04.pdf

Q:
 認知症患者の自動車運転をどのように考えるべきですか
A
 回答者:上村直人

はじめに
認知症患者の自動車運転の実態と問題点

主治医提出の運転能力に関する診断書について
 改正道交法第103条第1項の規定により公安委員会は表①に示すような診断書を主治医に対して提出させて免許更新の是非の判断を行う。すなわち、医師は何らかの形で患者の自動車運転能力の評価に関わるようになった。その診断書で記載に必要な事項の主な点は、病名、病歴、現在症、重症度などの医学的判断に加え、自動車の安全な運転に必要な認知、予測、判断、または操作に関する現時点での病状に関する意見と、現時点での病状を踏まえた今後の見通しについての意見を検討し、診断書に記載しなければならない。認知症患者の本診断書提出に医師が関わることの問題点について筆者はこれまでにも指摘したが、これまで認知症患者の運転能力について医学的に十分検討されているとはいえず、現在の病状についての評価は困難である。また今後の見通しについては認知症の場合は基本的に慢性進行性の疾患であるため、免許保留もしくは停止条件を満たすが、認知症の運転能力の予後予測とはなっていない。そのため、認知症患者に関する運転能力の診断書提出を求められた場合は運転能力よりも、認知症の現在の状態や重症度を詳細に記載することが現実的な対応といえる。さらなる課題は診断書提出後、公安委員会は警察庁の通達により、アルツハイマー病と血管性痴呆と診断された場合、免許停止と判断することになっている。つまり診断書では運転能力の評価を医師に求めながら、実際の免許停止などは病名で行われている。これらの問題点についてもまだまだ検討が必要であるが、現在最も懸念されることは、認知症から話題がそれてしまうが、このような運転免許行政に医師が関わるようになったこと自体をほとんどの臨床医が知らないことである。

認知症ドライバーに関する医学的ガイドラインと研究動向
 近年、認知症の自動車運転に関しては欧米を中心に医学的ガイドラインが作成され邦訳もされている。しかしながら表②に示すように神経学会と精神医学会でも内容は多少異なっている。
認知症患者の自動車運転.jpg
 例えば両者とも認知症の重症度評価であるClinical Dementia Rating(CDR)を判断基準としているが、医師の運転中断勧告はCDR1の軽度レベルか、CDR2の中等度レベルかでも対応が異なっている。またCDRでは評価しにくい前頭側頭葉変性症やレビー小体型認知症などではどのように運転能力を評価すべきかが今後の課題といえる。認知症患者の運転に関する研究面ではRegerらは認知症患者の運転能力の予測は、頭頂葉機能が最も優れているなどのメタアナリシスを報告しているが、O'Nellが指摘しているように運転の問題を医学的視点で行うこと自体が研究として注目されてこなかった歴史が、現在の対応の遅れを及ぼしているとも考えられるため、今後わが国でも症例の積み重ねが必要であろう。

現状と今後の課題:認知症ドライバーに対して今できることと今後の対策
 現時点では、認知症患者の運転免許をどのように考えるかの臨床的な指針やガイドラインは不十分であるといわざるをえない。その要因は、認知症と運転の関連性という問題が医学、免許行政、交通安全など多領域にまたがるため、それぞれの専門領域の連携と協力体制が十分構築されてこなかったことがある。しかしながら、これからも臨床家の目の前にはますます多くの運転免許を保持した認知症患者が現れ、運転についての判断を求められる機会が増えていく。そして、主治医やかかりつけ医が認知症を診断し、その告知を行い、運転免許を持っている患者に対して中断勧告を行えば、法的に医師はその役割りを終えるかもしれない。しかしながら告知を受け、運転を止めなければならないと宣告された患者本人や家族には運転を中断すると通院できない、生活必需品を購入できなくなる、都市部に引越しするかどうかなど、その後の生活を考えていかねばならない現実的な問題も残されている。すなわち、臨床医にとっては病気の告知などの説明、運転に関する注意義務を行ったあと、認知症の患者や家族の生活を支援し、指導していくガイドラインが必要不可欠である。そこで、まずかかりつけ医や臨床医が取り組むべき対応・方法として、①正確な認知症の診断・認知症の原因疾患を特定し、疾患自体の治療を検討する。②認知症の疾患特性と運転行動の評価を行い、その内容をカルテに記載しておく。③医学的生活指導の検討のため、認知症の告知について検討し、④その上で運転上問題が生じている場合は、免許センターへの高齢者適性相談を勧める。これは各都道府県に設置されており、専門の係官が相談窓口となっている。⑤運転適性検査の実施の検討:患者本人の同意が必要となるが、都道府県免許センターでは臨時適性検査など、実際にセンター内において実車テストを行い、専門官からの評価を受けることができる。

おわりに
 これまで本邦では、認知症患者の運転問題は医学的にも注目されてこなかった。しかし2002年の改正道交法施行後、主治医やかかりつけ医が何らかの形で関わらざるをえない状況になった。そのため、今後は認知症ドライバーの実証研究の積み重ねと、医学、警察、行政の連携や協力体制の構築が喫緊に必要である。 (高知大学医学部附属病院 神経科精神科)

文献
 (省略)
 【上村直人:認知症患者の自動車運転をどのように考えるべきですか. CLINICIAN Vol.53 no.548 2006年4月号 pp15-21】
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