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SED-11Q [アルツハイマー病]

朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第31回『認知症の代表的疾患─レビー小体型認知症 もの忘れを自覚することの多いレビー小体型』(2013年1月14日公開)

 もの忘れに関しても、DLBにおいては内省できることが多いことが報告されています。
 アルツハイマー病では、初期ですらもの忘れを自覚していないケースが多いです。一方、DLBでは、初期においてはもの忘れを自覚しているケースが多いのです。
 東京医科大学病院老年病科の羽生春夫教授は、疾患別の病識の有無について検討しており、「有意な認知機能障害を認めない老年者コントロールの病識低下度の平均+2標準偏差を超えるものを病識低下ありと定義すると、AD(アルツハイマー病)群の65%、MCI(軽度認知障害)群の34%、DLB(レビー小体型認知症)群の6%、VaD(血管性認知症)群の36%が該当し、AD群が最も多く、DLB群は最も少なかった。」(羽生春夫:老年期認知症患者の病識―生活健忘チェックリストを用い、介護者を対照とした研究―. 日本老年医学会雑誌 Vol.44 No.4 463-469 2007)と報告しております。

メモ:内省
 「記憶、見当識、思考、言葉や数の抽象化機能などは、日常生活を送っていく上でそれぞれがとても大切な機能である。しかし、暮らしのなかでは、これらの機能一つひとつがバラバラに役立っているわけではない。複数の知的道具あるいは要素的知能を組み合わせて使いこなす『何か』がなけれはならないはずである。それを知的主体あるいは知的『私』とよぶことにすると、そこに障害が及ぶのである。だから、認知症を病む人は、いろいろなことができなくなるという以上に、『私が壊れる!』と正しく感じとるのである。
 知的主体などという硬い言葉ではなく、もう少しうまい言葉が見つかればよいのだが、学者も苦労してこの『何か』を『内省能力』(ツット)、『本来の知能』(ヤスパース)、『知的人格』『知的スーパーバイザー』(室伏)などと名づけている。どれもが、個別の、記憶、見当識、言葉、数といった道具的、要素的知能を統括する、より上位の知的機能を何とか言い表そうと苦労しているのである。」(小澤 勲:認知症とは何か 岩波新書出版, 東京, 2005, pp141-143)

 認知症の介護においては、しばしばアパシー(自発性の低下・無関心)の存在が問題となります。
 アパシー(apathy)とは、無気力・無関心・無感動のため、周りがやるようにと促しても、本人は面倒だから、全然動こうとしないし気にもしない状態です。そして、このアパシーの存在ゆえに、認知症がうつ病と誤診されているケースもあります。
 なお、DLBでは、うつ病を有する頻度が比較的高いことも知られております。
 「Ballardら(1999)は病理診断されたDLB、AD各40例を比較し、DLBでは、初診時に幻視、幻聴、妄想、誤認妄想、うつ病を有する頻度がADに比べて高い」と報告しています(長濱康弘:レビー小体型認知症の臨床症候学と病態生理. Dementia Japan Vol.25 145-155 2011)。
 なおこの点に関して筑波大学臨床医学系精神医学の朝田隆教授は、「伝統的な精神科のうつに対する見方では、悲哀感、悲しみをもって『うつ』の本質とし、それに不安ややる気のなさを加えます。DLBの場合、精神科の伝統的なうつというよりは基本的にはアパシーです。周りは困っているが本人は何もしなくて当然とケロッとしているような患者さんが比較的多いですね。」と指摘しています(朝田 隆 et al:座談会─認知症の早期発見・薬物治療・生活上の障害への対策. Geriatric Medicine Vol.50 977-985 2012)。

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 2014年7月30日にホテルグリーンパーク津において開催されました第16回中勢認知症集談会特別講演会には、群馬大学大学院保健学研究科リハビリテーション学講座の山口晴保教授らが講師として来て下さいました。

 山口晴保先生は、「MCIとADの境界は、『病識の有無』だと思っています」と講演で述べられました。そして、SED-11Q(Symptoms of Early Dementia-11 Questionnaire)を用いた病識の評価に関する検討結果についてご紹介して下さいました。
判断基準
 医療機関においてはSED-11Qが11項目中3項目以上で認知症を強く疑い、地域の認知症スクリーニングでは11項目中4項目以上で受診を勧めるというのが目安だそうです。

SED-11Q【認知症初期症状11項目質問票】
①同じことを何回も話したり、尋ねたりする
②出来事の前後関係がわからなくなった
③服装などの身の回りに無頓着になった
④水道栓やドアを閉め忘れたり、後かたづけがきちんとできなくなった
⑤同時に二つの作業を行うと、一つを忘れる
⑥薬を管理してきちんと内服することができなくなった
⑦以前はてきぱきできた家事や作業に手間取るようになった
⑧計画を立てられなくなった
⑨複雑な話を理解できない
⑩興味が薄れ、意欲がなくなり、趣味活動などを止めてしまった
⑪前よりも怒りっぽくなったり、疑い深くなった

※上記の11項目に関して、ご本人は病識が欠如しているため「該当しない」にチェックを入れるものの家族はそれを感じているため「該当する」にチェックを入れ、その差がMCIにおいては乖離しないものの、軽度AD&中等度ADにおいては有意に乖離(p<0.001)しているそうです。
 そして、「その結果を介護者に見せて、本人の自覚が乏しいことを理解してもらい、叱らないように指導することでBPSDを予防しましょう」と講演会で配布されました資料には記載されておりました。
 詳細は論文をご参照下さい。
 Maki Y, Yamaguchi T, Yamaguchi H:Symptoms of Early Dementia-11 Questionnaire(SED-11Q): A brief informant-based screening for dementia. Dement Geriatr Cogn Disord Extra Vol.3 131-142 2013
 Maki Y, Yamaguchi T, Yamaguchi H:Evaluation of Anosognosia in Alzheimer's Disease Using the Symptoms of Early Dementia-11 Questionnaire(SED-11Q). Dement Geriatr Cogn Disord Extra Vol.3 351-359 2013

P.S.
MCI段階で留まっているのかADに進展したのかを判断する基準は、「生活自立能力」の有無!
 「生活自立能力」については、シリーズ第73回『軽度認知障害─軽度認知障害から認知症への進展』(http://apital.asahi.com/article/kasama/2013030600003.html)をご参照下さい。

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 認知症初期症状11項目質問票(SED-11Q)の評価用紙は山口晴保研究室のホームページ(http://www.orahoo.com/yamaguchi-h/)からダウンロード可能(山口晴保:認知症の本質を知り、リハビリテーションに活かす. MEDICAL REHABILITATION No.164 1-7 2013)。

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 「ところで、認知症の人には『自分は病気である』という自覚はあるのでしょうか?
 この『自分は病気だ』と自覚することを『病識』といいます。医師の中には、認知症の人には『病識がある』という人もいれば、『ない』という人もいます。
 私は『病識は低下している(一部ある)』という考えです。自分はどんな病気でどのような問題が生じているのかといった自覚は乏しくなっていますが、『何だかいつもと違う』という感覚はあると思っています。これを『病感』といいます。」(山口晴保:認知症にならない、負けない生き方 サンマーク出版, 東京, 2014, p53)

落とし穴課題(Pitfall task) [アルツハイマー病]

3-3 落とし穴課題(Pitfall task)

 1枚の画像を見せて、その画像の示す意味(状況)がわかるかどうかをチェックする課題です。
 https://www.facebook.com/photo.php?fbid=617800405056309&set=a.530169687152715.1073741826.100004790640447&type=3&theater

 図1-3に示すイラストを見せ、「何が起こっている?」と質問して、その全体像を捉えられるか(正解は「落とし穴」)、また「(人物を指しながら)真ん中の人は何をしている?」と質問して、登場人物の行動意図を読み取れるか(正解は「落とし穴に落ちるところを想像しながら隠れて見張っている」)という点から、認知症らしさを見抜く簡便な検査です。最初の質問で「落とし穴」と気づけたのは、健常者の65%、MCIの33%、軽度アルツハイマー型認知症の25%、中等度アルツハイマー型認知症の0%でした(文献)。中央の人物については「かくれんぼ」などと答え、右上部の人物については「バンザイ」などと答えるのが、アルツハイマー型認知症の特徴でした。
 【山口晴保:紙とペンでできる認知症診療術―笑顔の生活を支えよう 協同医書出版社, 東京, 2016 pp21-22】

私の感想
 行動意図は、共感できるかどうかをチェックするテストでしょうね。
 「こころの理論」を簡単にチェックしているようですね。

文献
 Yamaguchi T,Maki Y,Yamaguchi H:Pitfall Intention Explanation Task with Clue Questions(Pitfall task):assessment of comprehending other people's behavioral intentions in Alzheimer's disease.Int Psychogeriatr Vol24(12):1919-1926 2012

P.S.
社会的認知能力―人や社会との適切なかかわり
 社会において適切な行動をとり、ほかの人がどのように感じているかを読み取る能力を社会的認知能力social cognitionと呼ぶ。人の表情をみてその感情を読み取る(感情の認識recognition of emotions)、人のこころの動きの一般的なルール(こころの理論theory of mind)を理解する能力である。障害されると、社会から受け入れられる範囲を超えた不適切な態度をとることになり、友人や家族の反対を無視する行動や安全を無視した決断など、社会的な基準に適さない行動がみられる。
 認知症(DSM-5)では、社会から受け入れられる範囲を越えた態度をとる。衣服、政治、宗教、性的な会話などで皆に関心がない話題にこだわる、友人や家族の反対を無視する行動、安全を無視した決断(気候や社会的状況に不適切なもの)など、社会的な基準に鈍感な行動がみられる。
 軽度認知障害(DSM-5)では、行動や態度の微妙な変化、しばしばパーソナリティ変化とされるもの、たとえば社会的にしてはいけないことに気づくとか、ひとの表情をみて察するとかということが障害される。また、共感が乏しくなるとか、過度に内向き、外向きとなるとかといったことが、ときどきみられる。あるいは微妙なアパシーや不穏などもみられる。
 社会的認知能力は次のように評価される(DSM-5)。
●情動の認識recognition of emotions:
 強い情動を示している顔の絵をみてそれを理解する。
心の理論theory of mind:ひとのこころや経験の状況を推し量る能力。写真をみせて、このカバンをなくした女の子はどこを探したらよいか、とか、この男の子はどうして悲しんでいるのか? といった質問をする。
【三好功峰:認知症─正しい理解と診断技法 中山書店, 東京, 2014, pp35-36】


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