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「ひょっとして認知症?-PartⅠ」最終回・『100歳の美しい脳(その11)─たくさん本を読んで、手紙も書いて』 [認知症]

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朝日新聞社医療ブログ「ひょっとして認知症?-PartⅠ」・第530回『100歳の美しい脳(その11)─たくさん本を読んで、手紙も書いて』
 Katzmanによる研究データは、シリーズ第57回『高齢シスターの脳は明せきだった・その1』(https://aspara.asahi.com/blog/hyottoshite/entry/JjKHfMKucS)において紹介しておりますのでご参照下さい。
 大脳予備能(brain reserve)の話は、シリーズ第302回『確実に認知症を予防できる方法はまだない』(https://aspara.asahi.com/blog/hyottoshite/entry/I8zar41F6P)のコメント欄においてもご紹介しております。

 高教育歴がアルツハイマー病(AD)の症状発現に対する防御効果を有するということは、取りも直さず、高教育歴はADの「発症遅延」に関連するということになりますね。実際にそのような報告もされております(Roe CM et al:Cerebrospinal fluid biomarkers, education, brain volume, and future cognition. Arch Neurol Vol.68 1145-1151 2011)。この論文は、ネット上においても閲覧可能です(http://archneur.jamanetwork.com/article.aspx?volume=68&issue=9&page=1145)。
 このように、認知予備能力(cognitive reserve;CR)が高い人ではADの発症が遅れることになります。
 しかしながら、教育レベルや読み書きのレベルが高いと、いったんADになったときには進行が速いことが知られております。例えば、「若年発症、高教育歴、高血圧合併例では進行が速い」(Hirofumi Sakurai, Haruo Hanyu et al:Vascular risk factors and progression in Alzheimer's disease. Geriatrics and Gerontology International Vol.11 211-214 2011)という報告がされております。
 2012年7月12日に三重県津市で開催された認知症学術講演会において、東京医科大学病院老年病科の羽生春夫教授が上記報告に関するスライドを提示され、「高教育歴は発症を遅らせるが、発症した時点では既に病理病変はかなり進行しているため、いったん発症するとその進行は速い。」と説明されました。

 2012年8月3日付『やさしい医学リポート』(https://aspara.asahi.com/blog/medicalreport/entry/4643uO4k8J)において坪野吉孝先生は、「『生きる目的』が強い高齢者では、アルツハイマー病に特徴的な脳の病理学的変化が進んでいても、物忘れなどの認知機能の低下が少ない」ということが報告されている論文をご紹介されましたね。
 私もこの論文には強い関心を持ちました。「人生に大きな目標をもっている人は、目標の少ない人に比べて、認知力低下の速度が30%遅かった。」と記載されていたことがとても印象に残っています。
 シリーズ第58回『高齢シスターの脳は明せきだった(その2)』(https://aspara.asahi.com/blog/hyottoshite/entry/yqyuQaR6Sp)において私は、「生きがい尺度の高得点者は、低得点者よりもアルツハイマー病を発症せずにすむ可能性がおよそ2.4倍高かった」(Patricia AB et al:Effect of a Purpose in Life on Risk of Incident Alzheimer Disease and Mild Cognitive Impairment in Community-Dwelling Older Persons. Arch General Psychiatry Vol.67 304-310 2010)というデータもご紹介しております。この論文はウェブサイト(http://archpsyc.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=210648)において閲覧可能です。
 高齢者の生きがいを高めるために介入を加えることは、認知症予防にも繋がるわけですから、しっかりと取り組む必要がある課題ですね。

 群馬大学大学院保健学研究科の山口晴保教授は著書の中で、「教育歴」に関する重要な提言をされております。山口晴保教授の言葉を最後にご紹介して『ひょっとして認知症?』をひとまず閉じたいと思います。
 「教育歴については、いくつかの疫学研究で、教育歴が長いほど認知症リスクが低減することが知られています。例えば、中年期の肥満や高血圧のリスクを示したスウェーデンの疫学研究では、教育歴が1年長くなるごとに認知症のリスクが0.86倍と少し低くなることを示しています。ただ、例えば、教育歴が短いほど肥満の割合が高いとか、健康への配慮が少ないなど、背景にある別の因子が関与しているのかもしれません。教育歴は過去のことですから、こんなことを今さら言われても…となってしまいます。筆者の言いたいことは、教育歴の短い人ほどたくさん本を読んで下さい、手紙を書いて下さいということです。教育歴の長い方が認知症になりにくいのは、認知機能が比較的高いところから落ちていくので低くなるまでに時間がかかると解釈されます。はじめの位置が比較的低いほうにあると思われる方は、年々落ちていくスピードを緩める努力が必要です。それには、たくさん本を読んで知識を増やし、新しいことにどんどん挑戦して能力を伸ばすことが大切だと思います。」(認知症予防 ─読めば納得! 脳を守るライフスタイルの秘訣─ 協同医書出版社発行, 東京, 2010, p192)


人生、大きな目標が必要。
投稿者:きらきら星 投稿日時:12/09/19 10:49
 高い目的意識。
 誰もが、認知症にはなりたくないですよね。
 「発明」して、「特許」をとることを目標にしたいですね。
 一挙両得(笑)今、言い出したところです。

 今後、コメントは表示されなくなっても、先生には届くのでしょうか。
 それなら、いいですね。


Re:人生、大きな目標が必要
投稿者:笠間 睦 投稿日時:12/09/19 11:59
きらきら星さんへ
 小さな目標であっても、達成に向けて努力し続けるという気持ちが大切なんだと思います。
 私自身も、小さな目標を掲げて達成に向けて頑張っているつもりです。

> 今後、コメントは表示されなくなっても、先生には届くのでしょうか。

 この点に関してはよく分かりません。
 いずれにしても、今回のシリーズで『ひょっとして認知症? Part1』は終了しましたが、『ひょっとして認知症? Part2』がいずれ開始されますので、その時には活発なコメントをお待ちしております。


エンザイムBACE2
投稿者:フーニ 投稿日時:12/09/20 09:58
 話題が逸れますが、Mayo Clinic の研究者達はアルツハイマーに対するエンザイムBACE2を見付けたと今月17日に発表しました。
 BACE2はベータアミロイドを破壊すると言う事です。これでアルツハイマーの治療が出来る様に成ると良いですね。
 興味のある方はこれがリンクです。
 http://www.mayoclinic.org/news2012-jax/7087.html
 又は
 http://www.molecularneurodegeneration.com/content


Re:エンザイムBACE2
投稿者:笠間 睦 投稿日時:12/09/20 10:56
フーニさんへ
 専門的な情報ありがとうございました。

 「BACE」については今までこのブログでご紹介したことがありませんので、簡単に解説しておきます。
 アルツハイマー病の主原因とされるAβ(アミロイドβタンパク)は、アミノ酸が40~42個程度つながったペプチドであり、β及びγセクレターゼの働きによりアミロイドβ前駆体タンパク質(Amyloid beta protein precursor;APP)から切り出されます。
 APPの大部分は、αセクレターゼによって切断されアミロイドβタンパク産生に至りません。しかしながら、βセクレターゼ及びγセクレターゼによって切断されると37~43アミノ酸のAβが産生されます。
 βセクレターゼの代表は、BACE1(β-site APP-cleaving enzyme1)です。BACEに関する詳細は、ウェブサイト(http://www.tmig.or.jp/J_TMIG/genome300/BACE.html)などをご参照下さい。
 γセクレターゼ阻害剤・βセクレターゼ阻害剤という薬剤は、アルツハイマー病の根本的な治療、すなわち疾患修飾治療(disease-modifying therapy;DMT)の候補の1つとして期待されています。


いつもコメントをありがとうございました
投稿者:ミーたん 投稿日時:12/09/22 04:06
 お忙しいのに精力的にブログを更新され、いつも丁寧に応えていただき本当に頭が下がります。たくさんの事を教えていただきました。私自身半分認知症状態での2年半でしたが、脳に良い刺激を与えていただきました。笠間先生はいつお休みになられているのかと心配になってしまいますが、どうぞお体を大切になさって、これからもいろいろ貴重な情報を教えてください。
 誰か他の人の為に少しでも役に立ちたいと行動できる生き方が、結局は一番自分の為になっているのかもしれないと思うこのごろです。


Part2でもコメントをお待ちしております
投稿者:笠間 睦 投稿日時:12/09/22 07:21
ミーたんさんへ
 ミーたんさんからの初コメントは、第306回(ノセボ効果)でしたね。
 その後、「フェルラ酸」(第464回)、「命の期限を何をもって決めるのか?」(第468回)、「日本人の宗教観」(第494回)など印象的なご質問をいくつか頂きました。

 満足な回答になっていなかったかも知れませんが、私に分かる範囲で回答させて頂きました。
 『ひょっとして認知症? Part2』が開始されましたら、またコメントをお待ちしております。


小さな目標
投稿者:まるタン 投稿日時:12/09/22 10:24
笠間先生へ
 いつも必ず返信してくださる事を、なかば期待して(私の場合)
 拙いコメントにも丁寧に答えていただき本当に感謝感激です。

 ブログに出会ってから日常生活に大きな変化があっても冷静に対処することができるようになりました。
 まだまだこれからも続きそうですが、パート2を追いかけながら元気に、私なりの小さな目標にむけて愛犬とガンバリます。

 先生もお身体大事になるべく長~~くブログが続きますように・・と期待しております。
 ここまで、ありがとううございました。


Re:小さな目標
投稿者:笠間 睦 投稿日時:12/09/22 14:47
まるタンさんへ
 お彼岸でしたのでお墓参りに行っており返信が遅くなってしまいました。

 まるタンさんこそ、多くのコメントを頂き、ありがとうございました。
 Part1でのまるタンさんの総コメント数は、数えてみたら66回でした。間違いなくトップ3に入っているはずです。
 やはり「愛犬」「サッカー」という共通の話題に関心が強かったのが大きいのでしょうね。
 今は、Part2に向けての充電中です。

P.S
 時々「誤字」のある、あわてん坊のまるタンさんのコメントが何とも言えず暖かみがあり素敵に感じています。


また、パート2でお会いします。
投稿者:音とリズム 投稿日時:12/09/26 08:57
 パート1終了ご苦労様でした。パート2でもまたお世話になります。それまで、心身共にご自愛ください。
 まるタンさんも無理せずお元気でお過ごしください。


Re:また、パート2でお会いします
投稿者:笠間 睦 投稿日時:12/09/26 09:46
音とリズムさんへ
 パート1では多くのコメントをお寄せ頂きありがとうございました。
 パート2での再会を楽しみにしております。

 パート2では、「アメリカの認知症ケアの動向 認知症になり英語を忘れる」(タイトル未定)という原稿もご紹介する予定です。


愛着障害
投稿者:笠間 睦 投稿日時:12/09/26 09:54
 充電期間中ですので、久しぶりに、認知症とは無関係の本を読んでいます。
 今読んでいるのは、精神科医で作家の岡田尊司先生が書かれた『愛着障害』です。
 私が興味深く感じた記述をごく一部ご紹介しましょう。

 「新生児のときから、すでに愛着の形成は始まっているが、まだそれは原初的な段階にある。生後六か月くらいまでであれば、母親を少しずつ見分けられるようになってはいるものの、母親が他の人に変わっても、あまり大きな混乱は起きない。新しい母親に速やかになじんでいく。ただし、この段階でも、母親が交替すると、対人関係や社会性の発達に影響が及ぶこともわかっている。結ばれ始めた愛着がダメージを受けると考えられる。
 六か月を過ぎるころから、子どもは母親をはっきりと見分け始める。ちょうど、人見知りが始まるころだ。それは、愛着が本格的に形成され始めたことを意味している。生後六か月から一歳半くらいまでが、愛着形成にとって、もっとも重要な時期とされる。この『臨界期』と呼ばれる時期を過ぎると、愛着形成はスムーズにはいかなくなる。実際、二歳を過ぎて養子になった子が、養母になかなか懐こうとしないということはよくある。また、臨界期に母親から離されたり、養育者が交替したりすると、愛着が傷を受けやすいのである。」(岡田尊司:愛着障害─子ども時代を引きずる人々 光文社, 東京, 2011, pp24-25)


認知症からの回復
投稿者:梨木 投稿日時:12/09/26 21:50
 パート1最後の内容が希望あるもので嬉しいです。
 先程NHKの「ためしてガッテン」見終わったばかりで、明るい気持ちになっています。テーマはアルツハイマー新予防と回復プロジェクト。

 認知症の方への取り組みについては、いろいろ読んだことありましたが、せいぜい現状維持・悪化予防・周辺症状の軽減と受け止めていました。でもこれは古い認識だったみたいです。
 料理(創造的作業)と短時間の昼寝と運動で、医師もびっくりする程の記憶健常状態への回復…すばらしい!(16人/18人)

 予防はやはり(前にこのブログでも読んだ気がしますが)糖尿病が関係していましたね。生活習慣病なら、自分の努力で少し変えられる気がします。運動嫌いの私でも、やらなきゃ!って気になりました。

P.S.
 「認知症になり英語を忘れる」って、母語を忘れるということなら、どこの国でも同じなのではないですか。それとも移民のお話なのかと思ったり。いずれ又。

認知症見守りに小型端末 [認知症]

認知症見守りに小型端末
 ALSOK

 綜合警備保障(ALSOK)は、徘徊(はいかい)する認知症高齢者の居場所を見つける小型の発信端末を開発した。省電力の無線通信を使いスマートフォン(スマホ)で位置情報を捉える。従来のシステムに比べ端末価格を約10分の1に引き下げ、毎月の利用料金も抑える。自治体と連携して3年で500市町村での導入をめざす。

靴や杖に取り付け
低価格で軽量化
 端末サイズは縦3cm、横5.6cm、厚さ1.1cmでボタン電池で動く。重さは14グラムで電池は1年以上交換せずに済む。近距離無線通信規格のブルートゥース・ロー・エナジー(BLE)を使う。
 端末は衣服に縫い付けたり、お守り袋に入れて杖(つえ)に結びつけたりできる。介護用靴大手の徳武産業(香川県さぬき市)と協力して専用の靴も開発した。靴ひも代わりのテープ部分に端末をさし込んで使う。
 価格は1台2千円程度を見込む。毎月の利用料は200~300円にする方針だ。ALSOKの全地球測位システム(GPS)を使う従来式は、端末価格が税別2万1500円。月の利用料が同1100円だった。価格を抑えて普及を図る。
 端末は半径50~100㍍ほどの範囲で電波を常時発信する。街中で専用の無料アプリを入れたスマホやタブレット(多機能携帯端末)が高齢者とすれ違うと検知する。受信した位置情報はALSOKに自動で送信し、サーバーに高齢者の移動の履歴を匿名で蓄積する。
 高齢者を捜す家族が、アプリに服装などの特徴を書き込むとALSOKが承諾を得た協力者に伝え、周囲を確認してもらうこともできる。
 居場所を確認する精度を高めるには、一定数以上のアプリを持つ協力者が必要になる。近隣住民や医療・介護、行政関係者のほか、宅配事業者などを想定する。
(以下省略)
 【2016年4月5日付日本経済新聞 企業・消費】

認知症 私の思い 世界へ [認知症]

認知症 私の思い 世界へ
 国際会議組織委に参加の男性「語ることが使命」

 来年4月、認知症について話し合う国際会議が京都市で開かれます。世界中から認知症の人やその家族、医療や福祉の専門職、支援者らが集まります。運営を担う組織委員会の中に、認知症の本人である京都市の杉野文篤さん(62)が参加しています。認知症の人たちの思いを世界に発信したい。杉野さんの挑戦が始まっています。

 アルツハイマー病と杉野さんが診断されたのは、京都市にある種智院大学の事務長として働いていた2013年、59歳のときだった。
 まず漢字を書くのが難しくなった。パソコンの操作も徐々に厳しくなった。このままではいけないと、職場に伝えた。部下たちに助けられ、学長も辞めなくていいと言ってくれた。
 だが、杉野さんは苦しんだ。
 学生数150人規模の大学の事務方トップ。このまま責任ある仕事を続けていいのか。でも辞めたところで、その先どうするか。寝ていてもうなされるようになり、夜中に何度も目が覚めた。
 診断から1年後の60歳。先の展望が描けぬまま、定年を前に退職した。

不安も救いも
 家に引きこもりがちな杉野さんを、妻の由美子さん(60)が若年認知症の人らの交流会「おれんじサロン」に連れ出したのは退職の翌月、14年4月のことだった。そこで「認知症の人と家族の会」の人たちと出会った。
 さらにその場で評判を聞き、京都府宇治市にある府立洛南病院とであう。
 14年6月、病院のテニスコートで週に1度のテニス教室に参加するようになる。若年認知症の人向けのプログラムの一環だ。運動が苦手だった杉野さんだが、テニスに夢中になる。雨が降ると室内の卓球に変更になるため、「天気予報ばかり見ています」。
 認知症の人に優しいまちをめざす宇治市の事業などに仲間と参加し、人前で話すようになった。
 不安と苦悩の中にいた自分たちがどうやって救われたか。安心して過ごせる仲間と場所ができたことがいかに大きかったか――。
 「当事者の一人として発言していくことが、一つの使命だと考えるようになりました。私は漢字が書けないが、言葉で自分の意見を表現することができます」
 以下省略
(十河朋子)
 【2016年4月5日付朝日新聞・生活】

朝日新聞社アスパラクラブ「ひょっとして認知症? Part1」の第1回原稿『もの忘れ外来ってご存じですか?』 [認知症]

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 懐かしい懐かしい朝日新聞社アスパラクラブ「ひょっとして認知症? Part1」の第1回原稿『もの忘れ外来ってご存じですか?』を再掲いたします。



笠間 睦 (かさま・あつし)
 1958年、三重県生まれ。藤田保健衛生大学医学部卒。振り出しは、脳神経外科医師。地元に戻って総合内科医を目指すも、脳ドックとの関わっているうちに、認知症診療にどっぷりとはまり込んだ。名泉の誉れ高い榊原温泉の一角にある榊原白鳳病院(三重県津市)に勤務。診療情報部長を務める。
 認知症検診、病院初の外来カルテ開示、医療費の明細書解説パンフレット作成--こうした「全国初の業績」を3つ持つという。趣味はテニス。お酒も大好き。
 お笑い芸人の「突っ込み役」に挑戦したいといい、医療をテーマにしたお笑いで医療情報の公開を進められれば・・・と夢を膨らませる。もちろん、日々の診療でも、分かりやすく医療情報を提供していくことに取り組んでいる。


第1回 2010.9.28 「もの忘れ外来」ってご存じですか?
 https://aspara.asahi.com/blog/hyottoshite/entry/h50lIWp7Sb
 みなさん、「もの忘れ外来」ってご存じですか。
 聞いたことはあっても、どのようなイメージを抱かれるでしょうか? 中には、精神神経科と混同される方もおられるかもしれませんね。
 もの忘れ外来は、認知症を診療するための外来で、担当医師の専門分野は、精神神経科、神経内科、脳神経外科と様々です。
 私は、もうかれこれ10年以上、もの忘れ外来を実施してきました。まず、印象深いケースをご紹介しますので、もの忘れ外来の雰囲気を感じ取って下さい。
 70代の女性が、息子さんとお嫁さんに付き添われ受診されました。
 もの忘れがあり、生ものを冷蔵庫に入れずに保管し、腐っていたのに、お土産として他人に渡したという一件があって、受診されたのでした。
 事前に息子さんからは、症状の詳しい経緯に関するお手紙を頂いているのですが、そのことは患者さんには内緒です。
 本人に、「今日はどうされましたか?」と聞くと、患者さんは「私はどこも悪くないんだけど、息子が健診に行けと言うので来ました」と話されます。
 本人は、もの忘れを自覚されておりませんので、「年齢も年齢なので、健康診断の一環として脳の検査もしておきましょうね」と説明し、記憶力の検査と脳の断層撮影と採血検査を実施しました。
 会話していると、普通にお話しでき、違和感は感じません。
 ですが、検査してみると記憶力は顕著に低下して、特有の脳萎縮が確認されました。典型的なアルツハイマー病の所見です。
 事前のお手紙で、必要があれば本人に告知して下さい、と息子さんのご意向を伺っておりましたので、本人に病名を告げ、薬の必要性を説明しました。
 ちょっと心配が残ったので、診療後に、ご自宅に電話しました。
 「本人が落ち込んでいないか心配で、お電話したのですが・・」と切り出すと、息子さんは「我々も心配していたのですが、病院を出てしばらくしたら、告知されたことすら忘れていました」との返事です。
 この患者さん、受診のたびにいつも、「何で私はここに来ないといけないのですか?」と私に質問されました。
 診療を受けることへの抵抗感が強く、また服薬することにも納得されず、苦慮したケースです。
 「先生、最近、物忘れが激しくなって・・。認知症とかいうのかね」という質問はよく受けます。
 「いえ、違いますよ。物忘れは、誰もがするものです。老化とともに、だんだん物忘れはひどくなりますが、認知症とは違います」とお話しすると、みなさん安心されます。
 さて、認知症って実は、どんな病気なんでしょう。
 ご家族が、ご自身が・・・ そんなケースを想定されたことはありますか?
 こうした認知症を中心テーマとして、さまざまな医療情報を、みなさんにお伝えすることができればと考えております。
 どうぞこれから、よろしくお願いいたします。


無題
投稿者:とくめい 投稿日時:10/09/28 15:59
 直近の記憶がなくなる物忘れは認知症の始まりです
 自分でアレコレ思い出して自分の行動を遡ってみることができれば認知症では無いと言ってもよいでしょう


Re:無題
投稿者:笠間 睦 投稿日時:10/09/29 12:12
 そうですね。
 最初に気づかれるのは、「同じ話をする」とかいった症状ですね。
 検査では、「遅延再生」の低下という所見で気づかれますね。


幸せな認知症と不幸な認知症
投稿者:みつぼん 投稿日時:10/09/28 16:45
 記事の女性の場合、家族は大変だが、本人は気付かないから、言い方が悪いが幸せな認知症だ。不幸な認知症は、本人が気付いて悩むケースだ。
 認知症予防教室のボランティアをしていた時、文字を薄く書く人に注意したら、初期のアルツハイマーで手に力が入らないという。お茶の時、認知症がだんだん進むので、家族の気遣いが返って負担だ、自分の脳が壊れて行くのが心配で、夜中に何度も目覚めると、涙ながらに語ってくれた。
 家族の気遣いは、素直に感謝すればよい。残酷な言い方かもしれないが、治療法がないとすれば末期ガンと同じだから、諦めるしかない。今のうち、やりたい事や行きたい所があれば家族に話し、積極的に行動した方が気持ちが落ち着くし、病状の進行も遅くなるかもしれない、家族も喜ぶだろうし、決して我がままではないと申し上げた。
 1か月後、行ったことがない沖縄に家族旅行して楽しかった、カナヅチなので水泳教室に通っている、まだ泳げないがプールの端まで泳ぐのが夢だ。息子夫婦や孫たちは、病状が進んでも皆で介護するから、何も心配ないと言ってくれた。まな板の上の鯉だから、思い悩むことをやめ、あるがままの自分を受け入れたいと、笑顔で話してくれた。


Re:不幸な認知症は、本人が気付いて悩むケース
投稿者:笠間 睦 投稿日時:10/09/29 12:21
 レーガン元大統領は、自分で、アルツハイマー病であることを告白しましたね。
 私が以前調査したデータでは、初期アルツハイマー病患者さんの、半数は自覚がありましたが、半数の方は初期の段階で既に「自覚」がありません(=本人は、物忘れで悩んでいない)でした。
 ごく最近発表された、軽度認知障害(=アルツハイマー病の前段階と考えられています)の患者さんでの調査結果によれば、主観的な記憶障害を懸念している方では、アルツハイマー病を発症するリスクが高かったそうです。
 何とも皮肉な結果ですよね。


「物忘れ外来」を受診しようかしら
投稿者:ラベンダーのかほり 投稿日時:10/09/29 14:27
 10数年前、今は亡き母が当時の「痴呆ドック」を受診したところ、点眼テストの結果ではアルツハイマーになりやすい素因があるといわれました。今でもするのでしょうか。
 私自身、同じ話を何度も繰り返す、人の名前を思い出せない、物のしまい場所を忘れる、今しようとしていることを忘れるなどはしょっちゅう、物の用途がわからなくなったことはないものの、たまに今何をしていたの?運転中、ここはどこ?などと感じることもあって、ちょっと気になっています。


Re:「物忘れ外来」を受診しようかしら
投稿者:笠間 睦 投稿日時:10/09/29 16:31
 ラベンダーのかほり様、こんにちは。
 10数年前、「痴呆ドック」を受けられたと言うことは、お母様に私はお会いしているのでしょうね。
 お母様は、記事(http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/19970519.jpg)を読んで、検診を申し込まれたのでしょうね。 
 1994年にアルツハイマー病の早期診断として「点眼試験」なるものが有用だという報告が世界の超一流医学雑誌に掲載され、いち早く、国内での実施に取りかかりました。
 そしてその結果を学会報告し、国内で初めてとなる「認知症専門の検診」を1996年(平成8年)7月に立ち上げました。
 しかしその後、「点眼試験」の有用性は否定されました。
 有用とされた検査・治療が、その後、追跡検査・試験により有用性が否定されることは、しばしばあり得ることです。
 現在も認知症検診(名称:もの忘れ検診 検診費用:2万円)を実施しておりますが、現在の検査項目は以下です。
 1)問診
 2)血液検査
 3)MRI検査(磁気共鳴映像)による脳萎縮のチェック
 4)認知機能検査:改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)およびリバーミード行動記憶検査(日本版/RBMT)

 全国「物忘れ外来」一覧は、以下のページで紹介されていますので、参考になさって下さい。
 http://www2f.biglobe.ne.jp/~boke/boke2.htm
 日本認知症学会の専門医は、以下のページのTOPICSに紹介されております。
 http://dementia.umin.jp/
P.S:
 私も、かなり物忘れが強い方です。
 人の名前を思い出せない、今しようとしていることを忘れることもしばしばです。
 ただ、気にしていません。アルコールが多いですからね・・。自業自得です。


☆彡 笠間先生 ブログ開設に感謝! ☆彡
投稿者:梨木 投稿日時:10/09/29 21:15

 アピタル執筆デビュー おめでとうございます。
 先日のTVドラマで「認知症の告知はガンの告知より辛い」という台詞があって(本人・家族にとって)心に沁みました。
 7年半、区立特養の認知症フロアに勤務した後、ケアマネとしての関わりもあり、こんなブログを待っていました。
 特に家族様にとって勇気が出るようなご助言と一般への正しい知識を掲載していただけることと期待をこめて楽しみにしています。
 なんといっても診療情報部長が担当して下さるブログなんてそうないですものね(*^_^*)


Re:認知症の告知はガンの告知より辛い
投稿者:笠間 睦 投稿日時:10/09/29 22:22
梨木様
> 特に家族様にとって勇気が出るようなご助言と一般への正しい知識を掲載していただけることと期待をこめて楽しみにしています。

 ありがとうございます。
 ただ、私の場合、「正確に伝える」と言うことにはこだわっている部分がありますので、逆に、家族の方にとって、落胆したり・・という内容もあるかも知れません。
 良い面、悪い面、多々あるかも知れませんが、ご意見頂けましたら幸いです。


認知症を遠ざける一番の方法はありますか?
投稿者:牡丹 投稿日時:10/09/29 21:59
 黒柳徹子さんがあの部屋で、もの忘れ予防方法を披露されました。自分がこれからすることを絵でイメージするらしいです。黒柳さんは、この方法で離れたところに何を取りにきたのかを忘れることは皆無だと断言していらっしゃいました。
 動く前に、絵でイメージすることを忘れない黒柳さんは、やっぱりスゴイです。有効とされている方法は、試してみる価値があるのでしょうか?
 素直じゃない私は、自分で方法をあみ出すことで習慣にできるのかもしれません。


Re:認知症を遠ざける方法
投稿者:笠間 睦 投稿日時:10/09/29 22:31
 この分野の研究の第一人者は、筑波大の朝田隆教授です。
 生活習慣の改善による認知症予防の効果を確認されております。
 結論としては、『週3~5回、1回20~60分、音楽に合わせてステップを踏む簡単な有酸素運動の実施&また魚の脂質に含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)などを含む栄養補助剤を毎日取るとともに、30分以内の昼寝をした結果、生活習慣を指導したグループでは認知症の発症率が3.1%だったのに対し、しなかったグループは4.3%にのぼった』という予防効果が確認されたようです。
P.S:
 「昼寝」に関しては、いずれまた詳しくお話しします。


受診まで
投稿者:アッチン 投稿日時:10/09/29 23:47
 冗談めかして物忘れ外来を受診するよう勧めてみても本人が頑として拒否。
もしかしたら自覚しているのかしら?と心配になるけれど、単なる老化かもしれないしと、こちらも不安で本気で受診を考えたくなかったり。
認知症にしろ老化にしろ治らないのであれば、無理に受診させることはないのでしょうか?


Re:本人が頑として拒否
投稿者:笠間 睦 投稿日時:10/09/30 09:01
 ご家族から、受診前に、このような相談を受けるケースは多いですね。
 今まで私は、「脳の健診ということにして受診してもらいましょう」とご家族と口裏合わせしておくケースが多かったのですが、その結果、認知症と診断された場合、すぐには告知しにくいので、「少し記憶力が低下していますから、予防的に通院治療しましょう」などとご本人に勧めることになります。
 そうすると、患者さんによっては、「悪くないのに、何故、診察に行かないといけないの?!」と興奮して怒り出す方もおられます。もちろん、その説明ですんなり受け入れてくれる患者さんも多々おられますが・・。
 本人が受診拒否されている場合、1回は受診することができても、継続受診という面では難しさを感じます。
 確かに認知症の多くは、根本的な治療法はありません。ただ、投薬治療によって進行を「少し」遅らせることは可能です。薬の効果に関しては、また後日詳しく説明しますが、約3割の方に有用ですので、私は、「3か月だけは通院して下さい。効果がなければ薬の中止も検討しましょう」と説明しています。
 また、認知症の1割弱ですが「治療可能な認知症」があります。例えば、甲状腺機能低下症、薬物性認知症、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症などが原因のもので、これらは早期に発見しさえすれば、認知症の治癒も見込まれます。ですから、一度は受診して、きちんと診断を受けることをお勧めいたします。


母親も・・・
投稿者:らびぞう 投稿日時:10/09/30 12:17
 私の母親も認知症でした。
 最初の気づきは、同じ質問を何回もする、お鍋を焦がすでした。
 家の中では、そういった失敗がいっぱいあったにもかかわらず、他人には、しっかりした応答が出来る・・・初期の間は、そんなギャップに悩まされておりました。
 しかし、母親の認知症はだんだん進んでいき、遂には、私のことを娘だとは認識出来なくなってくると、他人の振りをして、『おはようございます。お元気ですか?』って割り切ることができるようになりましたが、そこまでくる間の俗にいう『まだらボケ』の期間は、双方とも苦しかったです。
 『頑張らない介護』これは、大変重要だと思います。
 母親も運良く老人ホームに預けることが出来、家族の負担は少なくなりましたが、老人ホーム=姨捨山(おばすてやま)感があり、少し心が苦しい時もありました。
 でも、そのまま自宅介護を続けていると、先の明るさがない介護地獄で、みんなが不幸になったと思います。
 私は、まわりの人に『頑張らない介護』をすすめています。


Re:母親も・・・

らびぞう様
> 家の中では、そういった失敗がいっぱいあったにもかかわらず、他人には、しっかりした応答が出来る
 身内に症状が強く出るのは、認知症ではよく見受けられる特徴なのですが、それが特徴であることを知らない他人から見ると、「とても認知症とは思えません」って言われてしまいますね。ですから、介護認定に際しても、初期アルツハイマー病の方は調査員にしっかり対応できるので、認知症の程度が低く評価されてしまうケースはしばしばです。

> 老人ホーム=姨捨山感
 最近の老人ホーム(正式には、特別養護老人ホーム)は、介護面でしっかりした施設が多く、家庭で介護するよりも好都合の場合も多々あると思われます。特に「老老介護」「認認介護」では、家庭での介護には限界が大きいと思います。


認知症介護者が直面していること
投稿者:笠間 睦 投稿日時:10/09/30 13:
 「介護」に関するご意見がありましたので、今日、三重大学医学部図書館に行って読んだ本で、私が強く印象に残った文献をご紹介しますね。

タイトル:認知症介護者が直面していること
引用:『現代のエスプリ・10月号』(発行:ぎょうせい)
著者:松本一生(認知症と家族の会理事)

p83より引用します。
 介護を家族だけでなく地域・社会全体で見ていこうと介護保険が施行されてから十年が経過したが、ある地域ではそのことがむしろ家族介護者を追い詰めていたこともある。ある寒村でのことだが小さな村では介護者が支援を依頼する先の人が全て親戚や知人であることがかえって支援を躊躇させていた。あるアルツハイマー型認知症の妻を介護する夫は言った。「先生、私が地域の人に妻の介護の助けを求めても、ほとんど全ての人が顔見知りです。かえって見ず知らずの人に頼むほうが心安く、顔見知りだと頼みにくいのです・・・・・」

 この指摘にあるように、確かに、介護方法に関して親族からあれこれ批判され、主たる介護者が、介護に関して「他人の目」という部分において心理的負担を感じているというケースは私自身幾度となく経験してきました。
 認知症介護の難しさを改めて感じました。


もしや自分も認知症が始まったのでは?
投稿者:ショウケン 投稿日時:10/09/30 15:43
 私の母は90歳で他界しましたが、その5年前から認知症が始まり家族では介護できず、病院と特養ホ-ムでお世話いただきました。
 私も73歳、最近は物忘れが多く一昨日の昼食や夕食が思い出せず、整理したはずの資料やカタログの場所が思い出せず家の中を探し回る始末です。
 また、テレビに出て来る往年のスターの名前(実は古都清乃)が分からず字幕が出るのを待つ始末です。
 自覚症状としては、悪玉コレステロールが多くメバロチン5mgを毎日のみ、頚椎椎間板ヘルニアを10年前に患い毎週1回リハビリに通っています。その上、認知症が始まったのでは家内と二人暮しの生活が破壊してしまうのではないかと心配しています。家内は体力の衰えを心配し、昨年、そして今年も海外旅行を計画しています。


Re:もしや自分も・・
投稿者:笠間 睦 投稿日時:10/09/30 18:19
 これだけの文章を書けるショウケン様が、もしも認知症であったのなら、間違いなく私は「誤診」するだろうと思います。
 私は日本認知症学会の専門医・指導医ですが、隠さずに言いますと、私も、初期のアルツハイマー病患者さんを、幾度と無く見逃しております。その理由の一つには、アルツハイマー病患者さん特有の「取り繕い反応」と呼ばれるものがあります。これはまた後日、詳しく説明致します。
 講演会では、「私が見逃した認知症患者さん」の話はかなり評判です。講演会を聞きに来られた医師の立場からすると、「専門医でも見逃す」という客観的事実を知ると、ホッとされるのかも知れませんね。
 患者さんが書かれた文章を時系列で見てみると、認知症を発症した頃より、文章力が極端に落ちてきます。宛名の住所間違いもしばしばです。
 また診察していると、認知症を発症した頃より、眼球の動きが減少してきますので、診断の際に参考となります。
 家庭での簡単な認知症のチェック方式として、「最近のニュースを尋ねる」という手段も注目されています。


最近のニュースはどんなことがありましたか?
投稿者:笠間 睦 投稿日時:10/09/30 18:41
 岩手医科大学神経内科・老年科准教授の高橋智先生(先日NHKの「ためしてガッテン」にも出演されていましたよね)が、本年6月、三重県津市で開催された中勢認知症研究会に来て下さいました。その時の講演内容で、非常に印象に残ったお話がありました。
 それは、「最近のニュースはどんなことがありましたか?」というたった一つの質問で、アルツハイマー病の多くが診断できるというものでした。
 アルツハイマー病の患者さんは、「分かりません」「覚えていません」「あまりニュースを見ないので分かりません」と回答したり、不正確な回答をするそうです。ただし、認知症患者さんでも3%の方は正確に回答するそうです。
 この「あまりニュースを見ないので分かりません」という回答は、「取り繕い反応」と呼ばれるもので、アルツハイマー病患者さんでよく認められます。


老人ホーム=姨捨山は、一部の施設で当たっている
投稿者:みつぼん 投稿日時:10/09/30 16:54
 介護相談員をしていた時、市内10余りの特別養護老人ホーム(特養)や介護老人健康施設(老健)を訪問し、利用者の相談に乗りました。うち2つの施設は、同じ法人が経営する儲け主義の酷い状態で、市に改善を求めました。再三指導をしているが、虐待などの証拠ない限り、強制的な命令を出せないといいます。介護施設が足りないので、このような施設がまかり通っているのです。
 他の施設は献身的でしたが、話ができた利用者のほとんどは家に帰りたいと訴えます。施設では、家族の訪問を歓迎するのですが、帰宅を訴えられると困ると訪れない家族が多いと、嘆いていました。それが原因してか、認知症の方が知らない所に監禁されていると、夜中に110番して大騒ぎになったケースもあります。特養と老健の違いは、老健は6か月が利用限度ですが、追い出すわけにもゆかず、長期利用者がいるのが実態です。
 介護施設は、このほかグループホームやショートスティ、デイサービス、訪問介護、訪問看護など様々あります。利用する場合は、介護支援センターに相談し、家族が必ず視察することです。そうすれば、先にあげたような酷い施設を避けられます。家庭での介護は大変ですから、デイサービスやショートスティ、訪問介護などを組み合わせ、家族が時々息抜きできる形が良いです。


帰宅願望
投稿者:笠間 睦 投稿日時:10/09/30 18:34
> 帰宅を訴えられると困る
 みつぼん様、詳しい現状報告ありがとうございます。
 入所してしばらくすると、帰宅願望は薄れていく方が多いのですが、現実には、いつまでも「帰りたい」と訴えられる入所者の方はおられますね。
 特に、家族の顔を見たり、ご家族と外出したりした後には、帰宅願望が強く出る方がおられるのは事実ですね。
 なかなか対応は難しいことが多いことも事実ですが、根底には、「不安」があると推察し、施設内で認知症患者さんが落ち着ける居場所を作っていくということが基本的な対応になるかと思います。
 またいろいろご報告下さいね。よろしくお願いします。


私のつれあい、認知症の初期かな?
投稿者:yumekaze 投稿日時:10/10/01 03:04
 婚歴49年、妻68歳です。頼りにしていた妻が最近不調です。彼女が誇っていた常識が、今年3月音を立てて崩れてしまいました。14年前購入した建売住宅が、地盤沈下で居住不可能になったのです。5年間自宅として使用し、後は借家として家賃収入を得ていました。ここ2年空き家になっていて、地盤沈下は知りませんでした。地価は半値以下に。地盤沈下を回復するのに幾らかかるかも知れません。建物は傾き、修復は再建築するほどの費用を要すると業者は言います。建築基準法では築10年以後は、建築会社の瑕疵責任は皆無です。行政に訴えることも出来ません。定年後の生活設計は頓挫し、支出縮小しか手は無くなりました。
 前置きが長くなりましたが、妻がおかしくなったのは、その後です。自分の生き方に自信を無くし、命を絶つことを「何時でも出来る」と日常的に訴え、私を悩ませます。私の賭博(中央競馬のみですが)に極度に嫌悪を示します。私は妻の言動が怖くて、メールのアドレスも変えて、賭博には一切関わらないと宣言していますが、妻の執拗な猜疑心は強まる一方です。「私の命は如何でも良いのです!」と日常茶飯事に言い募ります。これだけ自己主張を繰り返すのは、認知症の前哨でしょうか?


Re:私のつれあい、認知症の初期かな?
投稿者:笠間 睦 投稿日時:10/10/01 06:22
 yumekaze様、書き込み拝見致しました。
 物忘れは強く出ていますか? このメール内容のみから判断すると、認知症よりも、パラノイア(妄想性人格障害)が疑わしいです。
 認知症ではないことを確認したうえで、精神神経科を受診するということになります。
 ですから、物忘れ外来・精神神経科などが揃っている大きな病院を受診されるのが一番望ましいと思います。


物忘れ外来を受診される方へ
投稿者:笠間 睦 投稿日時:10/10/01 07:03
 物忘れ外来の初診患者さんで、たびたび、症状の把握に困るケースがあります。それは、例えば、困っている症状が「物盗られ妄想」といった症状のような場合には、診察に付き添ったお嫁さんが、患者さん(姑)に気遣いして、困っている症状を本人が居る前で医師に伝えにくいという問題があるからです。
 もし、事前に症状をきちんと伝えておくことができれば、診察室で症状を聞かれて困惑することもありませんので、診察も比較的スムーズにいきます。2004年5月29日付朝日新聞・三重総合の記事(http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/Alz0529Asahi.jpg)も参照下さい。
 是非とも、メールではなくメモ程度のものでも構いませんので、それまでの経過を記載したお手紙を診察の際に持参し、受付で「担当の医師に診察前にお渡し下さい」と頼めば、診察室で症状を伝えにくく困るという状況には陥らずに済むと思われます。
 アルツハイマー病の診断では、「緩徐な発症と持続的進行」ということを診察の際に確認する必要があります。
 たった1回の診察では、「持続的進行」を確認することが難しいケースが多々あり、判定を保留することがありますが、ご家族から頂いたメール・お手紙に、例えば、「2年前から物忘れが目立ってきた。半年前から物忘れがひどくなり、昨日外食したことも忘れるようになってきました。」という経過が記載されていれば、進行していることを確認できます。


ネット医療相談
投稿者:笠間 睦 投稿日時:10/10/01 07:58
 私は、長年、バーチャルドクターあるいはインターネット医科大学などを通じて、ネット医療相談に携わってきました。どちらのサイトも、諸般の事情で現在「閉鎖中」です。
 認知症の介護等に関していろいろ相談することができた「認知症ねっと」の認知症相談室(掲示板)も休止中の状態が続いています。私も設立当初携わってきたサイトだけに残念なことです。
 使い方を間違わなければ、ネット医療相談は、とても有用な手段なのですが、一つだけご注意頂きたいことがあります。
 ネット上で「診断」すると、無料であっても医師法の「無診察診療」に抵触する場合があります。ですから、あくまでも「アドバイス」しか述べることができず、診断を確定するためには、やはり医療機関を受診して診療を受けて頂く必要があります。
 メール医療相談やインターネットブログ医療相談における、法的な制約をご理解戴ければ幸いです。


五十代、まわりは親の話題でいっぱい
投稿者:シズ 投稿日時:10/10/02 08:04
 他界した父親は、くも膜下出血が原因の「記銘力障害」だった。直近の記憶が定着しにくく、軽度の発語障害も加わって言葉が出にくかったが、意志疎通にほぼ問題はなかった。認知症とは違い近親者を忘れることもなく(直近の記憶である)孫のこともすぐに覚えた。 長く施設にお世話になっていたが、親身で暖かい介護のおかげで、一度も家に帰りたいと言った事がなかったという(帰りたくない家だったのではありませんぞ)。
 が、そんな施設でもみつぼんさんの言うように、数少ない事例だという。
 最近、学生時代の友人(女性)が、二人暮らしの母親に認知症の症状が見られると言っていた。冷静で理論的だった母親が、感情を抑えきれず彼女に理不尽な言いがかりをしたり、朝と夜で主張が逆転することがあるそうで、ついついぶつかってしまうと嘆いていた。母親も自分の「異常」に気付いているようでその事が余計に苛立ちを募らせるようだ。
 五十代に入り、友人知人の間で親の問題は日常会話になっている。


Re:くも膜下出血が原因の「記銘力障害」
投稿者:笠間 睦 投稿日時:10/10/02 11:30
 シズ様
 本当、同感です。友人知人の間で、介護の話題は日常会話になっていますね。
 ちょっと専門的なお話をしますね。
 くも膜下出血が原因の「記銘力障害」の典型例は、「前脳基底部健忘」というタイプで、ちょっと特殊な記憶障害です。多くは前交通動脈瘤の破裂によって前脳基底部(前頭葉の内側後方に接する脳の底の部分)に損傷を受けた患者さんにおいて発生します。
 前脳基底部健忘の特徴として、以下の3点が挙げられています。
(1)顕著な見当識の障害(時間・場所などの知識)
(2)前向性健忘(脳動脈瘤破裂後の新しい出来事を覚えられない=「記銘」の障害)
(3)発症前の数年から数十年に及ぶ逆向性健忘(脳動脈瘤破裂前の出来事を思い出すことができない=記憶を呼び出す「想起」の障害)

 以上。参考までに。


多発性脳梗塞による軽度認知障害と認知症の違いは?
投稿者:独居老人 投稿日時:10/10/02 20:41
 74歳・糖尿病の男性の身内のものです。物忘れが激しく前日に終日病院に行ったことも忘れています。物盗られ妄想や取り繕い反応がよく見られます。昨年、今年の2回、物忘れ外来で受診・検査しましたが、結果はいずれも軽度認知障害とのことでした。たしかに暴力・徘徊・失禁等の症状はありません。
 現状以上の進行を防ぐ手立てはないものでしょうか。認知症になった場合の介護も大変でしょうが、グレーゾーンにいる者に対する対応も本人に自覚がないため、どう対応してよいか日々悩みの毎日です。


Re:多発性脳梗塞による軽度認知障害
投稿者:笠間 睦 投稿日時:10/10/02 22:05
 前日受診したことを忘れる状況ですと、やはり、「軽度認知障害」ではなく、「アルツハイマー病」へ移行しつつあるのでは・・ということも念頭におく必要があると思います。
 実際に診察していないので、断定的なことは述べられない難しさがあることはご理解下さいね。
 アルツハイマー病の患者さんで、MRIあるいはCT検査をしてみると、脳梗塞を併発しているケースは多々あることが分かってきており、最近では、脳血管障害自体がアルツハイマー病の危険因子と考えられるようになってきています。
 物盗られ妄想や取り繕い反応がよく認められるようでしたら、アルツハイマー病治療薬であるドネペジル(商品名:アリセプト)を一度試用されても良いのじゃないかと私は思います。
 今一度、担当医師に、「昨日の受診を忘れていること&物盗られ妄想が存在すること」等の症状をきちんと伝え、判断を仰いでみてはいかがでしょうか。


薬はないの?
投稿者:みっどちぇり 投稿日時:10/10/03 16:50
 85歳の父が意味性認知症と診断されました。『側頭部に萎縮がみられます。2~3年後には理性を司る前頭部に萎縮が始まり人格破壊がおきると言われました。認知症の中でも症状が特殊で人数も少なく有効な薬がまだ開発されていない。』という説明でしたが、ただこのまま手をこまねいているしかないのでしょうか。
 高度成長期にサラリーマン生活を送ったので60歳定年後は気楽に家で過ごしたいと刺激の少ない生活をしてきました。ようやく気が進まないというデイサービスへ行ってくれるようになりましたが進行を遅らせる薬はやはりないのでしょうか?


Re:意味性認知症
投稿者:笠間 睦 投稿日時:10/10/03 19:01
 意味性認知症は、確かにかなり特殊なタイプです。前頭側頭葉変性症(FTLD)の中の一つのタイプで、「語義認知症」とも呼ばれています。
 同じく、前頭側頭葉変性症(FTLD)の中の一つのタイプで、「ピック型(Pick type)」は比較的多く認められる疾患で、アルツハイマー病治療薬のドネペジル(商品名:アリセプト)という薬が少々有効であったケースも報告されています。ただ、この場合も、「他に有効な治療薬がないから・・」という理由で使用されているのが現状です。
 アリセプトは、アルツハイマー病の治療薬ですので、それ以外の疾患に使用する場合には、保険適用外となります。
 また、根本的な治療ではありませんが、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)が、ピック型(Pick type)の行動異常の改善に有効であるという報告もあります。

P.S:
 名古屋フォレストクリニックの河野和彦先生は、ピック型に対して、フェルガード100というサプリメントが有効であると講演会などで報告されておりますが、私は、フェルガードの使用経験がありませんのでコメント困難です。


「今日は何月何日?」という質問について
投稿者:うるさいおじーさん 投稿日時:10/10/03 22:33
 出勤することもなく、めったに外出しない老人に、「今日は何月何日ですか?」という質問がよく出される。これは非常に苦手で心配になるが、仕事をしてない老人には、日にちはあまり関係ないので分からなくて当然でないか? 
 最近のニュースを質問するのは適切な方法と感じる。


Re:「今日は何月何日?」
投稿者:笠間 睦 投稿日時:10/10/04 07:01
 ご指摘の通りですね。「何月?」はともかく、「何日?」に関しては、認知症のない方でも1~2日ズレてしまうことはしばしばありますね。とは言いましても、月日の誤りは、比較的初期段階のアルツハイマー病において出現してきますので、見当識の検査は大切なチェック項目になります。
 「老化による物忘れ」と「認知症の物忘れ」の違い、また後日、ご紹介しますね。


母の記憶欠落について
投稿者:あのね 投稿日時:10/10/15 16:01
 母は今年79歳です。先日実家で話をしていると、不意に「A子(私の妹)はどうやってB夫さんと結婚したの?」と尋ねてきました。
 私と父が説明をすると「そお?全然覚えてない」と言うのです。
 10年前から腰椎圧迫骨折で体が不自由になり介護認定を受けています。
 数年前から認知症かな?と思いながらも特に診察は受けていません。このままにしてもっと進み、家族のこともわからなくなったら・・と心配です。訪問診療などで診てもらった方が良いでしょうか?


Re:訪問診療
投稿者:笠間 睦 投稿日時:10/10/15 17:42
 第5回の「萎縮がないのにアルツハイマー病?」で記載しておりますが、『認知症の初期診断において、画像診断は不可欠です。それは、きちんと診断し、「治療可能な認知症」を見逃さないためには画像診断が不可欠だからです。認知症の1割弱程度ですが、「治療可能な認知症」があります。例えば、甲状腺機能低下症、薬物性認知症、慢性硬膜下血腫、特発性正常圧水頭症などで、これらは早期に発見しさえすれば、治癒も見込まれるのです。しかし、きちんと診察を受けていなければ、これらの疾患が「年のせい」として片づけられ、治せるにもかかわらず見逃されてしまうことにもなりかねないわけです。』ということも念頭において、一度はきちんと検査をし、診断名を確認された方が良いと思います。
 訪問診療では、残念ながら、画像診断は通常は困難ですので、物忘れ外来などの受診が望ましいと思います。物忘れ外来が近くになければ、神経内科などの受診をご検討下さい。


どうやって本人を受診させるか
投稿者:まうむ 投稿日時:10/11/09 14:15
 母親(65歳)が軽度認知障害のようです。久しぶりに弟が帰省した際、「お昼はおそばとラーメンどっちがいい?」と7~8回聞いていたり、「明日何時に出るの?」と繰り返し聞いてきたりします。 
 今日あった出来事を5分の間に3回くらい話します。「今日○○さんとどこどこで会ってね・・」と。
 本人も物忘れを自覚しており、カレンダーに予定を書いたりや付箋を使っています。  家事や運転は問題ありません。食事をしたことを忘れたり日付を忘れることはありません。
 ヒステリーを起こしたり、機嫌が悪い時に前述の繰り返しの行為がひどくなります。
 一度診断をしたほうがいいと思っているのですが、「物忘れ外来」や「脳神経外科」に行くということは母が認知症だと家族が思っていることがばれてしまいます。
 以前受診を勧めたら「私ひとりのけ者にしてひどい。私一人で家のことして、みんなが勝手なことしてるから、ストレスがたまるんじゃないの。裏切らないで。」というようなことを言い、パニックで泣きわめいてしまいました。
 本人が現実を受け止められるとは思えません。あまりにショックが大きすぎます。酷です。せつないです。
 今なら進行を阻止、遅らせると思うのですが・・。
 認知症外来、神経科など伏せて診察してもらえる場所、方法はないのでしょうか・・。


Re:軽度認知障害での受診
投稿者:笠間 睦 投稿日時:10/11/09 17:34
 まうむさん、笠間です。
 「せつない」というお気持ち、お察し致します。
 
 初期のアルツハイマー病患者さんの場合には、受診に際して苦労する場合が多々あります。しかし、軽度認知障害の患者さん場合には、多くのご家族は、「念のため」とか「心配ないことの確認のため」などとご本人に説明されますので、本人が受診を拒否するケースはあまり多くないのですが・・。
 ただ、どうしても本人が拒否する場合に、受診理由を伏せて「健診」などと偽って受診するケースも確かにあります。
 しかしその場合には、仮に投薬することになった場合には、「高血圧の薬」などと説明して認知症の薬を服薬してもらうような状況になり、継続して嘘をつき続けることが必要になっていきます。そのような対応をして頂ける主治医を探すのは、たいへん苦労するかも知れませんね。

 「物忘れ外来」も種々あります。私の病院では、いっさい表示しておりません。患者さんには、「内科受診」としか分かりません。しかしながら検査内容には、認知機能検査などがどうしても含まれますので、「脳の診察だな」ということは何となく分かってしまいます。

 ですから、「心配ないことを確認するため」という説明を本人にして納得してもらい、受診に際しては、「万一認知症の疑いが強い場合には、本人退室後に、最初の段階では家族だけに説明をお願いします」と記載した紙を、診察前に受付の方を通じて医師に渡してもらうというような手段を取られるケースはけっこう多いです。


Re:軽度認知障害での受診
投稿者:まうむ 投稿日時:10/11/10 15:15
 笠間先生、お返事どうもありがとうございます。
 事情をわかってくれて、親身になって一緒に考えてくれる病院、主治医を見つけるのは難しいです。 
 某大学病院に「まずは家族が来院して相談したい」との話をしたら「本人が来院するのが原則ですから」と言われました。 
 相談、では病院の売り上げ?になりませんからね。

 母には「心配だから受診して」と離れて住む弟から言い続けてもらっています。同居している私や父がしつこく言うと家の雰囲気が悪くなり、母の精神上良くないからです。
 慎重に粘り強く説得していくつもりですが、「早めの受診を!」という記事を目にするたび、焦りがつのります。
 母の心境が変わりますように・・。


他の受診方法
投稿者:笠間 睦 投稿日時:10/11/10 16:24
 まうむさん、笠間です。
 他の受診方法として、よく実践されているのは、配偶者が、「認知症が心配だけど一人で受診するのは気が進まないので、一緒に受診してくれないか」と患者さんに話す方法です。
 診察料が2倍になるのが欠点ですが、有効な手段のようで、抵抗なく受診される方が多いですよ。


ありがとうございます。
投稿者:まうむ 投稿日時:10/11/11 16:37
 そうですね・・。そういって脳ドックは父と一緒に受けました。異常ありませんでした。
 母の性格など考慮して家族で慎重にやっていきたいと思います。


主観的記憶障害 [認知症]

朝日新聞社アピタル「ひょっとして認知症?」・第650回『もの忘れを心配せず前向きに考える大切さ─心配ばかり、は記憶にも悪い』(2014.10.23公開)
 また、「病識の有無と認知症発症リスク」に関する非常に興味深い論文がありますのでご紹介しましょう。
 Frank Jessen 博士は、ドイツの加齢・認知能・認知症研究(German Study on Aging,Cognition and Dementia in Primary Care Patients)に参加した75歳以上の2,415例での調査結果より、「主観的記憶に障害はあるが懸念していなかった患者では、認知症リスクは増加していなかった。しかし、主観的記憶障害に関連した懸念が存在すると認知症リスクはほぼ倍増した」と報告しています(Jessen F, Wiese B, Bachmann C et al:Prediction of Dementia by Subjective Memory Impairment:Effects of Severity and Temporal Association with Cognitive Impairment. Archives of General Psychiatry Vol.67 414-422 2010)。
 この点に関して、群馬大学医学部保健学科の山口晴保教授も、以下のような興味深い記述をしております(山口晴保:脳神経科学に基づく認知症の脳活性化リハビリテーション. 老年看護学 Vol.15 10-15 2011)。
 「運動には記憶を良くする働きがある。新しいことを覚え込むのに必要な海馬では、神経細胞が少しずつ死ぬが、その一方で神経細胞が少しずつ生まれている。運動するとこの神経細胞が生まれる量が増えて、記憶が良くなる(Mirochnic、2009)。逆に心配ばかりしていたり、ストレスが続くと海馬の神経細胞が減って、記憶が悪くなる。うつ病では海馬が小さくなっている。身体を動かしながら楽しく笑って過ごすと、海馬の神経細胞が増えて記憶が良くなる。心配せずに、笑顔で楽しく生活することが海馬を元気にする。逆に、『認知症になるのが心配』と心配ばかりしていると、本当に海馬の神経細胞が減って記憶が悪くなってしまう。」
 すなわち、主観的に記憶の障害を感じていても「くよくよ心配するな!」ということのようです。「物忘れを心配せずに前向きに取り組みましょう」と指導することで、アルツハイマー病への進展を軽減することが可能かも知れないわけですね。

SD-NFT AGD 糖尿病性認知症 軽度認知障害 [認知症]

神経原線維変化型老年期認知症(senile dementia of the neurofibrillary tangle type;SD-NFT)
嗜銀顆粒性認知症(argyrophilic grain dementia;AGD)
糖尿病性認知症
軽度認知障害 軽度認知障害から認知症への進展

 AGDは、認知症の5~10%を占めるとされており、決して稀な疾患ではありません。そして、高齢になるほど頻度を増すものと考えられております(認知症テキストブック, 中外医学社, 2008, pp326-329)。AGDにおいて脳萎縮が顕著な部分は側頭葉内側ですので、記憶障害が主たる徴候で、進行しても他の認知機能は比較的保たれます。日常生活動作(Activities of Daily Living;ADL)もアルツハイマー病に比べると、比較的良好です。
 AGDに特徴的とされるのは、易刺激性・被害妄想・不機嫌・激越などの「認知症に伴う行動障害と精神症状」(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia;BPSD)です。そして、易刺激性が最も頻度の高い症状です。認知機能が比較的保たれていますので、行動異常が症状として目立ちます。
 AGDは、臨床的にはADとの鑑別が非常に難しい疾患です。金沢大学大学院医学系研究科脳老化・神経病態学(神経内科)の山田正仁教授は、「嗜銀顆粒性認知症(AGD)や神経原線維変化型老年期認知症(senile dementia of the neurofibrillary tangle type;SD-NFT)は高齢発症タウオパチーと呼ばれているが、それらの診断法は開発途上であり、ほとんどの患者はADと誤診されている。」(山田正仁:認知症疾患の精度の高い早期診断を目指して. 最新医学 Vol.68 741-742 2013)と指摘しております。
 また、東京都健康長寿医療センター放射線診断科部長の德丸阿耶医師は、「海馬傍回萎縮をきたし認知症を惹起するAD以外の疾患、前述の嗜銀顆粒性認知症、海馬硬化症などが、ADと安易に誤診される場合も想定され、一般に広く普及してきたVSRAD[レジスタードトレードマーク]の有用性と問題点を把握することは大切である。」(德丸阿耶:MRIと病理. 老年精神医学雑誌 第24巻増刊号-Ⅰ 39-48 2013)と述べています。すなわち、きちんと臨床症状・経過を評価することなく、MRI画像診断の判定結果を重視してしまうと、AGDであるにも関わらず安易にADと診断されてしまうという問題点を有しているのです。
 しかしながら近年においては、PIB-PET(http://apital.asahi.com/article/kasama/2013032600015.html)などのアミロイドイメージングが可能な時代となっており、アミロイドβが有意に検出されなければ、アルツハイマー病を除外診断できるようになっております。ただし、シリーズ第93回『アルツハイマー病の治療薬 期待される根本治療薬』(http://apital.asahi.com/article/kasama/2013032700006.html)において説明しましたように、PET(ポジトロン断層法)アミロイドイメージングに関する適正使用指針において示された適切な候補者の3条件のうちの1つは、「進行性の認知機能の低下がある65歳未満の人」でしたね。高齢発症の認知症患者さんに対してアミロイドPETが実施されることは基本的にはないのが今の現状です。
 国立精神・神経医療研究センター病院臨床検査部医長の齊藤祐子医師は、AGDの臨床的特徴として以下の4点を挙げております(齊藤祐子、村山繁雄:嗜銀顆粒性認知症の鑑別診断. 最新医学 Vol.68 820-826 2013)。
①高齢発症であること。
②初発はもの忘れの症例が多いが、ADと比べ、頑固さ、易怒性など、前頭側頭型認知症と共通点があること。
③進行は緩徐で、MCI に比較的長期間とどまり、ADLも保たれる傾向がある。
④塩酸ドネペジルの効果は限定的で、いわゆるノンレスポンダーのことが多い。
 上記のような特徴を持った認知症患者さんを診療した際には、AGDを念頭において診療に臨むことが肝要と言えそうですね。
 【https://medqa.m3.com/doctor/showForumMessageDetail357644.do


2013.3.27公開
 http://apital.asahi.com/article/kasama/2013032600015.html
ひょっとして認知症? 第92回『アルツハイマー病の治療薬 アルツハイマー病、発症まで20~30年』
 アルツハイマー病(AD)は、アミロイドβというタンパク質が脳内に過剰に蓄積することが発症の引き金になると考えられています。
 少々専門的な用語を用いて発症機序について説明しますがこれからも度々登場する用語になりますから頑張ってお付き合い下さいね。
 認知症の発症は、アミロイドβ前駆体タンパク(APP)→アミロイドβタンパク産生→アミロイドβタンパク(Aβ)が凝集し、アミロイドβオリゴマーと呼ばれる毒性の強い浮遊する凝集塊となる→アミロイドβの沈着(老人斑)→神経原線維変化→神経細胞減少→認知症発症という機序で起こると考えられています。
 アミロイドβの沈着は40歳代以降に始まっており、ADを発症するまでには20~30年の歳月を要することが分かっております。
 神経原線維変化に先立ってアミロイドβの蓄積が起きるため、アミロイドβによる神経細胞への悪影響が神経細胞死の原因としてより根本的であるとする考え方は、「アミロイド・カスケード仮説」と言われており、アルツハイマー病発症の機序として現在最も広く受け入れられている考え方です。

 27年ぶりに改訂され2011年4月に発表されたNIA/AAによる新しい診断基準では、アルツハイマー病(AD)は、ADによる認知症(dementia due to AD)、ADによる軽度認知障害(MCI due to AD)、発症前段階のAD(Preclinical AD)の3段階に分けられています。
 バイオマーカー(髄液Aβ42)、陽電子放射断層撮影(positron emission tomography;PET)によるアミロイドイメージング(アミロイドPET)などを駆使して、アルツハイマー病に特徴的な所見が検出されたら、臨床症状がみられなくても病気(Preclinical AD)に組み入れることになりました。
 京都府立医科大学大学院医学研究科分子脳病態解析学講座の徳田隆彦准教授は、「髄液中Aβ42がADと正常対照者を鑑別する最も良い指標であり、感度96.4%、特異度76.9%であった。…(中略)…p-タウ181は認知機能の低下を反映する可能性がある。」というデータを紹介しています(徳田隆彦:認知症のCSFマーカー診断. 綜合臨牀 Vol.60 1891-1899 2011)。
 また、徳田隆彦准教授は、「11C-PIB-PETでのアミロイド沈着陽性所見は、髄液中のAβ42、Aβ40、t-タウ、p-タウ181の中で、髄液Aβ42レベルの低下と最もよく一致(91%の一致率)していた。PIB-PETによるアミロイド定量値は、より安価な検査である髄液Aβ42値に変換できることが指摘されている。」(徳田隆彦:認知症の診断─認知症の診断バイオマーカー. 医薬ジャーナル Vol.48 1978-1983 2012)と述べています。
 さらに、徳田隆彦准教授は、「最近の研究からは、ADにおける神経細胞障害は、沈着したアミロイド線維ではなく、可溶性のAβオリゴマーによって惹起されるという考えが主流となっている。筆者らも、高分子量のAβオリゴマーを特異的に検出するBAN50-SAS-ELISAを開発し、AD患者群で有意に増加していること、および髄液Aβ42よりも高い弁別能力で鑑別できること、さらに認知機能障害の重症度と有意な負の相関を有していることを示した。」(一部改変)と報告しています(徳田隆彦:認知症の診断─認知症の診断バイオマーカー. 医薬ジャーナル Vol.48 1978-1983 2012)。
 2012年4月の診療報酬改定により、脳脊髄液のリン酸化タウ蛋白(メモ1参照)の測定が、1患者につき1回に限り算定可(680点)となりました。詳細は東北大学のウェブサイト(http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2012/04/news20120404-02.html)などをご参照下さい。

メモ1:リン酸化タウ蛋白
 アルツハイマー病では、二次性にタウ蛋白も蓄積します。アミロイドβがGSK-3βという物質の活性化に関与し、そのGSK-3βによってリン酸化されたタウ蛋白は微小管結合能を失い微小管が崩壊し、神経細胞死が引き起こされると考えられています。また、高度にリン酸化されたタウ蛋白が重合すると、神経細胞内でpaired helical filaments(PHF)を形成し、それが蓄積し神経原線維変化を生じることが知られています。
 脳の虚血は、タウ蛋白質のリン酸化を促進させることが指摘されており(下門顕太郎:生活習慣病と認知症─動脈硬化・成因. MEDICINAL Vol.2 No.9 36-41 2012)、また、糖尿病モデル動物では、タウのリン酸化の亢進が複数報告(里 直行:生活習慣病と認知症─糖尿病・インスリン抵抗性. MEDICINAL Vol.2 No.9 64-70 2012)されております。
 東京医科大学病院老年病科の羽生春夫教授は、「最近の大規模疫学研究から、糖尿病患者ではアルツハイマー病(AD)の発症リスクが約2倍と高いことが示されている。さらに、インスリン抵抗性、インスリンシグナル伝達の障害、高インスリン血症が脳内のアミロイドβ蛋白の沈着やタウのリン酸化を介してADの病理学的変性過程を促進する機序が、最近の研究から明らかになってきた。」と報告しています(羽生春夫:生活習慣病と認知症─糖尿病性認知症の臨床と治療. MEDICINAL Vol.2 No.9 79-86 2012)。

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 2014年5月30日に開催されました第3回Mie AD Symposiumに、朝田隆教授(筑波大学臨床医学系精神医学)、羽生春夫教授(東京医科大学病院老年病科)が講師として来津されました。羽生春夫教授は糖尿病性認知症に関してもご紹介して下さいました。

1 糖尿病性認知症の症状の特徴:
  注意障害は強い
  遅延再生障害は軽い
2 糖尿病性認知症の自験7例のPiB PET(アミロイドイメージング)結果:
  陽性:3例
  +/-:2例
  陰性:3例

私の感想:
 陽性例があると言うことは、アルツハイマー病と血管性認知症の混合型があるように、アルツハイマー病と糖尿病性認知症の混合型があるということになるのでしょうね。

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 糖尿病患者はボケることが多く、Ⅱ型糖尿病にかかっている人の場合、ボケるリスクが1.2~2.3倍になることがわかっています。
 糖尿病がボケるリスクを高めるのは、血管がぼろぼろになってしまうことが大きな原因だと考えられます。脳の中では神経の突起に沿って微小血管が伸びており、これらの血管が詰まってしまうと、神経突起も短くなってしまうのです。
 もう一つの原因は、インシュリンの働きが悪くなることで、脳の老化が促進される点にあります。インシュリンの働きが落ちるとGSK-3β(グリコーゲン・シンテース・キナーゼ 読み:ジーエスケースリーベ一タ)という酵素の活性が上がり、それによってタウというタンパク質が悪いタンパク質になり、神経原線維変化が進んでしまうのです。
【髙島明彦:淋しい人はボケる─認知症になる心理と習慣 幻冬舎, 東京, 2014, pp25-27】


2013.3.28公開
 http://apital.asahi.com/article/kasama/2013032700006.html
ひょっとして認知症? 第93回『アルツハイマー病の治療薬 期待される根本治療薬』
 Preclinical ADに関しては、現時点では臨床現場での超早期診断を念頭に置いて提唱されているわけではなく、あくまでも臨床治験などの研究で用いることが前提となっています。
 期待された多くの根本治療薬は、臨床試験において実薬群とプラセボ群との間に有意差が認められず治験が不成功に終わっています。根本治療薬の治験が成功しないことの要因として、「多くの研究者が心の中で思っていることの一つは、根本治療薬の投与時期が遅すぎるのではないか」(荒井啓行:序文─先制医療と認知症予防の展望─. 日本臨牀 Vol.69 Suppl8 1-6 2011)という点です。
 初期ADであっても、アミロイドの蓄積と広範な神経細胞死が既に生じており、その段階で根本治療薬を投与しても遅いのではないかという考えに立って、「Preclinical AD」という概念が導入されてきたわけです。
 東京都健康長寿医療センター研究所附属診療所の石井賢二医師は、Preclinical ADの研究を通して、アルツハイマー病の根本的な克服に向けた発症予防・遅延研究が進んでいくという大きな意義を認めつつも、臨床症状が認められなくとも病気(Preclinical AD)に組み入れることの問題点について言及しております(石井賢二:アミロイドイメージングの現状と有用性. 神経内科 Vol.77 597-605 2012)。
 「まず第一に、preclinical ADという言葉が独り歩きすることの倫理的問題である。健常者におけるアミロイド陽性所見が発症のリスクとしての正確な評価が得られていないにもかかわらず、発症が運命づけられているかのように誤解されることは、新しい診断技術が普及する過程で起こりうることである。また、この検査結果が社会的『差別』を生む可能性も指摘されている。保険料が高くなったり、社会的地位から排除されたりする可能性がないとはいえない。リスクとしての評価が定まり、なんらかの発症遅延法が確立されるまでは、みだりに『検診』として用いるべきではないし、結果の開示や取り扱いについても十分な配慮が必要である。
 第二点として、この診断基準のストーリーに乗らない症例を見出して検索することも、病態理解や治療法の開発の上で、重要な意味を持つと考えられる。すなわち、アミロイド陽性所見があっても、神経変性のプロセスが始まらないあるいはきわめて緩徐にしか進行しない例が存在することはすでにある程度知られている。このような症例は、おそらくアミロイド抵抗性の因子を持っていると考えられる。このような抵抗因子の検索も治療予防法の開発に結びつく可能性がある。」
 このような背景もあって、米国核医学分子イメージング学会(SNMMI)と米国アルツハイマー病協会は2013年1月28日、アルツハイマー病の診断技術として注目されているPET(ポジトロン断層法)アミロイドイメージングに関する初めての適正使用指針を発表し(First guidelines published for brain amyloid imaging in Alzheimer's)、米国アルツハイマー協会発行のAlzheimer's & Dementia誌(http://www.alz.org/news_and_events_60578.asp)、The Journal of Nuclear Medicine誌(http://interactive.snm.org/index.cfm?PageID=12318)に掲載しました。
 今回の指針内容を簡単にご紹介しましょう。
 PETアミロイドイメージングはアルツハイマー病の診断に有益な手法となると指摘しつつも、PETアミロイドイメージング実施の前に、必ず医師による認知機能の検査を実施することが重要であることを強調しました。
 その上で、適切な候補者の条件を3つ示しました。
1 説明の付かない記憶機能の問題がある人。記憶、認知機能の標準的テストで障害が認められる人。
2 テストでアルツハイマー病を疑われる人で、診察では典型的なアルツハイマー病に該当しない人。
3 進行性の認知機能の低下がある65歳未満の人。
 また、検査の意義のないケースも2つ示しました。
1 患者が65歳以上で標準的なテストによりアルツハイマー病であると明確であるケース(追加的な価値が乏しいため)。
2 無症状の人で、認知機能の訴えがあるが臨床的には障害を認められない人。
 さらに、実施が不適切と考えられる条件として、「認知症の重症度判定、家族歴や危険因子があるだけでの検査、遺伝子検査の代替としての実施、非医学的な理由(保険や法的、雇用)では実施すべきではない」と報告しております。
 最初に述べましたように、「Preclinical ADに関しては、現時点では臨床現場での超早期診断を念頭に置いて提唱されているわけではなく、あくまでも臨床治験などの研究で用いることが前提」となっていることをしっかりと肝に銘じて下さいね。


2013.3.7公開
 http://apital.asahi.com/article/kasama/2013030600003.html
《73》軽度認知障害 軽度認知障害から認知症への進展
 さて、軽度認知障害(MCI)と診断された患者さんを追跡しますと、4年間で48%(1年あたり平均12%)が認知症を発症します(Bowen J et al:Progression to dementia in patients with isolated memory loss. Lancet Vol.349 763-765 1997)。また、Petersenらは、MCIと診断された人はその後1年間に約12%が認知症となり、6年間で約80%が認知症になったと報告しています(Petersen RC et al:Current concepts in mild cognitive impairment. Arch Neurol Vol.58 1985-1992 2001)。
 コンバートとは、MCIからADなど認知症へと進展することであり、その率がコンバート率です。
 2012年2月18日名古屋で開催された「デメンシアコングレスJAPAN 2012」には、東京大学大学院神経病理学の岩坪威教授が来られ講演されました。J-ADNI主任研究者である岩坪威教授は、J-ADNIにおける最新のコンバート率についても言及し、1年間の経過観察期間中に29.6%がコンバートし、従来の報告よりも随分と高率であったと報告されました。

 因みに認知症をめぐる大規模疫学研究として有名な「ボルチモア老化縦断研究」によれば、「軽度認知機能障害(MCI)からアルツハイマー病にコンバートするまでに要する期間の中央値は4.4年であった」(飯島 節:ボルチモア老化縦断研究. 日本臨牀 Vol.69 Suppl8 587-593 2011)ことが報告されています。
 MCI段階で留まっているのかADに進展したのかを判断する基準は、「生活自立能力」の有無です。学術的にはコンバートの判定は、Mini-Mental State Examination(MMSE)、Clinical Dementia Rating(CDR;メモ1参照)、ウェクスラー記憶検査改訂版(Wechsler Memory Scale-Revised;WMS-R)の論理記憶(メモ2参照)という3つの認知機能検査を総合的に勘案して評価されます。
 しかし、MMSE、CDR、WMS-Rだけでは決め手に欠けるケースがあることも事実です。ですから、生活自立能力の有無を正確に判断するためにも、本人の家に行き、実際の生活の様子を確認するという視点が重要となってきます。
 
メモ1:Clinical Dementia Rating(CDR)
 CDRは臨床認知症尺度と呼ばれ、記憶、見当識、判断力と問題解決、地域社会活動、家庭生活および趣味・関心、介護状況の6項目から構成されます(http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/CDR.jpg)。
 それぞれの項目について患者およびその家族などから聞き取り調査を行い、5段階で重症度を判定します。
 5段階とは、CDR0(正常)、CDR0.5(軽度認知障害Mild Cognitive Impairment;MCI)、CDR1(軽度認知症)、CDR2(中等度認知症)、CDR3(重度認知症)です。
 具体的なCDRの判定方法は、先ずは各6項目のそれぞれの項目ごとに5段階で重症度(CDR0~3)を評価します。各項目を評価した後に、最終的には1つの段階に当てはめます。
 記憶が1次項目であり、残りの項目は2次項目となります。1次項目の評点と2次項目のうち3つ以上が同じ評点であれば、CDRは1次項目の評点になります。ただし、1次項目の評点よりも、2次項目の評点が高いか低い場合、3つ以上同じ2次項目の評点がCDRの評点となります。

メモ2:ウェクスラー記憶検査改訂版の論理記憶
 MCIの診断には、WMS-Rの論理記憶が標準的に用いられます。これは、検者が話す短い物語を聞いて、直後にそのまま再生する即時再生と、30分経過してから再度再生してもらう遅延再生があります。「会社の食堂で/調理師として/働いている/北九州の/上田恵子さんは、/…」と25の部分に分かれている文章を聞きながら暗記してもらい、被検者が再生した文章を25点満点で採点します。二つの物語で合計50点になります(山口晴保:認知症の正しい理解と包括的医療・ケアのポイント第2版 協同医書出版社, 東京, 2010, p226)。
 Logical memoryⅡ(論理記憶Ⅱ;遅延再生)の最高得点は、50点です。J-ADNIにおけるMCIの診断基準の一つとして、教育年数16年以上の方の場合には、Logical memoryⅡが「8点あるいはそれ以下」という条件があります。

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 MCI(軽度認知障害)を予防することが、認知症予防の基本です。
 MCIで衰えるのは、①エピソード記憶機能、②注意分割機能、⑨実行機能(計画力)の3つの機能ですから、それぞれの機能の維持・向上がキーになります。
 ①のエピソード記憶機能とは、「昨日の夕食の内容」など体験そのものを銘記する力と、それを再生する力のことです。エピソード記憶機能を鍛えるには、単語、文章や図形などの暗記が効果的です。これには何か動機がないと長続きしませんから、趣味の仲間と会話を継続的に楽しむ機会を持ったり、検定や資格などにチャレンジするなど目的をつくります。ただチャレンジして資格・検定をとったらそれで終わりでは何にもなりませんから、その後、資格を役立てるような仕事、ボランティアをしたり、趣味の仲間を持ち、人間関係をつくります。
 もう少し簡単に行えるものは、日記や、家計簿、趣味などの記録をつけることです。「このことを日記に書こう」と思ったり(銘記)、その日のことを思い出しながら日記をつける(再生)という、銘記と再生を繰り返す習慣をつくることです。
 ②の注意分割機能とは、いくつかの対象に注意を振り分けたり、注意を切り替える機能です。誰にでもできるものとして、「会話しながら歩く」があります。会話しながら前方へ注意を向けるためには聴覚や視覚など2つ以上の注意力を要します。簡単なことなのですが認知機能の低下とともに難しくなります(歌いながら歩くというのは認知機能がかなり衰えても可能で、またリハビリとしても有効です)。
 ③の実行機能とは、先を予想して手順を組み立て、ものごとを遂行する能力ですが、中でも手順を組み立てることが重要です。
 料理、パソコン作業、旅行など複雑な手順が必要なものはすべてこの機能を高めます。囲碁、将棋、麻雀などのゲームは、先を読みながら手順を考えるいいトレーニングになります。もちろん、園芸、陶芸、絵画、演奏など芸術的で能動的な活動も実行機能を高めます。他者と協働することでさらに複雑な実行機能が必要になり、また喜びも倍加することは多くの人が経験していることであると思います。
【長谷川和夫:よくわかる認知症の教科書 朝日新書, 東京, 2013, pp124-126】yobou

ココナツ油 宣伝に根拠無し―「認知症やガンを予防」 [認知症]

ココナツ油 宣伝に根拠無し
 「認知症やガンを予防」
 販売会社に措置命令

 消費者庁は31日、「認知症やがんを予防する」と宣伝して食用ココナツオイルを販売したのは根拠が認められず、景品表示法違反(優良誤認)に当たるとして、食品関連会社「ココナッツジャパン」(東京)に再発防止を求める措置命令を出した。
 消費者庁によると、不当な表示があった商品は「エクストラバージンココナッツオイル」とする液状の瓶詰めタイプなど2種類。2014年3月~昨年11月ごろ、自社ウェブサイトで「ココナッツオイルで認知症の予防・改善」「ガン予防」などと表示して販売した。
 だが同社が消費者庁に提出した資料では、効果を裏付ける合理的な根拠は認められなかったという。同社は取材に「社内態勢を改善し、同様のことを起こさないよう取り組む」としている。
 【2016年4月1日付日本経済新聞・社会】

認知症社会─何もできない人じゃない [認知症]

何もできない人じゃない
 「病気でも希望はある」
 「一緒に楽しいことを」
 「いまも小説書きたい」

 認知症になると、何もわからなくなる。そう思われてきたが、認識は変わりつつある。認知症の人たちが自らの思いを国や自治体に届ける動きが出てきた。その声を聞いて街づくりに生かそうとする取り組みも始まっている。

 認知症の人たちが中心メンバーの「日本認知症ワーキンググループ」は2月、「認知症の本人からの提案」を公表し、厚生労働省などに提出した。「認知症の施策や取り組みを企画する過程で、私たちの声や力を活かして下さい。私たちと一緒に進めていきましょう」と自治体に要望するなどしている。
 同グループは一昨年に11人で発足。設立会見で共同代表の一人は「『何もわからない人、できない人』と見られる。自分たちの声で変えたい」と語った。

患者の声生かす
 積極的に認知症の人の声を採り入れようとしている自治体に京都府宇治市がある。昨年3月、「認知症の人にやさしいまち・うじ」を宣言した。「認知症の人が自ら語り、心豊かに暮らしている姿は、わたしたちの未来を明るく照らす道標になります」とうたい、実現に向けて認知症の人や家族の声を政策に反映させるという。
 市はこれまでも、認知症の人の支援に力を入れてきたが、認知症の人が医療・介護サービスの利用者や患者である前に、同じ町に暮らす生活者だ、という視点が欠けていたと気づいた。
 まず、認知症の本人と家族の思いを知るため、冊子「旅のしおり」を作った。診断されてからの日々を旅に見立て、本人らの文章を紹介。「この先何をしていいのか? どうして生きていくのか? わからなくて、つらかった」「認知症になっても、元気で楽しく生活していることを同じ病気の人に知らせたい」などを載せた。

生活全般目配り
 医療・介護の分野だけでなく、周りの住民らが同行して外出や買い物をしやすくするなど、生活全般に目配りするのも取り組みの特徴だ。今月1日には、小売店や金融機関、タクシー会社など8社が会議に参加し、認知症の人に話を聞いた。21日の市の認知症フォーラムでは、案内役を店に置くことなどが提案された。市は地場産業である宇治茶の手摘みを、認知症の人に担ってもらう可能性も探っている。
 こうした市の動きに、2年前にアルツハイマー病と診断された同市の中西美幸さん(63)も、夫の俊夫さん(63)と協力してきた。美幸さんは「もっとおしゃべりしたい」。街に毎日通える認知症カフェができることを望む。利用するのではなく、「ウェートレスをするんや」と夢見ている。
 府立洛南病院がデイケアの一環として始めたテニス教室に夫妻で通うのが楽しみだ。ここで仲間と出会い、花見や紅葉狩りなどにも出かけるようになり、美幸さんに笑顔が増えた。

■鳥取市・藤田和子さん(54)
藤田和子さん.jpg
 「日本認知症ワーキンググループ」の共同代表を発足当初から務める。
 アルツハイマー病と診断されたのは2007年。その後、看護師の仕事をやめた。認知症の人を一人の人間として受け入れる社会になるよう活動したいと思い、「若年性認知症問題にとりくむ会」を仲間と立ち上げた。それがワーキンググループへとつながった。
 役割があってうれしい半面、今の状況については「黒っぽい、灰色の世界にいる。日中自宅に1人でいると、ものすごく長い間、1人でいると感じる」と説明する。周りの人には「遠慮せずに本人のところに行き、一緒に楽しいことができないか考えて、働きかけてほしい」という。
 「きょうは友達がくる。明日は一緒に買い物に行く……。希望のある目標があれば、気持ちを奮い立たせて、元気でいよう、家を片付けようと思える」

■京都・八幡市 山中宗一さん(78)
 退職後に一緒に地域活動や旅行を楽しんできた妻が3年前に亡くなった。その後、ごみの日を間違えたり、庭にまいた水の蛇口を閉め忘れたり。会話の内容が記憶に残らないと自覚するようになり、昨年10月に診察を受けると、認知症だった。「光が消えた気持ちになった。神様、私が何か悪いことをしましたかと」
 年明けから、大阪府枚方市にあるデイサービス「デイサロンあさひ」に通い始めた。音楽の時間は、音楽療法士らスタッフがピアノやフルート、ギターを奏でる。それに合わせてほかの利用者と歌い、ハーモニカで合奏もする。合唱団歴は30年。今もテノールの高い音が出せる。
 「ここに来ると、本格的なクラシックの曲に、大好きなヨハン・シュトラウスやシューマンにも、会えるんです。病気になっても、希望はあると伝えたい」

■静岡・富士宮市 佐野光孝さん(67)
 営業マンだった58歳のとき、認知症と診断された。落ち込んだが、観光案内所のボランティアなどをきっかけに、少しずつ認知症を受け入れた。悩んでいる人の参考になればと各地で講演し、「認知症になってもできることはたくさんある」と伝えてきた。妻・明美さん(63)との講演は80回を超えた。
 いま一番の楽しみは週2回、近くの福祉会館で卓球をし、スマッシュを決めることだ。週3回は介護用品をつくる地元の工房で働く。認知症になって再開したギターの練習も日課だ。「自分が好きなことやるのが一番いいだよ」
 今月6日に開かれた全日本認知症ソフトボール大会には、地元チームの4番で出場した。周りから「がんばって」「かっこよかった」と声がかかった。明美さんに普段から言っている。「人と会うのがいい。たくさんの人と話したい」

■宇都宮市・福本知恵子さん(75)
 約10年間介護した認知症の夫を昨年末に亡くした。その直後、自分も認知症と診断された。
 車の運転ができなくなり、夫と一緒に通っていた認知症の家族会に行くのが大変になったが、メンバーが送り迎えすると言ってくれている。
 「車をこすったり、エアコンを消し忘れたり、おかしいなと思うことはあったから、早くわかってよかったわ。認知症だった夫の気持ちが今になってわかる気がするの」
 日々の暮らしは変わらない。毎朝5時すぎに起きてラジオ体操をする。3度の食事の用意、掃除に洗濯、買い物、庭の草むしり。玄関に花を生け、奉仕活動にも参加する。「前進あるのみ。くよくよしても仕方がないからね。私は私なりに、明るく生きていくのが一番いいと思っています」

■東京・町田市 鈴木克彦さん(82)
 長くデザイン関係の仕事をしてきた。1年前に認知症と診断された後も、外出時はメモ帳を何冊も持ち歩き、頭に浮かんだ言葉を書き留める。メモ帳は自分で紙を切ってテープを貼って作った。表紙に「忘れないうちに新鮮なうちに記入」「まあ後でいいや。は忘れてしまう」などと自身に向けた言葉が並ぶ。
 かつて同人誌に詩やエッセーを執筆していたこともある。「いまも小説を書きたい気持ちがあります。できるかどうかわからないけど。何か書いていないとダメなんです」。仕事で使っていた「すずき」という自分の名前入りの原稿用紙をずっと愛用している。
 思い描くテーマの一つは鈴木さんが20代のときに亡くなった母のことだ。「認知症になった後の自分のことも書いてみたい。みなさん心配するけど、ごくごく普通に生きていられます」

■北海道・恵庭市 波多野和さん(91)
 認知症の人と走り、日本を縦断するイベント「RUN伴(ランとも)」のプロモーション動画に出演している。撮影から約4カ月後の今月半ば、グループホーム長の寺沢道恵さん(41)がスマホで再生し、「覚えてる?」と尋ねると、「みんな忘れてる」と笑った。
 80代半ばまで、今は亡き夫が営む紳士服店を手伝い、その後に妄想などが出始めた。「認知症を恥ずかしいとは思わない。代わりにみっちゃん(寺沢さん)が思い出してくれるから安心。ここでご飯の支度して、お店に買い物に行って。それが一番楽しいね」
 「ランとも」は、NPO法人「認知症フレンドシップクラブ」が開催する。昨年は650人余の認知症の人が参加した。今年は6月に北海道を出発し、沖縄までたすきをつなぐ。寺沢さんに初参加を促され、「うれしいこと言ってくれるね。まだなんでもできる。走れる!」。
 【2016年3月27日付朝日新聞・社会─認知症社会】

P.S.
 社会面で随時掲載されてきた「認知症社会」は今回で終了だそうです。

若年認知症の特徴 [認知症]

高齢者の認知症との違い
 若年性認知症は、医学的には老年期の認知症と同じですが、次のような特徴があります(小長谷陽子:渡邉智之、小長谷正明:若年認知症の発症年齢、原因疾患および有病率の検討―愛知県における調査から―. 臨床神経学 Vol.49 335-341 2009)。
若年性認知症の特徴.jpg

発症年齢と気づき
 発症年齢が若いことは前述した定義のとおりです。男性に多いことも高齢者とは異なる特徴であり、そのために就労に関することをはじめ、さまざまな課題が出てきます。
 最初に気がつく症状としてはもの忘れが多く、行動や性格の変化、言語障害などもみられます。判断力や実行機能が低下するので、仕事の手順や段取りが悪くなります。イライラしたり、怒りっぽくなったり、気分が落ち込むこともあるため、うつ状態と考えられてしまうことも多々あります。
 もの忘れによる仕事のミスや家事が下手になることで、本人や家族は「何かおかしい」ことには気づきますが、認知症であるとは思わず、受診が遅れることがあります
 【小長谷陽子:若年性認知症者の実態と支援体制. COMMUNITY CARE Vol.18 54-57 2016】

急増する認知症患者 どう対応?―診療報酬6 [認知症]

急増する認知症患者 どう対応?

 急増する認知症に対応するため、今回の診療報酬改定では、認知症の人を継続的に診療する「主治医」への報酬を増やした。外来で患者を診た場合に月1回1万5150円が入る。
認知症-診療報酬.jpg
 ただ、主治医になるには、在宅医療が可能な医療機関に所属し、認知症以外にも病気やけがが1種類以上ある患者を診られることが条件となる。認知症の人は、別の病気も同時に抱えていることが多い実態を踏まえた。もちろん、主治医になることを患者側に説明し、同意を得なければならない。
 主治医には、薬の処方を必要最低限に抑えることも求められる。複数の病気があると薬の種類が増えがちで、種類が増えれば副作用も出やすくなる。主治医として患者の状態を総合的に診ることで、不要な薬を減らす役割も期待されている。
 認知症の人の治療をめぐっては、がんや骨折などで入院治療が必要になっても、病院から断られることが問題になっている。主な理由は、認知症の人は院内を動き回ったり、点滴のチューブを抜いてしまったりすることがあり、ケアにかかる労力が大きいためだ。
 今回の改定には、この間題を改善する狙いもある。体の病気やけがの治療のために認知症の人の入院を受け入れ、医師や看護師、社会福祉士らによるチームでケアをし退院に向けた支援などをした場合に、1日1500円(14日以内)の報酬がつくようにした。
 また厚労省は、診断や治療が難しい認知症患者に対応する「認知症疾患医療センター」を、現在の約300カ所から17年度末に約500カ所にする目標を掲げる。診療所はセンターに指定されても、大学病院や精神科病院と違って報酬の対象外だったが、出るように改めた。(武田耕太)
 【2016年3月25日付朝日新聞・総合5―教えて!?・診療報酬6】

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