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朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第807回『感情に配慮したケアを─(最終回)診察室ではメモをどうぞ』 [ひょっとして認知症?]

朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第807回『感情に配慮したケアを─(最終回)診察室ではメモをどうぞ』(2015年3月29日公開)
 認知症に関する知識が何もない暗闇の中では、「情報」という一筋の光はひときわ大きな力を発揮します。私自身、患者さん・ご家族の「正確な医療情報を知りたい」という気持ちをごくごく自然に共感できますので、医療情報公開というライフワークに精力的に取り組んできました。
 医療情報普及のためには、インターネットは極めて大きな力を発揮します。因みに、日本初のホームページ(HP)は、1992年9月30日に茨城県つくば市にある文部省高エネルギー物理学研究所計算科学センターの森田洋平博士によって発信されたそうです(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E6%9C%80%E5%88%9D%E3%81%AE%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8)。
 私がHPを開設したのは、その4年後の1996年6月23日です。1996年8月23日付朝日新聞・家庭面においては、「インターネットで気軽に痴ほう症診断」というタイトルで私のHPが写真入りで紹介されました。
 私は当時、自身のHPにおいて、いくつかの簡易認知機能検査をご家族が実施できるように分かりやすく解説して紹介しており、斬新な試みとして注目を集めました。その目的は、医療機関を受診したがらない患者さんのご家族に使ってもらい、それをきっかけとして早期の受診に繋がればと願い試みたことです。何度も述べておりますように、認知機能検査の結果を自己判断することは危険ですので、最終的には医療機関を受診しきちんと診断を受けることが大切です。
 ネットを活用して医療について分かりやすく情報提供していくことは非常に大切なことだと私は考えております。そして、診療現場において大切なことは、医師が話しやすい雰囲気を醸し出すことです。以前にも述べましたように、診察の最後に確認すべき「大切なひと言」、それはきっと「ご質問はないですか?」のひと言なのではないかと私は思っています。
 私が皆さんにお勧めすることは、診察室で「メモを取る」ことです。メモを自宅で読み返してみて疑問点が出てきたら、インターネットを活用して調べるのです。そして次回診察の折に質問して、自分自身の理解が間違っていないかどうかを確認し、病気に関する理解を深めていくのです。もし担当医師の電子メールアドレスを知っていれば、メールで質問することも可能でしょう。私も、担当患者さんの介護者の方より時折、電子メールにて相談を受けます。
 ご家族にメールのアドレスを伝えて、スムーズに情報交換していこうという試みを実践している医師は極めて稀ではありますが、洛和会京都新薬開発支援センター(http://www.rakuwa.or.jp/chiken/index.html)の中村重信所長(元・広島大学大学院脳神経内科教授)も実践されているようです。そのことが論文においても紹介されておりますので、以下にご紹介します。
 「患者さんの目の前では家族の方も言いにくいことがあるでしょうから、私は家族の方とメールアドレスを交換してメールでやりとりをしています」(中村重信:ガランタミンの1年の使用経験. Geriat Med Vol.50 611-620 2012)。

 NPO法人ささえあい医療人権センターCOML(http://www.coml.gr.jp/)の山口育子理事長は、医療現場にあふれる非常識について以下のように言及しており、インフォームド・コンセントの面においては、医療者から積極的に「メモを取って」と声を掛ける配慮が大切であると指摘しています(山口育子:コミュニケーション、本当に取れていますか? 意外!な患者のキモチ. 月刊保団連2012.5 通巻1098号 11-16)。
 「医療現場のコミュニケーションは非常に特殊です。一般社会と照らし合わせてみると、“非常識”がいっぱいまかり通っています。例えば、一般社会における人間関係の始まりは、あいさつや自己紹介です。しかし、医療現場ではそれらを飛び越えて『今日はどうされましたか?』と本題から入ります。
 さらに、『本日、○○先生は学会にご出席のためいらっしゃらないので、代診の先生が診てくださいます』といった具合に、組織の内部の人間に敬称をつけ、敬語で話すのが医療現場の常識です。一般社会では非常識どころか、あり得ない対応です。しかし、医療者はもちろん、私たち患者も疑問の声をあげるどころか、『そんなものだ』と受け止めてきました。そのような医療界の雰囲気が、患者側の緊張を高めてしまう一因にもなっていたのではないでしょうか。
 とても簡単にできる患者・家族へのサポートとして、説明する場面では、医療者から積極的に『この文書を差しあげますから、どうぞメモを取ってください』『メモが難しければ、大事な部分に○をつけたり、アンダーラインを引いたりしておくと、あとから読み返したときに参考になりますよ』という言葉掛けをしていただきたいのです。医療者が考えている以上に、患者・家族は説明の場面でペンを取り出しメモをすることを躊躇します。実は、とても勇気が必要な行動なのです。しかし、医療者から積極的に勧めてもらえれば、精神的なハードルがぐんとさがります。いますぐ始められる患者・家族へのサポートとして、ぜひともお願いしたいと思っています。」(一部改変)

 私が認知症診療に取り組み初めてからずっと継続している大切な取り組みがあります。それは毎月1回、患者さんおよび介護者の方に、「もの忘れニュース」という一枚の文書を渡していることです。
 第1回のもの忘れニュースは、1998年の1月に配布開始したものであり、それから17年間以上に渡って継続しており、2015年3月号にて通巻207号となっております。
 さて、「ひょっとして認知症?」を執筆担当してから、自身のHPにおいて医療情報を発信することがほとんどなかったため、ホームページは開店休業状態となっておりました。時間に余裕ができましたら、ホームページ等を通して医療に関する情報発信をマイペースで地道に継続し、「医療情報公開」という夢を追って私なりに前向きに歩んでいきたいと思っております。
 患者さん・介護者にとって有益な認知症に関する情報を提供したいと願い、2010年9月28日よりこの「ひょっとして認知症?」のブログ更新に情熱を注いできました。長きに渡り筆者の連載におつき合い頂きましたことを、厚く御礼申し上げます。この辺りでひとまず「ひょっとして認知症?」の連載に幕を下ろしたいと思います。
 読者の皆様の日常的なケア、そして医療関係者の皆様の日常診療のお役に少しでも立つことができたのでしたら、筆者にとって望外の喜びでございます。

アリセプトの休薬期間は? [アルツハイマー病]

アリセプトでまずまず維持されてます(休薬事例のご紹介)
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=604703609699322&set=a.530169687152715.1073741826.100004790640447&type=3&theater

 本日の再診患者さんです。
 70歳代の女性の経過です。
 当初は一人で通院されてました。一時、改訂長谷川式認知症スクリーニングテスト(HDS-R)は30点満点まで回復した事例です。
 H25.12.13~H26.7.1、受診を中断されやや悪化。
 アリセプトを再開し、現在はまずまず維持されています。
 「よろしければ7月9日のD7にお越し下さいね」と声がけしておきました。

 なお、一般的には、アリセプトは休薬するにしても「6週以内で」と指導されることが多いと思いますが、この事例のように7か月休薬してもその後回復するケースはあるようです。


朝日新聞アスパラクラブ「ひょっとして認知症-PartⅠ」第13回『増えるかな! 認知症の薬』(2010年11月26日公開)
 認知症新薬の一つとして期待されていたガランタミンが承認されそうだという一報が飛び込んできました。
 アルツハイマー病の治療薬は、日本では、ドネペジル(商品名:アリセプト)という薬が唯一の薬剤です。しかし、2010年には、海外で普及している3種類の治療薬(メマンチン、ガランタミン、リバスチグミン)の承認申請がありましたので、2011年には販売開始となる可能性もあります。

 3種類の治療薬の特徴を簡単に述べます。
 ガランタミンはアリセプトより副作用がやや少ないことが期待されております。リバスチグミンはパッチ剤ですので、服用を拒否する傾向がある認知症患者さんには使いやすいタイプとなります。メマンチンは海外では主に中等度~高度の患者さんに用いられており、また、アリセプトとの併用でも有用性が認められています。

 今回は、認知症薬剤の有効率に関してお伝えしたいと思います。

 2001年5月3日付朝日新聞名古屋本社版・声に、「医療を支えるわずかな望み」という題名で以下のような投書がありました。
 「ドネペジルに関しては、須貝佑一先生が1999年11月24日付朝日新聞論壇で指摘しているように、過剰期待は禁物です。私は少数例ながらも著効例があることを報告しました。著効例は、わずか3%に過ぎません。しかしご家族からは、見違えるように良くなったと喜びの声が聞かれています。」
 この投稿者は私です。

 ドネペジルの薬効に関しては、第7回でも紹介しました。お忘れの方もおられると思いますので、少し復習しましょう。
 ドネペジルの効果は、1年程度進行を遅らせることが目的であり、進行を停止できるわけではありません。1年間服用後も飲み続けたほうが進行を緩やかにできるので、副作用がなければ、長期間服用することになります。ただし、すべての人に効果があるわけではなく、3~4割程度の方に有効な薬剤です。
 
 実は、ドネペジルの有効率はもっと高いという報告もあります。
 鳥取大学生体制御学・浦上克哉先生の報告では、改善した症状に関して家族から細かく聞き取り調査をして有効率を算出すると、有効率は48%であったそうです(CLINICIAN vol.54 No.563 1122-1129 2007)。
 詳しいデータをお知りになりたい方は以下をお読み下さい。
 http://www.e-clinician.net/vol54/no563/pdf/sp15_563.pdf

 へぇ~! そうなんだ! 検討方法が違うと有効率も違ってくるんだ! 有効率だけ見ていてもダメなんですね?!

 そう! だから医療情報を判断することは難しいんだ!

 笠間先生の「著効」ってどんな方なんですか?

 私は、投薬開始3か月時点で、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)が4点以上改善した症例を有効例として、HDS-Rの点数の改善に加えてご家族の印象としても著しく改善した場合を「著効例」としています。
 ドネペジルが非常によく効く方というのは、いったいどのような経過を辿るのか、簡単にご紹介します。

 81歳の女性は、1995年より認知症の症状が出現しました。1999年には家族の顔さえも分からなくなっていました。物盗られ妄想・徘徊・尿失禁なども出現し、2000年11月1日初めて私の外来を受診されました。初診時の改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)は30点満点中の10点でした。
 ご存じのように、介護保険制度は2000年4月に制度開始になりました。この方は制度が始まってまもなく認定されており、要介護判定は5段階中4番目に重い要介護4でした。
 ドネペジル開始後、話が理解できるようになったと家族より喜びの声が聞かれ、また徘徊も消失しました。投薬開始後3か月目のHDS-Rは、15点まで改善していました。しかし、2001年9月に、ご家族の体調不良で通院困難となり、家族の判断でドネペジルを中断したところ、症状はいっきに悪化しHDS-Rは8点まで低下しました。

 講演会やメール相談で、時折質問を受けることの一つに、「アリセプトはいつまで続けるのでしょうか?」という質問があります。

 この質問に対しては、私は次のように回答しております。
 「ドネペジルは、認知機能の低下を3~5年間抑制し続けると考えられています。可能でしたら服薬を継続した方が良いと思います。しかし、継続が困難でしたら一度中断してみて、症状の悪化がないことを確認すれば、中止を検討されても良いと思います。」

 えっ?! いったん開始した認知症薬剤が中止できることもあるの?

 はい! 手術などで薬が服用できず、中止せざるを得ない場合もありますからね!
 でも紹介したケースのように、中止するといっきに症状が悪化するケースもありますから、素人判断で中止することはやめて下さいね。

 では、再開するのであればいつまでに再開すれば問題ないのでしょうか。
 この点に関して、金沢大学大学院医学系研究科脳老化・神経病態学(神経内科)の山田正仁教授は、「6週以上の休薬では進行抑制効果そのものが消失する可能性がある」と指摘しています(日本医事新報 No.4410 69-73 2008)。最近では、可能であれば休薬期間は3週間以内にとどめるべきという意見もありますので、その辺りを目安に判断して下さいね。 

 アルツハイマー病は確かに不治の病です。しかし、私自身この3%という数字には支えられています。高齢だからと簡単に諦めずに、治療の道を模索して下さいね。

メモ: 改訂長谷川式認知症スクリーニングテスト(HDS-R)
 HDS-Rは、認知症のスクリーニングテストとしてわが国で開発されたもので30点満点です。


通院介助のヘルパー
投稿者:梨木 投稿日時:10/11/26 17:58
 著効のあった方がヘルパーと通院・服薬出来ていれば、ご本人様はもとよりご家族の介護負担も軽減されたのでは、と残念に思いました。

 その後、介護保険の改定で、医療機関内での付き添いに原則介護ヘルパーは認められなくなりましたが、ヘルパーが一旦帰って又お迎えに行くのも現実的でなく、私の勤務先では、その間自費ヘルパーだけれども割引料金で設定していました。
 ただ、利用者様が医師の説明を理解できない強度の難聴・認知症の場合、その理由を主治医様から書面で証明して頂いて、介護保険で対応できた例もありました。自治体で違うでしょうが。

 今後介護保険もどんどん制限が増え、創設の理念から離れて行くように見えます。
目の前の支出を少し抑えることで、かえって将来のQOLの低下、介護負担増、医療費増などに結びつくのではと心配しています。


Re:通院介助のヘルパー
投稿者:笠間 睦 投稿日時:10/11/26 22:05
梨木さんへ
 この方は、遠方から通院されていた方でした。
 通院を中断する前に、私の方に連絡して頂ければ良かったのですが・・。
 幸いこの患者さんの場合、その後介護者の方の体調が戻り、比較的早い時期に内服を再開できましたので、服薬中止前の状態に近い状況まで回復することが可能でした。
 コメントありがとうございました。


Re:Re:通院介助のヘルパー
投稿者:梨木 投稿日時:10/11/28 10:36
 良かったですね。
 ご家族様の状況が変わった時、ケアマネジャーや地域包括センターにご相談いただくと、手段があることをお伝えしたく書きました。

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