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薬剤性せん妄 [レビー小体型認知症]

朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第671回『転倒防止─風邪薬でも症状』(2014年11月13日公開)
 それでは実際にあった薬剤性せん妄の事例をご紹介しましょう。ごく最近受診された患者さん(93歳女性)は、風邪薬をもらってからボケが急に目立ってきたため、薬を処方してもらったかかりつけ医に相談しました。ところが、「風邪薬でボケることはない」と医師から言われたため、認知症を心配して私の外来を受診されました。
 処方されていた薬は、PL配合顆粒http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/1180107D1131_1_08/)というごく一般的な総合感冒薬です。この薬には実は、「プロメタジンメチレンジサリチル酸塩」という成分が含まれており、これは抗コリン作用を有しております。そのため、緑内障を悪化させたり、下部尿路に閉塞性疾患のある患者さんにおいては排尿困難を悪化させるおそれもあります。
 実は、抗コリン薬は、錯乱・幻覚・せん妄を起こすことがあることで比較的有名な薬でもあります。
 私は、「薬剤による影響も考えられますので、まずは薬を中止して様子をみましょうね」と説明しました。3日後に再診されました患者さんは、すっかり元気になっておられました。ご家族にお伺いしますと、「薬を中止したところ急速に改善し、元に戻った」という経過を辿ったことがわかりました。
 高齢者におきましては、少量の薬でも副作用が発生しやすいですので素人判断には特に注意を要します(http://apital.asahi.com/article/story/2013060500003.html)。特にレビー小体型認知症(DLB)の患者さんにおいては薬剤に対する過敏性が目立ち、風邪薬や抗うつ薬などにより副作用が発生しやすいですので厳重な注意が必要です。
 八千代病院(愛知県安城市)神経内科部長の川畑信也医師も著書において、PL配合顆粒という総合感冒薬によって薬剤性せん妄が誘発された事例を紹介しており(川畑信也:事例で解決! もう迷わない認知症診断 南山堂, 東京, 2013, pp89-93)、PL配合顆粒3.0g分3を服用後にせん妄を生じた事例を複数経験していると述べておられます。
 ちょうどよい機会ですので、精神症状を引き起こすことがある主要な薬剤をご紹介しておきましょう(編集/朝田 隆 著者/池田研二・入谷修司:誤診症例から学ぶ 認知症とその他の疾患の鑑別. 医学書院, 東京, 2013, pp65-66)。
   薬剤             現れやすい精神症状
 ステロイド          躁状態、抑うつ、不安、急性精神病状態
 インターフェロン       躁うつ、幻覚妄想、不安、焦燥
 レセルピン          うつ病
 抗コリン薬          錯乱、幻覚、せん妄
 バルビタール         興奮、幻視、抑うつ、せん妄
 H2ブロッカー(潰瘍治療薬) 不眠、うつ状態、幻覚
 ジギタリス          錯乱、せん妄
 三環系抗うつ薬        幻覚妄想、せん妄、易刺激性
 メチルエフェドリン(咳止め) 幻覚妄想
 ACE阻害薬(降圧薬)      抑うつ、躁状態、不安、幻覚

 今回示した事例のように、急速に進行する認知症患者さんを診察した際には、薬剤性せん妄の可能性を念頭において診療を進める必要があります。

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