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嗅覚障害 [レビー小体型認知症]

……2014年8月12日 臭覚障害の実験
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 臭覚と認知症について調べていて、ピーナッツバターと定規でアルツハイマー病の早期発見をするという研究があることを初めて知った。既にこの春に 『ためしてガッテン』などで紹介していた様子。臭覚低下に左右差があり、左の方が、低下が強いという。
 ピーナッツバターを使ってやってみた。右18cm。左10cm。三叉神経を刺激しないからピーナッツバターが良いのだと書いてある。刺激臭がなければいいのかと思って、味噌でもやってみる。左右差がほとんど出ない。
 疑問は色々ある。レビー小体型の臭覚低下と同じメカニズムなのか? それとも私は、アルツハイマー病を合併しているのか? 短期記憶障害を特に感じないが、近い将来、一気に起こるのか? 私に残された時間はわずかなのか? でも、たとえ記憶障害が起こったとしても、それを補う対策を取れば、自立した生活は続けられるのではないか。記憶障害があっても、思考力や人格が変わらなければ、私は、私のままだ。
 浦上克哉教授は、アロマセラピーで臭覚を刺激することが、認知症の予防になると書いている。刺激することで臭覚は回復するとも。
 私は臭覚にも波がある。右肩下がりではない。回復したと感じる時もある。臭覚の神経もオンになったりオフになったりするのだろうか? わからないことばかり。
 【樋口直美:私の脳で起こったこと レビー小体型認知症からの復活. ブックマン社, 東京, 2015, pp187-188】

私の感想
 朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」から「嗅覚障害」に関連する記述を拾い出してみました。

3. DLB診断あるいは記憶障害出現以前からみられる症状
 「OnofrjらはDLBと診断される以前に、しばしば身体症状が認められることを報告している。彼らによれば15例の検討から、87%の患者が心気症状を呈した(Onofrj M, Bonanni L, Manzoli L et al:Cohort study on somatoform disorders in Parkinson disease and dementia with Lewy bodies. Neurology Vol.74 1598-1606 2010)。このほか消化器症状をともなう多発性の疼痛は53%、麻痺様症状は40%、感覚異常は27%にみられた。
 Fujishiroらは、記憶障害が出現する以前に見られる症状を検討した(Fujishiro H, Iseki E, Nakamura S et al:Dementia with Lewy bodies: early diagnostic challenges. Psychogeriatrics Vol.13 128-138 2013)。その結果、記憶障害出現前に便秘が76%の患者にみられ、平均9.3±13.8年記憶障害出現に先行したという。このほか、嗅覚障害(44%, 8.7±11.9年)、うつ(24%, 4.8±11.4年)、レム睡眠行動障害(66%, 4.5±10.5年)、起立性めまい(33%, 1.2±6.5年)の順であった。」(水上勝義:DLBの早期診断. Dementia Japan Vol.28 176-181 2014)


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第431回『加齢とからだ、加齢と知能─目的遂行に欠かせない作業記憶』(2014年3月12日公開)
メモ5:ワーキングメモリー(ワーキングメモリ)
 ワーキングメモリ(作業記憶・作動記憶)とは、短期記憶の概念を拡大し、課題を遂行するための処理機能の役割を含む概念です。作業中の何かを一時的に覚えておく記憶であり(例:電話をかけるために、電話帳を見て番号を覚える)、主として前頭葉の前頭前野(概ね前頭葉の前半部分)が司っています。
 『ホンマでっか!? TV』の辛口コメントで有名な澤口俊之先生は、「作業記憶は、言語理解はもとより、思考や推論、計画、決断などの多様な認知機能(高次脳機能)の最重要な基礎機能となっている。」(澤口俊之:大脳皮質─作業記憶. Clinical Neuroscience Vol.29 188-191 2011)と指摘しております。
 また、大阪大学大学院人間科学研究科の苧阪満里子教授は、ワーキングメモリについて以下のように述べております(苧阪満里子:ワーキングメモリ. こころの科学 通巻138号 47-51 2008)。
 「ワーキングメモリは目標志向的であり、課題の遂行に必要な情報を一時的に活性化状態で保持するとともに、平行して処理をおこなう機能をもつ。」
 「高齢者はある程度の年齢まで短期記憶は保持されるものの、ワーキングメモリは加齢とともに徐々に低下する。」
 「ワーキングメモリは、社会生活のなかで毎日を無事過ごすのになくてはならないシステムである。火の消し忘れによる台所の火事、運転中の携帯電話(二重課題下)等が引き起こす事故の背景には、ワーキングメモリの機能劣化が潜在しているといっても過言ではない。」
 遂行機能が低下してきますと、いったいどのような状況が生じてくるのでしょうか。住友病院副院長の宇高不可思医師(神経内科)が繁田雅弘医師(首都大学東京)、篠原幸人医師(国家公務員共済組合連合会立川病院神経内科)との鼎談のなかで、分かりやすく解説しておりますので以下にご紹介しましょう(一部改変)。
 「アルツハイマー病において日常生活で気づかされる一番重要な症状は、短期記憶の障害、記銘力の障害、エピソード記憶の障害です。同じことを何度も何度もいう、あるいは質問する、ある用件で電話をして、まったく同じ用件で翌日も同じ人に電話をする。
 記憶以外では、遂行機能の低下があります。ちょっと複雑なことができなくなる、仕事でミスが多い、あるいは今までちゃんとやれていた家事でも間違いが多くなる、料理もそうですが、一つひとつの動作はできても、計画的に材料を買って準備するという遂行機能に障害が起こる。一緒に暮らしている人には、日常生活でちょっと変だなと気づきます。
 それから、意欲の低下。だんだんものぐさになって、今まで自分でやっていたことをやらなくなる。」(繁田雅弘、篠原幸人、宇高不可思:鼎談─本邦の認知症. 成人病と生活習慣病 Vol.43 799-813 2013)

 『バナナ・レディ(前頭側頭型認知症をめぐる19のエピソード)』(Andrew Kertesz著 河村満・監訳 医学書院発行, 東京, 2010)という著書のエピソード16には、「行動を『遂行』するのに必須の脳内の要素は『ワーキングメモリ』であり、言い換えれば、適切な行動を決定するために、直前に起こったことを頭にとどめつつ過去の経験と照らし合わせる過程である。遂行機能はアルツハイマー病や脳卒中など、前頭側頭型認知症(FTD)以外にも多くの神経疾患や精神疾患で障害される。また、健常者でも加齢に伴い遂行機能(エグゼクティブ・ファンクション)は低下する。遂行機能の障害は特異性は低くても、FTDの初期にも感度が高く、最初に現れる症状となりうる。」と記載されております。
 認知症の症候学に詳しい滋賀県立成人病センター老年内科の松田実部長は、論文(松田 実:認知症の症候論. 高次脳機能研究 Vol.29 312-320 2009)において、「MMSEにおける計算の誤りは、計算そのものの誤りではなくworking memoryや注意力の障害と考えられる」と述べています。
 松田実部長の報告によりますと、初期アルツハイマー病におけるMMSEの減点項目は3単語遅延再生、見当識、計算の3項目がほとんどであり、計算の誤りは計算の途中で引く数を保持できずに誤ってしまう場合がほとんどであった(典型例:100から順に7を引く課題では、79まで正解して「9を引くんやったかな?」といった誤り)と報告しています。

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 久しぶりに日本医師会雑誌の「生涯教育」問題に挑戦してみて下さいね。

【問題2-2】嗅覚障害で正しいのはどれか。1つ選べ。
①嗅覚同定能力は50歳代から低下する。
②原因として最も多いのは頭部外傷である。
③慢性副鼻腔炎では嗅神経の変性は起こらない。
④嗅覚が低下しても味覚が変化することはない。
⑤嗅覚障害はアルツハイマー病の早期症状である

【正解】
 私は⑤を選択しました。

【解説】
 近年、パーキンソン病やアルツハイマー病などの神経変性疾患の発症前に嗅覚障害が出現することが判明し、嗅覚検査がこれらの疾患のバイオマーカーとして用いられるようになっている。中枢性嗅覚障害では、嗅覚自体の低下と共に、その認知能力および識別能力の低下が特徴とされている。
 
嗅覚障害の原因別頻度と特徴
 表に金沢医科大学耳鼻咽喉科嗅覚外来における原因別頻度を示す。最も多いのは慢性副鼻腔炎によるものであり、アレルギー性鼻炎も含めると嗅覚障害患者の半数以上を占めている。次いで感冒罹患後、頭部顔面外傷と続くが、原因不明の嗅覚障害も少なからず存在する。

 嗅覚検査開発のために行われた過去の研究でも、65歳以上で嗅覚が有意に低下することが報告されている。したがって、嗅覚低下で問題になるのは、特定される疾患を除けば65歳以上の高齢者であるといえる。

 嗅覚障害患者が日常生活で最も困っていることは、食品の腐敗に気付かないことであり、それ以外にも、ガス漏れ、煙に気付かないなどの生活面での安全、味覚の変化による食欲の低下、食への関心の低下、調理の不具合も、半数以上の患者が日常の支障と感じている。

【三輪高喜:嗅覚障害の疫学と臨床像. 平成26年3月号・日本医師会雑誌 Vol.142 2623-2626 2014】

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 「嗅覚低下は必ずしもパーキンソン病に特異的ではなく、関連した神経変性疾患において広く観察されるとの指摘もあり、臨床的にはアルツハイマー病においても強い嗅覚低下がみられることが報告されてきた。しかし、病理学的検討からは嗅覚低下がアルツハイマー病の病理変化の程度には依存せず、むしろ随伴するLewy小体の出現に関連していることが示唆されている。臨床的にも、Lewy小体型認知症との比較においてアルツハイマー病の嗅覚低下はより軽度であることが知られている。」(武田 篤、馬場 徹:パーキンソン病における嗅覚障害と扁桃体. Clinical Neuroscience Vo.32 659-661 2014)


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第766回『軽度認知障害? それとも?─料理の味付けが変化』(2015年2月16日公開)
さて、実行機能障害(遂行機能障害)が生じてきますと、目的をもった行動や動作の遂行が困難な状態となり、料理・掃除・仕事・後片付けなどの「段取り」が悪くなります。
 八千代病院(愛知県安城市)神経内科部長の川畑信也医師が軽度アルツハイマー病患者さん72名(MMSEが20点以上に該当)で調査した結果によれば、「軽度アルツハイマー病患者さんにみられる実行機能障害」ベスト5は以下のものでした(川畑信也:物忘れ外来ハンドブック─アルツハイマー病の診断・治療・介護─ 中外医学社, 東京, 2006, pp44-46)。
 1 伝言を正確に書いて伝えられない        :74.6%
 2 余暇活動や趣味に関心がなくなってきた     :63.8%
 3 適切な交通手段をきちんととれない       :57.4%
 4 適切な品物を買って店から戻れない       :51.5%
 5 薬を自分から飲もうとしない          :50.0%
 5 以前行っていた家事をきちんとこなせなくなった :50.0%

 5の「家事」の中で、料理に関する話は、ご家族がよく訴える症状です。
 料理という実行機能は、献立を考え、必要な食材を考え買い物し、調理して味付けを吟味し盛りつけるという多くの過程を必要とします。
 川畑信也医師は、「認知症に罹患している患者さんが作る料理は、以前に比べて味が濃くなってくる、辛くなってくることが多い。これは、患者さんの味覚が鈍麻してくることと記憶障害のために不必要に調味料を加えたり煮込みすぎる傾向からと思われる。以前は多くの種類の料理ができたのにできる料理の数が減ってきたときも危険信号である。この料理の問題は比較的早期から家族が気づく行動の変化といえる。」と指摘しています。
 アルツハイマー病患者さんにおいて料理の味付けが変化する背景には、感覚器の機能低下が絡んでいる可能性もあります。

 東京大学医学部附属病院老年病科・保健健康推進本部の亀山祐美助教は、認知症患者さんにおける感覚器の機能低下について詳細な報告をしております(亀山祐美:感覚器の機能低下と認知症. 医学のあゆみ Vol.239 No.5 388-391 2011)。一部改変して以下にご紹介します。
 「高齢者では老化とともに高周波の音が聞こえにくくなり、50歳くらいからすこしずつ低下しはじめ、65歳以上では約30%が一定の聴力障害を起こしている。当科に『物忘れ精査入院』した99名の患者において、認知症の行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia;BPSD)の有無と難聴の有無との関連を解析した。その結果、難聴とBPSDの有無には有意な関連が認められた(BPSDありの群の43名中21名に難聴あり)。とくに物盗られ妄想との関連がみられた。このように、聴覚障害があるとBPSDなどの精神症状を生じやすい。
 視覚障害や聴覚障害は眼鏡・補聴器の装用あるいは手術による治療の可能性もあるが、加齢に伴う嗅覚障害や味覚障害には有効な治療法はなく『年を取ればあたりまえ』と放置されがちである。嗅覚障害が日常生活に与える影響はさして強くないとみなされがちである。しかし、ガス漏れや鍋をこがしても気づかないといった思わぬ事故につながることもあり、看過することはできない。最近では嗅覚障害が認知症早期のサインとして注目されている。
 嗅細胞にニオイ分子がつくと電気信号が起こり、嗅神経から一次中枢である嗅球に伝わる。嗅球で処理された情報は二次中枢である嗅皮質を経て前頭前野に達する。嗅覚に関する情報は扁桃体や海馬などの大脳辺縁系に到達し、最終的な嗅覚の認知は記憶と照合されて認識される。
 認知症患者において味覚障害を訴え拒食になるケースも見受けられ、中枢への味覚伝導の部分の問題も生じると考えられる。」
 上記の記述にありますように、嗅覚は原始的な感覚で中枢経路は他の感覚と違い視床を経由せずに大脳辺縁系に到達します。近年、嗅覚を刺激することで認知症の進行を穏やかにする、一時的に意識を晴明にすることができるという考えから食事前にアロマテラピーを行い、安全な食事介助を行う試みもなされております(正田晨夫:認知症患者の口腔ケア. 精神科 Vol.19 132-140 2011)。
 なお、嗅覚は視床を経由しない唯一の感覚であると考えられてきましたが、視床が関与しているという指摘もあります(岩田 誠、河村 満・編集:脳とアート─感覚と表現の脳科学 医学書院, 東京, 2012, pp71-72)。
 また、東京ふれあい医療生協梶原診療所在宅サポートセンター長の平原佐斗司医師は、「AD(アルツハイマー病)で、どのような感覚器の障害が起こるかは十分明らかにはなっていませんが、一般的には、視覚、ついで聴覚などの系統発生学的に新しい感覚器の機能から低下すると考えられています。」と述べたうえで、「ADでは、味覚や嗅覚、触覚などの原始的な感覚は重度になっても保たれていると推定されています。そのため重度の患者に対しても、ハーブやアロマ、タクティールなどの非薬物療法が有効だと考えられるのです。」と指摘しております(平原佐斗司編著:認知症ステージアプローチ入門─早期診断、BPSDの対応から緩和ケアまで 中央法規, 東京, 2013, p28)。

大脳予備能(brain reserve) [100歳の美しい脳]

朝日新聞アスパラクラブ「ひょっとして認知症-PartⅠ」第530回『100歳の美しい脳(その11) たくさん本を読んで、手紙も書いて』(2012年9月19日公開)
 Katzmanによる研究データは、シリーズ第57回『高齢シスターの脳は明せきだった・その1』において紹介しておりますのでご参照下さい。
 大脳予備能(brain reserve)の話は、シリーズ第302回『確実に認知症を予防できる方法はまだない』のコメント欄においてもご紹介しております。

 高教育歴がアルツハイマー病(AD)の症状発現に対する防御効果を有するということは、取りも直さず、高教育歴はADの「発症遅延」に関連するということになりますね。実際にそのような報告もされております(Roe CM et al:Cerebrospinal fluid biomarkers, education, brain volume, and future cognition. Arch Neurol Vol.68 1145-1151 2011)。この論文は、ネット上においても閲覧可能です(http://archneur.jamanetwork.com/article.aspx?volume=68&issue=9&page=1145)。
 このように、認知予備能力(cognitive reserve;CR)が高い人ではADの発症が遅れることになります。
 しかしながら、教育レベルや読み書きのレベルが高いと、いったんADになったときには進行が速いことが知られております。例えば、「若年発症、高教育歴、高血圧合併例では進行が速い」(Hirofumi Sakurai, Haruo Hanyu et al:Vascular risk factors and progression in Alzheimer's disease. Geriatrics and Gerontology International Vol.11 211-214 2011)という報告がされております。
 2012年7月12日に三重県津市で開催された認知症学術講演会において、東京医科大学病院老年病科の羽生春夫教授が上記報告に関するスライドを提示され、「高教育歴は発症を遅らせるが、発症した時点では既に病理病変はかなり進行しているため、いったん発症するとその進行は速い。」と説明されました。

 2012年8月3日付『やさしい医学リポート』において坪野吉孝先生は、「『生きる目的』が強い高齢者では、アルツハイマー病に特徴的な脳の病理学的変化が進んでいても、物忘れなどの認知機能の低下が少ない」ということが報告されている論文をご紹介されましたね。
 私もこの論文には強い関心を持ちました。「人生に大きな目標をもっている人は、目標の少ない人に比べて、認知力低下の速度が30%遅かった。」と記載されていたことがとても印象に残っています。
 シリーズ第58回『高齢シスターの脳は明せきだった(その2)』において私は、「生きがい尺度の高得点者は、低得点者よりもアルツハイマー病を発症せずにすむ可能性がおよそ2.4倍高かった」(Patricia AB et al:Effect of a Purpose in Life on Risk of Incident Alzheimer Disease and Mild Cognitive Impairment in Community-Dwelling Older Persons. Arch General Psychiatry Vol.67 304-310 2010)というデータもご紹介しております。この論文はウェブサイト(http://archpsyc.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=210648)において閲覧可能です。
 高齢者の生きがいを高めるために介入を加えることは、認知症予防にも繋がるわけですから、しっかりと取り組む必要がある課題ですね。

 群馬大学大学院保健学研究科の山口晴保教授は著書の中で、「教育歴」に関する重要な提言をされております。山口晴保教授の言葉を最後にご紹介して『ひょっとして認知症?』をひとまず閉じたいと思います。
 「教育歴については、いくつかの疫学研究で、教育歴が長いほど認知症リスクが低減することが知られています。例えば、中年期の肥満や高血圧のリスクを示したスウェーデンの疫学研究では、教育歴が1年長くなるごとに認知症のリスクが0.86倍と少し低くなることを示しています。ただ、例えば、教育歴が短いほど肥満の割合が高いとか、健康への配慮が少ないなど、背景にある別の因子が関与しているのかもしれません。教育歴は過去のことですから、こんなことを今さら言われても…となってしまいます。筆者の言いたいことは、教育歴の短い人ほどたくさん本を読んで下さい、手紙を書いて下さいということです。教育歴の長い方が認知症になりにくいのは、認知機能が比較的高いところから落ちていくので低くなるまでに時間がかかると解釈されます。はじめの位置が比較的低いほうにあると思われる方は、年々落ちていくスピードを緩める努力が必要です。それには、たくさん本を読んで知識を増やし、新しいことにどんどん挑戦して能力を伸ばすことが大切だと思います。」(認知症予防 ─読めば納得! 脳を守るライフスタイルの秘訣─ 協同医書出版社発行, 東京, 2010, p192)


人生、大きな目標が必要
投稿者:きらきら星 投稿日時:12/09/19 10:49
 高い目的意識。
 誰もが、認知症にはなりたくないですよね。
 「発明」して、「特許」をとることを目標にしたいですね。
 一挙両得(笑)今、言い出したところです。

 今後、コメントは表示されなくなっても、先生には届くのでしょうか。
 それなら、いいですね。


Re:人生、大きな目標が必要
投稿者:笠間 睦 投稿日時:12/09/19 11:59
きらきら星さんへ
 小さな目標であっても、達成に向けて努力し続けるという気持ちが大切なんだと思います。
 私自身も、小さな目標を掲げて達成に向けて頑張っているつもりです。

> 今後、コメントは表示されなくなっても、先生には届くのでしょうか。

 この点に関してはよく分かりません。
 いずれにしても、今回のシリーズで『ひょっとして認知症? Part1』は終了しましたが、『ひょっとして認知症? Part2』がいずれ開始されますので、その時には活発なコメントをお待ちしております。


エンザイムBACE2
投稿者:フーニ 投稿日時:12/09/20 09:58
 話題が逸れますが、Mayo Clinic の研究者達はアルツハイマーに対するエンザイムBACE2を見付けたと今月17日に発表しました。
 BACE2はベータアミロイドを破壊すると言う事です。これでアルツハイマーの治療が出来る様に成ると良いですね。
 興味のある方はこれがリンクです。
 http://www.mayoclinic.org/news2012-jax/7087.html
 又は
 http://www.molecularneurodegeneration.com/content


Re:エンザイムBACE2
投稿者:笠間 睦 投稿日時:12/09/20 10:56
フーニさんへ
 専門的な情報ありがとうございました。

 「BACE」については今までこのブログでご紹介したことがありませんので、簡単に解説しておきます。
 アルツハイマー病の主原因とされるAβ(アミロイドβタンパク)は、アミノ酸が40~42個程度つながったペプチドであり、β及びγセクレターゼの働きによりアミロイドβ前駆体タンパク質(Amyloid beta protein precursor;APP)から切り出されます。
 APPの大部分は、αセクレターゼによって切断されアミロイドβタンパク産生に至りません。しかしながら、βセクレターゼ及びγセクレターゼによって切断されると37~43アミノ酸のAβが産生されます。
 βセクレターゼの代表は、BACE1(β-site APP-cleaving enzyme1)です。BACEに関する詳細は、ウェブサイト(http://www.tmig.or.jp/J_TMIG/genome300/BACE.html)などをご参照下さい。
 γセクレターゼ阻害剤・βセクレターゼ阻害剤という薬剤は、アルツハイマー病の根本的な治療、すなわち疾患修飾治療(disease-modifying therapy;DMT)の候補の1つとして期待されています。


いつもコメントをありがとうございました
投稿者:ミーたん 投稿日時:12/09/22 04:06
 お忙しいのに精力的にブログを更新され、いつも丁寧に応えていただき本当に頭が下がります。たくさんの事を教えていただきました。私自身半分認知症状態での2年半でしたが、脳に良い刺激を与えていただきました。笠間先生はいつお休みになられているのかと心配になってしまいますが、どうぞお体を大切になさって、これからもいろいろ貴重な情報を教えてください。
 誰か他の人の為に少しでも役に立ちたいと行動できる生き方が、結局は一番自分の為になっているのかもしれないと思うこのごろです。

Part2でもコメントをお待ちしております
投稿者:笠間 睦 投稿日時:12/09/22 07:21
ミーたんさんへ
 ミーたんさんからの初コメントは、第306回(ノセボ効果)でしたね。
 その後、「フェルラ酸」(第464回)、「命の期限を何をもって決めるのか?」(第468回)、「日本人の宗教観」(第494回)など印象的なご質問をいくつか頂きました。

 満足な回答になっていなかったかも知れませんが、私に分かる範囲で回答させて頂きました。
 『ひょっとして認知症? Part2』が開始されましたら、またコメントをお待ちしております。


小さな目標
投稿者:まるタン 投稿日時:12/09/22 10:24
笠間先生へ
 いつも必ず返信してくださる事を、なかば期待して(私の場合)
 拙いコメントにも丁寧に答えていただき本当に感謝感激です。

 ブログに出会ってから日常生活に大きな変化があっても冷静に対処することができるようになりました。
 まだまだこれからも続きそうですが、パート2を追いかけながら元気に、私なりの小さな目標にむけて愛犬とガンバリます。

 先生もお身体大事になるべく長~~くブログが続きますように・・と期待しております。
 ここまで、ありがとううございました。


Re:小さな目標
投稿者:笠間 睦 投稿日時:12/09/22 14:47
まるタンさんへ
 お彼岸でしたのでお墓参りに行っており返信が遅くなってしまいました。

 まるタンさんこそ、多くのコメントを頂き、ありがとうございました。
 Part1でのまるタンさんの総コメント数は、数えてみたら66回でした。間違いなくトップ3に入っているはずです。
 やはり「愛犬」「サッカー」という共通の話題に関心が強かったのが大きいのでしょうね。
 今は、Part2に向けての充電中です。

P.S
 時々「誤字」のある、あわてん坊のまるタンさんのコメントが何とも言えず暖かみがあり素敵に感じています。


また、パート2でお会いします
投稿者:音とリズム 投稿日時:12/09/26 08:57
 パート1終了ご苦労様でした。パート2でもまたお世話になります。それまで、心身共にご自愛ください。
 まるタンさんも無理せずお元気でお過ごしください。


Re:また、パート2でお会いします
投稿者:笠間 睦 投稿日時:12/09/26 09:46
音とリズムさんへ
 パート1では多くのコメントをお寄せ頂きありがとうございました。
 パート2での再会を楽しみにしております。

 パート2では、「アメリカの認知症ケアの動向 認知症になり英語を忘れる」(タイトル未定)という原稿もご紹介する予定です。


愛着障害
投稿者:笠間 睦 投稿日時:12/09/26 09:54
 充電期間中ですので、久しぶりに、認知症とは無関係の本を読んでいます。
 今読んでいるのは、精神科医で作家の岡田尊司先生が書かれた『愛着障害』です。
 私が興味深く感じた記述をごく一部ご紹介しましょう。

 「新生児のときから、すでに愛着の形成は始まっているが、まだそれは原初的な段階にある。生後六か月くらいまでであれば、母親を少しずつ見分けられるようになってはいるものの、母親が他の人に変わっても、あまり大きな混乱は起きない。新しい母親に速やかになじんでいく。ただし、この段階でも、母親が交替すると、対人関係や社会性の発達に影響が及ぶこともわかっている。結ばれ始めた愛着がダメージを受けると考えられる。
 六か月を過ぎるころから、子どもは母親をはっきりと見分け始める。ちょうど、人見知りが始まるころだ。それは、愛着が本格的に形成され始めたことを意味している。生後六か月から一歳半くらいまでが、愛着形成にとって、もっとも重要な時期とされる。この『臨界期』と呼ばれる時期を過ぎると、愛着形成はスムーズにはいかなくなる。実際、二歳を過ぎて養子になった子が、養母になかなか懐こうとしないということはよくある。また、臨界期に母親から離されたり、養育者が交替したりすると、愛着が傷を受けやすいのである。」(岡田尊司:愛着障害─子ども時代を引きずる人々 光文社, 東京, 2011, pp24-25)


認知症からの回復
投稿者:梨木 投稿日時:12/09/26 21:50
 パート1最後の内容が希望あるもので嬉しいです。
 先程NHKの「ためしてガッテン」見終わったばかりで、明るい気持ちになっています。テーマはアルツハイマー新予防と回復プロジェクト。

 認知症の方への取り組みについては、いろいろ読んだことありましたが、せいぜい現状維持・悪化予防・周辺症状の軽減と受け止めていました。でもこれは古い認識だったみたいです。
 料理(創造的作業)と短時間の昼寝と運動で、医師もびっくりする程の記憶健常状態への回復…すばらしい!(16人/18人)

 予防はやはり(前にこのブログでも読んだ気がしますが)糖尿病が関係していましたね。生活習慣病なら、自分の努力で少し変えられる気がします。運動嫌いの私でも、やらなきゃ!って気になりました。

P.S.
 「認知症になり英語を忘れる」って、母語を忘れるということなら、どこの国でも同じなのではないですか。それとも移民のお話なのかと思ったり。いずれ又。

認知症の中核症状に関する理解を深めましょう─記憶記銘障害 [認知症]

朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第6回『認知症の中核症状に関する理解を深めましょう─記憶記銘障害』(2012年12月17日公開)
 順次、以上5領域の症状について解説していきましょう。
 まず最初は記銘記憶障害です。物忘れには、良性健忘(老化による物忘れ)と悪性健忘(認知症による物忘れ)があります。両者はいったいどのように違うのでしょうか? 端的に言えば、部分的な物忘れか、全般的な物忘れかという違いです。
 例えば、旅行に行ってきたとします。1~2か所の訪問場所を思い出せないのが「老化による物忘れ」で、旅行に行ったことすら忘れてしまうのが「認知症による物忘れ」ということになります。
 両者の違いを以下にまとめます。

良性健忘(老化による物忘れ)
 電話の要件を忘れる
 昨晩、何を食べたか思い出せない
 物をしまった場所を忘れる
 忘れっぽくなったという自覚があり、メモなどの対策をとる
 ヒントを与えられると思い出せる
 時間や場所などの見当がつく

悪性健忘(認知症による物忘れ)
 電話があったことさえ忘れる
 食事をしたこと自体を忘れる
 物を整理したこと自体を忘れる
 物忘れの自覚に欠けることが多く、また、メモをつけても活用できない
 ヒントを与えられても思い出せない
 時間や場所などの見当がつかない
 新しい出来事を記憶できない

 見当識(けんとうしき)障害とは、人や周囲の状況、時間、場所など自分自身が置かれている状況などが正しく認識できない状態です。
 ところで、「物忘れ」って誰にでもありますよね。私も30歳を過ぎた頃から、よく知っている人の名前が出てこないという症状が増えてきました。若干、普通の人よりも早く症状が出現しているようです。おそらく毎晩大量に飲むアルコールが影響しているのだろうと察していますがなかなかやめられません。意志が弱いのでしょうね。

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認知機能障害と認知症の違い:
 「認知機能とは、意欲、注意、再認(recognition)、行為、記憶、情動、言語、判断、実行など、モジュール構造をなすさまざまな並列的能力の集合体を指す用語であり、それらはすべて、一次的には大脳、特に大脳皮質によって営まれている機能である。大脳基底核や、視床、あるいは小脳なども認知機能に深く関与してはいるが、認知機能において主役を務めるのは、なんといっても大脳皮質である。…(中略)…注意しなくてはならないのは、大脳皮質の機能障害というものは、必ずしも大脳皮質の一次性器質病変の存在を意味するものではないということである。また、認知機能障害というものは、必ずしもデメンチア(dementia:認知症)を意味するものではないということも、重要なポイントである。
 デメンチアといわれる病態は、単に認知機能障害があるというだけのことではなく、先にあげた認知機能を形成するさまざまなモジュールの能力の全般的な障害によって、それまで果たすことができていた社会的な役割を果たすことができなくなった状態のことである。
 たとえば、右半球の大きな脳梗塞によって、顕著な左半側空間無視という認知機能障害を生じても、通常それだけでデメンチアに陥ることはない。また、左大脳半球梗塞によって重度のウェルニッケ失語を生じた場合、重度の認知機能障害があるということはできるが、それだけでデメンチアが生じるわけではない。
 デメンチア患者では、しばしば健忘症がその臨床像の中心となることが多い。健忘症もまた明らかな認知機能障害ではあるが、健忘症だけではデメンチアとはいわない。単純ヘルペス脳炎後遺症において、数分前の出来事はまったく覚えていないというようなきわめて高度の健忘を生じた患者においても、知識に基づく判断はまったく正常であり、高度な計算問題や、幾何学の問題を容易に解いてしまうようなことはまれではない。」(シリーズ総編集/辻 省次 専門編集/河村 満 著/岩田 誠:アクチュアル脳・神経疾患の臨床─認知症・神経心理学的アプローチ 中山書店, 東京, 2012, pp2-7)【一部改変】

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