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J-CATIA [アルツハイマー病]

BPSDへの抗精神病薬開始で死亡率2.5倍【JSPN112】
 世界初・日本発の大規模前向き研究J-CATIAの成績
 【日本精神神経学会2016年6月15日 (水)配信 https://www.m3.com/clinical/news/433047
 
 日本人のアルツハイマー型認知症(AD)患者約1万例を対象に高齢者の認知症周辺症状(BPSD)への抗精神病薬と死亡の影響を検討した、初の前向き観察研究J-CATIAの成績が最近報告された。「1万例を対象とした前向き検討は世界でも初」と話す研究グループの順天堂大学精神医学講座教授の新井平伊氏。千葉県で開催の第112回日本精神神経学会学術集会(JSPN112、2016年6月2-4日)シンポジウムで、同試験の主な結果と実地臨床でのフィードバックを解説した。観察研究のため因果関係は不明だが、同試験では、抗精神病薬を新規投与された群で非投与群に比べ、試験開始から11週以降の死亡リスクが約2.5倍上昇していたなどの成績が示された。

当局が警告を発出も、適応外使用が普及
 BPSDに対する非定型抗精神病薬、あるいは定型抗精神病薬の使用で死亡リスクが高まるとして、FDA(米国食品医薬品局)や厚生労働省が警告や適応外使用に関する注意喚起を発出している。警告の根拠とされているのは、2005年頃から海外で相次いだ複数のランダム化比較試験(RCT)のメタ解析(JAMA 2005; 294: 1934-1943)や後ろ向き観察研究(N Engl J Med 2005; 353: 2335-2341)など。こうした警告以降も抗精神病薬の代替薬が存在しないため、日本でも多くの精神科医や非専門医がBPSDに対し抗精神病薬を使用している現状がある。日本国内で抗精神病薬のBPSDへの適応拡大の是非を検討するためには、日本人での安全性データが不可欠であることからJ-CATIAが実現した。

主な結果(1)抗精神病薬使用群の6割超が半年以上の使用歴
 同試験では国内357の医療機関から、日本人AD患者1万79例を登録(女性69%、平均年齢81歳)。登録時点で抗精神病薬の使用群(4977例)と非使用群(5102例)に分け、ベースラインから10週、24週の死亡率などを比較した。新井氏によると、登録の時点で抗精神病薬の使用歴が6カ月以上の割合が使用群の63.7%を占め、次いで3-6カ月以内が15.5%、1-3カ月以内が13.3%、1カ月以内が7.3%だった。使用薬剤は非定型抗精神病薬ではクエチアピン、リスペリドン、オランザピン、定型抗精神病薬ではチアプリド、スルピリドが上位を占めた。全体解析では使用群、非使用群の試験開始から24週までの平均死亡率は3.4%、3%で有意差はなく、補正後のオッズ比にも差はなかった。抗精神病薬の使用期間ごとの死亡率でも非使用群との有意な差はなかった。

主な結果(2)新規使用群、非使用群の11週以降の死亡率9.4% vs. 1.9%
 一方、新井氏が特筆すべき結果として紹介したのが、同試験登録から新たに抗精神病薬を開始した85例の群における成績。同群において、試験開始から10週時点ではゼロであった死亡率が、11-24週時点には9.4%と非使用群の1.9%に比べ有意に上昇。同期間における死亡の補正後オッズ比も2.53(95%信頼区間1.04-6.14)と有意に上昇していた。死因別の検討では、特に使用群でのみ増加している死因はなく、肺炎や老衰が主だった。
 同試験結果の解釈で注意すべき点として新井氏は(1)画像検査による脳血管性認知症の除外が不十分、(2)多数の施設が参加したものの、対象者選択の施設間バイアスが排除できていない、(3)併用薬の影響が除外できない、(4)BPSDそのものによる死亡リスク上昇の要因が除外できない――の4つを挙げた。

「やむを得ず新規使用の場合も10週間程度に」
 「2005年の各国当局の警告から11年が経過し、医療・介護レベルは向上している。しかし、現時点でもなお、BPSDに対する抗精神病薬の新規投与が日本人においても死亡リスクを高めることが改めて示された」と新井氏。実地臨床へのフィードバックとして「抗精神病薬による死亡リスクには今も十分な配慮が必要で、非薬物療法や抗精神病薬以外の治療を優先すべき」と述べた。特にやむを得ず新規に投与を開始する場合には「10週間ほどの短期間が望ましく、減量・中止を常に考慮すべき」との考えを示した。
 一方、既に6カ月以上抗精神病薬を使用している人については、「同試験登録時に使用群の6割以上が半年以上の使用歴があったことから、この方たちは初期のリスクの時期を超えたサバイバーと解釈できる」と新井氏。新規投与の場合に比べ、安全性は担保されていると考えられるが「それぞれの患者での同薬使用の意味やリスクベネフィットを十分検討のうえ減量すべき」と結論付けた。

私の感想
 遂に「J-CATIA」の結果が出たようです。
 私は今朝、m3.comのサイトから情報を入手しました。著作権の問題がありますので、この情報のご利用には十分に注意して下さい(最小限の引用に留めて下さいね)。拡散はしない方が良いです。近いうちに間違いなく各紙が報道するニュースだと思いますのでそれまでお待ち下さいね。
 ポイントは、「抗精神病薬を新規投与された群で非投与群に比べ、試験開始から11週以降の死亡リスクが約2.5倍上昇していた」の部分です。

 抗精神病薬のなかの非定型抗精神病薬は、副作用が比較的少ないことから認知症診療の現場において比較的よく用いられてきました。
 しかしながら、その使用により死亡率が1.6~1.7倍高くなるとして2005年にFDAが警告を発しております。
 そのような背景もあり、米国ではこの系統の薬剤は脳卒中の発生率が高いとして、アルツハイマー病に対しては禁忌(遠藤英俊:認知症の薬物療法の実際とその効果. 日本医師会雑誌 第141巻・第3号 555-559 2012)となっております。
 今回発表されましたJ-CATIAの結果によりますと、1.6~1.7倍よりも更に高い2.5倍という結果でしたので、今後、非定型抗精神病薬の使用に際してはより慎重な姿勢が求められることになりそうですね。
 以下に、「1.6~1.7倍」を紹介したアピタルの原稿を再掲致します。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第438回『患者の心の中を探る―やはり抗精神薬は慎重に』(2014年3月19日公開)
 安易な抗精神病薬の使用は死亡率を高めるという報告もありますので、慎重な姿勢で薬物療法に臨む必要があります。具体的な数字としては、シリーズ第173回『深刻化する認知症患者の長期入院─抗精神病薬に頼らない認知症ケア』のコメント欄においてご紹介しました「1.6~1.7倍」という数字が有名です。
 しかしながら、2013年6月6日付朝日新聞において報道されましたように、日本老年精神医学会が2012年10月から、65歳以上のアルツハイマー型認知症で、抗精神病薬を使っている5千人と使っていない5千人で、10週後と6カ月後の時点での死亡率・脳血管障害の発生率を調査したところ、10週後においては、死亡率は薬を使っている人は0.88%(使っていない人:1.0%)、脳血管障害発生率は薬を使っている人は0.3%(使っていない人:0.5%)であり、ほぼ変わらなかったという結果でした。調査を実施した新井平伊順天堂大教授は、「最近は、より慎重に抗精神病薬が使われるようになっている。使う場合には、よく理解した専門医のもとで、なるべく短期間で、最小限にする必要がある」と話しております。この「最小限の使用にとどめる」という部分が非常に重要なポイントです。
 なお、認知症の行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia;BPSD)に対する薬物療法のガイドラインが2013年7月12日に厚生労働省研究班によってまとめられており、厚生労働省のホームページにおいて『かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン』(http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000036k0c-att/2r98520000036k1t.pdf)として公開されております。
 もっと詳しくBPSDに対する対応について学びたい方には、『BPSD初期対応ガイドライン』(服部英幸編集 ライフ・サイエンス, 東京, 2012)がお勧めです。2千円と安価でありながら内容盛り沢山の著書です。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第103回『アルツハイマー病の治療薬 副作用すくなく使いやすいメマンチン』(2013年4月7日公開)
 また、メマンチンは、「認知機能を損なうことなくBPSDに効果を示す」(藤本健一:メマンチン. 日本臨牀 Vol.69 Suppl10 41-46 2011)ことから認知症診療の現場で注目されており、うまく使いこなせばとても有益な薬剤となります。すなわち、日常生活動作(Activities of Daily Living;ADL)を保持しつつアルツハイマー型認知症に伴う行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia;BPSD)に効果が期待できるのです。
 抗精神病薬のなかの非定型抗精神病薬は、副作用が比較的少ないことから認知症診療の現場において比較的よく用いられてきました。しかしながら、その使用により死亡率が1.6~1.7倍高くなるとして2005年にFDAが警告を発しております。そのような背景もあり、米国ではこの系統の薬剤は脳卒中の発生率が高いとして、アルツハイマー病に対しては禁忌となっています(遠藤英俊:認知症の薬物療法の実際とその効果. 日本医師会雑誌 第141巻・第3号 555-559 2012)。
 副作用そしてADL保持という観点から考えると、高齢者のBPSDに対しては、抗精神病薬よりも認知機能の改善効果も期待されるメマンチンの方が望ましいと私は考えています。
 私は、ご家族から一番困っている症状をお聞きし、それが記憶障害という中核症状ではなく、興奮/攻撃性、妄想、易刺激性/情緒不安定といったBPSDであった場合には、メマンチンをアセチルコリンエステラーゼ阻害薬に先行して使用するようにしております。
 独立行政法人国立長寿医療研究センター病院の鳥羽研二院長は、第13回日本認知症ケア学会の特別講演J(抄録集)において、「介護ニーズでもっとも重要なものは『周辺症状』である。」(鳥羽研二:認知症に対する包括的アプローチ─非薬物療法の重要性─. 日本認知症ケア学会誌 Vol.11 47 2012)と述べています。すなわち、認知症患者さんの在宅介護を継続していくためには、BPSDに対する包括的アプローチが非常に重要な鍵を握るのです。
 メマンチンの主な副作用としては、めまい、便秘、頭痛、傾眠、血圧上昇などであり、副作用は少なく使いやすい薬剤である思われます。
 日中に傾眠傾向が認められる場合には、服薬時間を「夕食後」に変更すると、日中の傾眠という問題が解消する場合もあります。メマンチンのTmax(服薬後最大血中濃度に達する時間)は5~6時間ですので、副作用が出現するのも主に5~6時間後であるということを応用した服薬方法になるわけです。メマンチンの夕食後服薬により、継続中であった睡眠薬の服用が不要となった方も私は複数経験しております。
 私は、2011年6月から2012年4月までにメマンチンを投与した連続23例(年齢:64歳から93歳)において、認知症の中核症状・周辺症状に対するメマンチンの有効性について検討し、第31回日本認知症学会学術集会において発表しました(2012年10月27日、つくば国際会議場)。そして、BPSDに対する高い有効性だけではなく、4例において中核症状の改善が認められたことを論文にて報告しております(笠間 睦:認知症診療におけるメマンチンの位置づけ─自験23例の検討結果. Progress in Medicine Vol.33 311-315 2013)。この論文内容につきましては、また後日改めまして詳しくご紹介したいと思います。

Facebookコメント
 「FDAは、高齢の認知症患者における行動障害を対象として、非定型抗精神病薬(オランザピン、アリピプラノール、リスペリドン、クエチアピン)を投与した17件のプラセボ対照比較試験5106例を解析し、非定型抗精神病薬を投与した場合、死亡率がプラセボと比較して1.6~1.7倍高いと結論(FDA Talk paper 2005.)」【平原佐斗司編著:認知症ステージアプローチ入門─早期診断、BPSDの対応から緩和ケアまで 中央法規, 東京, 2013, p236】

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