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アルコール関連認知症 [アルコール]

アルコール関連認知症

 たくさん飲まれる方には耳の痛い話題かも知れませんが、自戒の意味も込めて(?)、関連情報をお届けします。


Case3 毎晩日本酒8合を飲酒する男性―年相応のもの忘れを心配しすぎ?
【患者データ】
初診時年齢:
 69歳.
現年齢:
 71歳.
性別:
 男性.
家族歴:
 2人兄弟の第2子,28歳で結姫.子ども男子2人,それぞれ結嬉して家庭を持っている.妻と2人暮らし.家系内に明確な精神疾患の負因はないが,父親は職をよく変わる人だったという.母方の従妹でパーキンソン病で亡くなったと言われている者が2人いる.
主訴:
 もの忘れを訴えて受診した脳神経外科から紹介されて受診.
【生活歴、生育歴】
 N市生まれ.商業高校卒業後寿司店で修行し,寿司職人となって働く.30歳で独立してN市で寿司屋を開業し,弟子を育て,支店を出すなど繁盛した.60歳時,老後を温暖な土地で過ごしたいと考えA市へ転居し,そば屋を開店させ現荏も続けている.
【飲酒歴】
 初飲は高卒後,耐性が高かった.20歳代では3升/日の飲酒量だったが,最近は弱くなって8合/日に減っている.日中飲酒はない.夕食時に飲酒をする他に,夜中に 目覚めて飲酒することがある.身体依存を疑わせる所見はなかった.
【現病歴】
 20年前から,高血圧でかかりつけ医から投薬を受けている.
 X-4年前に,もの忘れを訴えてA病院脳神経外科を受診した.HDS-Rでは正常範囲内であった.CT,MRl,SPECT検査では軽度の血管の狭窄と血流低下を認めたが,ADを疑わせる所見や脳梗塞などの目立った所見は認めなかった.そのため経過観察することになった.
 X年になって,もの忘れがひどくなり,食事したことを忘れたり,日付がわからなくなるなどして日常生活に支障を及ぼすほどになったと訴えて,A病院脳神経外科を受診した.しかし,本人の訴えに一致する所見に欠けるという理由で,当科へ紹介された.
【初診時所見】
 表情は自然で,対人接触は円滑で快活によくしゃべる.しかし本人は,人の話を聞いた先から忘れてしまう,固有名詞を忘れてしまう,人と行き会ったときに名前を忘れてしまっている,などと述べた.妻は,自分と夫は同じくらいのもの忘れで問題ないと思うと述べた.
【検査所見】
 HDS-Rでは29/30(見当識-1),MMSEでは27/30(遅延再生-3),レーヴン色彩マトッリクスでは35/36と,認知症水準に至っていなかった.自覚的なもの忘れと客観的な評価との間に乖離が認められた.
【初期診断】
 大酒家が初診の4年前から記銘力低下が自覚され認知症を心配して受診してきたが,日常生活に支障を及ぼす程度ではなかった.スクリーニングテストで認知症水準になく,紹介元で認知症を疑う所見がないのに物忘れを強く訴えたことから,神経症圏の認知症恐怖症と考えた.
【本症例のまとめ】
 毎晩8合飲酒の大酒家で,臨床的にはMCI水準の認知症.
 初診時は,自覚される物忘れの程度とスクリーニングテストの結果との間に乖離が見られたこと,紹介元で認知症を否定しているため精査しないで神経症圏,認知症恐怖症と誤診した.
 詳細検査の結果,TMT,Stroop Testの時間延長が前頭葉機能低下を示唆した.
 記憶検査は正常であったが,脳血流測定では頭頂部,後部帯状回,楔前部などで血流低下があり,初期ADと考えられた.
 前頭葉機能低下や左内側前頭前野の血流低下など,アルコール性認知症に見られる所見を伴っていた.
 断酒と抗認知症薬で2年4か月経過してMCIの進行は見られず,記憶力が回復してきていると述べている.
【アルコール性認知症とは?】
 アルコールが関連していると思われる認知症を,一次性か二次性かの議論を避けて,一括りにしてアルコール関連認知症(alcoholic-related dementia;ARD)ととらえる考え方もある.ウェルニッケーコルサコフ症候群をあえてアルコール性認知症と呼び換えては言わないことを考えると,ARDとアルコール性認知症は臨床的にはほぼ同義と考えてよいだろう.ARDでは抽象能力や短期記憶などに障害がみられるのに対し,ADでは再認や記憶想起や喚語などに障害が強い点で認知症の病態に相違がある.また,ARDは断酒を継続するかぎり認知症の進行は起きないという点も大きな相違点がある.ARDを提案したOslinが自身のARD診断基準の信頼性を検討している.その際,2年間同じナーシングホームで過ごしたARDとADの経時的変化をMMSEでみると,ARDでは進行が見られないのに対して,ADでは明らかに病勢が進行していた.physical self-maintenance scale(PSMS)でみた身体機能も2年間にADでは低下が認められたが,ARDでは低下がなかった.認知症の予後を考えると,ARDは断酒するだけで病勢が停止ないし改善するという利点があることになる.
【大量飲酒=アルコール依存症?】
 アルコールは依存性を有する中枢抑制薬であり,反復摂取することで耐性獲得とアルコールの強化作用によって脳内に依存の機構が型作られる.その型作られる速度は個体差が大きい.大量,長期であっても生来アルコール耐性の高かった症例3では,8合/晩酌が長年月続いていたが依存徴候が見当たらなかったことからアルコール依存症と言えない.しかし8合は通常の晩酌とは言えない大量であることから,アルコール乱用とした.これに反し,症例1は目立って多い摂取量ではなかったが,病的飲酒パターンからアルコール依存症と判断できた.飲酒量の多寡でアルコール依存症か否かを判断しないようにしたい.
【原則は「断酒」】
 アルコールが他の認知症の促進因子や修飾因子になるので,いかなる認知症であっても飲酒を禁じるのが原則である.80歳を過ぎた高齢者の家族の中には「楽しみ」を奪うことはかわいそうだという心情を持つ者も少なくない.
 断酒することで,アルコールによる認知症の症状抑制,促進している部分が改善することは認知症の経過によい影響を及ぼすことを伝え,断酒の方針を明確にすることが治療者に求められる.
 【編/朝田 隆 著/小宮山徳太郎、朝田 隆:誤診症例から学ぶ─認知症とその他の疾患の鑑別 医学書院, 東京, 2013, p131-139】

私の感想:
 長々とご紹介しましたが、結局、「飲酒量の多寡でアルコール依存症か否かを判断しないようにしたい」という部分だけ言いたかったのでこの事例をご紹介致しました。
 それともう1点、8合/晩酌(20歳代では3升/日の飲酒量)というとてつもない大量飲酒であっても、69歳まで飲んでもMCI(軽度認知障害)のレベルにとどまり、しかも断酒によって記憶が改善するんだ!と分かると自信になりますよね。
 齋藤さん、お互い飲み過ぎには気をつけましょうね。でもこの事例、ちょっと勇気づけられますよね。


朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第50回『その他の認知症―アルコール関連認知症』(2013年2月11日公開)
⑦アルコール関連認知症
 長期に多量の飲酒を続けることにより認知症を発症することがあり、それをアルコール関連認知症と呼んでいます。
 厚生労働省研究班の2008年の報告によれば、若年性認知症の原因疾患としては、脳血管性認知症(VaD)が最多で39.8%、次いでアルツハイマー型認知症(AD)の25.4%、以下、頭部外傷後遺症(7.7%)、前頭側頭葉変性症(3.7%)、アルコール関連認知症(3.3%)と続きます(池嶋千秋、朝田 隆:若年性認知症はどのくらいの患者数になるのか? 精神科治療学 Vol.25 1281-1287 2010)。
 厚生労働省のウェブサイト上の報告(http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/03/h0319-2.html)では、上記論文と若干数値が異なっており、アルコール性認知症(3.5%)と記載されております。

 ところで、アルコール性認知症という診断名は、現代の主な診断基準には存在しておりません(松下幸生:アルコール性認知症とコルサコフ症候群. 日本臨牀 Vol.69 Suppl10 170-175 2011)。
 それは、動物実験ではアルコールの神経毒性を示唆する結果が報告されているものの、ヒトにおいて認知症の直接原因になるという証拠は得られておらず、未解決の問題だからです。そういった背景もあり、アルコール関連認知症という別の基準が提唱されています。

 ウェルニッケ脳症(Wernicke脳症)は、ビタミンB1(チアミン)の欠乏によって生じ、外眼筋麻痺、運動失調、意識障害を三主徴とする急性脳症です。ただし、意識障害のみを示す場合もあります。
 ウェルニッケ脳症は、ビタミンB1の欠乏だけでも発症します。しかし、アルコールの多飲やインスタント食品の偏食による栄養の偏りなども発症の引き金となります。
 コルサコフ症候群(Korsakoff症候群)は、アルコール依存症例に合併し、Wernicke脳症後に生じることが多いため、Wernicke-Korsakoff症候群と言われることもあります。

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 「Korsakoff症候群は、アルコール乱用者のWernicke脳症のほぼ80%に続発し、即時記憶が強く障害される一方で、古いエピソード記憶は比較的保たれる。著明な前向性および逆行性健忘とアパシーが特徴的であり、最近の記憶の欠失に関連した作話症を時に認める。注意力や社会的礼節は保たれており、特に違和感なく通常の会話も成立するため、一見正常に見えることもある。」(池田賢一、髙嶋 博:栄養障害(ビタミン欠乏など)に関連する認知障害. Modern Physician Vol.33 27-29 2013)

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 私は、毎晩欠かさずにしっかりと晩酌をしておりますが、アルコール乱用者ではないと思います。
 因みに、胃ろうの患者さんが晩酌をすることもあるようです。
 仙台往診クリニックの川島孝一郎院長によると、「仙台往診クリニックで診療している在宅患者の中には、胃瘻から栄養を取りながら脱脂綿で少しずつ日本酒を口に運び、毎日晩酌をする終末期の患者さんが少なくない」(2013年2月10日発行日経メディカルNo.543 51-59)そうです。
P.S.
 胃ろうの患者さんでも、必要な栄養は胃瘻より摂取し、ごく少量のお楽しみ程度に「経口摂取」をされるという方は結構多いですよ。その辺りが、胃ろうの持つ大きな意義ではないでしょうか(=栄養管理をしたうえで、「お楽しみ」として好きなものをほんの少しだけ味わう!)。
 延命目的の胃ろうと栄養管理目的の胃ろうは、きちんと分けて議論する必要があります。

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 興味深い事実もご紹介しましょう。
①アルコールは神経新生を阻害する(He J, Nixon K, Shetty AK et al:Chronic alcohol exposure reduces hippocampal neurogenesis and dendritic growth of newborn neurons. Eur J Neurosci Vol.21 2711-2720 2005)。
②断酒によりアルコールによって阻害されていた神経新生過程が再開することになり脳体積の回復や認知機能の改善をもたらす(Crews FT, Nixon K:Mechanism of neurodeneration and regeneration in alcoholism. Alcohol Alcohol Vo.44 115-127 2009)。
③アルコール関連認知症(alcoholic-related dementia;ARD)は、断酒を継続するかぎり認知症の進行は起きないという点で、ARDとADは大きな相違点がある。
【編集/朝田 隆 著/小宮山徳太郎:誤診症例から学ぶ─認知症とその他の疾患の鑑別 医学書院, 東京, 2013, pp125-139】

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 「典型的で重度のコルサコフ症候群の患者であっても、健忘は、エピソード記憶に選択的であるため、意味記憶や手続き記憶は保たれている。そのため、会話は通常どおり可能で、英語の和訳や調理など、病前に獲得した知識や能力には大きな問題がない。少し話をしただけでは記憶障害の存在はわからないであろう。」(吉益晴夫:記憶. 精神科 Vol.23 147-151 2013)

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 「臨床検査については、血中VB1(正常値20~50mg/ml)の低下を認める。ただし、血中VB1は測定に時間を要し、日常的に検査される項目でないため、VBlを検査するという認識を持つことが重要である。血中VB1値は血液脳関門のため、脳での値を必ずしも反映しておらず、血中VB1が正常範囲内でもWernicke脳症を発症する可能性があり注意が必要である。」
【上野亜佐子、米田 誠:Wernicke脳症に伴うdementia. 神経内科 Vol.80 95-100 2014】

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 「世界的な約四八万人、三〇年間の調査を集計した結果では、適量のアルコール(一日二二グラム。ビールは大瓶一本、日本酒は一合)は二型糖尿病を男性は一三%、女性は四〇%防ぎますが、飲みすぎると(一日六〇グラム以上。ビール大瓶三本、日本酒三合以上)逆効果になることがわかりました。酒は『百薬の長』なのでしょうか。最近、このくらいの量のアルコールを飲む人は、動脈硬化にもなりにくいという調査結果が報告されていますから、適量のアルコールを飲んで、健康に暮らしている人は動脈硬化が起こりにくく、その結果、認知症にもなりにくいということなのでしょう。」(中谷一泰:ストップ!認知症 しくみがわかれば予防ができる! 西村書店, 東京, 2014, pp59-60)

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 「最近マスコミなどでも話題の塩麹(しおこうじ)は、麹に水と塩を加えて発酵させたものです。味は、旨み成分をたっぷり含んだ塩のようなもので、どんな食材、料理にも使え、食材の旨みを引き出してくれます。このようなことから、『魔法の万能調味料』とも呼ばれています。
 また、味だけでなく、幅広い効能も発揮します。
 塩麹からは、発酵の過程でビタミンB1、B2、B6、ビオチン(ビタミンH)、ナイアシン、パントテン酸、イノシトールといったビタミン類が生み出されます。これらには、細胞の新陳代謝を高めたり、栄養素の分解を促進したりする働きがありますから、非常に高い疲労回復効果が期待できるのです。」(白澤卓二:食べ物を変えれば認知症は防げる 宝島社, 東京, 2014, pp59-60)

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7. 飲酒と認知
 まず、飲酒頻度と認知症の関係はApoE ε4の有無により異なる。ε4を有さない場合は月に1回程度の飲酒群において認知症の発症率は最低であるが、ε4を有する場合には飲酒頻度が増えるに従い認知症発症が増加した(Anttila et al., 2004)。
 飲酒量に関しては少量から中等量が認知機能には良いとされている。少量~中等量の飲酒が65歳以上の日系アメリカ人男性(Bond et al., 2001)と白人(Bond et al., 2003)における良好な認知機能と関連することが示された。禁酒者に比べて、数ドリンク(ドリンク数に関しては下記)の飲酒者は認知機能低下が40%少なく、この傾向はApoE ε4陽性者において強かったという(Carmelli et al., 1999)。55~88歳の男性733名と女性1,053名を対象にして飲酒量と認知機能8領域(言語性記憶、記銘、視空間構成、視覚記銘、注意、抽象化、概念形成)にて評価したところ、2~4ドリンクを飲酒する女性と4~8ドリンクを飲酒する男性にて認知機能が良好であった(Elias et al., 1999)。欧米では“one drink”はアルコール換算で約15gであり、適切な飲酒量は1~4drink程度、アルコール換算量で14~52gとされている(Elias et al., 1999)。本邦では“one drink”をアルコール量10gとすることが多い。これに従うと、適切な飲酒量はビール(アルコール含量5%)では欧米280~1,040ml、本邦190~700ml、ワイン(10%)では欧米140~520ml、本邦90~350ml、日本酒(14%)では欧米100~370ml、本邦70~250ml程度となる。

13. 限界と問題点
 以上に述べた方法論を実診療の場面において応用しようとする場合、具体的な血圧や血糖のコントロールレベルが示されていないこと、食事、運動、認知トレーニングを受け入れる許容範囲が個人により大きく異なる可能性があること、推薦される飲酒量の範囲が広いことなどが、今後も引き続き検討されるべき問題点であると思われる。
【福井俊哉:日常生活における認知障害の予防法. Dementia Japan Vol.28 319-328 2014】

リバスチグミンとドネペジルの差異 [レビー小体型認知症]

リバスチグミンとドネペジルの差異―私のスライドより

 図表1-1「薬物に関する根拠の現状」【編/小阪憲司、著/森 悦朗:レビー小体型認知症の診断と治療─臨床医のためのオールカラー実践ガイド. harunosora, 川崎, 2014, p111】におきまして、認知機能障害に対する根拠として、DLBにおいてはドネペジルが「4(=有効:2つ以上の高品位のRCTで効果が示され、他に矛盾した知見がない)」でリバスチグミンが「2(=可能性あり:RCTの部分的・事後的解析、あるいは低品位のRCTで示唆されている)」、一方PDDではドネペジルが「2」でリバスチグミンが「4」と記載されております。
 これは不思議ですよね。病理学的にも症候学的にも共通した病態であるにも関わらず治療効果に差異が出てくるということは・・。
 だとすれば、ドネペジルとリバスチグミンの作用機序の違いが影響しているとしか考えられません。
 発売された当初は、ドネペジルとリバスチグミンとガランタミンの違いについて医学雑誌、講演会でよく話題として提供されました。
 最近では、3者の違いについて触れられることはほとんど無くなりました。それは、細かな違いこそあれ大きな違いは無いだろう・・というコンセンサスが得られてきたからではないでしょうか。
 しかし、薬剤過敏の目立つレビー小体型認知症(DLB)の治療におきましては、その“細かな違い”が病状に大きく影響しうるかも知れないということを忘れてはいけないのかも知れません
 そこで、DLBにおいて比較的治療効果が高いのではないかと指摘されてきたリバスチグミンと、従来からの治療薬で現在DLBに対して唯一保険適用(http://kaigo123.net/rebi-chiryo/)を有しているアリセプトの差異について考察するため、私のスライド集に忘備録としてしまい込んであった文献を抜き出してみました。
 この中に、何らかのヒントが隠されているとは思うのですが、現状ではまだ推測の域を出ておりません。


AChE3剤の作用機序の違い.jpg
 【高齢者のアルツハイマー型認知症治療における課題と展望. Geriat Med Vol.49 815-824 2011】

3剤の違い1.jpg
【池田篤平、山田正仁:アルツハイマー病新薬の使い分け方. 医学のあゆみ Vol.239 No.5 407-412 2011】
 

 アルツハイマー病、とくにBuChEによるアセチルコリン分解が主体となった進行例でもリバスチグミンは有用である可能性が期待されている。
 【岩手医科大学神経内科高橋智准教授:抗ChE-I剤とメマンチンの現状. Modern Physician Vol.30 1139-1143 2010】



 AChEは主に神経細胞に発現するが、BuChEは神経細胞のほか、グリア細胞にも発現するのが特徴である。ADでは進行に伴って、神経細胞の変性・脱落が起こりAChE活性は低下するが、一方でグリア細胞は増生し、BuChE活性が上昇する。そこにリバスチグミンのBuChE阻害作用が働くことで、シナプス間隙のACh濃度を上昇させることができる。
 【下濱 俊:Geriat Med Vol.49 819 2011】



 ドネペジル・ガランタミンで消化器症状が出現したら、消化器症状の頻度が少ないリバスチグミン・パッチに変更を検討できる。
 【繁田雅弘:Medical Practice Vol.29 799-802 2012】



 リバスチグミンはAChEといったん結合すると分離するまで長時間かかるため、偽非可逆性ChE阻害薬と言われ、最高血中濃度までの時間は0.5~2時間と短いが10時間程度の持続性ChE阻害作用を有する
 【和田健二、中島健二:Alzheimer病の治療薬-総論. 神経内科 Vol.76 113-119 2012】



 Bullockらは中等度AD患者994名についてプラセボ対照試験を行い,リバスチグミンとドネペジル塩酸塩の効果を比較したところ,NPI-10の下位項目にはいずれも有意差は認められなかった【Bullock R, et al. :Rivastigmine and donepezil treatment in moderate to moderately-severe Alzheimer’s disease over a 2-year period. Curr Med Res Opin. Vol.21 1317-1327 2005】
しかし,患者を75歳末満と75歳以上の2群に分けて再検討したところ,75歳末満の群では,不安,無為,脱抑制,睡眠,食欲,妄想の下位項目について,リバスチグミンがドネペジル塩酸塩よりも有意な効果が認められた【Bullock R, et al. :Effect of age on response to rivastigmine or donepezil in patients with Alzheimer’s disease. Curr Med Res Opin. Vol.22 483-494 2006】
 【朝田 隆、木之下 徹:『認知症の薬物療法』 新興医学出版社 2011 p38】




 Chee-Iのうちrivastigmineは、DLBにおける不安や意欲低下に対して効果的だったという報告(McKeith I et al:Efficacy of rivastigmine in dementia with Lewy bodies: a randomised, double-blind, placebo-controlled international study. Lancet Vol.356 2031-2036 2000)があるため、本邦でも使用経験の蓄積が待たれる。
 【熊谷 亮、一宮洋介、新井平伊:認知症の診断と治療における精神科的アプローチの特性. Dementia Japan Vol.26 164-170 2012】



順天堂大学大学院精神行動科学・新井平伊教授
 「海外の報告では、ドネペジル効果不十分例におけるリバスチグミンパッチへの反応率が約70%であった(Figiel GS:Prim Care Companion J Clin Psychiatry. Vol.10 291-298 2008)とされているため、効果不十分であった患者への切り替え投与も今後検討すべきでしょう。」
 【認知症治療における新規薬剤への期待. 2011年11月10日付日経メディカル第528号 113-116】



 G1-subtypeのAChEは海馬、扁桃体などのAD病変が強く認められる部位に強く発現し、リバスチグミンは他のAChE阻害薬に比べて、G1-subtypeのAChEへの選択性が高い。ADCS-ADL(Alzheimer’s Disease Cooperative Study Activities of Daily Living)スコアを用いた日常生活活動能力では、「入浴」、「買い物」、「何かを書き留める」、「最近の出来事を話す」などの点で有意な改善が報告されている(Alva G et al:Efficacy of rivastigmine transdermal patch on activities of daily living:item responder analyses. Int J Geriatr Psychiatry Vol.26 356-363 2011)。
 【門司 晃:リバスチグミンの臨床. MEDICINAL Vol.2 56-62 2012】



 DLBの治療は容易ではありません。薬物療法として、McKeithらは、AD治療薬であるアセチルコリンエステラーゼ阻害薬のなかでは、リバスチグミンがより効果的と報告(McKeith IG et al:Diagnosis and management of dementia with Lewy bodies:third report of the DLB consortium. Neurology Vol.65 1863-1872 2005)しています。レビー小体型認知症を命名したMckeithらは、レビー小体型認知症では、リバスチグミン投与群はプラセボ群に比べてアパシー、不安、妄想、幻視の有意な改善がみられ、レビー小体型認知症のBPSDにおけるリバスチグミンの有用性を報告(McKeith IG et al:Efficacy of rivastigmine in dementia with Lewy bodies:a randomized, double-blind, placebo-controlled international study. Lancet Vol.356 2031-2036 2000)しています。
 【木村武実:BPSD─症例から学ぶ治療戦略 フジメディカル出版, 大阪, 2012, pp29,107】



 著者は、保険適応外であるが、パーキンソン病に伴う認知症(Parkinson’s disease with dementia;PDD)あるいはレビー小体型認知症の患者さんに、しばしばイクセロン・リバスタッチを使用している。幻覚などの精神症状が著しく改善・消失する事例が少なくない
 【川畑信也:臨床医へ贈る抗認知症薬・向精神薬の使い方 中外医学社, 東京, 2012, pp40-41】



リバスチグミン18mg=ドネペジル9.4mg
 リバスチグミンは、最大容量18mgがドネペジル9.4mgに相当し(Bullock R, Touchon J, Bergman H et al:Rivastigmine and donepezil treatment in moderate to moderately-severe Alzheimer‘s disease over a 2-year period. Curr Med Res Opin 2005 Vol.21 1317-1327)、さらにパッチ剤となったため、高容量の投与も可能である。
 ドネペジルの項でも述べたが、実際、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤は高容量必要であることが示唆されており、その点でリバスチグミンパッチは有効である。
 【工藤 喬、武田雅俊:認知症の新しい薬物療法. 精神科 Vol.22 418-423 2013】



 進行したADでは、BuChEを抑制する方がより効果がある可能性がある。
Rainaらのメタ解析では9試験(2,164症例)が検討され、認知機能や全般的臨床症状で有意な改善を認めている【Raina P et al:Effectiveness of cholinesterase inhibitors and memantine for treating dementia:evidence review for a clinical practice guideline. Ann Intern Med Vol.148 379-397 2008】。
 しかし、高度ADに対する効果についてのメタ解析では、2試験のみが評価対象となり、その効果は限定的であると報告【Birks J et al:Rivastigmine for Alzheimer’s disease. Cochrane Detabase Syst Rev, 2009;CD001191】、さらなる検討が必要である。
【浜口 毅、山田正仁:認知症の薬物療法─認知症の中核症状に着目した治療薬の使用方法と注意点. Geriat Med Vol.51 39-45 2013】



リバスチグミン─BuChを介する効果か?
 BuChは、記憶を司る海馬や喜怒哀楽に関与する扁桃体に多く発現するため、易怒性、易刺激性、無気力(アパシー)などに効果的である。
 【吉岩あおい:認知症治療薬の特性─認知症の人のために、介護者の負担軽減に根ざした治療─. 第14回日本認知症ケア学会プログラム・抄録集, pp30-31 2013=特別講演2】



Six-month, placebo-controlled randomized controlled trials (RCTs) of the cholinesterase inhibitor rivastigmine have indicated modest but significant benefits in cognition, function, global outcome and neuropsychiatric symptoms in both PDD and DLB. (コリンエステラーゼ阻害剤リバスチグミンの6カ月のプラセボ対照無作為化試験では、認知、機能、全般的な臨床アウトカム、神経精神徴候においてPDDとDLBのいずれにおいても大きくはないものの有意な効果が示されている。)
 他のコリンエステラーゼ阻害剤のRCTによるエビデンスについては結論が得られていない。最近のPDD/DLB患者を対象としたメマンチンのRCTでは、全般的な臨床アウトカム、なかでも睡眠障害に対して明確な有効性が得られている。抗精神病薬の感受性リスクが高いので、抗精神病薬の投与は避けるべきである。PDD/DLB患者のかなりの割合でレボドパに対して反応するが、特に幻視などの神経精神徴候を増悪させる傾向があるため、抗パーキンソン病薬投与の際にはケアの必要がある(Ballard C, Kahn Z, Corbett A:Treatment of Dementia with Lewy Bodies and Parkinson's Disease Dementia. Drugs Aging Vol.28 769-777 2011)。
 【山本泰司:最近のジャーナルから. 認知症の最新医療 Vol.3 102 2013】




ユマニチュード(Humanitude) [認知症ケア]

ユマニチュード(Humanitude)
 https://www.facebook.com/atsushi.kasama.9/videos/vb.100004790640447/595811383921878/?type=2&theater

 私の保存ビデオの中でも最高傑作の一つ、「2014年5月10日放送のTBS『報道特集』」をご紹介します! シェアしたくなるとは思うのですが、著作権の関係がありますので、こっそりと教えて下さいね(「拡散」希望しません)。
 講演会の際にこのVTRをご紹介しますと、涙される方が沢山おられます。
 ユマニチュードの概略が解説されておりますので、「ユマニチュードの基本」を勉強するには好材料であると思っています。

朝日新聞アピタル「ひょっとして認知症-PartⅡ」第463回『患者の声が聞こえていますか?─正面から長い時間をかけて近くで話しかける』(2014年4月13日公開)
 なお、「学習された無力感」について、とても興味深い指摘がされております。
 「ルビンスキは、『学習された無力感』という状態について説明しています。これは、出来事や結果が自分の反応に関係なく起きていると認識し、それ以上どんな行動をとっても無意味だと結論を出した時に起きるものです。『認知症がある人は、自分が反応しても無意味だと思うと、反応するのをやめてしまいます』(Rau MT:Impact on families. A chapter in Lubinski, 1991, p142)。そうすると、その人に関わる重要な人たちは、その人が直接反応を示せることや能力をもって対応することを期待しなくなり、依存という悪循環が助長され、その人はさらに力を奪われることになってしまいます。」(マルコム・ゴールドスミス:私の声が聞こえますか─認知症がある人とのコミュニケーションの可能性を探る 高橋誠一/監訳 寺田真理子/訳 雲母書房, 東京, 2008, p133)
 東京都健康長寿医療センター研究所・福祉と生活ケア研究チームの伊東美緒研究員は、フランスのイブ・ジネスト、ロゼット・マレスコッティの2人が創設した「ユマニチュード(Humanitude)」の研修を受けた際の衝撃を以下のように回顧しておられます。
 「この研修を受け、施設を訪問しているときを振り返ってみると、例えば、静かに寝ている人に対してはわざわざ声をかけることをしないなどの態度がさらに彼らを自分の穀に閉じ込めているのだということに気づき、相当なショックを受けました。
 特に、ジネスト氏が『上から(威圧的に)、短い時間(かかわりを避ける)見下ろされたとしても、見ないよりはずっといい。なぜなら注意を向けられているから』と言われたときには、私は見下すよりもひどい態度をとっていたのか…と愕然としました。」(伊東美緒:多くの認知症ケア理論が存在するにもかかわらずなぜユマニチュードが必要か. 看護管理 Vol.23 922-926 2013)
 そして伊東美緒研究員は、「見つめることの技術」について以下のように言及しております(伊東美緒、本田美和子:ユマニチュードのケアメソッド. 看護管理 Vol.23 914-921 2013)。
 「『短い声かけ』と『短い視線の投げかけ』を行なっただけでは、認知症の人は認識できていないことがあります。私たちとしては伝えたつもりでも、相手からは気づかれていない状況に陥ってしまっているのです。つまり、看護師として何度も声かけをしているつもりでも、相手が認識できる声かけになっていなければ、無視していることと同じことになってしまいます。
 そして、寝たきり、もしくは座りきりにされている認知症の人たちは、自分に目が向けられず、話しかけてもらえない環境に長い間放置され、自分の殻に閉じこもるようになります。なぜなら、見てもらえない、話しかけてもらえない状況は、存在そのものを否定されることであり、人間にとっては最も耐え難いことだからです。
 認知症が進行している人に話しかけるときには、水平に、正面から、長い時間をかけて、相手の顔から20cmくらいの距離で話しかけることを推奨しています。
 優しさを伝える視線の技術
1. 垂直ではなく水平に
2. 斜めからではなく正面から
3. 一瞬ではなくある程度の時間
4. 遠くからではなく近くから」

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ユマニチュード(Humanitude):
 「ユマニチュードは34年前に創始者であるジネスト先生、マレスコッティ先生の2人によって誕生しました。創始者の2人は、体育学の専門家であり、当初、患者の移動などのケアを通じて腰痛を起こした看護師・介護士向けに、腰痛予防を目的とした講義を望まれて病院へ赴きました。しかし、彼らがそこで目にしたものは、医学・看護学の分野では常識ときれているものの、体育学の目からは必ずしもそうでない、数々の事象でした。
 看護師・介護士の長浦を予防するためには、ケアそのものを変える必要がある、と考えた彼らは、『ケアをする人とは何か』『人とは何か』という命題のもとに地道な経験を積み重ね、知覚・感覚・言語による包括的コミュニケーション法を軸としたケアメソッド、ユマニチュードを作り上げました。」(本田美和子:ユマニチュードとの出会いと日本への導入. 看護管理 Vol.23 910-913 2013)

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ユマニチュード(Humanitude):
 2014年5月10日に放送されましたTBS「報道特集」http://www.tbs.co.jp/houtoku/onair/20140510_2_1.html#)におきましては、ユマニチュードに関して具体的かつ詳細な報道がなされました。約24分もの時間を割いて詳しく紹介されましたよ。
 番組の冒頭におきましては、65歳になった足立昭一さんの姿が映し出されました。
 次に映し出されたのは、フランスの病院に入院する認知症患者さんが介護者に怒りながら、時には介護者の手を叩きながら整容を受けるシーンです。
 そして、2014年1月11~12日に東京都千代田区で開催されました第2回(平成25年度)「病院職員のための認知症研修会」(http://www.ajha.or.jp/seminar/other/pdf/131114_3.pdf)では、研修者で会場が溢れかえる様子が映し出されました。

 ユマニチュードに関しては、ひょっとして認知症?のシリーズ第463回「患者の声が聞こえていますか?─正面から長い時間をかけて近くで話しかける」においてほんの少しご紹介しましたね。ユマニチュードを開発したのは、フランスのイブ・ジネストさんです。
 私も詳細を知らなかったためほんの少しだけしかご紹介できなかったのですが、TBS「報道特集」でかなり詳しく報道されましたので理解を深めることができました。
 それでは、TBS「報道特集」の放送内容を振り返ってみましょう。
 イブ・ジネストさんが最初に訪れたのは、横浜市の福祉法人・緑成会の特別養護老人ホーム「緑の郷」です。
 ジネストさんは、特養入居者の一人である小野寺忠夫さん(76歳, 脳疾患により右片麻痺)に手を開き、「ヤー」と挨拶をしながら近づきます。そして、「大工をやっていた」と話す男性に対し、「すごい仕事です」と語りかけます。男性の顔に少しずつ笑顔が戻ります。今までほとんど立つこともなかった小野寺さんが支えながらも少しずつ歩き出す様子が放送されました。

 イブ・ジネストさんはユマニチュードについて以下のように語りました。
 「ユマニチュードは、認知症の人との人間関係・“絆”をつくるテクニックなんです。」
 「『私はあなたの友人ですよ、仲間ですよ』と認知症の人に感じてもらうには、“見る”“話す”“触れる”という3つの行動で伝えることが大切なのです。」
 「認知症の人は相手から見られないと“自分は存在しない”と感じ、自分の殻に閉じ籠もってしまいます。私たち介助者が最初にすべきことは、あらゆる手段を使って、彼らが“人間である”と感じさせることなんです。」
 「認知症の人の場合、相手が優しい人かどうかを知性で判断することが難しくなっています。しかし感情の機能は最期を迎える日まで働いています。ですから、ユマニチュードではその優しさを“感情”にうったえるのです。」

 番組においては、“見る”“話す”“触れる”の3つの具体的な手法も紹介されました。
 近づく際にまず留意する点は、“遠い位置から視野に入る”ことです。
見る:
 目線は正面から水平の高さ(=お互いに平等だということを伝える)、近い距離で長い時間見つめる!
話す:
 優しいトーンで、できるだけ前向きな言葉で友好的に語りかける(この時、大袈裟とも思える位の笑顔を作る!)。
 そして、相手の反応をみながら触れる!
触れる:
 触れる時には触れる場所・触れ方に注意することが必要です。

 イブ・ジネストさんが次に訪れたのは、栃木県足利市の足利赤十字病院です。ジネストさんは、そこに入院する近藤政時さん(94歳)の元を訪れます。3年前に妻を亡くしてから認知症を発症した政時さんは、家中のものを壊すなど徐々に感情のコントロールが利かなくなっていきました。
 看護師が3人がかりで政時さんの口腔清拭を試みますが、政時さんは口を開けようとしません。次にユマニチュードのインストラクターが政時さんの口腔ケアを試みます。インストラクターは、部屋に入る際には、たとえ返事がなくとも必ずノックをして入ります。相手に、「テリトリーに入りますよ」という合図をすることを意識しているのです。
 政時さんは身体拘束を受けておりましたが、ジネストさんとインストラクターは拘束を一つひとつ外していきます。ユマニチュードでは原則として“拘束”はしません。拘束は症状を悪化させる危険な行為だと考えているのです。それは、ユマニチュードでは、“動くことは生きることであり、それを制限することは生きることを否定するという考え方がベースにある”からなのです。
 次に、ジネストさんとインストラクターは政時さんを立たせました。ユマニチュードでは“立つ”ことも重視しています。立つことで、筋肉を衰えさせないだけでなく、立つことで他の人と同じ空間に居ることを認識させるのです。そしてそれが人間の尊厳を保つことに繋がるのだそうです。
 こうして人間関係を構築した後にインストラクターが政時さんの口腔ケアを試みますと、あれ程嫌がっていた政時さんがすんなりと口を開けました。そして何と、「さっぱり致しました」と笑顔で返事したのです。
 入院してから寝たきりだった政時さんでしたが、立って歩く姿、そして何年かぶりに笑顔になった父親の姿を見た息子さん(同病院薬剤部職員)の目には涙が浮かんでいました。
 そして驚くべきことに、ジネストさんがその場を離れた後、政時さんは一人で車椅子から立ち上がることができたのです。「ユマニチュードが政時さんの心の扉を開き、本来持っている力を蘇らせた!」とナレーションは締めくくりました。

 番組の最後に、コメンテーターの方は、「ユマニチュードは“優しさを伝える技術”と言われます。その基本となるのが“見る”“話す”“触れる”ことです。
 ただ、簡単そうに見えても150もの技術があり、東京都健康長寿医療センターの本田美和子医師がセンターの中で研修が行えるよう準備を進めている」と述べておられました。

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売れている本=ユマニチュード入門(医学書院, 2160円)
 「『ユマニチュード』という言葉をご存じだろうか。フランスの体育学者イヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティが開発し、日本の認知症ケアの業界においても、近年、急速に注目されつつある技法である。
 満を持して登場した本書は、ケアの専門書であるにもかかわらず、出版後わずか1カ月間で4万部近く売れたという。介護職のみならず、認知症当事者の家族などが競って購入したのであろう。
 ユマニチユードは、時に〝魔法〟や〝奇蹟〟に例えられる。なにしろ、手に負えない暴力的な人が穏やかになり、拒んでいた食事や入浴を受け入れるようになり、寝たきりだった人が立ち上がって歩き出す、というのだから。
 いささか眉唾と感ずるむきもあろうが、技法の細部を知れば納得できる。『見つめること』『話しかけること』『触れること』『立つこと』を基本として、150以上の具体的な方法論があるのだ。評者は『(立たせるとき)わきを持ち上げない』『(誘導のさい)手首をつかまない』といった工夫に『本物』を実感した。【精神科医・斎藤 環】」(2014年7月20日付朝日新聞・読書)

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 「病気や障害によって他者に頼らざるをえない状態になった人の場合、この『見る・見られる』という関係はどのようになっていくでしょうか?
 ここで、認知症で寝たきりとなったグレゴリーさんという高齢者を3日間観察して得た結果を紹介します。
 3日間の調査期間中、部屋にやってきた人からの視線の投げかけは、0.5秒未満が9回あっただけでした。ユマニチュードでは、相手を『見る』ためには0.5秒以上のアイコンタクトが必要だとされています。グレゴリーさんの部屋には3日間の合計で、医師が7分間、看護師が12分間それぞれ来訪していましたが、彼らとグレゴリーさんとのアイコンタクトはともに0秒でした。
 つまり、『あなたの存在を認めていますよ』というメッセージを発するための『見る』という行為が、医師からも看護師からも行われていなかった、という結果になりました。人としての存在とその尊厳を確認するための行為──第2の誕生をもたらす『見る』行為──は、グレゴリーさんに対し3日間で一度も実施されていなかったのです。

やってみたユマニチュード
 ユマニチュードのテクニックに『目が合ったら2秒以内に話しかける』というのがあります。そんなことは当たり前だと思われるかもしれないですが、目が合わないと思っていた方と目が合うと、びっくりしてこちらも一瞬固まってしまうんです。
 患者さんの立場になって考えると、ふと気づいたら目の前に人がいて、何も言わずにじっとこちらを見ていたら怖いですよね。攻撃しにきたのかと勘違いされてしまいます。2秒以内に話しかけなければいけないというのは、自分が敵意をもっていないことを相手に示すためなんだ、と知りました。
 そういった一つひとつのテクニックが具体的に構築されているところが、ユマニチュードの優れた点だと思います。」(本田美和子、イヴ・ジネスト、ロゼット・マレスコッティ:ユマニチュード入門 医学書院, 東京, 2014, pp46-47)

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 2014年7月20日に放送されましたNHKスペシャル・認知症をくい止めろ!(http://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20140720)におきまして、ユマニチュードの実践例が紹介されました。

実践例1【花塚綾子さん, 72歳】
 アルツハイマー型認知症と診断してから13年になる。
 平素は声を上げたり突然怒り出したりコミュニケーションを取ることが困難な状況ですが、ユマニチュードを取り入れたところ、声を上げることが少なくなり柔らかい表情になった様子が映し出されました。

実践例2【岡 四平さん, 88歳】
 2年前に脚の骨折をしてから寝たきりの状態。
 イヴ・ジネストさんが訪室してわずか20分後に2年ぶりに歩いた様子が報道されました。

実践例3【久万辰雄さん, 95歳】
 肺炎で入院したことが契機となって認知症が悪化。このままだと寝たきりにならないかと心配されていました。
 しかし、ユマニチュードを入院中から在宅へと継続して実践(妻のかね子さんが家庭で行うための基本を教わって実践)したところ、2か月後には見違えるようによくなり笑顔も取り戻した様子が紹介されました。

 ユマニチュードの基本である「見つめる」「話しかける」「触れる」「寝たきりにしない」についても若干の解説が加えられました。
 「見つめる」際には、遠くから視野に入り正面から見つめます。認知症の人は視界の中心に居る人しか認識できない場合があるためです。
 「話しかける」時には、実況中継をするように話しかけつづけるのがポイントです。
 「触れる」時はやさしく、「つかむ」のではなく動こうという意志を活かして下から「支える」。
 スタジオゲストの本田美和子医師は、車椅子を押す場合には認知症の人の視野から消えてしまいますが、片手で車椅子を押し、もう片方の手を(軽くではなく少し力を加えて)肩において「いるんだよ」というメッセージを伝えましょうとお話されておりました。

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 ユマニチュード(Humanitude)はイヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティの2人によってつくり出された、知覚・感情・言語による包括的コミュニケーションにもとづいたケアの技法です。この技法は「人とは何か」「ケアをする人とは何か」を問う哲学と、それにもとづく150を超える実践技術から成り立っています。認知症の方や高齢者のみならず、ケアを必要とするすべての人に使える、たいへん汎用性の高いものです。
 体育学の教師だった2人は、1979年に医療施設で働くスタッフの腰痛予防対策の教育と患者のケアへの支援を要請され、医療および介護の分野に足を踏み入れました。その後35年間、ケア実施が困難だと施設の職員に評される人々を対象にケアを行ってきました。
 彼らは体育学の専門家として「生きている者は動く。動くものは生きる」という文化と思想をもって、病院や施設で寝たきりの人や障害のある人たちへのケアの改革に取り組み、「人間は死ぬまで立って生きることができる」ことを提唱しました。
 その経験の中から生まれたケアの技法がユマニチュードです。現在、ユマニチュードの普及活動を行うジネスト─マレスコッティ研究所はフランス国内に11の支部をもち、ドイツ、ベルギー、スイス、カナダなどに海外拠点があります。また2014年には、ヨーロッパ最古の大学のひとつであるポルトガルのコインブラ大学看護学部の正式カリキュラムにユマニチュードは採用されました。
 「ユマニチュード」という言葉は、フランス領マルティニーク島出身の詩人であり政治家であったエメ・セゼールが1940年代に提唱した、植民地に住む黒人が自らの“黒人らしさ”を取り戻そうと開始した活動「ネグリチュード(Négritude)」にその起源をもちます。その後1980年にスイス人作家のフレディ・クロプフェンシュタインが思索に関するエッセイと詩の中で、“人間らしくある”状況を、「ネグリチュード」を踏まえて「ユマニチュード」と命名しました。
 さまざまな機能が低下して他者に依存しなければならない状況になったとしても、最期の日まで尊厳をもって暮らし、その生涯を通じて“人間らしい”存在であり続けることを支えるために、ケアを行う人々がケアの対象者に「あなたのことを、わたしは大切に思っています」というメッセージを常に発信する──つまりその人の“人間らしさ”を尊重し続ける状況こそがユマニチュードの状態であると、イヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティは1995年に定義づけました。これが哲学としてのユマニチュードの誕生です。
【本田美和子、イヴ・ジネスト、ロゼット・マレスコッティ:ユマニチュード入門 医学書院, 東京, 2014, pp4-5】

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 ベッドで寝たままの清拭では、骨に体重がかかることが少ないため骨は強くならず、関節は固くなり、筋力は衰えます。ベッド上安静は1週間で20%の筋力低下を来たし、5週間では筋力の50%を奪ってしまいます(Thomas E et al:Effects of extended bed rest: immobilization and inactivity. Cuccurullo S(ed). Physical medicine and rehabilitation board review. Demos Medical Publishing;2004)。
 重力のない状態で過ごして地球に帰還した宇宙飛行士は、2週間という短期間であっても20%の筋力を失っているという報告もあります(大島 博、水野 康、川島紫乃:宇宙旅行による骨・筋への影響と宇宙飛行士の運動プログラム. リハビリテーション医学 Vol.43 186-194 2006)。すなわち、本人の骨と筋肉に荷重をかけない「寝たままの清拭」は、回復を目指すというケアの目的にかなっていません。
 フランスのある介護施設では、ユマニチュードによるケアの導入後、ベッドで行う清拭が60%から0%になったという報告がありました。これは、受けるべきケアのレベルを再評価してみたところ、それまでベッドでの清拭を受けていた入居者の全員が実は適切なレベルのケアを受けていなかった、ということを示しています。
【本田美和子、イヴ・ジネスト、ロゼット・マレスコッティ:ユマニチュード入門 医学書院, 東京, 2014, pp17,21-22】

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ケアの準備
 第2のステップは、ケアについて合意を得るプロセスです。
 所要時間は20秒~3分です。これまでのユマニチュードの実践の経験では、およそ90%は40秒以内で終わっています。つまり、面倒なようでも、とても短い時間しかかかりません。
 ユマニチュードのこの技術を用いることで、攻撃的で破壊的な動作・行動を83%減らせたという報告があります。実際に日本で、日本人のスタッフが実施してみても、この段階ですでに本人の反応が異なることを数多く体験しています。どんなに業務が忙しくても、40秒程度ならその時間を捻出することはそれほど難しくないはずです。

●正面から近づく。
●相手の視線をとらえる。
●目が合ったら2秒以内に話しかける。
 例:「おはようございます! お会いできて嬉しいです。」
●最初から「ケア(仕事)」の話はしない。
●体の「プライベートな部分」にいきなり触れない。
 ここで気をつけておきたいのは、顔は極めてプライベートな領域であることです。
●ユマニチュードの「見る」「触れる」「話す」の技術を使う。
●3分以内に合意がとれなければ、ケアは後にする。
【本田美和子、イヴ・ジネスト、ロゼット・マレスコッティ:ユマニチュード入門 医学書院, 東京, 2014, pp100-113】

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 私がユマニチュードへの興味を持ち始めたきっかけは、2013年10月、駒沢オリンピック公園の向かいにある国立病院機構東京医療センターを訪ね、総合内科医長の本田美和子先生から話を聞いたことでした。
 その日は、外来棟や入院棟の奥に併設された管理棟の7階、研修医らが生活する寮の中の一部屋をあてがわれた本田先生の執務室に案内されました。
 私は4年ほど前から、NHK総合で放送されている「クローズアップ現代」 (毎週月曜~木曜 午後7時30分から放送)という番組の制作に定期的に携わっており、その時はちょうど、超高齢社会を迎えた日本にどのような変化が起きており、どんな対策を講じる必要があるのかといったテーマを、継続的に取り上げていました。
 その取材の折に、ある大学の研究者から「〝ユマニチュード〟というフランス発のすごい認知症ケア技法がある」と聞き、伝手を頼ってユマニチユードの普及に取り組む本田先生に会い、取材する約束を取りつけたのです。
 取材に先立ち、事前に調べたところでは、ユマニチュードはまだ、日本でほとんど紹介されておらず、看護師のための専門誌で特集されているぐらいで、大手の新聞でも記事はまだわずか。
 テレビに関しては、NHKの「暮らし✧解説」という10分間のスタジオ番組で紹介されただけで、ほとんどないという状態でした。

 この日、本田先生は、ユマニチュードというケア技法の特徴や、それを日本に導入することになった経緯など、この本でもこの後、詳述する様々な興味深い話を聞かせてくれました。
 しかし、この日の取材で最も強く印象に残ったのは、東京医療センターに入院した87歳の認知症の女性をケアする様子を映した映像でした。
 2人の看護師が女性を入浴用のベッドに乗せ、シャワーを浴びせると、女性は「なんでそんなことをするの!」「やめて」「いやーっ!!」と絶叫しています。
 音声だけ聞いていると、まるで女性が拷問されているか、レイプ被害にでもあっているかのような反応ですが、2人の看護師さんたちは、決してその女性を乱暴に扱っているわけではなく、お湯の温度も熱すぎたり、冷たすぎたりしないようきちんと調節していたと言います。
 一人では入浴ができない入院患者である女性を、自分たちがきれいにしてあげようとしているのに予想外の反応を返され、看護師が一体どうしたらいいのか、困惑しきっている表情を浮かべているのです。
 これまでも、介護施設などで認知症の人の取材をしたことは何度かありましたが、改めて、「認知症のケアは、やはり大変だなあ」と感じさせるものでした。

 ところが、次にこの同じ女性に対し、別の日に行われた入浴ケアのシーンを見せられ、驚きました。
 先に見せられた映像では、入浴用のベッドにあおむけに寝かされていた女性が、今度は座った姿勢でシャワーを浴びています。
 対応するのは同じく2人の看護師さんですが、1人は女性の顔を見つめ、話しかけ、もう1人が、シャワーを浴びせているのが最初の映像との違いでした。
 すると、前のビデオでは叫び声を上げていた女性が、「ごめんなさい、騒いでしまって。いつも怖くて怖くて、私、泣いていたの。本当にすいません」と、切々と語り出したのです。
 さらに、「今は気持ちいいですか?」という看護師さんの問いに、「はい。とても気持ちいいです。ありがとうございます」と答えているのです。

 これは、とても衝撃的な映像でした。
 敬語で自分の細やかな感情のありようを切々と訴える様子から、この女性が高い知性を持っていることや、それを培うために積み重ねてきた人生の豊かな歴史が感じられました。
 そして、ただシャワーを浴びせられただけで、まるで拷問を受けているかのように叫び声を上げていた状態は、認知症によって「引き起こされたもの」であることが、はっきり理解することができたのです。
 本田先生の説明によれば、この女性は、ほんの少し前の記憶すら失ってしまうほど認知症の症状が進んでいる状態でした。
 それなのに何日も前に、自分がシャワーの時になぜ叫び声を上げたのかをきちんと覚えていたのです。
【望月 健:ユマニチュード─認知症ケア最前線 KADOKAWA, 東京, 2014, pp14-17】

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 いかに優しく、穏やかにといっても、前向きな言葉を話し続けるのは、なかなかどうして簡単なことではありません。
 特に相手が返事を返してくれたり、相づちを打ってくれなければなおさらです。
 言葉でメッセージを送れば、通常は相手から言語や、言語でなくとも意味のある返答=「フィードバック」があるものです。それがなければ、「今日は、いい天気ですね」「顔色がいいようですね」と、天気と顔色をほめたら、後は何を話していいのか、結構、行き詰まります。
 そこで、考え出されたのが、「オートフィードバック」というユマニチュードのコミュニケーション技術です。
 コミュニケーションを取るのが難しい相手でも、言葉によるメッセージを送り続けるためのエネルギーを自ら作り出し、補給し続ける方法です。
 基本は体を拭くなど何かケアをする必要がある時に、その行為そのものを言葉にするのです。
 「今日は、○○さんにさっぱりしてもらおうと思って、準備してきました」「とっても暖かくしてあるので、すごく気持ちがいいですよ」「それでは、右手から拭いていってもいいですか?」などと、実況中継のように状況を説明していくのです。
 併せて、「こんなにしっかり腕が上がるのは、すばらしいですね」「協力してくれたので、うまく拭けました」「○○さんも、すごく気持ちよかったのではないですか」などど、相手を快くさせる前向きの言葉を添え、ケアの空間を暖かい言葉で満たしていくのです。
 ある看護師さんは、「人間というのは不思議な生き物で、実際に前向きな言葉を口に出してケアを行うと、それがウソにならないように、どう工夫したら相手が気持ちよく感じるかを考えるようになった」と話していました。
【望月 健:ユマニチュード─認知症ケア最前線 KADOKAWA, 東京, 2014, pp36-38】

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総合内科病棟の看護師が感じるジレンマ
 クローズアップ現代で紹介した調布東山病院と東京医療センターの2つのケースは、どちらも、認知症の人と絆を結ぶ重要な役割を、ユマニチュードのインストラクターとして、非常に優れた技術を持つ東京医療センターの林紗美看護師(総合内科病棟・副看護師長 はやしさよし)が担っていました。
 美しさに加え、相手の心を溶かすような笑顔は、取材スタッフの間でも、「自分の親にケアが必要になったら、こういう看護師さんにお願いしたいものだ」とか、「あの笑顔は、ユマニチュードを超越している。反則だ」などと、余計なお世話以外の何物でもない議論のタネになるほどでした。
 しかし、取材に先立つ打ち合わせの時などは、患者さんに接する時のあの優しさはどこに行ったのかと思うほど、厳しい指摘を繰り出してきます。
 それらは、自分たちが預かっている患者さんという病やけがを抱えた人たちに、不必要な迷惑はかけさせないという強さとプロ意識を感じさせるもので、とても好感が持てました。
 冗談で、「ユマニチュードで患者さんに対応する時と、随分違いますね」と言ったら、「ふだんは、文句も不満も言いますよ」と言われ、なるほど、ユマニチュードは個人の性格などではなく、技術なのだなあと妙に納得したのを覚えています。

 その林看護師に、どうしても聞きたいことがありました。
 ユマニチュードが、認知症ケアの分野で、優れた威力を発揮する技術であることは、取材を通して、かなり確信を持てました。
 しかし、日本では、人手不足に苦しみ、朝から晩まで多くの仕事を抱え、それでいて十分な賃金を受け取ることができず、苦悩する医療や介護の職場があり、スタッフがいるという現実があります。
 人と正面から向き合うためには、それだけ多くの時間が必要になります。
 本当に、忙しい職場に、ユマニチュードを普及させることはできるのか、現場で働く看護師から、直接、答えを聞きたかったのです。
 その質問に対し、林看護師からこんな答えが返ってきました。
 「確かに最初は、ふだんから忙しいのに、また何か新しいことをやらなければいけないのかと思って、現場にこれ以上、新たな負担をかけるようなことは、もう無理じゃないかなと思っていました。
 けれど、実際にやってみると、状況が理解できず協力が得られない方やケアを拒否する方には4人、5人が集まって、何とかなだめたり、動いてもらおうと一生懸命、力を使ったり。それでも20分、30分かかって、やりたかったケアができないこともあります。
 それが、ユマニチュードをすることで、確かに丁寧にすごく時間をとっているように見えるけれども、結果としては、とてもスムーズに、こちらがやりたかったこともすぐできる。患者さんが一緒に協力してくれるので、その分、自分の体も楽なので、お互い楽に、スムーズに終わらせることができるのです」
【望月 健:ユマニチュード─認知症ケア最前線 KADOKAWA, 東京, 2014, pp86-89】

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