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DLBの幻視とADの幻視は発生機序が違う [レビー小体型認知症]

幻視に対する薬物療法の考え方

 アルツハイマー型認知症でみられる幻視に対して,有効性を期待できる薬剤は少ない.原則は非薬物療法で対応すべきであるが,夜間の睡眠障害のために日中の覚醒度が低いことから,幻視を訴える患者がみられる.そのときには,夜間の睡眠を確保できる薬剤を使用することで,日中の幻視が軽減することもある.レビー小体型認知症と診断される患者の場合には,ドネペジル(アリセプト[レジスタードトレードマーク])が幻視の軽減から消失を期待できるので,一度はその使用を考慮したい.
 【川畑信也:認知症でみられる行動障害・精神症状BPSDへの対応の実際. Geriatric Medicine Vol.54 447-453 2016】

私の感想:
 DLBの幻視とADの幻視は発生機序が違いましたね。
 以下に復習して下さい。
 

1. はじめに
 BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)の発現には環境要因(独居、環境変化など)、心理的要因(喪失感、孤独感など)、身体的要因(難聴、視力障害、運動制限、身体疾患など)、性格要因(疑い深い、心配性、凡帳面ほか)などが複雑に絡み合っているが、病理学的な基盤は共通して存在する。それは認知症でさえなければBPSDは発現しなかったであろうことからも明らかである。認知症症状は中核症状と周辺症状からなり、BPSDは周辺症状にあたるとされるが、その発現には中核症状も関与している。例えば、「物盗られ妄想」は物忘れだけでは起きないものであるが、中核症状である病的な物忘れが基盤にあることは確かである。

3. 脳の領域と幻覚
1)ATDの誤認・幻覚
 アルツハイマー型認知症(ATD)では視覚情報統合の上位の領域ほど病変が強い。以上のことから、ATDでは情報はインプットされるがそれを統合して有効に利用する機能が冒されているので視覚情報の誤認が起こりやすく。BPSDとしての視覚性誤認や幻視が起こりやすい。これは聴覚系でも同様であり、錯聴、幻聴を引き起こすと考えられる。このような知覚の誤認や幻覚は認知症ではしばしば妄想に発展する。
2)DLBの幻視
 DLBの後頭葉の視覚系でもATDと同じように上位の領域ほどレビー病理が強い。DLBでは後頭葉の脳血流の低下があり、これはDLBの幻視を説明する根拠とされている。これはDLBの視覚性誤認の基盤として矛盾しないが、DLBの幻視はATDと異なった『ありありとした』幻視という特徴があり、頻度も高く、ATDとは異なった機序も関与していると考えられる。

4. ATDの『物盗られ妄想』と『誰かいる妄想』
 妄想の中には脳の局在機能の関与が疑われるものがある。『物盗られ妄想』と『誰かいる妄想』はATDで起こりやすい妄想であるが、いずれも空間認知が関係していると考えられ、ATDで病変が高度に及ぶ頭頂葉領域の関与が示唆される。ATD病変は海馬領域を中心とする辺縁糸に始まり、大脳新皮質に広がる。その進展の様相はNFTの分布とその程度(http://www.inetmie.or.jp/~kasamie/Braak-NFTstage.JPG)にほぼ相関している。大脳新皮質では一次知覚・運動野は最後に病変が及ぶ領域であり、連合野が冒されやすいが、連合野の冒され方も一様ではない。ATDの連合野は、後部帯状回と上頭頂小葉が最初に冒され、次いで、下頭頂小葉、中・下側頭葉が続く。経時的な機能画像研究で示されているように、ATD病変は後方から前方(前頭葉)に広がる。早期に冒される新皮質で最も病変が高度に及ぶのは後部帯状回と下頭頂小葉である。ATDの新皮質病変で興味深いことは早期かつ高度に冒される領域はヒトで最もよく発達し、遅くに髄鞘化される領域である(図4)。最も強く冒される下頭頂小葉は角回、縁上回で構成される。この領域は異種感覚連合野として概念、言語、行為の遂行や空間的認知など脳の高次機能に関わるが、角回の電気刺激で「誰かが傍にいる」「影のような人物がいる」という現象が再現性をもって確認されている(Arzy S, Seeck M, Oritique S et al:Induction of an illusory shadow person. Nature Vol.443 287 2006)。ATDの「誰かいる妄想」と角回病変の関連が示唆される。
 「物盗られ妄想」について、病的記憶障害が関与していることは確かであるが、ATDと同じく海馬領域にNFT病変が強いが新皮質が冒されない神経原線維型認知症(SD-NFT)では病的記憶障害が長く続く特徴がある。SD-NFTでは深刻味に乏しい被害妄想は起こるが、『物盗られ妄想』は稀である。これは『物盗られ妄想』の成立には海馬病変に加えて、空間認知や判断力の低下などの皮質機能の関与が必要であることを示している。池田(池田 学:アルツハイマー病における物盗られ妄想と記憶障害の関係について. 高次脳機能研究 Vol.24 147-154 2004)の画像研究では楔前部の機能低下の関与を指摘している。この領域は頭頂葉内側に位置し、この領域の障害で自分が物を置いた場所を想起するのが困難になるとされ、外側の下頭頂小葉と並んでATDで病変の及びやすい領域である。妄想は思考障害であるので概念や言語が関与するが、幻覚よりも広範な機能が関わると考えられる。妄想と名のつくものを一括りには出来ない。
 【池田研二:BPSDの神経病理. Dementia Japan Vol.28 18-27 2014】

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